緒戦・空
同日、五時三十分 黒の荒野上空
第三戦闘飛行隊七十機を率いるオフォニコ・ムンガー中佐は、爆撃部隊と合流し、それを護衛する編隊を組み終えた。
乗機は新型ジェット戦闘機ベガラニ。半島で消耗した旧型の不足定数を埋めるように配備された。部下の練度にやや不安があるが、編隊を維持する程度は問題ない。
全方位に友軍がいる。誰も目にしたことのない異種大編隊だ。千機を越える大小が同じ方角に向かい、規則正しく空に並ぶさまは勇壮である。彼の部隊は右側に位置していた。
ここから爆撃目標のコモンテレイ市まで千二百キロ。警戒しつつ約二時間。
緊張よりも高揚を持っての飛行は今日だけだろう。この空にいる誰もが熱いものを感じている。
正面の地平は赤く燃え、そこから薄い赤が広がり、それ以外は冷えた青が覆っていた。
ムンガーは、それを新兵のように見ているわけにはいかない。
右方、まだ暗い南の地平には薄い深緑。邪悪の森だ。視界に入るとそっと押し寄せる圧がある。敵の目を気にして都市を避けやや南を飛んでおり、森が近い。
コモンテレイに達し、雲の下に出て正面に悪魔の森が見えれば、冷静さを失うパイロットも出る。
普段以上に、ムンガーの責任は重いものとなっていた。
ムンガーは何度も右を確認し、やがて一点を凝視した。
「三時下方、影がないか?」
「……認識できず」
後部座席のアマカッタ中尉が答えた。
二十四年、航空機三世代間を生き残ったムンガーの視力は並ではない。空では、妖精のいたずらによる浮遊膜に接触するだけで死にかねない。即死を免れても、不時着先は汚染された荒野だ。
「森に重なっている。再確認」
雲の合間に見える非常に小さな点。わずかに動いた。何かの飛翔物だ。
レーダーに反応なし。そもそも友軍が多すぎる。しかし普通の鳥が飛ぶ場所ではない。
彼が見つめていた点が輝いた。
ムンガーは何かが光を反射したのだと思った。しかし――光が伸びた。光弾が雲を貫き、はるか上方を抜けた。すぐに目で追えないほど高い。
何度も空で光がチラつき、上空で小さな爆発音がした。編隊のどこかはわからない。
影が、右下から前方上方へ突き抜けた。七百メートルほど上。
彼はそれをどうにか視線で追った。
薄い青を背景にした影は、青黒い巨鳥だった。ベガラニよりいくらか大きい。猛禽類のような翼だが、わずかに首が長い。頑健そうな足には、鋭利な爪がある。鳥はほとんどはばたかず、身を翻し、背を見せた。
「なんだ?」
鳥の翼の付け根には黒い砲が対になって二門あり、背に黒いものを背負い、尾のほうから淡い青の光をかすかに噴射していた。それは一瞬で高度を上げ、編隊の逆側へ消えた。
「敵襲! 野生じゃない、兵器を装備している。敵部隊だと警告しろ」
「通信できず! ノイズのみ。レーダーも不能」
アマカッタはノイズに顔の片側をしかめた。
ムンガーは首をぐるっと回して広い空を確認した。ほかに敵はいない。
編隊の左方で何度も光が上へ突き抜けている。
最初の攻撃で破壊された戦略爆撃機セイラキの、自機より大きな残骸がゆっくりと回転しながら降ってきて、編隊の中を抜けていった。その付近の編隊が乱れている。遅れて非常に小さなプロペラが多数、遠くを横切った。
「上方注意」
「人が落ちた」
アマカッタが無感情に報告した。しかし吐息が酸素マスクにこもった音がした。
「よく見えてる、上出来だ。光信号、我に続け」
「了解」
アマカッタが機体後部の投光器を操作した。そして心覚兵からの伝言がムンガーの耳元に届いた。
「鳥型一、狙いはセイラキ、現在位置、編隊中心部上方」
「フレイムワン了解、迎撃する」
空気がねじれるゴォーという音が増しエンジン出力が上がり、機体が急速に上を向いた。編隊の外側から内側へひねりこむように急上昇する。
機体とパイロットに圧力が加わる。ムンガーは体をわずかにのけ反らせ、全身にほどほどの力を入れ、操縦桿を握る力を確認した。コフーと酸素マスクから音がした。意識して呼吸を整える。
ムンガーは視界に鳥を捉えた。高度九千で、旋回しながら光弾を連射している。襲撃を受けた爆撃部隊が高度を下げながらゆっくり散っている。
(あの鳥、高度を上げても機動力が変わらんのか)
「後続、やや開いた」
アマカッタが何度か後方を確認した。
部下がムンガーの機動についてこれず、編隊の外側に開いているのだ。
「問題ない、ちょっと散るぐらいで。ほかに敵影は?」
「未確認」
編隊の逆側に小さな機影が多数。第二戦闘飛行隊が同じように上がってきている。その下方から旧式も来ている。こちらは第七戦闘飛行隊。ムンガーと考えは同じだ。
魔物との空戦では、転移なども含め特殊な高機動と、魔法的防御を突破する必要がある。
やっかいな魔物に対し、射程で勝るのが航空機の利だが、多くの魔物はロックできずミサイルが追わない。モニターのロックオンサイトは鳥を追った。
「魔力、熱源あり。ロック可能、ロック……発射」
翼の下に吊ったミサイルが発射された。セイラキにしか目をくれない鳥へ、白煙の線が伸びていく。
「後続、続きます」
アマカッタが言った。複数のミサイルが横から彼を追い抜き、空に白線を描く。ムンガーはそれを少し避けるよう進路変更した。
鳥はミサイルが自分に向かっていることを理解したのか、セイラキを追うのをやめて回避に徹した、みるみる小さくなっていく。確実にベガラニより速い。速度だけで振り切ってしまうかもしれない。
しかし鳥は思い立ったように向きを変えた。ミサイルの群れが向きを変えて追う。
ミサイルに近づく軌道、推進剤はもちそうだとムンガーが思った時、鳥はさらに旋回して、急下降、ガンッと降り立ったのはセイラキの背だった。鋭利な爪を引っかけ強引に着陸で、セイラキが傾いた。戦闘機の三倍以上ある背で、鳥は足場を確認し、より深くに爪を刺し、姿勢を低くした。風に耐えている。
そしてはっきりとこちらを見て、さっと戦闘機部隊をいちべつした。
その時、鳥の顔がはっきりと見えた。くちばしはやや細長く波打っていて、頬には赤い模様があり、どこかまぬけな顔だ。
それがムンガーには、とてつもなく狡猾で、嘲笑っているように思えた。
ミサイルはなおも鳥を追っている。その着弾の寸前、鳥はセイラキの裏へ身を投げ、真下へ落ちた。そして数十のミサイルが連続してセイラキへ向かい、数発が直撃して爆発した。
(知能が高い。ミサイルでは厳しいか)
鳥は低高度にいた爆撃機を立て続けに四機撃墜、さらに一機を蹴り飛ばして翼を折った。ムンガーたちがそれに迫ると、速度を上げ距離を離す。
機銃も撃ちにくい。空は混雑している。通信なしでは誤射の可能性がある。
鳥もわかっているのか、編隊の外には出ず、半径二キロぐらいの範囲を飛んでいる。しかし戦闘機を警戒して攻撃は減った。まずは編隊の外へ追い落とすべきだ。
セイラキと鳥を遮断しようとする戦闘機部隊によって、鳥はミサイル回避に集中した。鳥は嫌がるように左右へ飛び、最後には編隊の外に追いやられた。
「……誘導されたか」
爆撃機に付く以外の役割の戦闘機のすべてがあれを追う形になっている。鳥は片方の翼を曲げて急旋回してこちらへ向き直った。そして光を乱射しながら突撃してくる。
ムンガーは減速しつつ、鳥と軸をずらした。後ろで爆発が起きている。そして鳥と百メートルほどの距離ですれ違う。ムンガーの機体が猛烈に揺れ、減速した。
「バフェッティング、激しい! 魔法か」
ムンガーはすぐに追撃する予定だったが、まず機体を安定させようとした。彼以上に鳥に近かった機は飛行が乱れ減速している。
鳥はそれを見とがめ、強引に翼をたたみ前転してから翼を開き、百八十度向きを変えた。空中で停止して見える。頭が下向きになったままで、光を乱射した。
狙いはほぼ別部隊だ。数機が光の直撃を受けて爆散した。
鳥が発砲をやめた。一瞬で視界の上へと切れていく。追える機動ではない。いったん隊形を開いて、鳥かごを構成しなくてはならない。
「隊で何機やられた?」
「撃墜四、追加で一、翼がやられた模様、降下していきます。ベイルアウト」
下方でパラシュートが開いた。
「光信号、射撃編隊だ」
(この体でまともに機銃掃射をもらえば死ぬな)
この鳥、ルキウスである。
〔伝説獣変化/レジェンドアニマルシェイプ〕で怪鳥トゥルルに化けている。この体は風魔法しか使えない。
最優先目的である戦略爆撃機セイラキは、五つの編隊にばらけた。大きな影がゆっくりと離れていく。
(ひとかたまりにでかいのが十機か、三つはやる。あれは何を積んでるかわからん。編隊がばらけて壁にしにくくなったが、追いつける。戦闘機は格段に遅く、旋回性能が重視されている。戦う相手に遅い魔物や魔術師が多いからだ)
彼は急がねばならない。変身状態で装備を付けて待ち構えていたから、ずっと魔力を消費している。
ルキウスは戦闘機を気にしつつ、一直線にセイラキを追った。そこに数十のミサイルが散発的に放たれたが、しばらくはそのまま行き、直角に曲がり上昇を開始した。空気の薄い高度十キロほどまで一瞬で上昇する。風魔法も使った加速で、風を切る。ミサイルは追いきれない。そして今度は急降下。すれ違ったミサイルはもうルキウスに興味がない。
狙うは大きく目立つセイラキ、その迎撃機銃網をかいくぐる。
ルキウスははばたき減速、セイラキの背に降りた。降りる時に銃座を蹴って破壊している。
そして百メートルほど離れた隣のセイラキを撃ち落とした。
背中のコイラッド重イオン砲は固定されて照準しにくいが、的は大きく人間ほど機敏ではない。同じ方向へ飛んでいれば当てやすい。
鳥がひょこひょこと向きを変え、近くのセイラキをどんどん撃ち落とす。
二百メートルほど先にいるセイラキの銃座が、ルキウスへ発砲した。器用に彼の頭あたりを狙っているが、風魔法で逸れている。
彼がそれをしっかり照準した。セイラキは体を傾け遠のくが、翼が見えてむしろ打ちやすく、ビームが直撃した。間髪入れず空に炎が広がり黒煙が残った。
足場の機体は身をよじっているが、彼が落ちるほどではない。
(鈍いな。腹がいっぱいなのもあるんだろうが)
ルキウスは飛びあがると同時に、足場だったセイラギを連射で撃墜した。その爆風に乗って加速する。次の標的集団はかなり遠くなった。
そこを、待っていたとばかりに二百を越える戦闘機が襲う。彼らはルキウスを遠巻きにしており、近づいてこなかった。それが一斉にルキウスへ加速する。
全方位から機銃が来る。ルキウスの周囲が機銃の輝きで埋まった。
彼は回避をあきらめ、風魔法で身を守りつつ強引に網の外へと急いだ。
(こいつら、運動性で圧倒されることに慣れているな。数の利を活かして広く展開し、あらゆる角度から弾をばらまき、空で網を編んでいる)
戦闘機を狙って撃っているが、こちらは速く、ビームを当てるのが難しい。
またセイラキへ飛び、至近で攻撃しようとした時、戦闘機と違う機影を発見した。
ルキウスはそれを凝視した。三日月のような形状の航空機だ。小さい。
(制宙自動戦闘機、桜嵐に似ている。大気圏下で適切な設計に見えないが)
それはルキウスめがけて来た。側面からだ。彼は急降下で回避する。三日月は極めて正確に曲がり、限界までルキウスを追った。そして抜ける。
紙一重だ。翼の先をかすめ、羽根が数本散った。その一つは、鋭利に切断されていた。
三日月は非常に薄かった。全幅は七メートル無く、全長は二メートルと小型。今のルキウスより小さい。それがくるっと回転して、再度ルキウスへ向かってくる。速度ゼロからいきなり高速になっている。
(あの機動、そして厚さ、無人。航空機というより大型刃物?)
無人機でも、基本攻撃が体当たりというのはおかしい。
ルキウスがまっすぐに加速すると刃物は少しずつ離れていく。
(銃器が見当たらん。科学的な産物ではない。魔力があるな、まさか飛剣?)
ルキウスはセイラキを追うのをやめ、剣の観察に集中した。確実に発掘品だ。
このすきに爆撃編隊は、東へ飛び去る。戦闘機の多くもそれに追随した。
ルキウスは剣を狙って撃つが当たらない。急に曲がって完全に回避される。そして飛行以外に力を裂くと追いつかれる。真上からの突っ込んできた剣を、バッと翼を開き、態勢を崩しつつかわした。
旋回能力が鳥であるルキウスより高い、格闘戦に特化している。
五十ほどの戦闘機が、鳥と刃物のもつれるさまを遠くから見ている。
ルキウスが剣に雷撃を撃ち込んだが動きは変わらない。丸ごと金属なら大破させるのは難しい。
しかし、もう彼の興味は、近くの脅威より戦闘機部隊だった。
(なぜ、戦闘を見物する? あれに任せてさっさと離脱すればいい。戦闘に加わるつもりなら、包囲する軌道で動く。護衛か、こいつの操作者がいるな)
ルキウスは戦闘機部隊へと全速で飛び、剣を振り切った。戦闘機が迎撃の動きをするが、一部が遠のく。ルキウスのその一団に狙いを定めた。六機だ。
減速すれば後ろから剣を受ける。三機を撃ち落とし、しとめられなかった機体はコックピットを蹴りとばしていく。
最後の機体へ足を伸ばした時、彼の背に剣が迫った。彼は無理矢理体をひねって、剣をかわしつつ、翼でコックピットを叩き潰した。剣は完全にはかわせず、少し背を切り、鋭い痛みを感じた。
背中が切れるとほぼ同時に剣は動きを止めた。落下していく。
(どこかでやった……が魔力がきつい。ポーション飲んでもこれ以上は無理だ)
ルキウスはインベを開き、中のマジックポーションをついばむと、ただ落下していく剣を集中砲火で破壊し、西の空へと離脱していった。
ルキウスが戦域から完全に離脱した頃、爆撃隊の正面の空には小さな黒点が出現していた。
護衛のベガラニがすぐに反応しミサイルを撃ったが、目標に到達する前に爆発した。さらに近づき機銃を撃とうとした機体は応答しなくなった。
迎撃を突破した棒状の物が、爆撃部隊へひたすら直進した。
アルトゥーロの操る対人レーザー爆撃艇ヴェンディダードである。潜水艦のような形状で、下部に短い翼が多数付いている。
表面装甲は工業的に製造されたサメの鱗で、水上・水中での活動が基本だが、飛行能力がある。アトラスでは強力な兵器で、ルキウスがたまに庭の池に浮かべて遊んでいた。
スンディで、マーカー付きの脳憑依虫はこれに始末された。
アルトゥーロは五十機ほどの混成編隊の中心を目指した。
ヴェンディダードは戦闘機ぐらいの大きさだ。そして極限まで加速している。速度は、秒速三キロを超える。突き抜けるのは一瞬。
「画像識別、人体自動ロック……発射」
胴体のいたる場所から、一斉に白に近い赤の細いレーザーが伸びた。一本一本のレーザーが、周囲の機体へ向かい、極めて精密にパイロットの頭部を撃ち抜いた。外れは一つもない。
各砲台は高速で角度を変え、細いレーザーの発射、停止を繰り返す。
レーザー砲の射程は二キロで、機体の武装はこれだけ。威力は貧弱で、戦車の上部装甲すら抜けない。しかも燃費が激しい。
「最大出力で風防は抜ける。しとめたと思うが……」
アルトゥーロは戦場を大きく突き抜いてから、ゆっくり大きな弧で機を旋回させる。そして手頃な編隊を探し中心地を照準する。衝突しないように注意する必要がある。そして加速。
彼は何も難しいことはしない。射程内で顔を見せたパイロットは、機の全体にあるカメラに認識され、片っ端からレーザーで貫かれる、パイロットを失った機は、そのまままっすぐ、もしくは異常な軌道で横や下へ消えていった。
「でかいのがやれてねえが、全体の数を減らさねえと」
戦略爆撃機は高空にいる。あれを狙うとほかが射程外になってしまう。一番多いのは普通の爆撃機だ。
また一度編隊を突き抜け、機を旋回させた。そして加速を始める。
ピーー、機のシステム警報が鳴った。
「警告!」
アルトゥーロはすぐに操縦桿を倒したが、金属音が耳に飛びこんできた。後方へ金属片が飛んだのがコックピットのカメラで見える。
「くそ、当たったか」
アルトゥーロが舌打ちした。彼は専門のパイロットではない。熟練兵より操縦が下手だ。それでも乗っているのは、機体の性能を上げ動力を〈補給〉するためだ。
「飛行能力七九パーセントに低下」
システムが警告した。下方モニターに、上昇から下降に転じている航空機集団がいた。やや太い機影。
「対地攻撃機かよ。あれは攻撃対象に入ってなかった」
鈍重な対地攻撃機の大型機関砲を下から浴びたのだ。ミサイルはレーダーに映り自動的に迎撃されるが、機銃は無理だ。
「旋回を狙われたか。ここで機体を失うわけにはいかない」
アルトゥーロは引き際と判断し、もう一度攻撃を加えるとそのまま離脱した。
この二つ迎撃受けても、爆撃部隊の半数は健在だった。なんとか編隊を組みなおし、さらに途中で空へ上がった部隊と合流し、コモンテレイまで一時間ほどとなった。
ただしルキウスの対空迎撃はまだ終わっていない。
それは真下から、周囲に都市の無い黒い荒野から一瞬で上がってきた。
二度の襲撃により警戒していた爆撃部隊だが、いきなり編隊の中心に出現した敵からは逃れられなかった。
ただし、レーダーには映ったため、数機は反応し、機首を下へ向け襲撃者を見た。
最終迎撃者の姿は、多くの空の魔物を知る熟練パイロットを困惑させた。
金属の巨大な人型がまたがったウミガメである。遠目には何かわからない。
「さっさと帰らねえと、昼飯に遅れるだ……口が乾くだ」
ウミガメの甲羅に座ったテスドテガッチが、強風を浴びながら言った。
彼の優先護衛対象はマウタリのままである。さっさと帰らねばならない。
「まだ一つもやっておりませんけれども」
乗騎であるアイテールアーケロンのリゲルは、おっとりした声だった。
彼は足の遅い主の移動速度をパーティーに合わせるための乗騎だ。
全力で飛べば、瞬間的に時速二千二百出る。飛行が得意なソワラでも千四百ほどだ。リゲルは生身では最高の航空戦力になる。
のんきに構えた二人の高度がぐんぐん上がり、爆撃機の姿が近くなっていく。そして
「フン!」
すれ違いざま、巨大な戦棍が振り抜かれた。簡単に爆撃機が腹が粉砕され、二つに分かれた胴体が回転しながら破片をばらまいた。
リゲルの飛行に影響はない。前足をパタパタと動かし上昇を続ける。テスドテガッチは次々に目の前に来る機体を破壊する。
彼の戦いは陸と変わらなかった。近づいて叩く、近づいて叩くだ。
そして、リゲルの通常飛行速度は時速七百キロ、旋回能力、強度は抜群。
重要なのは、これが帝国の戦略爆撃機、純爆撃機、対地攻撃機より速いということだ。これらはすべて電動プロペラ機だ。
しかしそれらを守る兵器がある。迎撃に来た戦闘機の機銃が二人を捉えた。
立て続けに飛来した無数の弾が、到達前に透明な障壁にぶつかって押しつぶされ、そのままはるか下の荒野へ落ちていく。
〈インターセプト〉のスキルにより、ミサイル本体、爆風、破片どれも彼らに達しない。中途半端な威力の遠距離武器は完全に無効化される。
インターセプト中、テスドテガッチは動けない。アトラスでは乗騎も動けなかった。しかし個人の権利が尊重されたのか、今は動ける。
彼らは攻撃を防御しつつ、ひたすら鈍い機体を追っては叩いた。




