元帥
フィリの部下が彼の前を固める。前列にいる赤いオーラをまとう兵は、発火能力者だ。
属性に特化した動力者は攻防一体。火を無効化される可能性がある。しかし、あれを防御に回させるだけでも意味はある。
破壊の予感に満ちた竜の視線を受ける敵部隊は、完全に統制されている。個性を重視する心覚兵に珍しい連携。個人個人のオーラは、ルキウスの知る心覚兵の最高水準を更新している。
「無理では?」レイアが他人事のように言った。
「元帥殺して友情がなくなったとか、説教された例は歴史にない」
「誰もやらないからでしょうね」
殺して復活させて、親交を深めつつ交渉してから帰す。名案だ。実績がある。ルキウスはそう思えてきた。
ただし、実行は難しい。むしろこちらが危機的な状況。
布男は場の空気に関せず、ふわふわやっている。あれが空間すら消失させる必殺の攻撃を防ぐ。
ならば、ルキウスが打開すべき局面。矢や投擲は、風、念動力、防壁とあらゆる手段で対処される。幻影を使うにせよ、育てた木を壁に使うにせよ、接近は正面からになる。
発火能力者は、一瞬で殺さねば通路は火炎で満ちる。ほかの兵も攻撃と防御の能力を行使するだろう。回復しながら押しきるしかない。
(超能力者だけだ。斬りこめば総攻撃が来る。前衛がいるほうがくみしやすい。電気、毒ガス、音響あたりの爆弾かかえて突っこむか? 布男は連携できないはず。そこが勝機だが、どう転ぶか……)
突破の決断はかなりの博打。機密地区に配置された部隊なら、切り札として神代の魔道具を所持しているかもしれない。今のルキウスには一撃で致命傷になる。
無視して素通りならできる。横道を走って抜けるだけで追いつけない。が、彼らが来た道を逆流するなら、罠と増援が予想される。
一方で、彼らも対処手段はない。完全に不測の事態のはず。だとして、本心で離脱を望んでいても、通してくれない。外へ出ると首都の中心部だ。
ルキウスはフーと竜の口から息を漏らした。誰も動じない。緊張を高めず、おびえず、迎撃態勢を維持している。作業に集中している精神状態。
(統制が乱れないのは、全員の意志が迎撃で一致しているから。戦わずに少しは乱せるが……)
彼らはここに侵入者がいる状況をどう推察するか?
理由、経緯にかかわらず、スパイが手引きした。未知の能力による強行突破。隠れ家的料理店と間違えた。
混沌とした状況、どのような話でも展開できる。実は絶影さんが心覚軍で影響力を維持し、長大な陰謀を企んでいるとか。一方で、どの話も芯に届く説得力がない。
いっそ引き返してWOを出すか。しかし、再封印できず大惨事もある。ひとりしか追ってこれないから、時間をかけて外壁を破って船の外に出ることも可能だ。
彼にとってそれが一番合理に思える。問題は船の防御システムぐらい。
(つまらんよな。水で押し流そうかな。流体能力者がいたらきついか)
ルキウスは覆面をコウモリに変えた。こいつの標準能力は反響定位だが、一日に一度音波攻撃できる。今は赤竜のファイアブレスより有効だ。
この変化で敵に迷いが生じた。攻撃か、防御か、後退か。
すぐに覆面をキングコブラに変化させ、チョロチョロと二股の舌を出し入れした。さらに口を開き、猛毒の牙を見せつける。
誰も変化する覆面をパーティーグッズとは思わない。なんらかの効果を切り替えているとはわかる。
変化の種類が多いほどに強力な魔道具だ。圧力がかかる。事実、ルキウスの装備で最高クラスの一品。
しかし、見せつけていると判断されれば、弱気を見破られる。あるいは、それを利用して、数が増える前に攻撃を誘発させるべきか。
いまだ両者に動きはない。ルキウスはまた覆面を変えた。
鳥だ。明るい黒色の単純な頭につぶらな瞳、コトドリである。無数の鳥の中でも、特にある能力に優れている。そのくちばしがパクパク動くと、バババババババ! とアサルトライフルの発砲音が飛び出した。
一気に敵の緊張が高まった。
さらにルキウスはフィリの声でわめく。
「緊急事態だ。救援を要請しろ! 元帥は限界だ! 休暇を申請するぞ。なぜだって? このやつれた顔を見てみろ!」
兵たちは微妙な顔になった。視線をフィリに向けはしないが、意識している。動物の展覧会に飽きたのか、休暇を取る気になったのか、本物のフィリが口を開く。
「だとしたらお前のせいだ……これは戦争のおつもりか?」
「いや、まったく」
ルキウスがフィリの声で言った。
「なるほど、あなたなら遊びで一千万の都を落としてもおかしくない」
(さすがに森があっても無理)
ルキウスは応じず工場の作業音をくちばしから再生し続けた。ガンガンドンギィー、トン、バンバンバン! ますます疲弊してきたフィリが言う。
「堂々と侵入し、動かないとはいかなる神算あってのことか。それとも、その地力だけで縦横にふるまえると?」
「動かないのは、君たちが帰り道を塞いでいるからだ」
「帝都が無防備などと思っているわけはない」
「意外と穴はいっぱいあるかもしれんぞ」
「ここで遭遇する意図がある。離脱を急いでいない。下で何をしていた?」
侵入からここまでの時間経過が、フィリにストレスを加えている。
ふだんならかけひきは楽しめるが、元帥の情報は不足。彼がコモンテレイに来た理由によって推測できる情報が異なる。こちらに興味があったのは確かだが、長考すべきではない。
時間は敵に有利。クローリン家の夕食に支障が生じればどうなることか。
「いや、ちょっと散歩しようと思っただけだって」
「それで意味もなく帝国の底に自ら落ちてきたと? 冗談にもならない」
「君が観光名所を案内してくれてもいいんだが、あの立派なお城とか」
「あいにく城にはさほど詳しくない」
「じゃあ一緒に見学に行こう。そうすれば仲良くなって、転職する気になるかも」
「偉大な自然祭司よ、無意味な問答をいつまでも続けるつもりか?」
フィリがルキウスを注視する。
「無意味でもない。彼らの集中は切れてきているぞ」
兵は戦闘態勢を維持しているが、敵が元帥の知人で状況が不透明となれば、極限の集中状態は維持できない。
「任務に支障はない」フィリが言い切った。
「ならやってみるか? 大国といえども次に大敗すれば無事ではない」
「お望みとあらば、心覚軍の真髄をご覧にいれよう」
強く押すと敵は固くなる。流体でも気体でも同じこと。それは可能性の狭まりであり面白くない。ルキウスは判断を敵に任せてみることにした。
「だからお望みは帰宅だって。なんなら君らも一緒に来るか? 好待遇と愉快な生活が待っている。神の地は発展の最中だ。そう思ってるよな?」
「彼らはあなたにどうこうできるほど緩くはない」
フィリは部下の様子を気にしていない。
「となると、君はどうにかすればいけるということだ」
「無理だと言った」
「可能にする方法を元帥が考えてくれ。神の地を見た。そして戦争の詳細を把握している。君は帝国一の情報通で、権限を持っている。君の判断が帝国の行く末を左右するぞ。この状況についてよく考えるべきだなー、広く広く考えるべきだ」
これを聞いたフィリはしばらく停止した。後方に控えた誰かと念話でもしているのだろう。中継がいれば、外と連絡できる。
「伏せられた手札が多すぎる……まさか本気で勧誘なのか? 狙いは私だと! いつから謀略が、ならばこの事態は――」
「いや。帰りたいので、ついでにどうかと思っただけ」
「ついでに……つまり、勧誘は本気なのか!?」
「知っているだろうが、人材を求めているので」
「それが本気だったところで、軍人は確保できまい。ならばここの研究者が狙いか」
「どうかなあ?」
「緑化機関の魔術師は大きな破壊は起こせても――いや、都内にはすでに戦力が配されている……」
ルキウスはくちばしから徐々に加速するBGMを再生して待つ。
「やはり、ここに戦力が集まるのを待っているのはそちらか」
「こっちは帰ると言っている」
「見えすいたうそを」
フィリは揺るがない。むしろ頑強になってきている。
「仕方ないな。実はもう一つついでの用事がある」
ルキウスが別の何かを言い出そうとしていると認識したフィリが、警戒をあらわにした。
「本当は皇帝と酒でも飲もうと思っていたんだ。ほれ」
ルキウスがインベから酒ビンを出して見せびらかす。
帝国は皇帝の権限が強く、交渉が進まないなら、直接交渉もありだとルキウスは判断していた。
それで、好きそうな酒でも送ろうと調べさせていたのだ。
果実酒はこちらの特産であり、帝国では高級。おかげでルキウスのインベには果実と酒がいくらか入っている。このおかげで戦闘力が低下している。
「あなたでもこの帝都で陛下に接触などできぬ。近習が道を阻むだろう」
「ほー、あ! 思い出した。たしか今頃、皇帝陛下は午後の執務終わりで、晩餐とかの前に、離宮のチュエレ宮殿の剣の間に帰るんだよな。それで温室を見ながら、ベルノー工房のリキュールを、お気に入りのクリスタルグラスで一杯やってる」
「陛下に何をした!?」
フィリたちが動揺した。脅迫になってしまった。その予定ではない。
「上が心配なら、上に戻るべきではないかな?」
ルキウスのくちばしから階段を上がる足音が流れる。
「たしかに元帥がここにいるのは損失。しかし、そう仕向けるなら、こここそが重大な戦局の可能性もある」
「だからな、皇帝と酒でも飲もうと思っていたんだよ。このとおり」
ルキウスがさらに酒ビンを出した。
「だから! そんなに簡単に国家元首に会えてたまるか!」
フィリが目を剥いた。
「いやいや、わかっているとも」
「わかっていない!」
「だから、メッセージでも添えて庭園に置いていくサブプランがある」
「それは、本気か!?」
「こいつは神に祝福を受けた品で、緑化機関から正式な友好の印だぞ」ルキウスが酒ビンを指でコンコンやった。「わかった、来てほしくないわけだ。じゃあ、投げるから。きっちり届けてくれよ」
ルキウスが酒ビンを投げようとふりかぶる。
「待て! 投げるな!」
フィリが両腕を前に出してルキウスを制止しようとする。
「この状況で手渡しはできんだろ」
ルキウスは振りかぶった状態で止まる。
「さっき爆発したでしょうが!」
叫ぶフィリの声がかすれた。
「あんなので死人が出るかよ」
「そういう問題か!」
「なんなら血判押してやろうか」
「この状況下で友好があってなるものか」
「うるせー!」ルキウスが激高してみせる。「危険を承知で贈答品持ってきてやったのに、受け取らんつもりか!」
「絶対に通常の連絡ルートがあるはずだ」
「そんなもん知らん」
ルキウスが言いきり、フィリは若干迷っている。
「お互いに現状をよくするには、皇帝とお話しするのが早いと思ったわけだ。それを無理だと言い、あいさつの品を渡そうとしたのに断る。しかも絶影さんの約束は守らない。いやー帝室はうそつきで、けちでビビりですね」
「それはそうね」レイアがぼそっと言った。
こっちにはフィリが不快そうな顔をした。
「ああ、神の代理として、贈り物を持ってきたのになあ」
ルキウスがわざとらしく壁にぼやいた。
「……それはうそ臭い。最初は言っていなかった」
フィリが一考して答えた。
「これが失われたら戦争しかないぞ」
ルキウスはほいっと投げるふりをして投げなかった。心覚兵たちは動かなかったが、気配は確実にのけぞった。
「ああ、手土産を持って帰るのは残念だからな。ここに置いていくから届けておいてくれよ、残念だな、残念だなー。皇帝といい酒でも飲みながら語らおうと楽しみにしてたのにな。まったくなんてことだ。信じられない! こんなことがあるなんて思ってもなかった。なんて酷い! しかも他人にならともかく友人に会えたというのに、話が進まないなんて! これが現実だって? 勘弁してくれよ」
ルキウスが敵を無視して、クルクルと踊って失望を表現した。それを見るフィリのオーラも、グルグルと渦巻いていった。
「…………よろしい!! ならば陛下と会談していただく!」
フィリが強烈な思念をのせた言葉を撃ち出した。
「元帥!?」兵の一人がとうとう声を出した。
「準備をする! 来ていただけるな!」
フィリは完全にやけだった。演技ならたいしたものだ。
「いや、すごく急いでいるから、都合のいい時でいいぞ」
ルキウスは陽気に言った。
「国家の総力をもって急がせていただく! よろしいな!?」
「家族の夕飯の支度があるので、手短にしていただきたい」
レイアが後方で言った。
「……彼女は本気で言っているので?」
あぜんとしているフィリの視線がルキウスとレイアをさまよう。
「何か疑う要素があったか?」
「本気で?」
「主婦は忙しい。帰宅が遅れたらバラバラにされるぞ」
ルキウスの本心だった。これにフィリがうろたえを見せるも踏みとどまる。
「よろしい」フィリが部下に命令する。「司令部第五師団は、戻って道を完全掃除しろ。施設の警戒レベルを二にもどせ。帝都防衛ラインは第三警戒配置だ。徹底させろ」
「本気で?」
部下が問い返す。
「正式に命令した! それと参謀総長閣下には、どうか現在地にとどまられるようにと伝言を。遂行せよ」
部下のうち半分が離脱した。戦闘員四人で一師団級、全員が将官だろう。フィリがあらためてルキウスを上から下まで見た。
「外に出る。あなたの格好はなんとかならんのか」
ルキウスは聞くなりフィリに変化した。服装も完全に再現している。
「元帥がふたりいたらまずいに決まっている!」
フィリが勢いをつけてレイアを窺った。本物を消すとでも思っているのか。
「今の心覚軍の元帥は、スターデン家の者なのは知っているわ。同じ部署にいたのとどこか似た顔ね」
レイアがぽつりと言った。
「やはり本物なのか」
フィリが顔をしかめるのは、彼女から何も読み取れないから。
「本物かどうかが重要? それより、野良にしては強力な気体合一者が、私の娘を殺そうとしてくれたんだけど、あなたが関わってるのかしら?」
レイアは語調は平坦だったが、誰もを震えあがらせるものだった。
「私の命令ではない! それ以上は黙秘する」フィリは軍人然とした物言いをした。
「私は何も見てない。そんなことは知らん」ルキウスが言った。
レイアはルキウスにもの言いたげな視線を送って黙った。
フィリが変わらぬ様子の布男を見て、命令を下す。
「お前たちはこいつに余計なことをさせるな」
その彼は言った。
「いやはや残念ですな。世界の中に世界を作りたかった。どちらが上位とも定まらぬねじれた織りを」
「妙な影響を与えてくれた」フィリたちがきびすを返した。「ついてこられよ」
「ほーい」とルキウスは普通に集団にかけよっていく。
フィリはそれを無視してかなりの速足で歩くが、部下は警戒している。
ルキウスが平然と集団にわりこみ、部下に話しかける。
「連れて行っていいのかなあ? 元帥は洗脳されてるんじゃないかな」
全員が意図的に無視している。
「ねえ、君」
ルキウスは発火能力者の男の肩に腕を回した。
「やめろ!」
男が暴れたが、ルキウスは離れない。
魔法使いの接触は、ナイフをのどに突きつけるに等しい。ルキウスはさらにぐいっと肩を引き寄せた。腕には焼けたような感覚が来るが、熱は発生していない。高密度の嫌悪のオーラが与える幻触だ。
男は顔をひきつらせ「元帥!」と助けを求めた。
「問題ない。何も起こらぬ」
フィリはなんらかの悟りに達していた。
「何も起きないと思う? 起きるんじゃないか?」
ルキウスは部下に顔を寄せた。
「何も起きん! いいか、余計なことをやってみろ。貴様の一族全員を廃人にしてやる」
フィリは断言して部下ににらみを効かせた。
「上司怖くない? ウチ来る? 飯はうまいよ。ゴミばっかり食べてるんだろ?」
ルキウスは部下の間をふらふらさまよい、レイアは離れてついてきている。心覚兵の意識は、近くのルキウスより存在感の欠落した彼女だ。よほど怖いらしい。
部下が心配そうな顔でフィリの横に並んだ。
「本当によろしいので?」
「視察を踏まえての判断だ。国家のことは陛下が成される」
彼らは誰にも会わずに外に出て、魔法をぶっぱなせる将官用高級車で宮殿に入った。そして駐車場から平和的な宮殿の前を歩き、庭師ぐらいしか見えないかぼそい回廊を抜け、孤立した建物に着いた。
この小さく頑丈そうな建物は、宮殿の敷地のすみにある。簡素だが、かなりの魔法で固められている。当然、中に入る。
「こいつはついてくるのか?」
ルキウスが言った。廊下を歩くのは、年老いた使用人、ルキウス、レイア、フィリ、そして布男。
「手練れが二人となれば、これで均衡を取らざるを得ない」
フィリが言った。布男は合掌して、天井に張りついている。そして、使用人は途中でスッといなくなった。
「ところで、なんでそんなにやつれてるんだ? というかどういう変化だ」
「……かなり若く化けていた。それ元にもどしただけだ」
「元帥はかなり若いと聞いた気がするが、髪型のせいかなあ?」
事前情報とややずれがある顔だ。
「疲れて見えるならあなたのせいだ」
フィリの精神は順調に消耗していた。
「じゃあ、これやるよ。回復するから」
ルキウスが黄金林檎をフィリに手渡した。彼は面倒くさそうに言った。
「また爆弾、いや、ガスでも噴き出すのか。あるいは轟音や草か」
「なぜ信用しない!?」
ルキウスが不満を爆発させた。
「自分の過去の行動を分単位で記録して読み返してはどうか!?」
フィリはけっきょくリンゴを持ったまま歩き、あるドアの前で停止した。
「着きました。それ相当の態度をお願いしたい」
(なぜこうなったのか?)
今日は、コフテームのギルドで明日に控えたハンターの訓練の打ち合わせをやるはずだった。彼は森での監視の仕事があったからだ。そのあとは、使節の面倒をみるはずだった。
とにかく、ここにいるべきではない。済ませるべき仕事がまだ詰まっている。
「内密用の部屋です。こっそり来たなら、それがお望みでしょう。派手にしようと思えばいくらでもできたはずだ」
ルキウスが考えているとフィリが言った。宮殿に似合わない地味な扉に、何かの疑いを持っているとでも思ったようだ。
「皿ごと丸のみしていいなら、晩餐会でもかまわんぞ」
ルキウスはカエルの顔で舌を出した。
「さすがにその動物の顔はどうかと思いませんかね」
フィリからなんとかしろよという強烈な思念が来る。
「まあそうだな」
ルキウスは覆面を脱いだ。その下から出てきた顔には、尖った耳がついていた。
「な」フィリが声を漏らした。
耳輪は変化能力が常時発動している。そのため覆面とは競合が起きる。
「これ、開けても?」ルキウスが言った。
「私が開ける。ドアが軽口をたたくようになっては困る」
フィリは耳のことには触れず、ドアを開けた。一拍あって、部屋の中頃より声がかかる。
「よく来られたな。森の民よ」
出迎えたのは、覇気に満ちた男だ。活動的な髪型の黒髪で、灰色の目が輝いている。
そして、シルエットがシンプルだ。彼はスマートな宇宙服を着ていた。いや、あれは全環境対応生活スーツ。戦闘力は低いが、やまほど耐性がある全身装備だ。




