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戦4

 コモンテレイの南側では、掘って固められた立派な塹壕が町と畑のあいだにジグザグの線を引いていた。その後方には頑丈な石でできたトーチカが南に砲を向けて並び、さらに後ろの道路には対空砲がちらほらと止められている。

 それぞれの防御施設と近くの建物の窓には、ハンターや市民兵の姿がある。


 そこに、【赤のまなざし】の戦車が瓦礫を踏み分けて出てきた。外部には主砲、突撃機銃、小型レーザー機銃が八、対空レーザー、ミサイルポッドが装備されており、各部に小さなレンズが付いていている


 赤い戦車のスピーカーからヴォルフの声がした。


「神父、東は歩兵も砲弾も来ねえからこっちに回されたぞ」

「こっちも来てねえよ」


 レミジオがコートの襟を直しながら答えた。彼はトーチカの屋根の上に座っていた。


 さらに建物の陰から、大型の多脚戦車がゆっくりと姿を現した。八本の異様に長い脚を持つ戦車で、車体が高さ十メートルほどに位置している。高所からの視界と攻撃を提供できる市街戦向きのダング三五式だ。これは五つ星ハンターの【墓標巡り】に与えられている。

 こちらはさらに道路を進み建物の陰に身を隠し、車体を屋上に見せた。


「でもそろそろだぜー。東からは森に沿って町に近づく隊列が見えてた。どんどん森に消えていったぜ。軽く砲撃してやったがよ」


 エドガーの声がして、レミジオが答える。


「いきなり突撃隊は出ないだろう」

「西はドンパチやってるらしいが、ここの森は静かだな。音が拾えない」


 ヴァルフが言った。戦車の集音機が動いている。

 塹壕のすぐ前には壁になる林があり、そのすぐ向こうに刈り取られたトウモロコシ畑が続き、さらに奥はナシ園だ。その先に深い森がそよいでいており、風の音に断続的に小さな砲撃音が混ざっている。


 邪魔はあるが、二キロぐらいは見えている。直接視認できる所に、部隊がのこのこと顔を出す可能性は低い。砲撃支援できる陣地を近くに築き、その支援を得て歩兵が来る。


 防衛側がやるべきことは、近くに陣地を作らせないことだ。歩兵の突撃だけなら機銃掃射で粉砕できる。


「誰がやってるのかは聞いてないがな」


 レミジオが西を見た。


「まずは優勢だ」


 ヴォルフが言った。


「いろいろ仕込んでいたはずだ。最初から不利ならどうにもならねえ」


 レミジオが吐き捨てた。


「神にでも祈れよ」

「あの神に祈ろうとは思えねえ」

「実在は確実、なら呼べば来るんじゃねえの」


 ヴォルフが面白そうに言った。


「あれを熱心に信仰してるのは少ねえ。文化主義者ぐらいだろ」

「あれは特別だからな。ほかは食えればいいってところか」

「守れてるうちはいいが、追いこまれたら内側から崩れる」

「だから主戦場の情報を伏せてるんじゃねえかな。文句を言うわりには熱心だな」

「歴史の先を見たいんでな。そっちは?」

「発掘の自由と、信用できる鑑定に装備調整の保障。十分だろ?」

「自由の代償には敵が多すぎるぜ」


 ふたりが今後の戦局を想像していると、平和的な声がした。


「畑に水やりに行きませんと」


 ドングリ頭のウォーカーが、塹壕から出ようとその淵に手をかけた。


「行かせるなよ」


 レミジオはウォーカーの隣にいるハンターに言った。


「わかってる。ほら、こいつが世話を必要としてるぜ」


 ハンターが、ウォーカーの目の前に枯れかけた草の生えた植木鉢を出した。ウォーカーはそれを両手でそっと包んだ。


「おお、かわいそうに」


 草はみるみる間に青みを取り戻した。ウォーカーはそのまま鉢を持たされ、鉢を見つめて停止している。


「貴重な回復役なんだ。俺の魔法はすべて戦闘に回すからな」


 レミジオが屋根から降りて、塹壕の後ろに立った。


「ポーションもあるしな」

「余裕はねえ。戦力比的に一人百殺しねえと。どいつもこいつもわかってねえ」

「とはいえよ。俺も畑を軍にやるのは嬉しくないぜ」


 塹壕内のハンターが言った。


「森には絶対入るなって言われてる」


 レミジオは軍より森に脅威を感じていた。市民は実りの畑に好意を持つようになり、彼もそうだが、今の森は異様な気配を放っている。


「街の外周部で守るってのは半端だぜ。森に伏せて、開けた畑で迎撃してもよさそうだが。そもそもこれを森まで掘ればいいと思うんだが」


 ハンターが言った。


「言ったのはフォレストだ」

「あっちかよ」

「紛らわしいから絶対入るなと言っていた」

「あの魔法農夫が森でなんかやってたのは知ってるが、軍は戦闘なしで寄ってきているようだぜ。上がったぞ!」


 ヴォルフが言った。

 ヒューという音がしてナシ園で爆発が起きた。まだ遠い。ここには圧力がない。


「そろそろか。ウォーカーを部屋に入れろ」


 レミジオは塹壕に入り、顔だけ出した。ウォーカーは塹壕内の部屋に連れられていく。

 塹壕を慌ただしく人が行き来している。通信係のやりとりが増えた。電波観測係は通信量の増加を気にしており、設置された機銃に人が付いた。

 野砲は角度を調整し、双眼鏡を覗く者が熱心になった。

 それでも最も多い歩兵たちは退屈で世間話をしていた。


「へぼ弾だが、牽制か」

「観測できてんのか?」

「木に登れば見えるんじゃねえかな」

「魔力は非検出だって」


 そこにまた小さな風切り音がした。


「来たぞ!」


 塹壕内の多くが、静かに弾着を待った。そして数発の爆発音がした。かなりばらけた場所に着弾したようだ。どれも森のほうで遠い。


 それからまたしばらく砲撃が途絶え、また雑談が続いた。


 そしてまた砲声。レミジオは空を飛ぶ弾頭をはっきりと視認した。形状が通常弾と少し違う。そしてかなり近くへ落ちる軌道。


「横穴に入っとけよ!」


 塹壕内の戦闘員が、塹壕内の横穴に身を滑りこませた。


「神よ、人悪を防ぐ衣を与えたまえ」


 レミジオがコートをひるがえすと、すぐに空で榴弾が炸裂する。爆炎の中より現れた、非常に小さな杭が雨となって塹壕に降った。レミジオにも三発ほど当たったが、すべてコートで止まっている。


「問題無し」レミジオはコートを確認してから戦車を見た。「迎撃は使わねえのか?」

「車体は装甲がある。町の電気の分もあるし、激しくなるまで短射程で節約だ」

「でかい的が来るまで撃たないつもりか」


「対空迎撃と索敵係だよ。とはいえこの距離じゃ音源を特定できん。命令更新はない。おっと……まずは普通に当たれとよ。十一ラッツまで来ているらしい。左方だな。射程に入れば榴弾を撃つぜ」

「今日は来ねえだろうよ」


 軍から来た砲兵が操る五門の榴弾砲が連続で砲撃し、森のほぼ一か所から爆炎が上がった。しばらく待ったが反撃はなかった。


 この日、南の戦場では散発的な砲撃戦が続き、銃撃戦はなかった。


同日 二十一時 コモンテレイより百キロ南 モコシャンのテント


 モコシャン中将は、コテーベ大佐から報告を受けていた。近くの司令部でも、幕僚たちが情報の取りまとめと分析を行い、明日の侵攻路を考慮し、部隊の再配置計画を練っている。


「判明したものは、採取した植物の二十三番は加熱すると幻覚、三十六の葉と枝は強い可燃性を示しました。五十番は皮膚接触で強い炎症を起こしかゆみと痛み」


「幻覚は強烈な?」


 モコシャンが資料を見たまま尋ねた。


「現時点では自覚できないほど微弱です」

「混ぜれば劇的に悪化するなどは?」

「さすがにすぐには」

「意図的な弱毒か、何かの都合で弱くせざるをえなかったのか」


 モコシャンが考えこんだ。負傷者を抱えさせるのは古典的な戦術だが、威力が弱すぎる。何かの準備として警戒したほうがいい。


「なお七十二番のベリーは食べると元気が出たそうです」

「それは疑わしいが……」

「どっちにしても火は避けたほうが無難ですね」


 コテーベがモコシャンをうかがった。


「うむ、敵は大魔法使いだ。この程度ではあるまい。被弾率の集計は?」


「大方出ました。狙いは極めて正確。位置を変えても完全につかまれています。平均して一発目の発射から一分ほどで反撃がありました」


「砲撃戦は悪手だな。森が壁になっていない。どうやっているのか……軌道の逆算ではないな。位置を認識してから照準するのに一分では済まない」

「森の斥候と魔法による監視ではないと?」

「ずっと監視しているということもないだろう。彼らは我々と逆の立場だ」


 帝国軍は多い。今日の森の最前線だけで八万ほどいる。それが二百人ごとに分かれれば、四百の地点に散っているということ。情報のやりとりを考えるだけで頭が痛くなる。いちいち司令部を経由せず、前線が各自で対処していると考えるべき。

 常に数で勝る帝国軍とは違う戦い方をしているはず。


「機械だな。魔道具は人の手で作る。小型化には限界があり、魔力反応もあり、射程が短い。センサーがあって自動的に座標を通達するとか」

「森で科学技術の相手とは。すべてを拾いながら進みますか?」


 コテーベが笑った。


「監視するなら高所と決まっている。レーダーのたぐいは、強力だが目立つ。心覚兵や計器を入れねばならんが、監視を潰さねばずっと不利を強いられる」


 前線を上げるのではなく、敵の戦闘効率を悪化させ、自軍の戦闘教義ドクトリンを更新する。これがモコシャンの戦い方だ。


「精兵の損耗は避けるのでは?」

「少人数の調査部隊に大きな罠はこない。千人用の罠を百人に使いたくはないはず。心配なら別の場所に大部隊を用意すればそちらに食いつく」


「なるほど。それと、小鳥とネズミは目撃されていますが捕獲できていません」

「発見しだい排除させろ。確保は死体からでいい」


 生物はほぼ確実に目だと考える。正確な位置は伝達できないはずだが、監視なのは間違いない。呪いを受ける可能性もあるが、神官はそれなりに確保できている。


「調査に重心を?」

「いや、圧力を維持しつつ調査だ」

「樹上は探らせるのはほねですが」

「避けられん。あの森は三階建てと認識するように」


 木の上にまで罠があるか? 敵が来ない場所に罠を張るのは非効率だ。しかしおそらく、ある。時間かせぎには有効。上に罠があれば、上に守るべきものがあるように思わせられる。実際にあるかどうかにかかわらず。


 兵が上を気にするようになれば進軍は遅くなり、足元への注意が弱くなる。遅滞効果があり、罠の効率が上がる。

 森が邪魔だ。森を潰したくなる。それは敵も予測している。敵の予測は外すべき。


「了解しました。抵抗は想定どおりですか?」


 コテーベは、上官が何を見てどう考えるかを楽しんでいる。


「内容はともかく、程度はな。こちらに匹敵する物量がないのは確実だ。消費を抑えようとしているのは見せかけではあるまい」


「今日は他軍に情報を送らないので?」

「敵は非常識だ。強力な攻めや大軍を恐れていない。ならば全軍で統制を取る必要もない。他軍が攻めを増やすなかで、我々だけが静観すればどうなるかな」


「普通は敵の得に終わるだけですが」

「情報が取得できれば採算は合う」

「珍しく投機的で」

「この敵は投機的に戦うのが最も手堅い。考えていたが、大軍に大勝するなら、まずは単純な行動に誘導するべきだ。状況が変わるまで現在の作戦を維持だ」


「では司令部に決定を伝え……」


 コテーベの言葉が途絶え、モコシャンは不審に思い彼を見た。コテーベの顔は硬直しており、口から血を漏らし、首から血を噴いていた。彼はそのまま横へ倒れ始める。その瞬間、モコシャンの胸に刃が突き立てられた。


「か……」


 モコシャンは、ゆっくりといすから転げ落ちた。声が出ない。視界のすみに小さな足が見える。


「当たりっぽいなあ。ラッキー」


 子供の声だ。音量は小さいが、場違いな明るさだった。

 発掘品の腕時計は、彼の意識に直接心拍の停止を警告している。


『心拍が停止しています。十秒以内に心拍を再開させるか基本ボタンを押してください』


 指先を動かすことすらできず、全身の感覚が一切ない。麻痺している。ただ胸が熱い。かすかな眼球運動がやっとだ。だから、彼は表情を動かせなかった。




 ルキウスは、真っ暗闇のなか、直立する大岩壁を登攀していた。

 彼はあれから途中で変化へんげを解き、変化前から着ていたウイングスーツで滑降して距離を稼ぎ、さらに荒野を走り、帝国本土と未回収地を分ける峻険なメンダッハ山脈へ着き、監視をかわして山を登っていた


 そして最後の一歩ならぬ一手だ。彼は左手を崖の上にかけ、慎重に顔を出した。


 滑走路が二キロほどの飛行場だ。小回りの利きそうなプロペラ戦闘機と大型輸送機があり、奥に大きな倉庫が並んでいる。

 標高三千六百メートルにあるメツダッハ山脈基地だ。


「この基地が本土との中継地点で、空の魔物の駆除拠点。潰せば本土からの空輸はできない。レーダーが無くなれば、陸の通過難度も上がる」


 監視塔はあるが、襲撃に備えた戦力は確認できない。


「脅威は、ハンターも軍人も大好き対空砲ぐらいか。戦車乗りと砲兵はライフル砲推しだが、圧倒的大差であの機関砲の勝ちだ。あれ、アルトゥーロに本気で撃ってみろって言ったら、普通に肉えぐれて骨折れたし。本気といったら、いてー! で済むぐらいまでだろ。だからおっさんは嫌なんだ。俺は永遠の十三歳でいく。動きはないな……やるか」


 彼は崖から飛びあがり、基地のすみに着地した。そして一気に滑走路を横切り、建物が並ぶ場所をめざそうとした。


 管制塔の明りの中に、談笑している職員の姿が見える。襲撃は認識されていない。現実的に攻められるとすら思っていない。監視の人員も弛緩している。


 道中は完全に気配を絶っていたが、監視所がいくらかあるだけで厄介な歩哨は少なかった。根本的に警戒レベルが低い。戦時体制ではない。これなら飛行して接近できたと思えるほどだ。


 絶好の攻撃機会、こんなとき彼の感覚は冴え、目はらんらんと輝く。


 どうにもうまくいきすぎてる。彼は走るのをやめて、監視塔の根元の影に潜んだ。警報機は赤外線のみ、警備ロボの類はいない。監視カメラすらない。


 帝国は判断を任せられるレベルのAIを製造していない。しかし発掘品の自律機械があってもおかしくないし、工房を発掘していれば少数は生産できる。


 彼はあらゆる可能性を警戒した。それでも、待ち伏せはない。森から離れた場所、ここに留まるわけにはいかない。


(しっくりこない。奥まで行くのはやめよう。滑走路が粉砕されれば、ちょっとした土魔法では直せない)


 ルキウスはこれみよがしに魔力の集積を始めた。わざと襲撃を認識させて反応を見るためだ。これで罠がなければ追撃すればいい。この程度の戦力ならたやすい。


 管制塔が慌てだした。警報でもなっているのだろう。やはり鈍い。


地震アースクエイク


 ルキウスが大地に手を突くと、亀裂が一気に走った。それは滑走路を突き抜けてすべての建造物を揺らした。管制塔がひび割れ崩れはじめ、倉庫の屋根が落ちた。

 亀裂は幾重にも広がり、滑走路は浮き沈みして無茶苦茶になっている。その亀裂の陰影が強まった。


 光だ。強烈な光が基地と周囲の山を明るく照らした。真昼のように明るい。

 ルキウスは鋭敏に反応し、剣を抜き、〔先見/フォアサイト〕を発動した。しかし敵が展開することも、彼が攻撃されることもなかった。


 空が白に染まってから、夜空に戻る。山間から見える黒の荒野が、こうこうと照らされて影が伸びている。

 東の果てが、コモンテレイの方角が輝き、火柱が上がっていく。煙が遅れて地平線から頭を出した。

 遠くに見える黒い雲が衝撃でうねった。


「なんだ? サーモバリックにしては……距離は二千キロ以上、反応爆弾か?」


 地平線に雲が湧き上がり、上へ膨れていく。どこまでも上がっていく。


 ルキウスは全力で見た。少しの放射線反応。しかしその力の流れは、背後から。


「あの攻撃では!」


 ルキウスが足元からスッと地面へ落ちる。地中を移動する最高位魔法〔地中道/アンダーグランドロード〕、下半身まで地面に消えた。潜るのは一瞬だ。

 彼の背後が光で満ち、すべてが白になった。世界が膨張していく。足並み揃った衝撃波は、音にすらならない。

 彼がまぶしいと感じた時には暗闇の中にいた。潜行に成功したのだ。


 ルキウスは安心する間もなく、激しく揺さぶられた。経験したことのない揺れだ。そして傾きを感じた瞬間、彼は暗闇からはじき出された。空気はかなり熱されている。触れるものがない空中である。


「な!」


 誰かに魔法を解除された。次に攻撃が来るのは必定、警戒するべきものが多すぎる。しかし来ない。

 彼は剣を構えたまま落下していく。ふっと見上げた空が、巨大な影で塞がれていく。


「地面から岩になって解除されたか!」


 彼が潜った地面が丸ごと山から剥がれ落ち、巨大な岩塊となって断崖を落ちている。大小無数の岩が空中を漂い、夜空は、岩塊の陰から出てきた雲で覆われつつある。

 ここは森ではない。はるか下の地面と岩塊に挟まれれば死ぬ。


 彼は、近くで同じように落ちる岩を蹴り、さらに空中を蹴り、登ってきた崖壁に到達した。  


 そこから、深い亀裂が入った崖の側面へ走る。岩はなおも降り注いでいる。基地があった領域が、丸ごとなくなっている。目の前の崖が、上部から傾き大きくはり出てきた。広域が滑り落ちている。


「いかんな、山自体が崩壊している」


 降ってくる岩に追いつかれぬよう必死で崖下まで駆け下り、そこから荒れた山肌を飛ぶように駆ける。背後で巨大な何かが砕ける鈍い音がした。

 空で同じ方向へ走る石の群れに負けないよう加速して、基地の隣の山まで走り、岩の陰に隠れた。そこにも岩が降ってくる。


「〔石の避難所/ストーンシェルター〕」


 彼の隠れた岩を隠すように石の屋根が現れ、周囲の地形を取り込みながら拡張し、岩礁にへばりつくカラマツガイのような形を成した。


 そこで忍んでいると、重い衝撃音と振動が伝わってくる。 生きた心地がしない。アトラスなら籠らされるのは敗北に近い。やがて、シェルターを打つ衝撃はしなくなった。


 そっと外の様子を探ると、生物の気配はない。そこら中に巨石が転がっている。


 彼はここで違和感に気付いた。左が見えていない。顔を触ると、炭化した固い皮膚になっていた。髪はかなりが燃えてしまっている。


「ハゲじゃねえか」


 さっさと回復する。髪もはえた。

 さっきまでいた山は、土煙で何も見えない。小石が雨となって、バラバラと音がしている。


「物理の核熱でも、火属性はある。直撃だったら死んでたな。もっと自爆感のある基地にしとけよ」

 

 ルキウスがのっそり立った。放射線など効きはしないが、敵が徹底していれば追加の爆撃ぐらいある。あれと同じぐらいの爆弾が連続で来ればしのげない。

 さらにもし、敵がこちらの生存を前提としているなら、すぐに応援を呼ぶべき。


 そう思ったところに、ソワラから通信だ。ルキウスから連絡するまでは通信しない手はずだった。


「ルキウス様! 緊急です!」


 ソワラは取り乱していた。


「さっきの爆発か?」

「はい、そちらで――」

「回避した、問題ない、現状は平静。用件は?」

「奇襲部隊が通信途絶。位置も確認できません」

「主力は誰を行かせた?」

「ヴァルファーとメルメッチです。歩調を合わせられるペットとコンパニオンマシンが同行しています」

「すぐに復活させろ」


 生存の可能性があるのはヴァルファーだけだ。盾を構えるぐらいはできたかもしれない。だとしても完全に焼却されたはず。

 半径数十キロを蒸発させる爆発、それを攻めようとしているタイミングで受けた。素で耐えるのはテスドテガッチぐらいだ。


「いやしかし」


 ソワラがとまどった。


「死んだよ、多分な」


 ルキウスは平然と言った。


「……わかりました」

「順番はヴァルファーからだ。失敗したら救助に向かえ」


 ヴァルファーが死んでいたら、ほかも死んでいる可能性が高い。きっと大地も沸騰している。生存の可能性があるとすれば、敵が用意した待避所に逃れた場合ぐらいだ。


「了解いたしました」

「復活者はそのまま生命の木に待機」


 完全消滅からの復活はペナルティが大きい。レベル七百台になり、そしてこの世界では一か月の能力低下。さらにアトラス金貨もかなり減る。


「……敵は来ないが、転移誘導ぐらいあってもおかしくない」


 ルキウスは現場を急いで離れ、緊急離脱用のアイテムを使って転移した。

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