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基地の夜2

 基地の一角では強力なサーチライト以上の発光と銃声以上の雷鳴が響く。


 意外なことに、騒乱で基地の目を覚まさせたのは、所作静かな瞑目のカサンドラ。


 率いるは、雷を放ち進軍する大小の宙に浮いた雷の塊の群れ。

 絶えず流れ循環する雷によって形作られ、明滅と伸縮を繰り返しながらどことなく人型を思わせる動き。動きは目視困難だが体の中心部には電気を集めて固形化したような核がある。これらは雷神召使ライジンサーヴァント。その名が示すように雷神の召使である。


 これらは召喚体であり、大型で高さ十メートルの者が一体、小型で一メートルの者が十体。大型を先頭に押し立て、ゆるやかに横隊を成し浮遊する召喚体はゆっくり堂々と基地の中央を目指す。


 この派手な侵入者を無視する理由は基地の誰にもない。叩き起こされた兵士は、通路、建造物の上などに展開し、三方からアサルトライフルによる集中砲火を加えた。この場に集結した歩兵は二百を超えつつあり、激烈な射撃を継続している。

 ドドドドドッという音が何重にも重なってこだまする。


 それらに対しては猛烈な放電による反撃が絶え間なく飛ぶ。召喚体のより近くの歩兵から痺れ、煙を上げ焦げ次々と倒れていく。無数の直線軌道と不規則な軌道が何度も交差している。この戦場に加わる者は夜闇とは疎遠になる。

 

 能楽における女の面、小面こおもての仮面を着けたカサンドラはサーヴァントの後ろを静かに歩いていても、その異様は際立っている。よって、射撃の対象から除外されることもなく銃弾の雨が降り注ぐ。


 そこを彼女はゆるりと歩む。彼女へ直撃する軌道で飛来した弾丸は、まるで川の流れが大岩を避けるように彼女をするりと避けて後ろへと流れていく。


 スキル〈雷神の加護〉の効果の一部、アトラスにおいてあまり意味のなかったこのスキル効果は、古典的な小火器に対してみだりに効果を発揮している。


 この光景をルキウスが見たならば、スキル取得条件の一つ、密林のピラミッドの頂上で自然の雷に打たれる、を達成するためにリアル時間で一週間もボケーッとしていた甲斐があったと思うだろう。


「予定通りに都合よく、歩兵ばかりが集まったようで何よりでございます。お前たちの終わりは見えている。ことごとく主様の養分となるがよかろう」


 カサンドラが少し顔を上げると召喚体が攻撃を強めた。


 雷を受ける側の兵は混乱していた。

 この基地内部が大々的に攻撃を受けたことは無い。未回収地の荒野には多くの魔物が存在するが、基地の防壁際に設置された重火器や対空砲で撃退されるからだ。


 しかし、その混乱は大きなものではない。

 やるべき事は銃の引き金を引くだけ、右往左往してはいない。これが魔術師であれば忙しい頭脳戦の始まりだが、一兵卒は供与された武器を使うしかない。そして兵の練度は低いが、基地内ゆえかそれとも多数の安心感か、逃亡する兵はない。


 しかし、指揮官にはそれなりに仕事があった。


「南側はピカピカして電撃を撃ってくる奴らだ、ルガルもメルデも駄目だ、まともな損害は与えていない、早く心覚兵かこの前でかい奴に使った発掘品持ってきて。なんで効かないって? それが分かれば苦労ねえんだよ!」


 この現場における最高階級で大尉の男が体を伏せて、たまに降って来る土を被りながら、握った無線機に必死に呼びかける。敵が何かは不明だが、実体の無いゴーストのようなものと推測する。だとすれば実弾は効果が薄い。


 四角い建築物、多分何かの倉庫を壁にしてかつ伏せているが、あの電撃を防げるのかは読めない。近くには何人か電撃にやられた兵が倒れている。近くの兵を直撃した電撃の独特な音が耳にこびり付いている。


 ドンッ、鈍い音に横を見れば倉庫の上に陣取っていた兵が落ちてきていた。仰向きで目と口を大きく開き、上半身から煙を上げながらに死んでいる。

 大尉の男は倉庫の角から顔を出して戦場を覗き込む。相変わらず、強烈な光の塊が雷をばら撒いている。


「どうにもならんぞこんなもの……」


 頭を引っこめ、意味も無く壁に背中をピッタリと押し付ける。電気を浴びずとも体が強張り、一呼吸するにも努力を要する状態だ。


「大尉、武器庫から持ってきました!」


 後ろから屈み走り寄って来た兵が近距離でわめいた。その兵は細くて白い筒を抱えている。


「よくやった! よくやったぞ、早く準備して撃て、あれはやばい、基地が終わるぞ」


 基地司令部をまったく信用していなかった大尉は、部下に発掘品を取りに行かせていた。完全に軍法違反だがどうでもいい。


 筒、軍でただ筒と呼ばれているこの武器は、その名の通り直径十センチ、長さ百二十センチの白い筒状の形だ。小さなグリップと引き金が付いているが照準器は無い。筒の先端には半球状のレンズがある。


「どれを狙うんです?」

「でかいピカピカだ、あれが一番危険だ! それに狙いやすいだろう」


 部下が倉庫の角から顔を出して、筒を肩に構えて狙い、荒く引き金を引いた。引き金に込められた力に対して反動は無く、筒の先端から赤い光線が撃ち出され大型召喚体の胴体をえぐった。やや上向きに発射された光線は貫通してもなお進み、五キロ以上先に達した。


「効いてない……のか?」


 レーザーを受けた召喚体に空いた穴は何事もなかったように埋まった。この場で打てる手はもうない。輝く巨体を見ながら大尉は歯噛みする。


「レーザーバズーカ……ノーマルを狙っておけば、一体撃破できたであろう。だとしても、定まった運命に変わりようもなし〔連なる電撃/チェインライトニング〕」


 カサンドラの指先から放たれた電撃は真っすぐに百メートル以上先の筒の射手を撃ち抜き、そこから花咲くように分散して細かく周囲へと流れた。

 これは倉庫の裏の兵員を連続して直撃し、悲鳴の連続によってこの場の指揮系統は完全に失われた。


 もはや危険の気配も無く、後は詰めるだけかとカサンドラが考え始めた時、召喚体の放つ電撃が一部曲げられ防がれているのに気がついた。左方の兵に向かった雷は兵達の頭上を超えてその後ろに落ちている。

 逸らされている。左方の兵集団の中央へとその閉じた目をゆっくり向ける。


「〔電気能力者/エレクトロマスター〕。おやおや、あなたは運がよい、実に幸運でしょう。私に当たったのだから……〈雷乗り〉」


 カサンドラ自身が雷と化し、その全身の輝きが増した瞬間、その場から消えたと思いきやバチンッと降り立つ。


「な?」


 振り返り呆然とする服装の違う若い女。降り立ったのは電気能力者である若い女のすぐ後ろ。


「だあああ!」


 若い女はすぐに呆けから回復し渾身の電撃を背後へ繰り出す。無理して出力を極限まで上げた必殺必中の電撃。

 開かれた手の平からはその視界全てを埋め尽くす電撃が放たれた。


 カサンドラはそれを杖で巻き取ってゆく。クルクル、クルクルと、スパゲッティを巻き取るように。

 あまりの出来事に、今度こそ女の動きが停止した。

 カサンドラは巻き取った電気を宿した杖でコツンと若い女の頭を軽く叩いた。


「ぎゃっ」


 無様な悲鳴を上げて若い女は動かなくなった。


「なるほど、なるほど、奇異な運命ですね、これも電波の導きでしょう。きっと貴方は私に感謝するに違いありません」


 機嫌の良いカサンドラが周囲に雷撃を放ち兵を派手に薙ぎ払った。




 一方、テスドテガッチはただ前進した。純盾役の彼にとって敵に向かって前進する事は珍しい。

 カサンドラと違いわざわざ派手な振る舞いをせずとも、その巨体が視界の隅に一瞬でも含まれたなら、存在感を眼球の奥までねじ込まれる。


 自然と集まった歩兵が、警告を無視して前進する大きな鎧に対して射撃を開始した。

 ここの兵は五十を過ぎた程度の数。当初、それらの兵には緊迫感はなかった。フルプレートアーマーの巨体は迫力があるが、工夫もなく普通に歩いている。動きが遅い存在は、生物に対して本質的に恐怖を与えない。


 弾は確実に命中している。鎧は火花を散らし金属と金属のぶつかる音がかつてないほどに連続している。

 撃っていればそのうち倒れるだろう。多くの兵はそう考えていた。何一つとして間違いの無い完璧な考えだ。確かに撃ち続ければいつかは倒れただろう、いつかは。


 それらの兵に対して、ただ歩き、接近して、振り下ろす、周りを見て、また歩き、接近して、振り下ろす。これをひたすら繰り返している。

 装備は迎撃に徹した前回から変更されている。右手には三メートルもの巨大なメイス。左手には長方形のタワーシールド。メイスは先端部が太く全体のバランスからすると大きめの棘が多く付いている。


 血まみれになったメイスを銃弾で奏でながら、狂わないリズムで足を上げ、進めては降ろす。


 接近されても大きく距離を取ることなく、アサルトライフルを大事に抱えて発砲を続けていた兵は、次々と頭から潰され大地を割る音と同時に赤黒いクレーターになった。


 戦い慣れぬ兵も流石にその巨体を見上げる距離になれば、ただ突っ立ってはいないだろう。しかし、大男が振り下ろす巨大な金属棒は彼らの知らぬ長さと速さがあった。


 十人ほど潰された段になって、兵は身に迫る危険を理解したが戦意は衰えなかった。銃弾の雨の中で活動できる事自体はそれほど異常ではない。戦車並みに頑丈な不死者なども荒野には存在している。


 それでもそんな存在が目の前を自由にうろついていれば焦燥に駆られるが、その感情は概ねライトに照らされながら目の前を闊歩する存在への攻撃として発露する。


 そして多くの兵がしっかりと構造を理解していない文明的な遠距離武器により、一方的に攻撃可能な状況が凡人を勇者にした。兵は大きく距離を空けず確実に効果を発揮できる約二十メートルの距離で、半円の陣形を作り後退しながら射撃を続行した。


 何より戦闘音は余所からも聞こえている。この場をさっさと片付けて侵入者の主力を迎撃に向かう必要がある。


「あのデカブツをぶっ飛ばせ」


 指揮官の男の命令に、陣形の奥から現れた二人の兵がそれぞれ肩に長さ五十センチの太めの印象を受ける黒い筒を担ぎ照準器を覗いた。


 これは主に大型の魔物向けの歩兵武器、多目的ロケットランチャーのセネレヴス。筒の後部から装填する様々な弾頭によって戦況に対応する。現在装填されているのは貫通力の高い弾頭だ。


 轟音と共にロケットランチャーの尻が煙を噴射して発射された弾頭。

 それに対する大男の対処は盾を少し前に出しただけだった。

 弾は目標に吸い込まれる。大男が一瞬火で包まれた。直撃だ、とこれを見ていた誰もが思った。

 しかし大男には何の変化も無かった。後退してもいない。


「少し重いのが来ただ」


 テスドテガッチはそれだけつぶやくと足を止めずに前進を続行する。


「なんの材質だ、あの鎧は……発掘品か? どんな細工だ。もう一度! 一斉射撃だ」


 今度は四人の兵が揃ってロケットランチャーを発射した。四重の轟音が響く。


「〈巨人の打ち返し〉」


 テスドテガッチはその歩行とは別次元の速度でメイスを横に薙いだ。瞬間、四人の兵の頭部が爆散した。周囲の兵も爆発の余波を受けて一斉に倒れた。


「があぁ。く……後退、後退だ。大きく後退する。戦車部隊を呼べ」


 指揮官の男は至近距離の爆発による熱であぶられ衝撃にうめいたが、どうにか立ち上がり命令を下した。


 理屈は不明だが攻撃を防がれたことは認識した。発掘品はしばしば理不尽な効果を発揮する。厄介なものを相手にしないといけなくなった、もっと大火力な兵器を持ち出さないと話にならない、そう思いながら立て直しを図る。


 多くの兵の弾倉を入れ替えるタイミングが重なったせいもあってか、再装填のために放棄された使用済み弾倉の転がった通路。指揮官の男は兵に囲まれ下を見ながら速足で基地中央へと後退する。

 進行方向すぐ先の位置からからドーンと音が響き地が揺れた。


「はあ?」


 視線を上げた先にはあの大男が立っている。至近距離だ。


「離れたら、叩けないだろうがあ」


 初めて指揮官の男は大男の声を聞いた。

 瞬間、指揮官の男は圧縮された。これまでのどの兵よりも綺麗に、小さく。


「方向が逆になっちまったが、まあ、仕方ねえだ」


 テスドテガッチはメイスを振り回し、硬直した兵の塊ははじけ飛んだ。血と臓物が飛び散り、それらの衝撃によっても周囲の兵が薙ぎ倒され負傷して倒れていく。


「逃げろー!」


 誰が叫んだのかもわからない声が響き、兵は一斉に逃げ出した。完全に戦意は失われた。


 その背を追ってテスドテガッチはメイスを振り下ろしていく。その歩みは先ほどまでのものではない。全力で走る怪物級の巨体は一歩一歩地を揺らし、車並みの速度で疾走する。


「逃げると時間がかかるだ……さっさと潰れろー」


 新たに現れる部隊も同じように叩き潰されていった。

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