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収容所9

「え、私は大丈夫。ハエっで! 大丈夫なものですか!!」


 ソワラがさらに絶叫した。


「だから言ったのに、だから言ったのに」


 ソワラの目は完全にすわっており、しばらく壁と向き合った。そこからまた思い出したように十秒ほど叫びながら暴れたが、やがておちつきを取りもどした。今度は無表情だ。


「ルキウス様はハエになりました。解除不能です。とりあえず全員が状態異常になる必要があります」

「それが防衛策か」


 ヴァルファーがすぐに察した。正常な相手を照準する攻撃。つまり囚人は〈踏みつけ〉などの状態異常を受けている。


「酒でもあおって泥酔するのか」


 サンティーが言った。


「時限型の刻印でいいね。起動前に解除すれば無害だ。ただし、高位の回復手段でまとめて解除されちまうよ」


 アブラヘルが羽ペンを取り出した。そして各々の服の首元をめくって、背中に印を書き込んでいく。

 そのあいだにソワラが説明する。


「これはWO、ブンダの瞳によって生まれたハエの効果です。ハエと魂が入れ替わり、二十四時間で固定される。魂が固定されていないハエが瞳に接触すると破壊され、入れ替わりは元にもどる。ハエに対する脅威の有無で達成難度は大きく変わるとのこと。なおハエは定数一万。減少分は瞳から即座に補充される」


「前から来たなら、ブンダの瞳は地下収容所にあるのかね」


 アブラヘルがすみやかに作業を終えた。


「地下とそこに接続され隔離された地上の部屋だ」とヴァルファー。

「根切にしてから家探やさがしすりゃいい」とゴンザエモン。

「ハエを殺していけば発生地はわかるかもしれません」とソワラ。


「まずは隠された道を抜けて閉じよう。ハエが出るし。危険性を考えれば敵が瞳を移動させる可能性は低いけど、急ぐべきだ」


 ヴァルファーが後方を気にする。


「体はどうすんだ」


 ゴンザエモンはルキウスの体に座っていた。歩こうともがいている。

 対してルキウスハエは、ぎこちなく飛び上がった。


「慣れてきたから飛べる。飛ぶな!!」ソワラがハエを捕まえた。「まったく」


「最悪の場合、死んで復活させてもハエだねえ」とアブラヘル。

「私がお守りします」


 ソワラがハエを包む両手に力を入れた。


「体が死んでもだめだ。こっちは小さくして運ぼうか」


 ヴァルファーがルキウスの装備をいくつか取り、針で頭を刺して〔人形/パペット〕の魔法をかけた。ルキウスの体は十分の一にまで縮み、さらに紐でグルグル巻きにされた。


「二時間はもつよ」

「そちらも私が」


 ソワラはそれを胸の谷間につっこんだ。


「一万もいるなら、この先で刻印が解除されたら終わりだな」


 サンティーが背中を気にする。


解呪ディスペルを狙ってくる可能性はある」とヴァルファー。

「対虫系は危ういねえ、何かの拍子にルキウス様にかかる」とアブラヘル。


 ハエの近くでインベントリが開いた。


「開けるんですね」


 とソワラが中から出したのは細いつるで編まれた球形の【寵愛の虫かご】。


「魔法は無理ですか? 魔力がない。魔力は体のほうですか。しかしなぜ虫かごが? 虫をとるため。珍しいのがいるかもしれないと」


 ソワラが壁を拳を叩きつけ、ゴウンッと響いた。それから虫かごにハエを入れた。かごの紐は肩にかけられ、虫かごは腰辺りに位置している。


「虫を快適な環境で保護する物ですから、これで安全です。へたな最高位装備より高いらしいです。さて――」


 ソワラの瞳に金色がにじむように広がっていく。


「滅ぼしてやる。帝国め」


「それどころじゃない」ヴァルファーがサンティーを見た。「索敵が彼女しかいない。機械操作もルキウス様の担当だし、生体探知ぐらいの目隠し状態。さらにルキウス様は五感以上に直感があって敵意に敏感で、不規則な動きで追跡しにくい。だから敵地を混乱させられている」


「そうだなあ。かくれんぼで幼児から全力で隠れるの大人げないし、途中でやってるの忘れてどっか行ってるけど」


 サンティーには緊張感がない。


「後退はありません。進みましょう」


 ソワラが歩きだす。


「出た先は狭い一本道。その先の空中に小さめの機械がいる。浮いている」


 サンティーが言った。


「やっておく」


 ゴンザエモンが道から駆け出て斬り捨てる。真っ二つになって転がったのは、地下に配置された監視用機械。


「進入は露呈したな」とヴァルファーが前に出て盾を構えて急ぐ。


 彼らが出たのは人工的な洞窟で、進むとまた門があった。分厚い門だ。囚人たちが入所時に通るのと同じ道である。

 彼らはここまでと同じく、門を回避し、横に道を作って抜けた。急に壁に出現した門を開けて出てきた侵入者に、門番らしい白服ふたりが仰天して固まっていた。


 それをヴァルファーとゴンザエモンが殴打、簡単に気絶させた。


「迎撃はなし。予期していた顔でもなし」とヴァルファー。


 大きめの通路といった空間で、かなり遠くにまた門があった。倒したふたりしかいない。


「これは囚人だね、犯罪者だ。この先にうじゃうじゃいる」


 アブラヘルが気絶した囚人二人に触れて夢で接触する。


「制圧して手下にしますか。脱走したいはず」とソワラ。

「WOは絶対ほかにもある。意味はわかるね」とヴァルファー。


「わかっていますよ。騒乱でWOの拘束が外れる可能性があるのは。なら、一人支配して案内役にしましょう」


「このまま進むと囚人の居住区に出る。さらにかなり進んだ所に巨大な老人がいて、周りを大勢がグルグルと走っている。その走りは常に途絶えない。ほかに奇妙な現象がいくつかあるねえ」


 アブラヘルが目を閉じて言う。これにヴァルファーが声を出してうなずく。


「ああ! 酒神さかえきか。人の動作で拘束できる、脅威・生産タイプ」


「この白服は囚人のうちの管理係だ。見た目が違うし支配は目立つ。ほかにも特殊な場所や道具はあるようだけど……」とアブラヘル。

「普通の囚人がいいですね。ここが長い者です」とソワラ。


 サンティーはレーダーのように首を動かしており、近くの壁を示した。


「ハエがいる。あの岩陰だ」


「始末しておく」とヴァルファーはすばやく動き、やや思案した顔で帰ってきた。彼の剣の上には切れ目が入った二匹のハエが乗っていた。


「この二匹、同種に見える?」


 どちらも小さなハエだが、体長は二倍ほど差があった。ソワラがこれと虫かごの中身を見比べ「小さなほうがルキウス様と同じです」


「こっちは普通のハエか。飛んでいると難しい」ヴァルファーが剣を払ってハエを捨てた。


「小さな気配としか認識できないな。点だ」とサンティー。

「全部斬りゃいいだろうよ」とゴンザエモン。

「普通のハエがいるとブンダの瞳探しの邪魔ということだ」とヴァルファー。


「この先で防衛部隊が展開していれば、それを叩いていくのですが」


 ソワラが言った。危険物なら管理された場所にあるはずだ。防衛網を順に破壊していくのが楽と思えた。


「ブンダの瞳もセオ・カットは発見できない。こいつ、どうも人の本名を知らない……もう片方もだね。あだ名で呼び合っている。こいつと同じ白服に心覚兵が複数いるらしい。白服じゃないのにもいるね。やはりWOは複数だねえ」


「やっぱりいるんだ!」


 サンティーが喜ぶ。


「話はそう簡単じゃない」


 ヴァルファーは鼻をかいて考えていた。


「なんで?」

「ハエも小さくなった体も弱い。そのカット氏がいたとして敵だったら? 心覚兵に近距離から攻撃されたら守れない。まずはブンダの瞳を破壊する」


「セオはそういうのはやらないと思うぞ。正々堂々来るぞ」


 サンティーは不満そうだ。


「まず見つけて連れていけと? しかし……」


 ソワラが虫かごと向き合っていたが、開いて魔法をかけた。〔念話接続/テレパシーリンク〕に接続したのだ。

 つながるなりルキウスが言った。


『とにかくセオ・カットを見つけろ。私が説得する。慎重に動け』


 これにソワラとヴァルファーがうなった。困難な要求だ。


「ハエに説得されたら信用しないな」


 サンティーが憐れみを込めて言った。


『無理なら気絶させて連れていく。ブンダの瞳は必ず近くにあるから心配するな』


 彼らは情報を求めさらに門を突破して進んだ。そこは居住区である。十数人ほどの囚人がたむろしており、その驚愕を含んだ視線が侵入者に集中する。すぐにアブラヘルが動く。


「〔深き眠り/ディープスリープ〕」


 囚人たちが一斉に半眼となって倒れ、あるいは壁によりかかる。

 ヴァルファーは先へ向かう通路へ走り、幻を移す平面でふさいだ。

 ゴンザエモンが通路の横に隠れ、幻覚を通り抜けて入ってくる囚人を待ち受けた。


「囚人だけです。汚らしい男どもですね」


 ソワラが監房に近づかず冷たい目でそれぞれの穴の中を確認した。


「この寝ているのはどうする?」サンティーが言った。


「眠りはほどほどだよ。一晩もすれば起きる」


 アブラヘルが急いで眠った囚人に印を書いていく。印があるほうが夢に接続しやすい。それから彼女は座って目を閉じた。


「情報を回収して放置しましょう」とソワラ。

「ふむ」


 ヴァルファーがうなずく。


「騒ぎになるだろ」


 サンティーはハエを探していた。


「それでいい。人がここに集まるし、ただそろって寝てると思うかも。囚人にはどうでもいいことさ。監視は来てないし、問題は帝国がWOの性質が理解していないかもしれないことだ」


 ヴァルファーが調子よく語った。


「調子にのるな。ハエを読めなかったくせに」


 ソワラがヴァルファーをにらむ。


「しかたないことを。WOはスプーンや布切れだってあるんですよ。すべてを警戒できない」

「対処は不可能ではなかった」

「そっちだってね」

「うーん、誰もハエは意識していないねえ」


 アブラヘルは夢での接触に集中している、


「もう全部殺して探せばいいのです」


 ソワラがヴァルファーから目をそらしなげやりに言った。


「いやテオがいるから。絶対いるから」


 サンティーがあせる。


「死んだら復活させればすむ話ですよ」


 ソワラは本気で考えている。


「いまだに迎撃なし。気づいていないはずはないが」


 ヴァルファーは道の先や壁などを気にしてたが、何も発見できなかった。


「侵入を想定していないのかもしれません。どう探索するかが問題です」

「いきなり目立つ必要はない。囚人は日常どおりのようだ。不可視化の消費魔力は大きい。変化で紛れるしかない。ばれたとして、しかけてくるのが敵さ」


「ここからどうするんだ? 友は地下のほうが楽って言ってたけど」


 サンティーが言った。


「地下が気密されていれば、ルキウス様の気圧戦法が使えるはずでした。WOがいなければ」


 ソワラが言い、ヴァルファーが続ける。


「ルキウス様は屋外を好まれるが、屋内で特に有利な魔法もある。普通の戦闘では有効ではありませんが、神気を消費すれば広範囲に使える。敵に備えがないなら、広範囲で意識を奪える」


「WOさえなければ」


 ソワラが食いしばった。


「致命的なWOはわずかです。しかしいきなりのハエの出迎え……」ヴァルファーは少し悩み「ここの囚人を夢遊病にしてごまかしに使おう。囚人を先の区画に送り出し、我々もまぎれてバラバラに出て、あとで合流。ここは監視されていない」


「かなり広いわ。問答だけで地理を把握するのは……囚人も間取りを知らない」


 アブラヘルが目を閉じたまま額にしわを作った。


「その前に支配する者だけを選びましょう」とソワラ。

「なら、これかね。ツナ・キハーダ、あまり社交的じゃない。単独の空き巣常習犯。個人宅だけでなく、大企業の金庫もやってる」


 アブラヘルは選んだのは中年の小男だった。やや卑屈で学はないが、抜け目のなさがあり、収容所内のグループを一番多く認識していた。ただし、魔法の知識はなかった。これは彼が魔法に関する教育を受けていないことが原因で、知っているのは優秀な治療者と危険人物だけだ。魔法の知識があれば逮捕されていないだろう。


『囚人王になって暴れるプランもあったのになあ』


 ルキウスが残念そうだ。


「冗談ですよね?」


 ソワラが無表情だ。


『なんで? そいつなんか使えそうな人材──』


 ソワラがドンッと一度足踏みした。


「あれの管理は任せますよ」


 ソワラがあごをしゃくってキハーダを示し、ヴァルファーに言った。


「ああ」


 キハーダを揺すって起こし、彼が頭を起こそうとしたところ ソワラが杖を押し付けた。


人種支配ドミネイト・ヒューマン。彼に従いなさい」


 ヴァルファーが寝ぼけたキハーダに質問していく。ソワラは次を考えていた。


「さてどう化けるか。短時間なら完全変化かんぜんへんげでも魔力はもちますが。それなら目的地が必要か……」


 姿を欺く手法は多岐にわたる。催眠などで対象に干渉する。これは対象が多いと困難。幻術の専門家なら世界の認識そのものを騙しうるが膨大な魔力を消費する。


 幻影、実体がない映像を人間にかぶせる。触れればすぐにわかる。動きに違和感を感じられる場合もある。見破る道具も多い。


 変化へんげ、本人、あるいは服を含めて物理的に変化する。装備の能力は弱体化するが、一瞬で元にもどって戦闘できる。変える部位は少ないほうがばれにくく魔力消費も少ない。


 そして魔法は他者より自分にかけるほうが難易度は低い。他者の変化を維持するのは大変だ。


 ルキウスがかつてやったように錬金薬などで物理的に化けるのがばれにくいが手間と時間がかかる。それに装備のごまかしには限度がある。


 ヴァルファーが口をはさんだ。


「侵入は露呈している。ばれやすいが魔力維持と戦闘能力維持のために幻影で」

「そうですね、脅威は粉砕するまで」


 武器は一時的にインベにしまうとして、ルキウスと虫かごをどうするかが問題だったが、囚人が使っている荷袋に入れた。持って歩いても不自然ではない。

 そこから手早く情報を収容所内の情報を共有した。自由に歩け、中に武装した看守がいないのは、かなり有利な情報だった。問題は誰もブンダの瞳を知らないことで、ありそうなのは人の出入りが自由ではない区域ぐらいだった。


「じゃあやるかね、〔楽しい夢/ファニードリーム〕」


 アブラヘルの魔法で寝ていた住人が起き上がり、ややおぼつかない足取りで隣の区画へ移動を始めた。囚人の幻影をかぶった彼らもそこに混ざる。


 彼らは無事に先の区画で合流し、キハーダの案内で広場に入った。この大部屋は多くの場所へつながる通路があり、経路に入りやすい。


 そうなると当然走る囚人の群れを目にする。


「なんだあれ……」


 サンティーが異様な光景につい声を出した。


「静かに。視線を動かすなって言ったろ」


 アブラヘルがサンティーに寄った。


「あれが酒神さかえきだ」ヴァルファーが言った。「奉納された儀式に応じて、酒樽から酒が湧くが、この部屋には無いな」


『地上だろう。やはり戦略物資の採掘場所だ』


 ルキウスが言った。


「そうですね。ざっと見て、六、七百人。全体でもっと。顔を覚えられる数ではない」


 ヴァルファーが部屋の人間を数え、ほくそ笑む。

 この集団も不審に思われない。ただし囚人と距離をとるのが難しい。中央の人の渦は避けられ、人の流れは外側に集中している。動くすべてが刺客に見える。かなりの緊張で広場を抜けた。

 人は減ったが、生活区全般で人が多い。奇襲をしのぐのは難しい場所が続く。


「立ち入り禁止地区までどれくらいかかる?」ヴァルファーが言った。

「二十分もかかりやせん」キハーダが答えた。


 ここでサンティーが真剣になった。


「どうも……つけられているな。人が多くてわかりにくいが、四人はいる。一定の距離でついてくる。金属持ってるのがひとりかな」


「距離は一定?」ヴァルファーがたずねた。

「そこまでは。距離と部屋の作りからして見えてないと思うが、追ってきてるな。目的地が同じだけかも」


「移動経路を変えて追ってくるなら普通の収容者ではない。連絡を受けた管理側の白服。看守はおそらくいない。まぎれている可能性はありますが。キハーダ、人が少なく出入り自由な場所は?」


 ヴァルファーが言った。


「この時間は、生活区も労働区も多い。個人掘りの坑道内はどこも少ない」


 キハーダが答える。


「坑道はあからさますぎないか?」


 サンティーが言った。


「迎撃は楽だ。それに一人一人にじっくり聞き取るには好都合」


 ヴァルファーが考えつつ言った。


「人以外の気配はないのかい?」

「人と、あの機械だけだな。でも魔法で隠れてるのも同じに感じるからな」


 空中を漂う監視機は、彼らを追っていない。ただし大部屋の高い壁の上には、地上から人が来られる監視所がときおりあり、看守が増える。彼らは増員されており、それに注目する囚人がいくらかいる。

 看守は何かを探しているが、頻繁に相談していることから何を探すべきかわかっていないようだ。地上の兵よりは規律がありやや練度が高い。


 現時点では、囚人の空間に大勢で降りてきて全員を整列させたりするつもりはないだろうし、やろうにもできないはずだ。


 彼らは近くの坑道に向かうことにした。ルキウスハエがいる以上、人ごみのリスキー、それを避けて落ち着ける探索拠点が欲しかった。


『プレイヤーそのものもある。そっちも用心しろ』


 ルキウスが言った。


『こんな所にですか』


 ソワラが言った。


『ルーチンワークを好む者には悪くない場所だ。悲惨な環境でもない。刺激好きはいないだろうが』


 追跡者は不自然な経路でも追ってきた。追跡を確信した彼らは、不人気の坑道に入り、百メートルほど進んだ。歩くには支障がないが、そう広くない道だ。


「追跡者は?」


 ヴァルファーが言った。


「電磁場を直射できないとわかりにくいが、坑道の入口で止まったな。でも人数はわからない」


 サンティーが言った。


「入口の時点で人は減っていたな。戻ってやるかい?」

「順番に捕まえて尋問を。まずは情報を――」


 ソワラの言葉の途中で、バガーン、坑道側面が破裂した。土と岩が混ざったものが、銃弾のごとく飛んできた。彼女がかがみながら、薄い力場の壁で土砂を防いだ。


「攻撃だ! 土砂崩れじゃない!」


 ヴァルファーが叫んだ。壁が崩壊し、土砂となって彼らにのしかかる。さらに通ってきた道からドドドドと圧倒的な土砂の波が押し寄せてきた。


「これがプレイヤーというやつか!」


 サンティーが反射的に襲ってきた土砂へ電撃を放ったが、電気は散ってしまった。


「電気はやめなさい!」


 ソワラがどなった。散った電気を少し浴びている。


「プレイヤーならすでに全員拘束されるか、誰かが死んでる。とはいえっ」


 ヴァルファーは盾で土砂を押しとどめようとしたが奥へと押し流される。大きな石の壁を出しても止められない。土砂はただ流れているのではなく、時にはつかむように動き、または弾き飛ばそうとうねる。

 彼は土の操作を試み止めようとしたが、止まるのは一部だけで次から次へ新しい土砂が押し寄せる、さらに天井も崩れてきた。


 ゴンザエモンは土砂と迫ってくる岩石を斬ったがなんの意味もなかった。

 全員が土砂に押しやられ、坑道が崩壊していく。さらに坑道のあらゆる面がうねりだした。立っていられない。


 キハーダは土砂に飲み込まれてしまった。


「埋まってしまうぞ!」


 サンティーの足が土に埋まり、ゴンザエモンがひっぱりだして奥へと投げた。


「首は遠いぜ」


「場所がまずい。土の専門家だ」


 ヴァルファーがサンティーをつかんで先へ飛行する。ゴンザエモンは土に埋もれながら強引に走る。ソワラはすでに飛行して奥へと退避していた。それを坑道の崩壊が追ってくる。

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