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ドルイド

「首尾は?」


 ベリサリは、激しく書きかわる魔法の地図を複数並べていた。もう日は落ちている。


「オウェーおよびバロインファ集団の攻勢は、精密さと火力を併せ持つ防衛により頓挫。砲弾の大半が撃ち落とされています。さらに特殊な魔道砲弾使用を初確認」


 幕僚が言った。

 日が変わるまでの推計で、両集団の損害は合わせて六千。献身的攻撃を仕掛けたベリサリのノンド集団は一万四千、タングリフのラクトアコン集団が八千を失った。

 奪還軍全体の三%以下だとしても、一日の死傷者としては最大規模。なお、大半が死亡。


「東に配備された発掘兵器群は簡明に強力、森無しで守る自信があるわけだ。この車両部隊が出撃する可能性があるな」


ベリサリは、東の部隊に『機動』の表記を加えた。


「しかし、これは……」

「目的は果たした」


 ベリサリの表情がわずかに緩み、幕僚たちはそろって安堵した。


「やっと境界の塗り替えに成功か!」


 地図の森は、中央の道に沿ってくさびを打ったように大きく削られ、それ以外にも八か所、深い切れ込みが入った。西ほどではないが、北の森も減った。


 部隊を深くに侵入させ、敵の前線が下がった隙を突き、大部隊で木を伐採し前線を押し上げた。さらに先の森林内に複数の臨時陣地を構築。切り株が残っているが視界は確保できた。


 五十万を包囲に残しても六十万は攻勢に回せるところを、損耗三万以下で五キロの前進。同じ事を五回やれば都市は完全に射程内。そうなれば砲撃で終わる。


「前線が交戦時には、伐採部隊はほぼ妨害を受けておりません。隊列が乱れ、面になっていなかった。隙間から浸透できたはず」


 これはコモンテレイの防衛力の限界を露呈させた。一部地域の迎撃が強烈だっただけに、それがなかった大半が目立つ。


「これは……強行のほうが損害は少ないか?」


 相手が暗く怪しい森の奥へ誘っていることは、ベリサリも理解している。

 今の敵は、少しずつ毒を回らせ、全体を腐らせようとする守り。薬は勝報だけだ。


 今日は目に見えてわかるほど森を減らした。成果としてアピールできる。しかし、木を伐っただけでもある。圧勝を――敵部隊の撃滅を、拠点の攻略を得る機会がない。この先も損害は出る。敵に当たった部隊は無残だ。負け続けるということ。

 さらに陣営が森に近づくと、兵にストレスがかかる。


「日程を短縮すれば、市街決戦に投下できる物資も増えます」

「しかし今日の魔女の戦闘能力は異様です。あれほどの戦力とは……」


「事前に蓄積した力を消費しているか、神器アーティファクトとでも呼ぶべきものを使用したと推定される。不正確だが、計測されたジェントリア指数は三万八千。過去最高記録でも二万四千、現役の最上が一万九千。こんなもの、人種生物ではない!」


 この指数は、軍団規模で行う術式が、人の姿で歩いているようなものだ。師団級の戦力を丸ごと当てるべき戦力。


「千年に一度咲く花、神の世界の力を引き込む宝玉、全世界から一日太陽を奪い集積させた光の結晶、日常の採石作業により出現する精巧な神像、予言されし土地より掘り出された宝物、数多あまたの生贄によって出現する穢らわしい呪物。そんな、神の祝福、奇跡、狂気の労力による産物を相手にしていると?」


 教会が喜んで講釈を垂れに来そうなものばかり。現実主義者である高級将校にとって空想の産物。笑い飛ばしたいところだが、現実として森のどこかに潜んでいる。


「使い方を誤れば、国を滅ぼし、永久の滅びを約束するともされる神器アーティファクト


 この場に神官がいれば、それが存在する可能性を認識しただけであらゆる手を尽くす。


「神官でなくとも悪魔と呼びたくもなる」

「なぜこれまでこの力を行使しなかった? そこに欠点があるはずだ!」


 幕僚は個人の持てる異常に加熱されたが、ベリサリは現実と向きあっていた。


「この魔女は、おそらく自然祭司ドルイド。はめられたか、としても化け物だが。状況からするとそう思えるが、どうかね?」


 視界の悪い森で仕留めるのは難しい。接触回数を減らし損害を軽減するのが妥当な策だ。モコシャンはこうなると予測していた。


「戦闘分析班の見解も同じです。しかし……」


 幕僚が静まったところに、司令部の通信士からの報告が上がる。


「森林第八陣地が襲撃を受け大破。敵は自然祭司ドルイド単独」

「増派を急げ。柔らかい陣地を固める人員は惜しむな。さて意見は?」


 ベリサリが幕僚一同を見た。


「これは魔力を吐かせ続けるしか……」

「装備の属性が知れれば、破壊を狙える。放置するには危険すぎる」

「今日の戦闘ではっきりとした足跡を確保した。警戒、追跡が可能ですが、防御されています」


 匂い、破壊時のエネルギー、魔力痕、靴の形状、血、残した感情、超能力者によっては、それぞれになじむ概念で物事を捉え追跡できる。

 対策があっても、大地や宇宙の記憶に接続できる超能力者が足跡に触れると、近くにいればその方角ぐらいはわかる。それに本人がベールに守られていても、新しい足跡の位置なら探れなくもない。


「ふむ」


 ベリサリがある地図を見た。森の半分より陣地寄りの全域に、多くの赤バツがある。昼の魔女の交戦位置と、夜になって出てきた自然祭司ドルイドの交戦位置だ。


 自然祭司ドルイドは、ほとんど交戦せずに退く場合が多く、じつに神出鬼没。おそらく幻影も混じる。この敵は森でのかく乱の重要性を理解し、ダミー情報を混ぜてくる。追えば、あと一歩で手が届きそうな所で踊るだろう。その一歩は遠い。盛んに動いている時期が一番遠い。


「こいつはいつ休んでいる? 魔法使いの全力戦闘はせいぜい一時間、特別な薬があったとしても長すぎる。事前情報では夜にきっちり休んでいたはずだ」


 ベリサリの疑問は全将校の疑問である。


「あの仮面、複数いるのでは?」

「森林内を無視して中央道付近の陣地を狙っているようだ」

「敵にとっても監視しやすい場所ではある」


 ベリサリは過去の秘密結社を思った。特別な才能と儀式と目的により結びついた魔法使い集団。これがときおり歴史の表に出るのは、神代以来の伝統だ。


「改良を加え当初の計画に戻す。バロインファ司令部壊滅の影響は限定的だ。緑化機関とやらは極端な少数精鋭。なら適度な圧迫を続け、消耗させる」


 モコシャンを欠いたのは、ベリサリにとって痛恨。しかし彼の計画はまだ生きている。包囲の外にいると推定される敵が静まっているのが不気味だが、動きがないなら対策もない。今はゆっくり慎重に急ぐべき、その加減をするのがベリサリの仕事。


「陣地の警戒も怠るな。簡単に潜入してくるぞ」


ゾト・イーテ歴 三〇二〇年 三月 十五日 三時 


 ルキウスは、森の際に近い木に登り闇と同化していた。


「防衛力の限界を理解されたなあ。ここ一か月が正念場か」


 大量の灯りの下は、工事車両や野砲の移動で非常に混雑している。作業に当たる兵は混乱の中で熱気を帯びて励んでおり、暗い森への恐怖などまったくない。

 北からの強風に森が鳴いても、仕事の手は止まらない。


「さっむ、寒い。ド確実に寒い。〔適温/スータブルテンパラチャー〕使いたくなるが、感覚が鈍るかんな……」


 ルキウスが小さくなって腰をかくと、手に何か当たった。つまんで引っぱり出すと、潰れて不格好になった赤黒い弾頭だった。彼はそれ指で弾いて捨てた。


「なんかつっぱると思ったら」


 回復魔法を使わず、自然回復に任せていた。全力戦闘に中途半端な魔法は要らない。

 余力ができたら土の精霊を後方に配置して深入りする部隊を妨害し、自分は索敵魔法と転移に魔力を集中し、転移と襲撃を繰り返していた。


 彼は木から降り、慎重に陣地に近づく。心覚兵は普通の軍服に偽装している。車両の警戒システムがわからないため、可能な限り離れている。そして、大地や植物を伝っての索敵魔法をじんわりと伸ばした。


「地下は掘り進んでないな。最短二十キロで、火器を使えば崩れるから当然か。掘削用の魔道具でもないと無理だ」


 ルキウスは、兵士ひとりひとりを観察した。誰とも話さず警戒している兵の顔にはよく感情が出る。彼らが森を見る目は、最大の警戒心に満ちており、最奥には彼らの想像する怪物がいる。銃を握りなおす動作は、不安の表れだ。


「感覚がいまだに合わない。こいつら、森は恐れるが死はさほど恐れていない」


 砲撃戦で死者を出した防衛部隊も同じで、訓練したて市民兵も疲弊していなかった。不発弾をつかんで捨てるぐらいは普通にやる。命知らずは、榴弾が着弾する直前に塹壕に飛びこむ遊びをやっていた。それで負傷した奴が、レミジオに蹴られて重傷だ。


 ルキウスはその場を離れ、陣地の近くの森に設置されたワイヤートラップを地道に解除して回収していく。火薬の起爆を強制的に止める魔法もあるが使っていない。


「罠の位置を変えるってのは地味に効く。自分の家を知らないあいだに誰かが自由に使ってる感覚になる」


 彼はさらに作業を続ける。森にはまったく哨戒が来ない。短時間で膨大な罠が設置され、まだ情報が共有されていないのだろう。


「多いな。地雷は無いか、こっちが地面を避けてるのは流石にばれたか。足音ないしな。ならこっちが地雷を使ってやろう」


 ルキウスは地雷を陣地の周りに埋め、さらに拾ってきた銃器を適当にばらまいた。拾えば、下にある爆薬が爆発する。


 次に、彼は森の中にできた前線陣地へ来た。低木や木の枝は除かれているが、簡単な土塁と有刺鉄線に機関銃と軽砲が配置されているだけだ。こちらは警戒レベルが高く、大勢の兵が頼りない遮蔽物に隠れ森を見張っている。


 ルキウスは、黄金林檎アトラスアップルを陣地の中心に高い山なりの軌道で投げ入れた。木から落ちたように見えなくもない。実際、森には力を得られる果実が多くある。

 差し入れに気付いた五名が、その近く集まり話し合う。果実は地面に転がったまま。


「食べないなあ。餌としては最上だぞ」


 誰も食べない。食べ物と認識されていない。固いことが原因かもしれない。あるいは大きさか。小さなベリー類はたまにつまむ兵がいる。


 あれも、慣れれば最終的に誰かの口に入るかもしれないが、彼は待たない。

 自らも先ほどの果実と同様の軌道で飛び、彼らの真ん中に降り立った。突然の出現者に時間が止まる。その一瞬でひとりの口に半分に切ったイチゴを放り込んだ。


「よし食ったな。神意を伝える」


 ルキウスは何も持っていない両手をブラブラとやる。兵があわてて距離を取り、彼を囲んで銃を構えた。イチゴを食わされた兵だけはむせている。 

 ルキウスはそれを気にせず、重々しく語りだした。


「この地は神の森。不可侵を侵す者は神敵である。神敵でありながら、神の恵みにあずかろうとする者には、恐ろしいー末路を迎える運命にある。ともに飯を喰らう者もまた同罪である。神罰は一年以内に下るであろう」


 ルキウスが言い終わった瞬間、イチゴが口に入った兵が絶叫した。


「ウガア!」


 ほかの兵が呆気にとられる。ルキウスはさっと囲みの外へ抜けた。

 兵が追って発砲したが、彼はそれを簡単にかわし、木の上を走り逃げ去った。


「こいつらは微妙に弾が速いが、まだまだ弱すぎて勝負にならない。一方的に殺しまくって俺の心が傷ついたらどうする? だからまずは与えることにした」


 イチゴを食わされた兵は、人型の木と化していた。恐怖に満ちた形相と、助けを求める手つきで固まっている。兵はそれから距離をとり、大いにとり乱している。


「全力の〔緑の神罰/ヴァーダント・ディバインパニッシュメント〕強制変化版だ。解除できんだろ」


 ルキウスは緑化機関本部に戻る。本部ではヴァルファーがモニターを見ていた。彼は、職務に没頭したがる課長の摩耗した雰囲気で、ルキウスを見た。


「お疲れですか?」


(疲れてそうな人間に言われると怖いわ)


「いや、最高に元気だ。よく働くな」

「戦力外になったおかげで、眠って魔力回復を優先する必要もない」

「夜の退屈をおもいしったか?」


「暇などは。防備が整う前に、すべての新陣地を占術で探りましたが、あの爆弾のような極端な脅威は発見できませんでした」

「それはいい」


「噛み合いは成立し、押し引きができる。しかし、敵はあきらかに攻勢。よほど愚か者でなければこちらの欠点を知った」

「そりゃ結構!」


 ルキウスは楽しげだ。


「理解されていますね?」


 ヴァルファーは生徒に落第を告げる教師の気配だ。


「誰かを少し森から出して、陣地へでかいのぶっぱなせ、と言いたいんだろ」

「適切な威力であれば多分退却はない。それに塹壕が張り巡らされ、避難できる場所は多い。少し引き気味になってもらわないと、こちらがもたない」


 そもそも、ターラレンやアブラヘルの単独行動は無理があるのだ。迎撃準備による地形の利があっても、強力な火力にさらされると守勢に追いこまれる。


「だめだ。威力が強い。現状でも召喚体でたまに牽制している」

「押し引きの調節ができることに噛み合った意味があるのでは?」


 ヴァルファーは少しばかり不審がった。これはルキウス自身が言っていた第一目的だ。断るなら、敵の発掘品が陣地の前方に配備されたとき、それをまとめて破壊するために大魔法をとっておく、という答えが無難だった。


「負けはない。最終兵器マリナリがいるし」


 ルキウスがモニターを覗いた。


「彼女ひとりでは無理です。〔御供の儀/リチュアル・オブ・オファリング〕、〔緑の瓶/ヴァーダント・ジャー〕、〈緑の契約〉、〈異端狩り〉、〈貪欲な審問〉、〈心臓抜き〉のコンボは三秒以内に次の異端を倒さないと能力上昇が消えるし、消費魔力で維持には限度がある。そもそも神官はほぼ異端者ですが、兵士は仕事をしているだけという認識が多かったではないですか」


「だから木や石に刻んでおいた。神の森を侵す者には神罰が下るとな。明日は、ヘルメットやテントにも書いてくる。無線でも言う。神の敵なので罰されますよって。正当性は大事だ。それがあれば何やっても許される。神よりすごい! 正当性」


「そうだとも、違うと言えませんが」

「そうだと言って、違うとも言えばいい」


 ルキウスが堂々と言った。


「仮に全軍を異端者にできても、銃を使う帝国軍は散っている」


 ヴァルファーは渋い顔。


「そう、だからマリナリは市内待機だ。狭路に密集した部隊にぶつけるため」

「それを鑑みても、十万も殺せない」


 ヴァルファーが少し早口になり、ルキウスはため息をついた。


「だから心配するな。勝利は確実だって、最高につまらん」

「本当でしょうね? ソワラも大きな一撃で挽回すればいいと思っている。しかし数十万が市内に突入すれば、どう考えても終わりです」


「普通に戦って、いつもどおりに勝つ。誰でも結果が理解できるよう正々堂々とな」

「防衛線で敵をすり潰すつもりでないのだけはよく理解しました」


「やれやれ、お前にだけ特別に作戦名を教えてやろう。正々堂々大トラップ作戦だ!」

「致命的に矛盾する単語が連結されている」

「帝国軍だって塹壕掘ってる。つまり、一般的防御機構で勝つってことだ」


 ルキウスは市内の状況を確認すると、また森へ戻った。


 朝になると軍は深く侵攻してきた。昨日ほどではなかったが、調査より前進を優先した動きだ。西が陣地固めを重視している分、北の侵攻が苛烈になったが、奥に入ると粘体ウーズが増えるため、その足を鈍くなった。


 その一日が終わり、ベリサリは大きな動きがなかったことを成果と認識していた。


「やはり追跡は無理か?」

「陣地の至近で活動していますが、まったく認識できず。最精鋭ならば……」


 幕僚が答えた。


「必要ない。一般部隊と合わせても使えん。自分にとどく主力をまとめて葬ることこそ今の敵の目的である。しかし、陣地の前方より後方に罠を仕掛けるとは」


 ベリサリが言うと、罠を扱える部隊の者が言った。


「爆薬のみ無効化、ワイヤー爆弾の位置を付け替え。爆弾のみ持ち去り、別の場所でつると組み合わせて爆弾として使用、火薬を抜いた罠を見えるように設置、森でおなじみの木製杭、気温で伸縮する植物の性質を利用した物もありました」


 これらの多くは、軍の進行路ではなく後方連絡線を狙っていた。これが脅かされると後退するしかなく、侵攻部隊の相互連携にも支障がある。


 侵攻部隊は道を変えられるが、補給部隊は特定の経路を通過するしかなく、その周囲に護衛部隊も展開する。彼らの練度は低い。警戒していても罠を受ける。

 それに侵攻部隊は全滅すれば帰還しない目撃者が多い場所に仕掛けている。積極的に罠の存在を主張し始めた。侵攻部隊も警戒して足が鈍る。


 さらに補給路や陣地の場所も誘導された節がある。棘のある木が含まれた密生領域を避けると、大群の移動経路は限られる。この森が人口のものだと忘れてはならない。


「敵についた部隊に罠の専門家はいません」


 幕僚が言った。


「それはさぞ訓練したのだろう。我が軍も見習いたいものだ。これを設置者を捕捉するチャンスととらえ、積極的に狩れ」


 ベリサリは口にしないが、これをやったのは一人だ。おそらく自然祭司ドルイド。人手があるなら、後方で補給部隊を襲えばいい。それを避け、後方を罠まみれ。前代未聞の状況だ。


「数の少なさを隠す気もなくなったか」


 ベリサリが呟く。


 手段には幅があるが、罠の趣味が統一されている。考えの素朴さは、部族の罠猟師が工夫して作る罠に近い。しかし、様々な機械警報機を逃れ、一部は解除している。


 総合的に能力を高めた人間が、物理戦闘、魔法戦闘、隠密、工作で極限域にいる。

 神話にもこんな存在はいない。圧倒的な戦闘力を破壊ではなく、嫌がらせに傾注させている。


 そもそも緑化機関なるものの思考が読めない。事前の想定では、ここまでの化け物とは思っていなかった。行軍中に攻撃がなかったからだ。

 あれほどの戦力ならなんでもできた。それをやらなかった理由について、司令部の誰も決定的仮説を生み出せていない。


 防御に徹し、全軍を消耗させて引き込み、町の支援火力とともに反撃攻勢に出て潰走させ、その後方を効率的に襲うつもりか? 陣地が伸び薄くなった所を奇襲するのか。

 どちらも常識的だが、ここまで一つも常識的攻撃がきていない。


「多くの部隊が動いた。防衛陣地全般の状況の再確認せよ。森の近くだけに集中せず、後方の防備と、各部隊の連携を強化するように」


 ベリサリが言うと、幕僚は仕事にかかった。


 それでも彼の不安は消えない。自然祭司ドルイドは、十万の兵を犠牲にしてでも即時排除すべき。


 しかし森の外から砲撃で死ぬとは思えない。対戦車騎士は当然、最上位の武士ですら魔法の甲冑だけで戦車砲の徹甲弾に耐えうる。魔術師に直接支援を受けていれば、重傷にも至らない。

 となると手段は限られる。

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