帝国の戦い2
「あっぎゃうええ!」
ルキウスが悲惨な悲鳴をあげ、力なく前に倒れる。
ジンは無意識にこれを追撃しかけたが、思いとどまり、身を隠すべく坂道にある家の土台になっている頑丈なコンクリートの陰へとんだ。
「砲撃警戒」
ルキウスを貫いた光線は太い。大型の射撃、しかも上方からだ。
ルキウスはそのまま地面に倒れる、と思いきや地面に落ちて姿を消した。穴ができている。
ジンが隠れる位置を変え、レーダーに注意を払った。おそらく三キロ以上離れた位置から撃ってきた。
索敵範囲が広くジンの負担が大きい。作戦域の地形がわからず、支援オペレーターの誘導精度が低いこともある。友軍の砲撃を受ける可能性すら否定できない。
「東の高台から狙われている。三班、六班で排除しろ。一班、二班はこのまま合流地点に向かえ」
穴からルキウスの手が出てきた。そして穴の背後に大きな土壁が展開された。あの緑の顔がそっと出てくる。
ジンとぎょろ目が向き合い、ルキウスの大口が言った。
「何をする!?」
「何もやってはいない」
(あの状態で魔法を発動させやがった。無様な崩れざまは故意、偽死か。しかし、この言動はなんだ? 無警戒だ)
「お気に入りが……」ルキウスは服の腹部にできた穴を気にした。傷は無い。「今はこれでいいか」
彼はひとりで納得した。土壁がまた撃たれた。定期的に撃たれ続けている。赤い粒子が散るのが見える。明るくはなっていない。収束性の高いレーザーだ。
「あれは貴様らの仕業か? 答えろ」
「撃たれたのを見なかったのか! レオン」
彼は地べたにはいながら穴から出てきた。
「ならば、なぜこんな所にいる?」
「人が死んでるか見に来たレオン」
「どうしてもやりあいたいようだな」
「これはちょっと気になっただけレオン。本題があったレオン」
ジンは次の言葉を待ったが、少しルキウスは黙っていた。それがようやく口を開く。
「教えてくださいは? レオン」
ジンは黙って見ていた。ルキウスは土壁を出しつつ、ジンのほうへ這ってくる。赤い光線がそれを追っている。そしてまた言った。
「教えてくださいは? レオン」
ジンが無視して通信した。
「シュヴェ2、高台の敵は排除できんのか?」
「大型一機停止、さらに三機が近い位置に出現。これを攻撃中、射撃中の三、六班は無視されています。十機以上がそちらに直行、五分以内に到達」
副官が応答した。小型ミサイルを発射しているが、応射がきていない。
「自然祭司は今のところ無害。攻撃するな」
「デライアに監視させます。自然祭司の魔力反応は微細です」
「わかった。接近中の敵をそちらで足止めしろ」
ルキウスは仰向けになって長い舌を出し入れしている。純然たるまぬけだ。その視線の動きを観察すると、くまなく空を見ている。戦闘態勢だ。
その状態ですら這い続け、地味に接近している。ジンは妥協した。
「……話を前に進めてもらおう」
「帝都と通信できなくなったので見に来たレオン」
「あれが見えんのか。そもそも気楽に来る仲でもあるまい」
大皿はほとんどが雲に隠れている。
「帝都には親友が住んでるレオン」
「お前の親友なんてのはまともな奴じゃない」
「ちなみに心覚軍元帥なんだけど、よく伝えておくレオン」
「……伝えなくていい」
話している間に、赤い光線が三つになった。ジンには来ない。
「ひとりか?」
「お前がそう思うならそうレオン」
「なぜ魔法を使わん」
「使ってるレオン」
「貴様の資料を見た。これしきの戦場では苦労しないはずだ」
彼は帝国の星から攻撃からも生存している。対抗魔法があるはずだ。
「おめでたい奴レオン」
ルキウスは、腹部以外にも欠けた部分があった。マントの穴は多く、心臓の辺りにも小さな穴がある。普通の人間なら三回死んでる。
「頭を撃たれても生きてやがったものな」
「あれは死ぬかと思ったレオン」
両目が明後日の方角を向いたあほ面をして、長い舌を伸ばした。
「それを認めるならまともにやれ」
「じゃあ無難なのにするか」
ルキウスは顔が立派な毛並みのネコになった。
「ネコネコはネコン族の」
「やめんか!」
ジンがビームブレイドを構えた。
ルキウスは顔をカメレオンに戻し、地面に座った。
「つまらん奴だ。こんな状況なら踊るしかないと思うだろう?」
「帝都の中心を見たか?」
「メツダッハ山脈からではあの黒皿しか見えない」
「貴様はここで何をやっている?」
「愉快に情報収集中」
(はかりかねる男だ)
「敵部隊の遮蔽は無理です」副官から通信。「こちらを無視してシュヴェ1へ向かっています。攻撃は有効、小型の数は減っています。どうぞ」
「わかった。俺も後退する」
ジンが通信を終えて、ルキウスに言った。
「我々は正体不明を掃討する。余計なことをしてくれるなよ」
「それはそれは」
ジンが移動を開始すると、ルキウスは不可視化して低い姿勢でついてきた。
ジンが振り返る。
「なぜついてくる?」
「戦闘を観察するのが楽だ」
目を離すべき相手ではない。今すぐ敵に変貌しうる。
「……貴様がこの状況で役に立つなら、存在していることは認めよう」
通商交渉の予定は聞いている。攻撃できない。なにより、この状況で敵を増やすのは部隊に深刻な危険がおよぶ。
対星の子モードは起動できない。並立できないらしい。
「お望みは?」ルキウスが言った。
「ここらの状況がわからん。情報はあるか?」
「あいつらは部隊間の連携がなく、四方へ進軍している。それでここが孤立気味だから来た。帝都寄りは敵が多く配置がまだらだ。こっちは不規則な動きが厄介だ。そうそう、町の南で歩兵部隊がボコボコにされてたな」
「やはり統一された動きではないな。戦略意図がわからん」
「生命反応はわかるほうだ。住民を退避させるんだろ」
「お前が帝国人を気にするとはな」
「いいおとりになる。効率的に敵を減らしつつ、救助可能だ」
(簡単に言う。こいつが自然の摂理か)
「隊員に近づくな。殺されても知らんぞ」
「そちらの部下が? どうやって」
「とにかく俺の近くにいろ。不審な動きをすれば斬る」
「わかったわかった」
ルキウスが言って、軽いジャンプでジンのバックパックにつかまろうとした。ジンが体をふってかわす。
「おい! 停戦は理解している。しかし慣れ合うつもりはない」
「理解した」
ルキウスはそう言って、今度は足でバックパックを挟もうとした。
「やめないか! なぜ背中につく!?」
「動く弾よけレオン」
「レオンをやめろ!」
「それ重要?」
「イライラする」
「こっちほどじゃないと思うぞ」
「どこがだ?」
けっきょく、ルキウスは不可視化して壁際を歩いた。ずっと維持できるらしい。隊員の目に触れないほうが好都合だ。死亡した隊員と親しかった者もいる。
部下には「こいつはいないと思え」と命令した。赤外線センサーでしか見えないが、地面があるとすぐに堀った穴に入るので位置がわかる。
「お前はなにを考えてる?」
ジンが穴に言った。
「安全確保だが?」
本気かどうかわかったものではない。
部隊は、穴を増やしながら、敵が侵攻しつつある古びた共同住宅が多い地区に入った。
幹線道路を車が埋めてしまっている。ドライバーが襲撃されて殺されているのだ。その影響でそこにつながる道も詰まっている。大半は徒歩で逃げたが、家族連れの住民は家に籠っている。
「車列を脇に寄せて壁にしつつ、中央に車線を確保する。接近してきた集団から集中して叩く。脇道の地形を把握しろ。狩場はそちらだ。車両部隊が我々を回収にこれる地形を探せ」
敵は浮遊しているが、たいていは道に沿って来る。そこを道や建物を利用して三方から連続的に叩く。ガガガガ、ガガガガと断続的な発砲音が続く。
ジンは指揮に徹した。慣れない地形で部下が逆に挟撃されることを防がねばならない。小型は容易に排除できている。中型には隙を見ての大口径砲で対処した。
ルキウスは驚くほどおとなしい。視認できないというのに、常に遮蔽物に隠れてこそこそ移動する。
敵はやはり工夫なく直進してくる。攻撃者か、近い人間を優先して照準するようだ。残弾に余裕がある間は、完封できそうだ。
順調に住民の退避を進むかと思われた時、ボン! 幹線道路で車が爆発した。複数の車が燃えている。
大型だ。道路に出てきている。あれの光線は簡単に車を貫通している。
「南側だ。南に寄れ」
部下たちが横道からの射撃で牽制する。しかし狙って撃てる距離ではない。さらに空を漂う小型が増えてきた。
「全隊、気力奮発を許可する」
生身で戦う歩兵ほどではなくとも、彼らほどの練度となれば戦技はある。
ジンが指示するなり、道路沿いの隊員の多くが、格段に強く正確な攻撃を始めようとし――、一斉に被弾した。比較的おとなしい小型が、猛烈な発砲をしてきている。
それを腕や肩に受けた部下が身を隠す、一名は暴発した銃を捨てた。
さらに大型が高い角度で撃った。遠くで建物の屋根が壊れる音がした。
「ナーエルエルか!?」ジンが言った。
「健在っす。でも支援狙撃レンズが起動不可」
ナーエルエルが建物の屋根から逃げている。
(急に活性化しやがった。やはり撃ち合いは分が悪い)
「体を出すな。ガンカメラを使え。狙いは正確だ」ジンが指示した。
大型は遠距離から動かない。これがこちらの動きを抑制し、その間に小型と中型の群れが前進している。これの撃ち方がまた散発的になった。おかげで、損害はあったが戦闘は維持できる。ただし、大型を排除できない。
「迂回攻撃は?」部下がたずねた。
「それは囲まれちまう。敵のほうが多い」
「敵が集結してきています。ここの保持は困難かと」副官が言った。
「わかっている。退路は確認しているな?」
「退路に敵影無し」
ここでジンが、穴というか、穴が連続してできた塹壕を見た。「お前は何かやらんのか?」
「ああ、そうだな」穴から返事があった。
すぐに敵の光線が止まった。小型と中型が目まぐるしく方向を変え、地面を撃ちまくっている。大型も何もない地面を撃ち始めた。
圧力が減り、隊員が撃ちかえす。敵はずっと同じ動きで地面を撃っている。完全に動作が狂った。近い小型からスクラップになっていく。
「お前か?」ジンが穴の中に言った。
「ああ……少しわかってきたな」ルキウスが顔を出し戦場をのぞく。
「おっと!」
ジンの近くを太い光線が抜けた。それが穴の近くに命中した。ルキウスがまた穴にひっこんだ。
「大型を潰せんのか?」
「かなり遠いが、一体なら……まあ、火の嵐」
遠い道路の一部で火炎が巻き起こり、ちょうど大型を包むほどに圧縮された。大型が傾き、射撃をしなくなった。
「あの距離をやる。味方ならありがたいものだが」ジンが言った。
「やはりまずかったな」ルキウスが呟いた。
「なに?」ジンが聞き返し、レーダーを警戒した。
「空襲、来ます!」副官の警告がとんだ。
空から接近してくる影が七。
「全隊、退避!」
ジンが穴に飛びこんだ。赤い光線の連射が降りそそぐ。周囲でバン、ボンと弾ける破壊音が連続した。爆発がやみ、ジンはレーダーを確認した。この攻撃のすきに地上の敵が前進したわけではない。
「往復来ます!」副官が言った。
空の影が引き返してきている。そしてまた一帯が弾ける。そして影が去っていった。
ジンはルキウスが気になったがまずは「損害確認、地上部隊を寄せつけるな。車両と合流、退却する」と周囲を確認した。
一名が民家の敷地に倒れていた。動かない。地面に血だまりができている。
アマタだ。胸部に大穴が空き、バックパックも破壊されている。致命傷だ。
「しかたないなあ」
のっそりやってきたのはルキウスだった。彼がアマタの傷に触れると、傷は一瞬で消えた。顔を露出させると、呼吸している
「生きてるぞ。持って帰れよ」ルキウスはまた穴に入った。
「こうなるとわかっていたのか?」ジンが敵を警戒したままたずねた。
「南の歩兵部隊では、戦技を発動しようとした者から集中砲火を受けていた。奴らは強いエネルギーに敏感に反応するらしい」
「黙っていやがったな」
「不正確な情報に価値はない。途中までは欺けていた。それより、お前は何も感じないのか?」
「何がだ?」
「お前はここで一番強く、さらに前衛だった。だというのに、一度も照準されてない。今の攻撃も狙われていない」
ジンはすぐに気付いた。
対イジャシステムが機能している。基本的に隠密というのは、気配を消すための力を消費しているのだ。しかし、副官機が何も検出しなかったのであてにしていなかった。
「装甲の厚さか? 魔法金属を使っていないのがいいのか? そういえば、今日の剣は貧相だな。あれはどうしたんだ?」
ルキウスが不思議そうにジンをながめた。
「悪いが問答はできん。次が来る前に離脱する」
「そうか、ならば私も帰るとしよう。両目がくっつくぐらい疲れた」
「待て。お前はあれを知っているのか?」
「どうかな? 一番から十番まで順にヒントでも出そうか?」
ルキウスはそう言って手を振ると、目の前から完全に消えた。
落ち着かないソワラが円を描いて歩くメツダッハ山脈に、レイアに連れられたルキウスが瞬間移動で飛んできた。彼はまず報告した。
「やはりイジャだった」
「無茶をされて!」
ソワラがルキウスの装備の惨状に悲鳴を上げた。
「修復材料はある」ルキウスは冷静だった。「それにあまり近づいてはいない。助かったぞ地獄耳」
耳のいいゴーンと、セオが来ている。帝国軍の状況がわかる人間が必要だった。しかし、すべてが混乱しており何も知れなかった。確実なのはイジャ星人の出現。
「最高だった。新鮮な音ばかりだ」
ゴーンはすこぶる満足していた。
「続いて帝都近辺の情報取集を頼む」
「任せておけよ」
「それで俺がお守なのか?」セオが言った。
「そうだ」ルキウスは周囲を確認すると、レイアを見た。「やはりアトラスとは違う」
「そうですか」レイアが言った。「私は一度しかあれやってないから、よく知ってる人に確認すべきでしょうね」
レイアは転移を潰されて一撃を浴びた。回避しようとしたら不発だったのだ。彼女は認識外からの速い攻撃には弱い。
「何が相手でもなんとかなると言っておいて」
ソワラが文句を言った。
「そうは言っても、我々の誰よりも強いぞ」ルキウスが言った、
「転生回数七十二回です」レイアがさらっと言った。
「人間ですから、その分は差し引きます。それに森の外はどうでもいいのです。誰にでも負けるのですから」
「健闘は――そんなことより今すぐ攻撃だ」ルキウスが言った。
「今ですか? ヴァルファーが今か今かと帰りを待っていることでしょう」
「あれが帝国軍とやりあっている今だ。〔終末の日/ドゥームズ・デイ〕で一撃する」
「よろしいので? 私の手持ちがほぼ枯渇しますが」
ソワラは機嫌がよくなった。本当はソワラも使いたいのだ。
「先手必勝だ。あとでママさんに補充してもらう」
「出すのはいいけれど、私もあまり無いですからね。戦争で消費して、のんびりしてたから」
「それでも絶対にこっちよりはある」
「貧乏な大統領なんて価値ないですねえ」
「ルキウス様を語るな!」ソワラがきつく言ってから、ルキウスに確認する。「ここで儀式場を作るので?」
「いや、召喚場所は考えないと、おそらくあの小皿がすぐに攻撃してくる」
「この距離でも来ますか?」
レイアがたずねた。
「小皿はかなり広範囲を警戒している。無音でわかりにくいが雲の中にいるぞ。空中で完全に停止していられるようだから、倉庫にだって隠れられる」
ゴーンがルキウスの話で小さく笑った。音はあると言いたいのだ。
「とにかく山に隠れられる所がいい。帝都の東は急峻な山があったが」
「帝都西方のメクリタスル山には行ったことがある。帝都が見下ろせる場所でした」レイアが言った。
「森を造った所の北かな。帝都までほどほどの距離か」ルキウスが言った。
彼らはメクリタスル山に転移した。イジャ母艦まで二百キロといったところ。あの大皿から陰になる場所で準備を始める。
といっても、やるのはソワラでほかは警戒だ。ソワラが手間をかけて地面に大きなミステリーサークル描き終えた。
そして、その上を様々な歩き順で何度も歩くと、中央に立ち、杖を天に掲げた。
「虚空の果ての徘徊者よ、文明を食い荒らし、終末の福音を告げ、迂遠にして謬見を正す時代の孵化を始めよ、〔終末の日/ドゥームズ・デイ〕」
ミステリーサークルからぬめった煙が噴出し、高く高くに達し、複数の巨大な塊となった。
それが緑から青灰色に変色し、形を成した。
どれも有機的なフォルムだ。形状は様々で、アンモナイトや深海魚などの水生生物を思わせ、それに触手やびらんの皮膚を持つものや、細菌に近い形状の比較的常軌におさまるものから、多段の腫瘍の塊に不規則に無数の目玉がついたべちゃっとした塊や、ぶよぶよ球体やとげのある立方体の合体した異形まで、とにかく地球ではお目にかからない容姿の巨大生物群が空に浮かんだ。
宇宙船型エイリアンの艦隊だ。さらにその体からは、虫に触手を生やして凶悪かつ奇抜にした感じの兵隊エイリアンが出撃し、広がりながら帝都へ向かっている。
「召喚は成功した」ルキウスが言った。「とはいえ、こうも小さいとはな」
群れの中心にいる最大のエイリアンでも三キロメートルぐらいだ。
「機動力はこちらが上です。侵攻せよ!」
ソワラの合図で、エイリアンが独特の動作で空中を泳ぎ、それぞれの船型を守りながら高速飛行に移行した。ゴーと音がして、どんどん加速している。
イジャ母艦は召喚に反応し、大量のイジャ戦闘機を射出中だ。それが来る前に、すでに展開していた各所のイジャ戦闘機が向かってくる。これだけでも数百はいる。
「下から撃たれています」
ソワラが言った。帝国軍がポ、ポ、ポと対空砲を撃っている。
「無視でいい」
先行してきたイジャ戦闘機と兵隊が空中戦に突入した。赤い光線と、口から吐き出す青い球が飛び交っている。
元が多すぎてどちらが優勢かわからない。兵隊エイリアンに群がられた数機のイジャ戦闘機が落ちたのは確認した。
「戦えてはいるな……だが問題はあの大皿だけだ」
ルキウスが言った。
「距離はありますが、まずは主砲を」
最大のエイリアンが、大きな角に紫に粒子をまとった。それが何度か波打ち、力の集中を思わせ、消えた。エイリアン自体が、その場からいなくなった。空に隙間ができた。
「ああー…………こうなるわけか」
ルキウスが呟く。
「なにが!? どうなって!」
ソワラが取り乱すあいだにも、大きな船型がどんどん消滅していく。そしてゼロだ。
「小皿の光線を受けたんじゃないか?」
兵隊は残存しているが、統率する船型がいなくなり、動きが悪くなった。そしてこちらもどんどん消滅していく。
「そんな! あれは送還などできません」ソワラが抗議する。
「あれは存在していないということだ。まずは離脱する」
「そんなはずは、あんなことが起きるはずは、魔法理論と矛盾が」
「離脱だ」




