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夜襲

 ルキウスが転移すると、正面には焼け焦げて黒くなった木が並んでいた。いくつかの細い木は燃え尽きて倒れていて、地面はぬかるんでいた。


「あれだけ焼夷弾を撃たれればこうもなるか。消火に手を出したか?」


 ルキウスが景色を眺めたまま言うと、後ろでターラレンが答えた。


「キッチャの放水に任せております」


 黒炭の森はある所で途切れ、その先には幹の奥に青い斑点がある巨木――キッチャを中心とする植物の密生地があり、枝葉から水が垂れている。


 少し離れた場所にあるキッチャは、今も全身からスプリンクラーのように水を噴いている。キッチャはアトラスにもあり、これは邪悪の森に自生していた。それを採取し、森の町寄りに植えてある。気候の差を考慮してかなり強化した。


「放置で大丈夫そうだな。この下は水圧が強かったし」


 ルキウスは特に心配していなかった。これが機能すれば、森の半分は残る。


「おおいに地下水を吸い上げ、魔法的蓄水能力もあります。火のみならず煙に対する反応も敏。なお、調査部隊がここの写真を撮って離脱したのが夕暮れ頃」


 ターラレンは服がしっけるのを嫌ってか、ルキウスに寄らない。


「切れば水を得られるサボテンも植えている。見た目が似た爆破サボテンも」

「嫌がらせも欠かさない」


 ターラレンが感心した。


「当然。ずっと緊張していてもらうが、お前もかなりやられたな」


 ターラレンからは、やや覇気が失われている。


「どうせ燃えているならと射程限界から本気を放ちましたが、防がれました。超能力者は未熟でも力の発動が速い」


 ターラレンの内側には、冷えきらぬものがくすぶる気配が残る。


「精鋭か。無傷ではないだろう」

「部隊の中核になる佐官級を減らせなければ無意味。一般兵なら数千は蒸発しました。どなたかを付けていただければ焼き尽くしてご覧にいれますが」

「必要ない。拮抗状態を維持しろ」


 これには、ターラレンが眼筋で軽く不満を示した。


「もう少し様子を見る。兵に興奮した顔が増えた。あれは恐怖が攻撃性に転化したものだ」


 ルキウスはずっと森しか見ていない。その先には北の軍陣地がある。


「この攻めの気配もその証ですかな?」

「……北の指揮官は勘がいい。司令部から前線の感触がわかるらしい」

「ええ、入ってほしい道筋に主力が入らない」


 だからターラレンが直接押し返している。


「西の判断は鈍いのに。規模の差もあるが、こっちは直感的だ。人間とみると感覚が合わないが、動物とみると割と合う。その分、餌は食うはず……それも少し時間はいるか」



 同じ頃、暗い森で俎上に載ったタングリフは、司令部で珍しく静かだった。

 彼は、何度も地形図、報告書、メモ、写真を見比べて言った。


「貴重な焼夷弾を消費して、戦果は中途半端ときた」


 朝からの砲撃で、北の森の中央部を焼くことに成功したが、黒い木の森は半円形だ。火が広がらず、わかりやすく止められた。


 火を兵に見立て、エアボーン作戦のように敵陣中央に投入。敵をその対処に忙殺させ、薄くなったほかを強襲する作戦は悪くはなかった。戦場が狭くなり、迎撃に出てきた獣は一撃離脱ができず、一定時間の拘束に成功した。


 問題はそこに向けた精鋭が半壊したことだ。それでもはっきり獣を視界に収めたことで多くの情報を得られた。

 次に包囲できれば殺す自信がある。そもそも自然祭司ドルイドをノンド集団が拘束していれば、今日でフクロウとペガサスは殺せたはずだ。

 森へ戦車を入れる道もいくつか確保している。


 近くに控えていた幕僚が言う。


「やはり半分ほどから森の質が変わっています」

「ああ、逆に言えば半分までは行ける。その手前の森はそこそこ焼けた。そしてこの火消しの木の水は安全らしい、飲める」


 半分まで行けば、町まで十キロ。森のすべてと町の外周部が野砲の射程内。


「確保できる水量の確認をさせます。焼け跡にいたる侵攻路は複数選定済みです。本日の損害が確定しだい部隊を前線に再配置します」

「いや、夜間の植林を許すな」


 タングリフは地形図を凝視してまばたきしない。


「すぐに? 他集団との連携は?」


「不要、温存した正規師団にこの地点を確保させろ。今なら周辺視界は良好、黒一色になったのもいい。砲も前に出せ。迎撃が来るなら弾を惜しむな。陣地が確保可能なら、砲はそのまま陣地に入れろ。補助部隊の選定は任せる。機装兵も使っていい」

「了解」


 幕僚が近くの部下に指示を出すと、部下が命令書の作成にかかった。

 ここでタングリフは地形図から目をはなした。


「追加の問題は起きていないな?」

「死傷者数に目をつむるならば。特異な家畜の出現はより減少」

 

 彼は、動物に変えられた兵への対処方法を決めなかった。代わりに出した指示は「発見部隊がどう処理しても責任は問わない」だ。

 リスクを嫌う部隊は動物を撃ち、救助を試みる部隊は保護し、一部の部隊は元が何かという論議を避け食料にした。


 さらに、前に進みさえすれば、進路は自由に選択できるようにした。

 この放任はあるべき部隊間の連携を破綻させ、指揮を行う本部をかなり混乱させたが、現場のストレスを軽減していた。


 タングリフはたまに直接命令を出す。防衛の間隙を感じれば機装兵を突入させ、気まぐれに火を点けさせ、妙に進みすぎた部隊は交戦する前に退かせる。

 この判断が五割当たっている。自然祭司ドルイドが北に回るまでは八割だった。


 結果、ラクトアコン集団の部隊は、粘体ウーズを避けて深くに入り獣と交戦を続けていた。開戦からの損害は四万に上り、今は二十二万。第一陣は損耗のために再編中で、第二陣が前線にいる。


「さらなる編成は?」


 幕僚が言った。タングリフは突破路を発見すれば一気に動く。


「いや、進むことはできると思うが、押し返されることは覚悟せねばなるまい。焼けない森、伏兵が必ずいる。あちらも砲撃する。そもそも獣を減らせてねえ、防衛範囲が減れば敵の密度が増える。畑部分を差し引くと密林部分は五ラッツほどだが、これは分厚いぞ。これがメインの壁だろうよ」


 タングリフの予想に反し、大きな動きがなく三月二十五日を迎えた。

 粘体ウーズの襲撃はあったが、焼けた森ではさほど脅威にならず、前線陣地を構築できた。そこまでの森はほぼ残ったが、幅二百メートルの後方連絡線を確保できた。ここまでやれば拠点は維持できる。


 軍全体では、地道な戦線の前進と引き換えに兵を減らした。防衛側は、新たな防御策と地形の変化に応じた防衛を展開した。


 総司令官であるベリサリは、部下には平静をよそおいつつ、ひたひたと忍び寄る精神的損害の圧力に苦しめられていた。ルキウスも余裕はなかったが、精神状態は異なる。


 ベリサリがひたすら耐えていたのに対し、ルキウスは自分の首に切れ目が入ってきたのを感じると、自然と枯れた笑みになった。

 森であらゆる情報が潰されて混ざり、それが精神を歪めながら引きこみ加速する渦となり、彼の制御できる段階を越えて暴れている。 

 彼はそれから吐き気を催す滅びを感じて悪酔い寸前の高揚を帯び、編み上がりつつある結末を、胃からグエッと吐き出しそうだった。


 ベリサリは、どことなくそのような敵の気配を感じつつ、防衛側の不安材料を探していた。


 森の奥は、木の密度が増したうえに倒木を利用して地形変化があり、部隊が物理的に進路を塞がれることが増えた。これを、敵が町に寄られ攻めから防衛に軸足を移したと考えれば、少しは気分がマシになった。

 そこに幕僚が言った。


「大隊規模の同士討ちが発生しました。六件です」


 ベリサリは、この報に手で軽く顔を覆った。


 視覚的な幻術による同士討ちはやむをえない。それも混乱をもたらすが、直接攻撃魔法を受けたのと変わらない。同士討ちの自然発生は、精神が限界に達した部隊の出現を意味している。


 一部隊でも錯乱した例が出れば、全部隊が味方に撃たれる可能性があると判断して行動する。やられる前にやれだ。


 報告書の無機質な記述が、現場から最も遠いベリサリに緊張を伝える。


 慣れない環境、悪視界、戦力も容姿も行動も異様な敵、追加され続ける多用な罠、陣地への夜襲、背中を預けた相棒が敵である可能性、信用できない友軍、絶対なる神性の予告。

 連日続くこれらの掃射により、熟練兵までが新兵と化している。


 こうなると、魔術師がお遊びでやるような初歩的幻術も効く。

 仲間の声がぶれて聞こえた兵士が、部隊全体を敵と疑い恐慌に陥り逃亡し、その侵攻路にいた部隊に射殺され、それを目撃した所属元の部隊と交戦した。


 音源定位能力を狂わされた兵は、会話が前後左右遠近から聞こえる感覚に発狂し、自分の耳を切り落とそうとした。


 頭がかゆくなり、ヘルメットの下に何かいる気がしてヘルメットを脱ぎ、それでも解消せず頭を木にぶつけて昏倒したり、服の中に熱や触感が発生する幻術による不眠症は、もはや珍しくない。

 単純な肌のかぶれも呪いの前兆とみなされ、かぶれた兵が避けられている。


 所属部隊の仲間、連携する友軍、現場と本部、すべてで相互不信が深まっている。


「さらに砲撃の誤爆が」幕僚が言った。「すぐに停止しましたが、二個中隊が半壊。これは方向感覚に介入されていました。心覚兵が不認知では対処困難です」


「砲撃まで信用できなくなったか。地形魔法だな」

「現地まで神官をやれば解呪できるかもしれませんが」

「完全に切り開いて安全にせねば無理だな」


「補充だけではなく、第二陣に総入れ替えをしては? もはや最前線は這うようで、その後方で渋滞する部隊もそれを問題視せず待機。部隊本部がせかしても進まない。伐採部隊も再び木に襲撃を受けています」


 幕僚も深刻性は理解している。敵の余力を奪うべく圧力をかけようとしているが、それを実行する前線部隊が麻痺しつつある。


 しかし入れ替えは、全軍に恐怖が行き渡る可能性もある。しかも何が潜入していることか。この敵は、確実にそれをやりうる。


 とはいえ、大きな手を打つべき段階だ。当初の平凡な包囲戦略は完全に消えた。包囲は維持するべきだが、犠牲を覚悟で早期に森を突破し都市戦に移行するか、もっと距離をとって安全を確保し超長期戦を覚悟する必要がある。

 ベリサリには確信がある。現状が続けば、兵士も自分も頭がおかしくなる。


「ラクトアコンは損害を出しつつも順調だな?」


 ベリサリが確認した。


「町まで一万二千に拠点を形成しています。前に多層哨戒陣地も形成」

「向こうはとにかく進めとか指示していないからな」

「現状ではそれが功を奏しております」

「秘密空港は?」

「滑走路は使えますが、完成度で七割ほどです。爆撃機の運用にはやや難が」

「空軍に連絡を、寄せ集め作戦を実行する」


ゾト・イーテ歴 三〇二〇年 三月 二十八日 九時


 心が晴れ晴れとする快晴のもとで、第三対魔突撃隊は輸送トラックの荷台で移動していた。張り巡らされた塹壕の後方にある移動路を、車列が走る。


「なんで再編するのにわざわざ入れ替えなんです?」


 タクリエラは遠くを見ていた。彼らとすれ違いになる長大な車列が見える。北東から南下してくる車列だ。別の西への道には歩兵の隊列が長く伸びている。


「一か月お休みだ、文句言うなよ。今回のはこたえるぜ」


 カースはだらしなく荷台のへりにもたれていた。


「北へ向かってるのは少数だが俺らみたいなのだ。ほれ見てみろよ」


 マップが示した先のトラックの荷台には、いつか森で見たストーブパイプハットが確認できた。ほかにも服が不揃いな者が大勢運ばれている。


「あ、彼らも」


 カリエールが、第一特技大隊を見ようと姿勢を高くした。


「偽装だろう。これで消耗が激しいラクトアコンはより少なくなる」


 クライヴが言った。


「となると、北から突破するのか?」


 カースは完全に気を抜いている。


「一般部隊を重視した可能性もあるがな。補給しやすく後方の安全が保障された西に大戦力を置くのは妥当だ。まあ、先の話だ」

「休暇明けぐらいに町に突入ってことでしょうね」


 どこか安心した様子のマップが言った。


 クライヴたちは何事もなく移動した。軍全体で大規模な再編があり、そのあいだは侵攻が弱まり、前線陣地は動く植物や土の精霊などの襲撃を受けた。


 精兵を減らした西のノンド集団は、前線部隊を大幅に補強した。森を知らない新手の無知なる勇気に期待した部分もあった。


 彼らは順調に前進したが、木の老婆に大軍は遭遇し、これに不慣れな部隊は乱戦に陥り潰走した。

 それでも、帝国軍は確実に森を伐採した。


 百五十二万だった奪還軍総軍のうち、包囲軍百十六万は九十四万となった。

 主力集団である西のノンドが四十万を維持し、北のラクトアコンが十一万を減らし十五万、東のオウェーが十九万、自爆した南のバロインファは二十万。


 最大である西の森は、中央を中心に七から十三キロ減った。町側約十キロは農地で、残る密林は約十キロ。歩きやすい場所を選べば強引に突破できなくもない。この突破圧力で、防衛側は予備戦力を待機させる必要がある。


 軍は、犠牲を払い森を減らす段階から、町へ野砲による圧力を加える段階に移行する手前である。あとは微調整、急ぐ必要はない。切り開いた新陣地を整えつつ、損耗を抑えつつ堅実に前進する。


 それを支援し、同時に陣地を防衛するための小型・大型の野砲が、後方から前線に移動中だ。この三日間、陣地では編成の緩慢な時間が流れていた。


同日 二十三時


 ビービービービービー。


「なんだ!」


 アマンは飛び起きた。警報だ。彼と添い寝する操作器。それをワンタッチで止め、遠く聞こえる砲音を認識した。初日と同じほど砲撃されている。


 北側に配置された迎撃レーザー三門の電池バッテリーが急速に減少している。特に北東の一門は半分を切った。三分の二はあったはずだ。


 彼が屋上に出ると、エルディンが北へ長弓ロングボウを射ったところだった。空は、激しく明滅する無数のレーザーで照らされていた。


「大規模侵攻ですか!?」


 アマンは叫んだが、彼は北を見たままだ。


「いかんな」


 エルディンはすぐに次の矢をつがえ、射った。

 その目標である北東の空から、曳光弾の赤く輝く射線が地上へ生えた。一つ、二つ……八つまで増えた。

 大型対地攻撃機の機関砲だ。発砲光しか見えないが、八機が百メートル以下の超低空で北から接近し、最北東の迎撃レーザーに機関砲を浴びせている。


 迎撃レーザーは、機関砲の連射に対応できるほどの精密性はない。

 周囲の護衛メカがエネルギーシールドを展開しているが、長くはもたない。


 ボンボンボン、はるか頭上で黒煙が連続発生していた。榴弾が高くで炸裂している。あれでは効果的に目標を破壊できない。意図的に大量の落下物を作り、電池バッテリーを消耗させる意図。


 今のレーザー出力は標準。調整して迎撃範囲を狭めるべきか。しかし大型爆弾が低空で炸裂すれば、衝撃波は地表をなめる。迎撃レーザーがまとめて破壊され、建築物もやられる。


 夜空の振動に鈍い音が混じっているが、まだ空には爆撃機が侵入していない。


「爆撃部隊はあれだけですか? 残りは?」


 アマンが早口で言った。少数ならエルディンがすぐに排除する。


「矢がそらされた。あの機、中に心覚兵がいやがる」


 エルディンの言葉に、アマンははっとして北東の空に見入った。

 先頭の機が町に接近し、迎撃レーザーの鋭利な光が突き刺さった。機の近くで光が散っている。球形の障壁だ。撃ち続けるが届いていない。


 中に多数の心覚兵を乗せ、追加装甲で物理的に強化している。この攻撃用に改修された機だ。魔法で消音され、接近するまで不可視化していた。


 エルディンが別の矢を出し、すぐ射る。風を切った矢は、対地攻撃機のコックピットに刺さった。アマンにも矢の羽根が見える。貫通していない。コックピットも保護されている。


「魔法破壊の矢には、俺の魔法も乗らん」


 エルディンの矢の威力は魔法によるものだ。戦技は純粋な弓使いに劣る。魔法で、純物理的な石、風を作られればそれを突破するのは難しい。


「どうにもならないってことですか!?」


 アマンが遅れて状況を理解した。


「プロペラか武装に当てるか、手前で……あそこは森の上だが」


 エルディンが少し思案して弓を引く。矢が目標の直前で爆発し、それを機体が貫通した。機体が多少揺れたが耐えている。


「砲なら減らせるが……命令が来ないな」


 先頭の対地攻撃機が発火して煙を上げた。複数のレーザーの集中砲火で防御が抜かれたようだ。後続機が高度を上げる。もう市街地の上に達している。先頭は燃えながらゆっくり墜落した。途中でかなりの数が飛び降りたが、これは焼かれた。


 アマンは燃えて落下する小さな人影に怯えたが、レーザー出力を上げるべきだと判断した。最北の迎撃レーザーの電池バッテリーは消耗が激しいが、一列後ろは余裕がある。さらに西から接近する編隊をレーダーが捉えた。二百以上だ。一度北東に向かい北から侵入する軌道。


 アマンが自己の判断を信じ、操作器を触ろうとした瞬間、ビィーー! モニターにレーザー砲を示す記号が赤く表示されている。


「ああ! ジェイミーが! 一番働き者だった彼が死んでしまった!」


 対地攻撃機が高度を上げ接近したことで、上方から弾を浴びたのだ。対地攻撃機は旋回し、最北の列に沿って飛ぶ。

 屋上に転移門テレポートゲートが開き、ルキウスとヴァルファーが出てきた。

 ルキウスはのんきに空をながめた。


「ここは見やすい……やられたか。思ったより前のめり」

「防衛に穴が空きました。致命傷ではないが、あれから崩されます」


 ヴァルファーは不機嫌だった。さらに警告音が連続した。

 アマンはひざを突き、ふたりに気付かず叫んだ。


「ジェイミーとアイザックとクラリッサが!」


「状況は?」


 エルディンがルキウスに尋ねた。


「森からは来てない。砲撃と爆撃だけだ」


 対地攻撃機の二機目がレーザーで落ちた。編隊が旋回して町から離脱していく。その途中でさらに二機が煙を噴いた。森に落ちていく。対地攻撃が離れ、レーザーの的は落ちてくる破片に切り替わる。

 入れ替わりで大編隊が北から来る。一日目を生き残った戦闘機が多く、速い。


「あれは落とすということで?」


 エルディンが尋ねた。


「まだ不要」


 ルキウスが言うと、アマンがやっと彼に気付いた。


「三人が死んだんですよ!」


 彼の目は血走っていた。


「落ち着けって。南のやつを一門回すべきかな?」

「機械は個性があるんだ! 人間と違ってね。そもそも一人につき直径三キロが守備範囲なのに、北西の空ががら空きだ、どうするんです!?」

「すべての負荷が高まり連鎖的に防空が崩壊します。残った北のレーザーは中央に避難させて、北の防衛線を中央に下げるべきです」


 ヴァルファーが言った。


 この間にも編隊が迫る。加速しながらミサイルを放ち離脱するはずだ。

 先頭の戦闘機から、パイロットが連続して緊急脱出ベイルアウトした。さらにその機体に続く三機が連続して空中で爆散した。それと同時にその三機の搭載したミサイルが発射された。それはすぐにユーターンして編隊の真ん中で爆発した。

 この衝撃で複数の機が編隊から離脱し、一部は落ちた。


「どうなってるんです?」


 アマンが怪訝な顔をした。


「監視も兼ねて、グレムリンを最寄りの空軍基地にしこんでおいた。対地攻撃機は別の所から上がったようだが」


 ルキウスが答える。

 編隊はそのまま分解し、町から離れていった。


「グリッチはいいタイミングで帰還した。アブラヘルに回収させろ」


「最初のあれ、落とせたのでは?」


 エルディンが切り出した。


「敵は優秀だ、ヴァルファーと同じぐらいな。きっと針の穴に糸通すのが好きだ」

「私は好きじゃありませんよ」


 ヴァルファーが抗議した。


「でも悪くないだろ? 侵攻準備に大軍を前線に並べ、それに備えた迎撃準備に集中したところで奇襲。これまで減らさないように努力していた心覚兵を死地にまとめて投入、使い捨て。効果的なリスクの取り方だ」

「予測していたので?」


 ヴァルファーがルキウスの顔色を窺がった。


「いや、まったく」

「だめじゃないですか……」


 アマンは脱力して操作器を確認している。


「攻撃をさせたのか、されたのか。後世にわかることだよなあ」


「まず今です」ヴァルファーが言った。「砲撃がやまない。省エネの迎撃に移行させます」


「ああ、うちの連中の魔力は?」


 ルキウスがヴァルファーに聞いた。


「夜までの準備でやや消耗してます」

「明日はできるだけ休ませる。日が暮れたらしかけるぞ」

「休みは……この機に来ます。敵は一点突破して市に迫り、防衛に戦力さかせ、薄くなった森を一気に抜ける。抜けてしまって森の恐怖を終わらせたい。待つ理由がない」

「私がやるから」


 ルキウスは気楽にかまえていた。

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