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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
2-6 →過去→現在→
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緑の時代

ゾト・イーテ歴 三〇二〇年 十一月 十一日 円環の森 未明


 懐かしい記憶であり、夢だ。ミュシアはここ千年夢など見ていないというのに、珍しいことだ。エリクのことを思い出すと複雑な気分になる。


 イジャ侵攻のあと、多くの者は文明の復興に努力して死んでいった。しかし、対立と争いも多かった。さらにあの白い触手と同時に大量の魔物が発生し、人が居住可能地域は限定された。


 五百年ほどで神々が去り、神代とは構造の違う国々が建てられていった。彼らはひとしきり争うと、納得いくところでおちつき、大戦前までの基本構造ができた。


 科学、魔道を問わず工業品は、保存の魔法がはがれて耐久年数をこえ修復も困難になった。あらゆる魔法で調整されていた土地は荒廃した。


 ときおり眠っていた神代の兵器や蓄積されていた魔法が暴走し、そのたびに文明は犠牲を投じて修復した。この時代でも、優れた者から死んでいった。


 神代の資産は使いつくされ、年老いた神々の子孫はおとぎ話として歴史を語り、真偽は入り乱れた。


 それでも何かが継がれたなら幸運だった。文字すら忘れられた地域もある。

 今の時代に残っている遺物は、大陸水没の際に埋もれてしまったか、これ以降のプレイヤーの物が多い。


 エリクはといえば、簡単にいくと思われた星系内監視システムの開発が困難を極め、研究開発に傾倒した生活を送るようになった。


 解決困難に思われたが、戦闘機ファイターの部品が解決した。イジャジェネレーターは、最後まで機序を理解できないままに使用方法が確立された。イジャ粒子がアトラスと同じ科学的挙動が可能にしたらしい。


 これにより狙撃衛星、防御衛星、宇宙機雷による星系防御システムが構築された。


 星を守る狙撃衛星は、位置を移動できず、制御は各地域の支配者が持った。そうしなければ、衛星を認めさせることは不可能だった。


 衛星用通信コンソールを破壊してまわる一派もいた。主に大統領の一派だ。彼らは、こんな物は将来ろくでもないことに使われるだけだと思っていた。あの大戦もあって、役目を果たしているコンソールはミュシアの所蔵品だけだろう。


 当初の目的を遂げても、エリクはイジャの技術の解析を続けた。

 彼は、それまで多くから頼られていた仕事をやめて、影響力を失った。


 もはや彼にとって目的はどうでもよく、未知の技術にとらわれていた。


 エリクを年を取るにつれて、より気難しくなった。気さくで頼りになった彼はいなくなった。彼は何かの成果物を作っても隠した。互いに争うプレイヤーをまったく信じなくなっていた。


 エリクが自分の老いを自覚すると、ミュシアは衛星とイジャ警戒の役割を継承した。死亡経験がない完全な妖精人エルフは彼女ぐらいだった。


 役目のために円環の森に居を移した。これで年老いた彼を見ずに済む。


 円環の森に入ってからは、ほとんど外出していない。

 これまでの長い期間には、何度かプレイヤーが森を訪れた。そんな時、彼女は過去のことを話し、プレイヤーから聞いた情報を記録して、外の様子を知った。


 そして今、ミュシアはベッドの中で起きられずにいた。

 夜はまだ明けておらず、朝は遠い。妙な時間。千年はなかったことだ。


「さすがに歳かねえ」


 魔法で警戒したが、森に侵入したものはいない。安全だ。友人のレイドボスが道端で核爆弾でも拾ってきていなければだが。


 ドタドタ、ネコらしからぬとした足取りで使い魔のケオテンが部屋に入ってきた。彼は得意げにひげを広げている。どうせくだらないいたずらでもしたのだ。ペーネーがいるから円環の森の規律が安定していない。


 毎日毎日、ケオテンが小物を隠し、ミュシアがそれを探しに行く。

 規則正しく、それを繰り返した千八百年。

 あのふたりがそれをくずしたから、夢が現れたのかもしれない。


「やあっと来たニャ。この監獄も終わりだニャ」


 ケオテンがらんらんとした丸い目で言った。


「なんだって?」

「喜ぶニャ、イジャがもどってきたニャ」


 ミュシアはその意味をのみこむ前に、通信コンソールをインベから出した。

 森の上空にある衛星が戦闘になれば、すぐに通告が来る。  


「ここのは無事……」


 コンソールに表示されているのは緊急事態用の表示。見慣れない表示ばかりだ。


 狙撃衛星は対イジャに最適化されたビーム兵器だ。敵が星系外にいるうちに一方的に攻撃して粉砕する。


 しかし数との戦いには限度があり、それは危惧されたことだった。しかし、一度目は普通に母艦マザーシップで接近を試みるはずで、そうなれば接近前に壊滅させるはずだ。


 表示されているものの時刻はごく最近。しかし新たな表示は増えない。敵襲なら今も多数の狙撃衛星がビームを撃っているはずだが、さすがに惑星を囲む衛星群が一瞬で撃墜はされない。イジャ光線に最適化された防御衛星群も動きが鈍い。


「イジャの残骸か何かと誤認したか? 一機やられてる。いや、これは今日じゃない。事故? 事故だなんて。よりによってこの位置はあそこ……」


 帝国北方の星が消失している。原因不明。イジャとの戦闘以外での消失。

 かつて生活していたエリアだ。


「なんで戦闘していない? この警告は……イジャ推定降下地点、すでに降下されただって? 母艦マザーシップ一隻? この位置は、その隙間にすべりこまれたか? なんで衛星が撃墜されずに降下されるの!? 一つ失った程度では……そもそも、どこから……」


 ここから北の衛星が戦闘している。これは外海の北極圏辺り。


 そんなことより、イジャ出現の通告がない。星系内に艦隊が出現すれば捕捉できるはずだった。出現通知を飛ばして、いきなり突入警告が出ている。


(捕捉できないほど高速で突入してきたってのかい? そんなばかな)


 衛星も長い年月で傷んでしまった。予定された挙動ではない。いや、衛星があっても、イジャが本気ならいつかは抜かれる。そこは問題ではない。


「これは終わったね」

「楽しい終わりかニャ」


「よりにもよって、二百年経って帝国がこの辺りまで来た頃ならばと思い、最近はあの未回収地の勢力が伸びれば、とも思ったけれど、前と同じだ。奴らはタイミングだけは考えてる」


「ミュシア、困ってるね」


 開いたドアの濃くなった影を背にして、エル・テアイルセンスことアルエン・セルステイがいた。


「なんでも言ってよ」アルがすました顔で言った。


「あんたはあんまり戦力にならないねえ」

「僕に勝てる相手なんてそうはいないよ。となると、レイドイベントでも発生したのかな?」

「そうだよ。こいつは数がいないと勝てない」


同刻 生命の木


 眠らないルキウスに休みはない。彼はトンネル補修を終えて一時帰宅した。


「トンネルの補修をしないといけないし、邪悪の森で狩りをしないといけないし、畑の土壌改善しないと木がうるさいし、子供たちと遊ばないといけないし」


 彼がぼやいていると、小柄な白衣がもそもそと走ってきた。エヴィエーネが工房から離れているのは珍しい。


「どうかしたか?」

「変な隕石が出て観測班が騒いどるから、観測魔術用の触媒合成しようと思うて」

「隕石なんてどうでもいい。いや、触媒になるならと金になるな」


 ルキウスは人生で最もまじめに働いていた。


「あれは奇妙やで。レーダーに映りにくいんや。大きさが五百メートルないで」


 エヴィエーネが早口で言った。


「そこそこあるんじゃないか?」


 落ちたら大惨事になるサイズだ。


「違いますがな。映像分析ではもっともっとや、二十キロはあるで」


 そんな隕石が落ちていれば、トンネルにいたルキウスでも振動で気づく。


「近くか?」

「かなり北のほうや。きっと外洋やな」

「オーロラのような発光現象ではないのか?」


「それはわからんけど、軌道もおかしいで」

「どうおかしい?」


「突入軌道と速度からして弾かれそうやのに、途中で安定して、急に高度を下げたと思うたら、今度はほぼ水平に飛んで観測範囲外に消えとる」 


「それは、飛行物ということかな」

「かもしれんなあ」

「金になるかな。でも飛行型のボスはありがたくない……」


 たとえ森の上空でもだめだ。有利になるのはルキウスだけで意味がない。


「ほな、うちは観測所に行きますんで」


 エヴィエーネが走っていった。


「朝になったら確認しよう」


 ルキウスは邪悪の森へ向かった。


ルドトク帝国北部 ヌナームアバ軍研究所 深夜


 アクロドン収容所で損傷したカスカカウベは、完全に修復され、さらに相性を考慮した外部装甲で強化されていた。


 それをやったルセール少佐は、飽きることなくカスカカウベの調節を続けていた。魔道具まで持ち出して、何かを計測している。


「解析がはかどるが、やはりブラックボックスは開かないな」


「少しは中身を引き出せ。緑化機関との和平で状況が動くかもしれん」


 ジン大佐は、カスカカウベのスペックと実測値を見比べている。極限の動きを達成するには、繊細な理解が必要になる。


「あっちの戦争でいろいろ開発できると思ったのに、なんにもなく平和になるとはねえ」

「平和になると思うのか?」


「違うのかい? けっきょく、未回収地での作戦はどうなったんだい?」

「知らん」


 ジンは推測できている。交戦したのだから。


「将兵は、全滅したとも、未回収地に住みついたとも聞こえてくるけど」


 ルセールの口ぶりはお気楽そのものだ。


「お前が戦況に興味があるとはな」

「だって、未回収地から禁制品が流れてきそうじゃないか」

「少佐殿の研究所は平和だな」


 ジンが吐き捨てた。彼ほどではなくとも、ここの技術者はこうだ。前線の職人気質の整備士とは気風が異なる。


「平和だね」


 ルセールは普通に答えた。


「戦場が広大で森林戦と市街戦だったと聞いた。ならば誰がどこでどうなったかなどわかるまい。帰還兵が少ないのはたしかだ」


「闇市場にいろいろ流れると思って南部に人をやったけど、あまりありつけない」

「そういう手はまわせるのか」


 少しばかりジンは感心した。ジンの副官が固い足取りで研究室に入ってきた。


「まだやってるんですか?」


 研究員はとうに帰宅している。三人だけだ。


「クロトア半島の情報はあったか」


 ジンが副官にたずねた。


「動きはないようです」

「まったく、血を見ていないと落ち着かないのかい?」


 ルセールはにやけているが、兵卒などを軽蔑している。この男は、佐官であり、戦争を心から期待するくせに、荒事が本当に嫌いだ。


「未回収地の緑化機関との紛争が平衡状態となった。危険な状況だ」


「そりゃまたなんで?」

「最初から本土と未回収地は山脈で分断されていますが、和平となれば国境の軍はより縮小される。敵の浮いた戦力は別の場所にまわせます」


 副官が言った。


「クロトア半島とかな」ジンがつなぐ。


「緑化機関と半島が組んでるって?」ルセールが興味を示した。


「情報部が駆けずり回っていると思います」副官が言った。


「彼らは主軸は少数精鋭。動きを把握するのは至難」ジンが言った。


「半島戦線は、オライオン丘陵を攻略できず停滞しています。前線の塹壕は、攻撃と圧迫の維持を意図して構築され、鈍足の前進を策としている。防御に最適化されておらず、特に後方に潜入されると対抗しにくい。

 その前線を突破され、ミランシャス高原を抜かれると半島のつけ根のビビゾ平野。さらに本土に入っても比較的平坦です。そのまま帝都まで突破されかねない」


「それはやばいねえ。対処しないの?」


 ルセールには他人事だ。


「平野部は空軍がカバーしている。突出してきた部隊は遮蔽物がない所で爆撃される。だが少数なら潜める」ジンが収容所の敵襲を念頭に言った。「参謀総長はお前のようにおめでたくはない。よって、我々の兵装が強化される」


 空軍基地が奇襲された場合に備え、つねに空中空母が一隻は飛んでいる。

 ジンの機装に変化はないが、これまで温存されていた大戦前の機装と装備の投入数が増加した。それを馴らすための訓練を急ぐ必要がある。


「こっちはお宝が放出されて最高だ。お望みの調整は終わったぞ。指定状況での可動部の半固定化に、人工筋肉の反応はより繊細になった。君しか使えない」


 ルセールがカスカカウベに接続された線を抜いていく。


「よし、ひと汗かいて休もう」ジンがカスカカウベに向かう。


「今からですか」副官があきれる。


 ジンは準備を終えると「まずは走るか」


「壁を壊さないでくれよ。出力が上がっているんだから」


 ルセールが言った。


 わかっている、と彼が言おうとした時、機装の強烈な警告音が鳴った。


「グワァ」


 爆音にジンはうなった。頭痛まで感じる。これは直接頭に響いている。


「大佐?」副官も状況を理解していない。


 すぐに警告音は消え、次は普通に音声が流れる。


「同朋の接近を確認しました。同朋殲滅モードを発動しますか?」

「はあ!?」


 不測の事態に備えているジンでもこれには困惑した。


「同朋の接近を確認しました。同朋殲滅モードを発動しますか?」

「……完全に意味不明だぞ」


 ジンが副官とルセールを見た。モニターに特別な表示はない。同胞ではないらしい。


「同朋殲滅モードを発動しますか?」が無限に繰り返し再生されている。


「音声停止。音声停止しろ、情報通知停止……第四戦闘モード起動」


 音声は止まらない。ジンは頭部をこんこん叩いた。さらに大声で命令したが、停止しない。


「どうしました? うるさいですよ」副官が言った。


「同朋が接近したから殲滅するとよ」

「とうとう頭がおかしくなりましたか、時間の問題だと思っておりました。入院の手配をいたします」


 副官がはきはきと辛辣な言葉を浴びせてくる。


「機装のほうだ。同胞殲滅システムが起動可能になった。起動してみるか?」

「なんだってー!?」ルセールが叫んだ。さらにジンに駆け寄って機装をペタペタ触った。無意味にカメラをのぞきこんでくる。


「いきなり来るな」ジンが表示を確認する。「同胞の位置を表示しろ」

「不明」ようやくOSが応答した。


 ジンは機装の操作をいろいろ試すが表示と音声が消えない。電源は落とせるようだが、非常用正常化処理すら受けつけない。


「動力線を切断しますか? それとも首を切断しますか?」副官が言った。

「今日は中身も国宝だと思え」


「いいぞ!」ルセールが大声でまくしたてた。「そのままだ。操作はやめ! 余計なことはするな! コンピュータにつないで」


 ジンは固定され、繰り返される音声を聞きつつ解析を待った。副官は重火器を積んだ実験用機装鎧を着用してきた。カスカカウベが破壊されかねない。


「早くやってくれ同朋よ。さもなくば殲滅してしまうぞ」

「僕が仲間と思われていたことを初めて知ったよ、驚きだ」

「対星の子システムと違い、出力変化の準備はないようだが」

「どうもこれの検出システムは……」


 ルセールはモニターにくぎづけだ。


「警報はきれないのか?」

「そんなものはどうでもいい。文章を発見したぞ……読めないが……翻訳機能が。星の子はイジャを攻撃するが、人も攻撃するので、星の子が……中のマニュアルは見れるようになったぞ。搭乗者向けは自分で読んでくれ。僕は技術情報を見る」


「どのメニューだ?」


「一番古いのはどれかな?」


 ルセールが反応しないので、ジンは同胞殲滅システムに関する部分をたどって新しい情報階層を発見した。


 タイトルが、カスカカウベ四番機とある。それを閲覧する。スペック表だ。単位がよくわからないが、装甲素材や兵装の表記がある。


 対イジャシールド    評価試験実地できず

 対イジャ迷彩システム  評価試験実地できず

 対イジャデコイ     評価試験実地できず 未搭載

 対イジャアレイレーダー 評価試験実地できず

 イジャ抗体解析システム 起動成功 限界を設定


 一部の色が違う。これの意味はわかる。


「対イジャアレイレーダーが予備起動中だ」


「イジャシステムによる抗体反応を利用し、カーネルに接続することに成功した。抗体の分析は総当たりでやるしかない」


 ルセールが何かを読みあげた。


「なんだって?」


「カスカカウベのコアにはイジャ粒子というのが入っているか、中で生成されている。それが何かと反発してエネルギーを生み出す。これはジェンタス粒子に近い物だと思われる。それを利用して装備を召喚している。索敵判別もそいつを使ってる。検討はついていたことだけど、確実になった」


 ルセールは説明しつつも何かを読み進めている。


「この状況は理解できたのか?」


「そうはいかないよ」ルセールはじつに楽しそうだ。

「優先して戦闘で使えるようにしてくれないと倉庫へ逆戻りになるぞ」


「剣士のくせに付け焼刃を使いたいのかい? これは副産物かもしれない。正規のマニュアルじゃないぞ。どういう環境で開発されたんだ」

「朝までに終わるペースでやれ」ジンはあきらめた。


「個人メモか? 愚痴が入っている。それに意図的に情報が減らされている。目新しい項目を当たっても、星の子の説明が無い」

「ああ、そっちもだ」


「思うに、これは特別な人間のためのもので、きっと使用者はこれを理解している前提で……これは敵の――イジャの兵器を鹵獲して、となると同胞はイジャか」


「イジャは敵なんだな?」

「開発者にとってはそのようだ」


「なんで同朋だけ直さん? 同朋とコールされれば、友軍と思う」


「チップセットを含んだ部品を丸ごと取りこんだみたいだから、修正できなかったんじゃないか? 翻訳は魔術でやってる。そこの加減も神業だけど……セキュリティをだましている」


「お前みたいな奴が設計したに違いない」


「多分、これのエネルギーを出力する機構を開発できなかった。だからシステムを載せたまま、さらに別のシステムを上から被せて起動できるようにした」


 ルセールが何か操作した。そして文章を読み続ける。


「これは意味があると思う?

 ようやく復興議会の承認が得られたが、戦争になるかもしれない。このタイミングでイジャが地球方面に向かえば、百年以内に人類は壊滅する。二五一三年以後のプレイヤーはなぜ存在しない? 人類はもう失敗したのか? 我々も何かの失敗なのだろうか? 人類の復興まで千年は時間を稼ぐ必要がある。イジャは次元へ干渉し、安全な航海を可能にしている」


「話を聞いてくれるのは、ヘリオポーズだけだ。彼らが来てくれてよかった。楽観論は死ね。人類は、地球近辺での騒乱に明け暮れている可能性が高い。一度惑星ごとの文化に染まってしまえば、永久の闘争が約束される。帰りたくない。どこにも居場所がない」


「なんの話だ?」ジンが言った。


「僕に聞かれてもね。まだある。錯乱している箇所はのぞくとして――安全になったとみなせるのは探査船が来た時だ。バルテの法則にしたがうなら、技術の発展でここまで千年かからない。なぜ来ない。技術的に探査不能、資源的に余裕がない、あるいは次元の特殊性か何かに遮断されているのだ」


「不安は的中した。騒乱に陥ろうとしている。カスカカウベシリーズはプレイヤーに向けられることになりそうだ。やるべきことを成さねばならない」


「だいたいわかった」ジンが納得した。


「僕には中々、色々って感じだ」ルセールはいくつもモニターを見ていた。


「そいつは戦意に満ちていた。その敵が接近してる。それで十分だ」

「何もわかっていないではないか!」


「開発者ってのは我々のご先祖様だ。誇ればいい。必要なのは戦闘準備だ。こいつはよくできている。戦いになるぞ」


 ビー! 警告音がなった。

 今度は機装ではない。部屋全体に鳴り響いている。


「来たぞ。侵入者か?」ジンが警戒した。


「待て」ルセールが解析をやめて警報機を確認した。「ここじゃない。これは戦域警報だ。タフドラ地域で戦闘になる可能性がある」


「また本土に侵入者ですか?」副官が廊下を確認する。


「すぐに伝達があると思うけど」ルセールが途中で止まり、別のコンピュータへ走った。「違うぞ。これは中央部全域に出ている!」


「なんだと! クーデターか?」ジンが立った。


「まずは演習地の本隊を呼び寄せます」副官が言った。


「許可する。完全武装状態で招集しろ。近隣の師団も警戒させろ」

「了解」

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