狂気の森8
高くに上がった黒い噴煙が、大地に沿ってゆっくり広がっていく。フィリはそれにかすかな思念を感じた。
「後退! 全力」
ルキウスが初めて緊迫した声を発した。全員が、朽ち木とごつごつした岩の足場を走る。
どこかで、ドクンと大きな鼓動が鳴った。渦から波が広がった。空間を揺らす波が迫ってくる。波を浴びた地面からうねりが伝って、大地は次々にひび割れて不自然にめくれ、キノコ類は破裂し、コケはちじれながら成長すると硬化してひどく癖のついた針金と化した。
フィリたちはこの混沌の衝撃から守られていた。清浄な領域が彼らを覆っている。ルキウスが展開した魔法だ。
黒い煙は、渦からの衝撃でどこかへ失せ、付近では多くの物が混ざってねじれて不自然な造形を成しており、邪悪な神殿の遺跡を思わせた。一段低い爆心地には甲虫に近いものがいた。
長い前足で上体を上げた甲虫の胸部に、下から人型生物を突っこんで合体させた形状で、全体はダークブラウンのまだら模様。
どことなくカブトムシを思わせる角がある大きな頭部の下面には、こちらを向いたアリと人を混ぜたような顔がある。小さな触角の周囲に広がる複雑な楕円形は、複眼の集合であり、顔の過半を覆っている。口は巨体に対して小さいが、触角の上に開きそうな部位がある。
上面には甲虫の顔があるらしい。らしいというのは、あれがこちらを見下ろしており、上部が知れないからだ。
身の丈は五メートル以上、ただし、まがまがしく歪曲し入り組んだ非対称な一本の角を差し引けば四メートルほど。
長い足に、木をつかむには過剰なとげが不規則に並び、胸部には、三対の人間的な腕が奇妙な向きではえている。どこかなまめかしい腕だ。
その下から伸びた外骨格の長い足は、付け根が太く先にいくほど細くなる。
胸部の模様と思われたものが、ざわめいた。それは無数の小虫の顔であり、すべてがそろって口を動かしており、カサカサと重音がしている。
人に近いが異質な体にこの体格、書物でみる魔王や大魔神と同じ。
フィリがその危険を認識した時、暗い圧力が押し寄せた。
同時に強烈なオーラが、フィリの前で生まれる。ルキウスだ。彼の放つオーラが前に向かった。互いのオーラがもつれて押し合っている。巻きぞえをくった枯れ木が、空中でクルクルと回っていた。
「なんだ、魔王のほうか。腐邪主かと思ったが」
ルキウスは拍子抜けした調子だ。
化け物がこちらを認識した。深い深淵から得体の知れない力がブクブクと逆流してきた感触。
体の内に浸透してくる強烈な思念に、スターデンは顔をしかめた。異質な思考。
『この主たるドゥーギギに捧られし、空蝉どもか』
こいつは我々を敵と認識していない。食べ物や道具と同じように感じている。これは人類の敵だ。そんなフィリの思考に圧がかかる。
『捧げよ』
前へ、化け物へ引き込まれる感覚があり、フィリは足が出かけたが、精神を強化してこらえた。トーヴァには効かない。
トンムスは目の焦点がぶれはじめ、ルキウスは彼の腕をつかんだ。トンムスが剣を構えなおした。
「先手は?」ソワラだけが、魔力を杖に貯めた攻撃態勢になっている。
「不要」ルキウスが言った。
ドゥーギギの胸部の人の手が、何事かの激しい感情を表現するように踊り、一斉にこちらへ向けられた。混沌の波が起きる。
「壁!」フィリが叫んだ。トーヴァへの要求だ。しかしルキウスは瞬時に前に出て、腕を振り上げた。彼から乱れが起こる。祈りとは思えない発動速度。
両者の乱れがぶつかり、瞬時に相殺された。
「あれに対抗できるとは」
この余裕で、フィリの感心がドゥーギギに向く。意外にもすぐにその精神の形が見えた。異次元の存在たる悪魔であっても知性体。精神はある。
こんな機会は二度とない。多くの魔術師が異次元の存在に知識をねだってきたのだ。あの精神をそっと撫で、その情報の一部を複写すれば、どれほどの秘技が得られることか。
ややぼやけて感じるが、直接触れているかのような接続強度。その表面を、自己の精神に作り出した隔離領域に瞬時に複写した。その意味は解せずとも、邪法の知嚢とわかる。隔離しているにもかかわらず、使用を求める声が聞こえる気がする。
(これは使えても、人の世を狂わす。どちらにせよ、広める必要なし)
「撤退しろ。まずは単独で対処する」
ルキウスが言うと同時に、彼以外の体が浮いた。ソワラが飛行させたのだ。
フィリもそれに逆らわない。しかし、彼は帝国軍元帥である。
あれは間違いなく人類の敵。あれが都合よく緑化機関の戦力を減らしてくれれば、などとは思えない。あれがここから出れば、破滅は帝国本土に届く。少しでも状況を正常化させる。
ルキウスがここでフィリを気にした。
「ひとつぐらい仕事をさせていただく」
フィリはすでに極限の集中に入っている。聴覚が消え、視覚も消えた。自分がどこにいるのかすらあやふやになる。感じるのは、ぼんやりとした異形の精神のみ。
照準はできた。しかし不足、敵は魔王。狙うは直接接触。
フィリの袖口からは、糸に結ばれた細い針が射出されていた。
思念で動く思念糸だ。その先端には細い針が付いている。
フィリは腕にこれを巻いて隠していた。物理戦闘能力を補うための武器だ。彼が使えば、容易に戦車を投げ飛ばす出力と強度を発揮する。
針の挙動は精密にして密やか。迂回して魔王の体をかすめる。
針が感じた衝撃で起こるのは、思考をかき消す思念爆発。強烈な精神波の干渉で、わずかな振動が起こりほこりが踊った
黒い歪な精神を、白い爆発が大きく削り取った。徹甲弾が直撃した戦車を見るように、彼にとっては明確な破壊の景色だ。軽くないダメージ。
事実、魔王手足の力が抜け、ガクンと体が下がる。しかし、すぐにまた力が入った。精神が復元された。無傷だ。
あのアリ人間と同じだ。二度目だからわかる。確実にダメージはあった。防がれていない。
「ばかな!」
フィリの前にあったルキウスの背中が瞬く間に遠のき、その頭上だけが見えるようになった。上から光が差しこむ。彼らはソワラの魔法で打ちあがった。風を感じながら入り組んだ樹木の隙間を抜けていく。
「ルキウスさんだけで!?」
トンムスがソワラに言った。もうルキウスの姿は見えない。
「足手まといがいなければ問題ないでしょう」
ソワラは涼しい顔だった。
(あれはおかしい。あれは、外に何か)
――それに意思はない! 複数の層が支えあ……
フィリの思念はルキウスまで届いていた。
離脱を支援すべくドゥーギギへ斬りこんだ彼の頭上に、長い昆虫の腕が振り下ろされた。
「どういう意味、かなっと!」
ルキウスが、槍より長い腕を剣で逸らしつつ払った。ガン! 硬い骨を叩いたような音。その外骨格に傷はつくも微細。塗装が剥げた感じだ。
(少し強化したこちらより力は上)
魔法で光を点けていたソワラがいなくなり、ほぼ暗闇だ。
汚染にまみれても混沌の力が満ちた森、彼の力は万全に発揮される。しかし敵は魔王。〈神格〉を有する。敵もまたここでは万全。
最大の問題、ルキウスはドゥーギギを知らない。形状的に蟲の魔王。設定上は、数百万の個体が存在し、レベルは千二百から千六百のボス。
情報なしで挑んでいい敵ではないのだ。これはアトラスで特攻と呼ばれる行為。
本来は、癖の強い魔王に最適化した装備が必須だ。今の武器はそこそこだ。二本の剣の片方は蟲属性に効く。もう片方は悪属性。
問題は防具で、適切な耐性を確保できない。ルキウスは毒と精神攻撃全般にはもともと強い。植物、土属性には魔法やスキルで干渉できる。
それ以外を効果的に防御できない。致命的ではない〈衰弱〉、〈疲労〉、〈散漫〉でも、一対一では勝敗を分ける。故に彼は慎重に昆虫の腕と打ち合った。
(特定部位への命中で問答無用の切断とか、即死はやめてくれよ。蟲なら火や水は使わないと思うが、元素系の拘束が怖い)
ルキウスですら即死が起こる戦いに、サポートは参戦させられない。
インヌ教授の憎々しいパズルを使う余裕はなく、使う意味もない。あれは広い範囲に特殊効果をおよぼすのが強みだ。
先の見えない戦いだが、最初の接触で情報は得られた。
あの体、力はあっても遅い。そもそも、あの昆虫の足は戦いに向かない。
ルキウスはそれを前提に側面からドゥーギギに迫る。しかしその長い昆虫の足は、関節の向きに逆らって滑らかに曲がった。
ガン! 乾いた音だ。
ルキウスは問題なくはじいている。最初から遠い間合いで斬りあう算段。思ったほどの筋力はない。体格差は委縮するほどの差を産んでいない。
『動くな』
強烈な魔力がルキウスにまとわりつき、どこかで自ら動きを止めたいと感じているような気がして、彼は神気をまとった。
「断る」
精神耐性はあっても、物理法則を曲げられるのが神。防ぐのが鉄則だ。さらに一定時間解除不可の状態異常ぐらいはあるとみるべき。
(圧が強い、あの図体で精神系か? それなら楽だが、どうもな)
ルキウスはいくらか距離をあけ、魔法を使う。
「〔灰の嵐/アッシュストーム〕」
灰の嵐がドゥーギギを包み、ルキウスがそこへ斬りこむ。ガン! 長い前足で正確に打ち払われた。まとわりついていた灰が吹き飛び、巨体が姿を現す。
『何者だ? お前は知らない』
質問は無機質。小さな触角が動いているが、虫の目はすべて黒に染まっている。
「お前に名乗る名前はないのルキウスです。よろしく」
ルキウスは剣を振って距離をとった。ルキウスを超える腕力と、強固な外骨格。魔法より白兵戦重視だ。
とはいえ、昆虫は人の常識で計れない。人は虫を見なれているが、思いのほかその構造を理解していない。彼らは思わぬ所にある気門から毒を吐いたり、足に特殊な感覚器があったりする。
さらにドゥーギギがこの領域を支配するなら、ルキウス同様にあらゆる感覚で周囲を認識する。見えていても意識しない可能性はあるが、一対一で奇襲は困難。
そしてこの魔王は、ルキウスがこの世界で相対した敵では、突出して強い。
(困ったな、どう見ても甲虫。魔王ならば、人が悪徳としたり、嫌悪するものを司っている。病害虫の権化なら、カやノミ、イナゴ、が定番。甲虫で害虫といえばカメムシ? 悪臭? 厄災にしては弱い)
魔王である以上、混沌と悪の性質は確定、問題はほかの主たる性質。それが強さであり、弱さにもなる。
ドゥーギギは巨体でルキウスへ突撃してきた。町中の車よりは速い加速、つまり遅い。彼は突撃軌道から逃れ、最も頑丈そうな背中を浅く斬りつけた。無傷。
巨体が旋回、腕が来る。何度かそれを全力で斬るも、剣は腕に通らない。体はそれ以上に固いはずだ。
ルキウスの剣は、特に傷んでいない。武器破壊の魔法はまとっていない。しかし固い。普通に剣が折れそうだ。
(イナハは、腹に槍が通ったと言っていたが、みぞおちを狙ったなら、体節に入ったのかも)
ルキウスが意識した腹は人体のものではなく、敵の後方にある昆虫の腹だ。ビクビクとした動きが目につく。それは風船的な質感で、外骨格がない。
昆虫の心臓はあそこにある。
(このレベルでは、弱点攻撃はカウンターがくる。とはいえ、危険を冒さず情報なしか。ここは奈落ではない。敵の神気には限りがある。どうするか)
ドゥーギギの胸部の腕六本が再び踊る。ルキウスは一気に魔力をまとい腕をドゥーギギに向ける。
ドゥーギギから混沌が放出され、遅れてルキウスも混沌を放った。
今度は片手間ではない、全力の〔混沌波/カオスウェイブ〕。ルキウスの魔法が敵の波を破壊し、ドゥーギギに直撃した。しかしなんの反応もない。
(やはり混沌の塊に混沌は無意味。とっておきを出すか)
ルキウスがインベから出したのはウサギの人形。それを投げる。人形はくるくる回りながらドゥーギギに向い、無造作に払いのけられ――爆発!
弾性に富んだポリマーがまとわりつき、遅れて樹脂硬化剤が全身を固める。マシンスタングレネードだ。
機械の隙間、関節部を潰すのに有効な武器だ。生身の人間が自律兵器に対抗できる手段として、最終戦争で多用された。
ドゥーギギの動きがぎこちなくなった。人の腕は動いているが、外骨格の関節にポリマーが挟まっている。
「科学は悪魔にも負けんぞ」
物理的拘束は有効。ルキウスが間髪入れず突貫する。狙うは、魔法のたびに不気味に動く人の腕。経験的に、あれは潰せる。そして潰しておくべき。
そしてルキウスが剣を振りかぶった時、壁のごとき巨体が消えた。
瞬間移動、彼らの基本的権能だ。魔王は、どこにでも現れる。
ルキウスの背後から、昆虫の前足が挟みこもうと迫る。それは複雑な突起をまとい、物を逃さず掴む構造をしている。それは完全にからぶった。
(その未来は感じた)
ルキウスはドゥーギギの頭上にいた。緑の瞬間移動だ。
剣を振り始めた時には、魔法を発動していた。眼前には巨大な昆虫の頭。首は装甲で覆われ、ほぼ見えない。
ドゥーギギが反り返った角をぶちあてようと首を振る。ルキウスが空中を蹴って、角の隙間をぬった。そこで二つの剣が連続して振りぬかれる。
入った! 右の目は十字に斬られ、深い切れ目が入った。
さらにルキウスは逃れつつ、手裏剣を投げる。様々な種類を投げたが、刺さらない。次は丸い物体を投げ、ルキウスは耳を塞いだ。ギィーン! 音響爆弾だ。
その衝撃にドゥーギギが硬直、そこに聖水の入った瓶をぶち当てた。酸を浴びたように煙が爆発的にわき、ドゥーギギの体を覆うダークブラウンがいくらか剥げ落ち、クリーム色が露出した。
(回避しない。迎撃、風魔法、念動力なし、矢は?)
ルキウスはインベから出した矢を投げた。
両者の力量からすれば、遅いにもほどがある矢。それが頭部付近に直撃した。矢じりに込められていた火球がさく裂する。その衝撃と熱を避ける挙動あり。
その次に当たった矢からはイバラが湧き出し、ドゥーギギに絡みついたが、すぐに消え去った。
(魔法の拘束は当然無効、あの硬直はわざとではないな。しかし)
「蟲はなに考えてるのかわからねえ」
ドゥーギギは目の負傷を気にしているそぶりがない。無視だ。
矢は直撃しているが、一定の威力以下の攻撃を無効にしたり、極度に減退させている可能性がある。悪属性に有効な聖水は効いたが、ほかのダメージが通っているのか? それがルキウスにとって直近の課題。
蟲なら回復能力はないはずだが、相手は魔王、確認はいる。回復しないなら、長期戦の手もある。
ルキウスは再び接近戦を挑み、ドゥーギギの動きが変わらないのを確認する。胸部から撃たれた黒い光線は避けた。あれは悪属性だ。
(物理攻撃は虫の腕四本、人の腕六本は魔法。こんな重量級が出るとは。弓に切り替えるか? 瞬間移動からの攻撃は回避可能。解呪してこない。魔法の使用を先見に限定すれば魔力は維持可能)
『お前がアーリーラドネか?』
「はあ? どちらにおかけですかねえ? ちょっと顕現する場所をお間違いではありませんでしょうかー?」
ルキウスが剣をガチャガチャ鳴らした。
『ひとりで我に向かうとは愚かなり。我が尖兵は満ちている』
「話が通じねえ」
周囲からガサガサという音と、人の可聴域を超えた高いキューギューという音が聞こえだし、無数の気配がルキウスを遠巻きにした。
巨大なゴキブリだ。前足は鋭利な鎌になっており、ほかには、小さな昆虫がうじゃうじゃいる。それが雪崩をうってルキウスに殺到する。
「ここで群れ。自分が耐えて、ほかに戦わせるタイプかな。〔上位・蟲駆逐/グレーター・エクスターミネート・ヴァーミン〕」
ルキウスの全身から放射された光が、彼に触れようとしていた虫たちを一瞬で塵にする。しかし、蟲は際限なく出現し、第二派になろうとしている。
『無駄。すべては我が領土に覆われる』
「予定より早いが。皆さん、仕事の時間だ」
ルキウスがドンと地面を踏んだ。地中へ魔法が伝っていく。
彼の四方の大地より、緑のつるが巻き上がり、人型となった。召喚した四体の〔緑の使徒/ヴァ―ダント・ディサイプル〕だ。
さらにあらゆる場所から草木が顔を出し、みるみるうちに巨大に成長した。樹木に加え、根っこでうねうねと歩く巨大な草花が目につく。これらは総じて何かをつかむの適したつるや、牙のある口があった。食虫植物だ。毒を分泌する殺虫植物もいる。
「仕込んでおく時間はあった。蟲を食い尽くせ」
植物たちが枝を振り、草を振り、蟲に襲いかかった。一帯は、異常に活発な草木と、凶悪な昆虫が相食む景色となった。
「これ、負けたら世界滅ぶよなあ……。誰か助けにこないものか、どこかのヒーローとか。……来ないか」
ルキウスがぼやくが、待っても都合よくはいかないらしい。
ドゥーギギは表情を変えずたたずんでいる。
人の腕は本気なら斬れる。しかし、あの装甲を見せつけられると、彼はそこから崩したくなる。
「たいていは蟲が植物を食らうが、狂気の森では秩序がたやすく逆転するぞ。〔食虫の神髄/インセクティボラス・クィンテセンス〕〔天敵反転/ナチュラルエネミー・リバーサル〕」
ルキウスが魔力を帯び、蟲への攻撃力を瞬間的に上昇させた。
彼が動く。狙ったのは迎撃してきた前足の関節。この不自然に曲がる関節にはもう慣れた。
ルキウスは前足を避けつつ、完全な形で関節に打ちこんだ。
剣が止まらない。両断に至った。もろい!
斬った関節の断面が見えた。鋭利な切断面がない。節で外れたようだ。
彼がそれを認識した瞬間、衝撃が頭を襲った。一瞬視界がぶれ、体勢が崩れる。
襲ったのはほかの前足ではない。切り飛ばした前足の先部分が、自力で引き返し、ルキウスのこめかみに直撃したのだ。あまり尖っていない関節部が当たった。
さらにドゥーギギのルキウスより多い前足が、一斉に彼を襲う。彼は大地を蹴り、さらに剣で大地を叩いてその反動でどうにか逃れた。
彼が斬ったと思った前足と、自発的に切り離されたもう一本が、ドゥーギギの近くで浮遊していた。
「くっそ、超量子合体メカかよ」
ルキウスはこめかみの血をぬぐった。この程度の傷はかってに治る。




