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収容所4

「石はどこから?」


 コナーが尋ねた。坑道の壁は、はっきりした継ぎ目のない石がこびりついていた。落盤がおきないように補強してあり、幅も高さも十分にある。岩盤がむきだしの生活区より頑強だ。


僧侶クレリックが石、圧縮して、それにすんだ」剣の囚人が言った。


「堀った土は地下水脈に流すぐらいしかできないが、そうは無い。同じ場所ばかり掘れば崩れる。かなり重い石だぞ」


 カットが石壁をこついた。


「新しい掘り屋がいる所は危ねえ」槍の囚人が言った。


「ここは古いということか」コナーが納得した。


 かなり長い間、安全な坑道が続いたが、やがて粗末で小規模になった。コナーが想像していた岩盤を避けてやわらかい土を掘りぬいた蛇行した坑道だ。


 掘る時に避けた大岩が突出している。頭に気を付ける必要がある。道は頻繁に枝分かれし、小さな行き止まり多くある。揺らめく炎が不規則な影を作り、何かが出そうな気配を感じさせた。


 ゴーンは先頭で定期的に壁に手を突き、たまに後ろを確認する。目の焦点は合っていない。何かを聞いている。


「話していていいのか?」


 コナーは疑問に思った。彼が持つ黒い球の灯りがあっても坑道はかなり暗く、でこぼこで死角が多い。小さな毒虫でも油断ならないと聞いている。だからこの特別な耳に頼っているはずだが、世間話が続いている。


「聞き分けができなければ使いものになるかよ」ゴーンは警戒に集中していたが、後ろ姿に自信があった。「振動膜の向きを調整すれば、地表を歩く看守の小言だって聞こえる」


「てことは、何かここに関わる情報も?」

「奴らは言われた作業をやってるだけさ。何も知らん。まったく、知らないとは」

「へえ、うらやましい。そんな耳があるとは」


「耳というか、この人の力を帯びた面がでかい耳になってる。今は壁とかだ。まあ、それでだ」


 カットが含む言い方をした。


「……ここにいる原因か」コナーは感づいた。危険な能力だ。


「情報部のエースだったってのに」カットは残念そうにした。


「つまり組織内の争いか何かで」


 軍の活動は、判断者しだいで合法にも違法にもなる。


「趣味だよ。自主的にありとあらゆる場所に近づいて聞き耳を立てた。帝都中を盗み聞きした。官庁に大企業の機密から、下町のくだらん痴話げんかの話まで」


 カットが薄笑いした。


「聞けるなら聞くだろ」


 ゴーンは当然のように言った。


「聴取で、この人の調査結果が明らかになって困っただろうな」


 道中、ゴーンはこの秘密を尋ねられれば答えるものの、自分から広めようとはしなかった。純粋に知りたいだけの変質者だった。


「ゴーンの耳はいいが油断するなよ。前に集中しているからな」


 カットが言い、最後尾にいるエイアンは「俺は大丈夫だあ」という調子だ。

 さらに行くと、カットがたずねた。


「気づいたか?」

「何がだ?」


 コナーは不意に話しかけられ身構えた。それだけ探索に集中していた。


「ここの道だ。変わっただろ」

「……下りか」


 道が完全に下りになった。どの分岐も下だ。


「最初は上に掘る。やがて無理だとわかる。その痕跡だ」

「別に逃げようなどとは思ってないさ。非現実的なことはな」

「適応してもらわねえと困るからな」

「あんたはどうなんだ?」

「治療が終われば、外に出る予定があるからな」

「予定日を知らせてこないだろうがね」

「気長に楽しくやるさ」

「そういや、中尉は手紙も許可されてるのに書かねえよな」


 ゴーンが言った。


「親族がいないからな」

「安住者なんてのは」


 コナーが呟いた。

 ふたりの囚人は、ここに不満はあるが外よりマシ、と定番を言った。しかし、目はギラギラしている。この探索を積極的に楽しんでいる。


 剣の囚人が足を止め、壁をつかんだ。わずかに木片が出ていた。それを引き抜こうとしているが、ねじっても動かない。


「これはまともっぽいが、周りが固いな」

「僧侶が欲しがる」


 コナーが見ていると、槍の囚人が言った。


「杖か」


 コナーは、一部の僧侶が何かのシンボルをかたどった木の杖を持っていたのを思い出した。


「土だって、質が良ければ値がつく」

「だから、人気があると」


 コナーが言った。


「ここは安全なほうだしな」

「そうそうでかい虫はでない。人を食えるという意味では」


 ゴーンが言った。

 そこから長く歩き、道中で二度人とすれ違った。やがて


「何かいたぞ」

「方角は?」

「あっちだ。毛のすれる音、虫が複数。それに布のずれの音も」


 カットとゴーンは連携して前進していくと、死体があった。その周りには見たことも大きさのクモが群れていた。細く尖った形状で、ひざぐらいまではある。


「天井もだ」


 ゴーンが前に出るカットに忠告した。クモの群れはこちらをそれとなく警戒しているが、多くは食事に夢中だ。


「問題ない。こちらを認識しているからな」


 カットは何度か軽く腕を振った。そのたびにクモが一匹ずつ動かなくなった。クモの群れはなんの対処もできず、天井や壁から転がり落ち、すべてが仰向けになり動かなくなった。


「音は?」

「近くにはない。死体の音だけだ」

「思念は無いが……虫は意思が希薄だからな」


 カットが慎重に進み、二人の囚人はそれを補佐し、クモを念入りに刺した。カットが死体を調べ始めた。


「今の何を?」コナーが言った。


「思念の剣で切った」

「常人には見えん。俺にもほとんど見えん。繊細な技だ」ゴーンが言った。


 カットは死体の刺し傷を見ていた。虫に食われていたが、形は保っている。


「殺しの可能性があるな」

「武器の傷と?」コナーが言った。


「クモさんではない。別の虫かもしれんが、荷物の中身による。こいつは長いから、いろいろ持っているはずだが、少ない気が」


 カットは最初から事件を疑っていたようだ。


「まじめに捜査を?」


 こんな所で捜査官気取りか? というのがコナーの本音だった。


「知ってしまった以上はな」カットは平坦な調子だった。


「事件があって、犯人を知らないなんて、息吸って吐かないようなもんだろ」


 ゴーンには娯楽なのだろう。その彼が急に難しい顔した。「なんの音だ?」そして、ある方向を長く警戒した。


「危険か?」カットが声を抑えて言った。


「ぐお!」ゴーンが顔をしかめ、壁から手を離した。


「どうした!?」カットがややあわてた。


「音がでかかっただけだ。一度きりだ。かなり遠いが。何も聞こえなかったか?」

「こっちは何も」

「そうか。衝撃音が連続して、強烈に響く音がした。頭がねじれるかと思った」

「そんなに?」

「コウモリがやりやがるのに似てる」


 ゴーンは調子をもどそうと頭を振った。


「注意! 何かいるぞ」


 カットが警告し、周囲を見回した。本人も脅威の正体をつかめていない。


「そこだ!」


 ゴーンが示したのは上。天井にある小さな割れ目で何かが動いていた。カットはすぐに見上げて、そこへ腕を向けた。


 ビュバン、水気のあるボールが破裂したよう音。上ではない。通ってきた後方だ。シュッと、コナーの耳元を何かが抜けた。それが壁に当たって落ちる。有機的で鋭利な飛来物だ。


「地雷だ!」


 槍の囚人が叫ぶ。


「追加の音はない!」ゴーンが声を発した。


「排除!」


 カットが腕を下ろした。天井の裂け目から、巨大なワームがダランと垂れた。青い目のような器官が円状に配され、口には多くの触手が茂っている。


「どこをやった!?」


 カットがエイアンに駆けよる。


「背中に……」


 エイアンはうずくまり、そのまま突っ伏してしまった。地面には破裂した何かが散乱していた。ねじれた金属片のようにも見えるが、やはり生体組織のなまなましさがあった。


「傷は深くないぞ、おい!」


 カットがエイアンに刺さっていた何かの断片を抜いて捨てた。


「背中が……爆発しそうだ」


 エイアンは立ち上がれない。


「毒かもしれん……心拍は感じるか?」

「頭に響く。生きている」


 エイアンの目はうつろになってきた。ゴーンは周囲を警戒している。囚人二人は、爆発物を警戒して小さくなっている。コナーも盾を構えた。


「いかんな」


 カットはためらいなくポーションを使った。しかし、エイアンは特に変化がなく、体が痙攣しだした。


「こいつが効かんならどうにもならんぞ」


 ここまで時間をかけて来た。僧侶まで長い。

 エイアンは痙攣しながら、自分の筋肉を制御できない感じで体をまっすぐ伸ばした。手の指先まで力が入っている。


「もういい。あれは……」


 エイアンはうめきながら言った。


「もういい? 何がだ?」


 コナーがエイアンによった。


「もう……いい」


 エイアンはううと息を吐くと動かなくなった。伸びて浮いていた体が、地面についた。


「わからねえぞ」コナーが不機嫌にした。


「周囲は?」カットはしぶい顔だ。


「我々以外の音はない。今のは地雷ワームだな?」


 ゴーンは壁に触れている。


「特殊な奴だ。しかけていやがった。クモに集中しすぎたな。解毒できないレベルの毒地雷は記録にないぞ」

「ここで出るとは、崩れた坑道から入ったのかもしれん。変異種か毒を食って蓄えたか」


 ゴーンが言った。コナーはエイアンの死体を見ていた。


「ここはこういう所だ」


 槍の囚人がコナーに声をかけた。彼の背負ったカバンには破片が刺さっていた。


「地雷ワームは爆発する卵を産みやがるんだ。やっかいだが、こいつはおとりで隙間から来る。だから即死するほどじゃねえんだがよ。運がなかったな」


 剣の囚人が言った。


「ここではよく死ぬ。気にするな」ゴーンが言った。


「ああ、くだらない人生を送り、他人から見ればさしたることもないことで妻を殺しただろう男だ。実にどうにもならん男だったとも」


 コナーはエイアンを見つめていた。


「友人だったのか?」

「いや、あって数日だ。よく知らん」

「気にするな。死ぬのは日常だ。いや、俺たちも半分死んでる」


 剣の囚人が笑った。


「死人など気にしたことはない」


 コナーが立ち上がった。クモと地雷ワームが成果になった。ふたつの死体は廃棄スペースまで移動させた。これは虫をひきよせる餌になる。


 この翌日から、コナーは坑道を掘った。特にそうする意味はないし、比較的安全な坑道でも人目の少ない場所だ。危険は多い。それでも、掘った。


 さしあたっての目標は、土に埋まったあの木材を掘り出すことだった。

 道具は圧縮石のたがねとハンマーだった。これはただで借りられる。僧侶の一部は掘削は修行とみなしているからだ。借りて返すことで信用を得る目論見もあるが、とにかく堀りたかった。


 ガンガンとたがねを打つ。それに集中していると暗闇も怖くない。虫の這う音に敏感になった。人を脅かすようなサイズのものは見ないが、見つけた虫は灯りで焼いている。


 走って掘る生活が数日続いた。暗闇では日付などは忘れてしまった。そこに白服が来た。カットとゴーンだ。


「犯人とやらは見つかったのか?」話しながら、コナーはたがねを打った。


「人殺し程度は多すぎてな。特定はできんが、まあ」


 それらしいのを始末したということだろう。


「この前ぐらいでかい虫は見てないか?」ゴーンが言った。


「大したのはいない」

「お前はこのタイプじゃないだろう。どういうつもりだ?」カットがたずねた。


「変革だ。変革している」コナーはいっそう強くたがねを打つ。


「何を?」

「さあな。これが変革だよ。変革そのものだ」

「わけのわからんことを」

「あんたも変革してやる」

「いや、不要だ。これでも現状にそこそこ納得中だ」


「変革はどこからやってくると思う? 外からだ。お!」


 岩盤に大きなひびが入った。岩の塊がぐらついている。まとめてとれそうだ。コナーは岩塊を必死にひっぱり坑道に落とした。やわらかい土が間に詰まっていたらしい。それをこそぎ取る。


 それでも木材はとれなかった。かなり大きな木で、深くまで入っている。ひとつきでは掘れなさそうだ。彼がそう思い、小石を穴からのけると、大量のハエが湧き出した。黒い塊だ。


「うお!」


 コナーはとっさに身をひいた。カットとゴーンも戦闘態勢をとっている。とてつもない量のハエはすぐにどこかへ飛び去った。どうすれば、あれほどのハエが穴に籠るのかわからない。恐る恐るハエが出た穴を照らすと、奥に丸い物体がある。


 コナーは穴に手を入れた。かなり奥行きがある。彼は肩に痛みを感じながら、手を伸ばし物体に触れた。石の触感だ。それに安心し、指先を何度もひっかけ、どうにかつかんで出した。


「なんだこの玉は?」


 玉にきわめて複雑な文様が浮き彫りになっていた。


「それ、力を帯びているぞ」


 カットが忠告した。


「まあいい、価値があるなら。体制に与するのは実に癪だが、俺が抱えていても意味がない」


 コナーはまじまじと玉を見る。


「そいつは知らないが、ここで出るものはたいていゴミか危険物だぞ」


 カットが玉を見ようと近づいた。


「渡さんぞ!」


 コナーは自分で思ってもみない大声が出た。坑道に音が反響している。


「とりゃしねえよ」カットが体をひいた。


「連絡係に売却だろ。魔道具ならいくらかになる。保管室送りだと思――」


 ゴーンが急に上を気にし、次にぐいっと首を回して方向を探した。カットが言う。


「敵か?」

「……爆発音だ」

「暴動か!?」

「地表だが……遠い。破壊された物が地面に落ちる音……する」

「上か。なら関係ないな。何があってもここには関係ない」


ルドトク帝国北部 ヌナームアバ軍研究所


「調整もしておいたが、接待攻勢で太ってないだろうな?」


 ルセール少佐は、大きな眼鏡をかけた作業着の中年の男だ。実験室では、彼の部下たちが機械を操作していた。


「そうか。そういった攻撃の可能性もあったな、だとしても効かん」


 ジン大佐の目線は、ルセールの横だった。

 カスカカウベは全身が組みあがって、上から吊られる形で立っている。頭部は台の上に置かれ、胴体と線が繋がっていた。

 修理は終わり、起動できる状態だ。


「大佐があれを着こんで壁を破って出ていく前に説明したほうがいいと思われますが」


 ジンの副官が言った。


「そうだね。知ってのとおり、カスカカウベは二つのシステムを積んでいる」


「しかし片方は出てこないと聞いたはずだ。病院で看護婦の名前をすべて覚えるまで思い出さなかった」


 ジンが言った。


「五日間でよくもやりましたね」


 副官が言った。


「暇だったからな。調査部が一度来たが、嫌味を言って帰った」


 調査部に何かを要求して叶ったためしがない。だから応対も適当だ。


「いつものやり取りですね」

「お前達も来ないし、情報部も来なかったな。モヌジャコフ辺りが来るかと思ったが、そっちに行ったんだろう?」

「ええ」


「壊してくれたおかげで、修理名目で前より進んだ内部調査が認められた」


 ルセールが言った。


「感謝してくれ。壊してやった」

「最高っに感謝している。彼女は違うようだけど、はは」


 ルセールが副官を見た。


「とにかく大佐が一日寝ていてくれたおかげで、部隊で口裏を合わせて、無難で現実的な報告書をまとめられました」


 副官が言った。


「それもすばらしい! 正確に報告していれば、僕の所に来なかったろうし、永久に倉庫行きになった可能性もある」

「あなたのためじゃありません」

「もちろんだ! 技術発展のためだろう」

「違います」


「まあまあ、説明させてくれたまえ」


 ルセールが偉そうにした。


「ああ」


 ジンは気楽に言った。


「まず基本、カスカカウベの中枢機能は背部中央にある。二つのシステムの内、最初にあった物に別の物が被さっている形だ。ここまではわかっていた。だから内側を気にする必要はないはずだった。内側を結晶と称する、外側は外装だ」

「あれをやったのはどちらだ?」


「わからない。現場を見ていないし、観測もされていないから」

「ログは?」

「外装のOSで制御されている以上、結晶が型を突き破ったりはしてない。それは確かで、搭乗者の制御を離れたりはしていないということだ。悪霊が乗り移ったとかではないね」


「つまりはあれにも結晶は関係ない?」

「関係した証拠はない」

「結局わかってないんじゃないか? 内側に隔離されているんだろ」


「焦らないでもらおう。被せたのは中身が必要だったからだ。こいつは神代の品。ならば被せたのは神様で、その子孫たる我々の技術の源流だ。だから使えてる。

 そして神様は加工しなければ結晶を使えなかった。つまり中身は神様にとっても手足のようには使えぬ物だ。それをどうにか活用しようとした。くれぐれもこの辺りは教会には言ってくれるなよ、面倒なことになる。

「理解している」


「星の子、というのは多分、結晶側の概念を直訳している。こいつは開発者としての勘だ」


「当たるのか? その勘」


「考えたのさ、自分がこんな物を設計するのはどんな場合かって。普通は他のシステムなんて使いたくない」

「俺は他人の機装でもそこそこやるが」

「大佐を基準にしないでください」


 副官が言った。


「とにかく不合理な設計だって言いたいのはわかる」

「機能は役に立ったんだってね?」


 ルセールが得意げに言った。


「あれがなければ死んでる」

「そう、必要だから組み込んだ」


「だが毛色が違う。魔法的な力だ。純粋機械に近い機装に召喚など、普通は魔法装甲で防御面の強化ぐらい。さもなければ、電子機器に持続的干渉して摩耗する」


「それも想像するしかないけど、結晶の力を使うのに正確な演算と機械的装備が必要だったとすればどうかね? 機装に追加装備を与える形なら多くの状況に対応できる。銃なら撃ちあいしかできないし、システムを積むには小さかったのかも。戦車みたいな兵器はでかすぎる」


「機装兵は万能だからな」

「万能なのは大佐だけです」


 副官が冷静に言った。


「これ、開発ぶりを想像すると、開発者はしんどかっただろうね。自分で全部作るほうが精神的には楽なのに、動物に機械の装甲を付けて、いいとこどりの機械動物を作ろうぐらいの無茶だ」


 ルセールはご愁傷様という感じだ。


「ただし、エネルギーは外装が出力してる。結晶は何かを検出してる。分析はどちらか不明。ただし燃料の役割をしている可能性は否定しない」


 ルセールが続けた。


「そいつが燃料なら補給はいらんぞ。あんな現象を起こせるんだ。完璧な動力だろ」

「魔法触媒的な意味だよ。ただしジェンタス粒子は観測できない、むしろちょっと減少している。そこが極めて重要な特徴なんだけど」

「粒子が減ってるなら、起こせる現象が弱くなる。あれが根源なんだろう。俺の身体能力の元だってあれだって、いつかお前が言ったはず」


「そうだね。力を吸収しているわけではないのはわかっている。確実に消してる。こんな物体はほかに無い。ここで重要な仮説が反作用」

「反作用? 何に対する?」


「ジェンタス粒子に対する反作用だ。一ついえるのは、結晶が力を行使すると、ジェンタス粒子が消える。そこの空白を埋めるように周囲のジェンタス粒子が集合する。密度が高まった瞬間を狙って、機能を発動させているらしい」


「らしい。な」

「分解せずに外からの観測ではそれが限度だ。そもそも実際にそのモード発動をさせられない状態での調査だよ。ほめてほしいね」


 突如ピーと警報が鳴り、ルセールの近くの機械のランプがともった。


「お、緊急連絡だな」


 ルセールが通信機を耳に当て、しばらく聞いていた。


「アクロイドン収容所から支援要請だ」


 ルセールは目で奇妙なことになったと主張した。


「あのアクロイドンか?」

「間違いないなくそうだよ」


「でかい魔物でも出たのか? それに支援? 救援だろ」

「独立機関だと強調しているのでしょう」


 副官が言った。


「うちの実験部隊なら面倒がないと思ったんだろうねえ。困るねえ、便利屋扱いは。これは囚人を的にでも提供してくれないとさあ」

「状況説明があったのでは?」


 副官が先を急かす。


「人型少数名に正面突破されたらしい。正門がぶっとんだって。防衛部隊は手も足も出ないうえに、居場所を捕捉することすら困難だって、それでできるだけ強力な索敵と追跡の増援が要るって」


「なぜ第四軍団に要請せん?」ジンがたずねると「敵の侵入はいつですか?」副官がたずねた。


「今確認を……敵の侵入は、五十分前だね」

「バカですか?」


 副官が言った。


「よほど人を入れたくないらしいな」


「心得違いを」


 副官が悪い笑みになった。


「完全に直ったんだな?」


 ジンがルセールに確認した。


「ああ、新OSに合わせて高精度の音声入力システム追加だ。行くのかい?」

「無論だ」

「微調整は?」

「行きながらやる」

「近いといってもそこそこの距離だ。ヘリの手配に時間が要るな」

「必要ない。パレード地獄を速やかに行うために、中型の高速浮遊艇を頂いているからな。駐車場にでかいのが止まってる」

「おお! そいつは見たいね」


 ルセールの顔は初めて見るおもちゃに興奮する子供のものだ。


「第一と第二が演習地点に向かっているな」


 ジンはカスカカウベは再受領したら、そのまま部下を待たせた演習地に行く予定だった。


「はい」

「奴らを拾って北へ向かう。支援中隊も追随させろ」

「了解」

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