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元プレイヤー

 初対面あいさつモードだったルキウスは固まった。

 プレイヤー、かつて? つまり引退者? 引退していたら接続できない。道を歩いていて気が付いたらここにいたということか。色々と辻褄が合わない……いや、それでも問題はない。それとも引退して普通に生活していたら、拉致されてゲームに強制接続でもされたのか。それはそれで興味深い。


「初めまして、私はルキウス。いやあ、プレイヤーの方に会えるとはうれしいですね。まずはこの出会いを祝おうではないですか!」


 ルキウスは強引に合わせにいった。営業でもまず見られない熾烈な勢いだ。

 男はとまどいながらも口を開いた。


「ええと、プレイヤーだったアマン・ヴァーリーはもう死んでいるはずです。ちなみに大戦時の話ですから大昔です。つまりアマン二号ってところかな」


 ルキウスにはまだ理解できない。しかし口元は見知った特徴的な動き。大きく上がる口角は典型的な英語話者、確実にプレイヤー。見える音も意味をなしている。


「まあまあまあ、そんな細かいことはどうでもいいじゃないですか」


 ルキウスは陽気に部屋をどたどたと歩きながら、神気を消費して静かに〔真実の部屋/ディバイントゥルールーム〕を発動させた。金を使う価値はある。そして机を挟んでアマンの向かいに掛けた。


「いえ、その……どうでもはですね」

「ならあなたはどなたかな? 言いようからするに……プレイヤーではない?」


 ルキウスが仮面の下の目を大きく開いた。


「説明しますと、生きていた私は科学術師テクノマンサーでした。その時、人格を機械に複製しまして、本体が死ぬと機械が起動するようにしてありました。ご存知ですか、人格フレームのドケイオン。イベントでたまに登場します。時間間隔は曖昧ですが、とにかく死んだのは昔です」

「つまり機械に保存した情報を、培養した人体に複製した。それがあなた」


 エヴィエーネがやったのと近い。ただし彼は電子情報からの変換。


「さすがっ!」


 アマンが前のめりになった。微妙に先のはねた眉毛が、ぴくぴく動いた。


「察しがいいですね。インベントリはありません。この体はプレイヤーではない、専門外でわかりませんが、魂は違うのでしょう。私だったドケイオンは、今の私の誕生時に破壊されています。これは十日前、あなたがここに現れた翌日です」


「私は何を言っているのかさっぱりわかりませんでしたのに。プレイヤーだがプレイヤーではないと仰られたので」


 部屋の入口にはマリナリが立っていた。


「いや、プレイヤーですがプレイヤーではないですし、そこを厳密に考えるとですね。そのなんと言ったものか」

 

 アマンがぼそぼそと言って口ごもった。


「なんというっ! 偉大さを目の当たりにしようとは! これがプレイヤーの方々だけで通じ合う秘奥の技……」


 マリナリは天を仰いで両手で何かをつかもうとしたように伸ばし、ジャンプ手前の片足立ちで固まった。

 アマンはびくっとして、怪訝な顔でマリナリを見ている。


「彼女はほら、信者だから。でもサポートはだいたいこんなのでしょう?」


 アマンの頼りなさげな視線がマリナリとルキウスをさまよった。


「これ、普通だろ?」

「……初めて見る景色ですね」

「……そうですか。サポートいました?」

「ええ、ふたり」

「こうじゃないと?」

「護衛、助言者みたいだったかな。助かりました、ひとりでしたからね。こう……一人旅するタイプじゃなくて」


 ほかのプレイヤーは違うらしい。ルキウスは職業クラス的に神だが、カサンドラやエヴィエーネも神だ。彼女たちはまったく崇められていない。

 ルキウスはプレイヤーにも広く神と認識されてる。そこが違いだ。


「まあうちでは普通です。あなたのサポートは?」

「おそらく死んでいます」


 アマンは業務連絡みたいに言った。


「なるほど、とにかくあなたはプレイヤーと同質だと理解した。やあアマン、気軽にルキウスって呼んでくれよ。長い時をかけて巡り合った同じプレイヤーだ、歓迎する」


「ありがとうルキウス。まず用件を伝えたいのですが」

「いいとも、それがわかりやすい。なんだって言ってくれ」

「私を製造した場所にある戦略AI【チャフトペリ】を破壊していただきたい。南方の砂漠地帯、この町で俗にいう、邪教徒の町にあります」


 つまりアマンはそこから来た。敵が本気のAIなら余裕なんてものはない。人より圧倒的に上だ。それを遠くからひとりで? 危険だ。


「理由は?」


 ルキウスは平然と話を続ける。


「彼は大地を浄化するのに夢中です。それが最優先目的です」

「いいやつだな」

「繁栄の土台を作りつつ、機械人が人類を統率する社会を目指している、ということです。その先は未決定ですが、まず人類を制圧するつもりです。ここのハンターにキッチと呼ばれている機械は地道に土を浄化していますが、斥候でもあり、人々の活動を監視しています」


「なるほど、真面目なやつだ。AIっぽい」

「はい、将来の楽園を夢見てせっせと浄化していました」

「そいつはいい。千年ぐらい放置しとけば?」


「駄目ですっ!」アマンが前に乗り出し叫んだ。「いや失礼」アマンは恥ずかしそうに座り直した。


「おーう、心配いりませんよ。私は十分な戦力と、大量の装備や兵器を所持していますからね。私を知っているなら、鹵獲品の多さを知っているでしょう。対処はできます」


 ルキウスは意図的に資金状況を伏せた。そしてアマンは、鹵獲品という言葉に嫌悪を示さなかった。それ以外の反応もない。具体的にルキウスの森の様子を知らない。あまりルキウスと縁がなかったプレイヤーだ。有名人だから知っているぐらいの認識。


 アマンは心を落ち着けると、また話しだした。


「私たちがいたのは頑丈な地下施設で、大戦の勃発以来長く外部から孤立していました。動けないもので、小型機械を開発して周囲を警戒したり、彼にものを教えていた。最初の接触は、帝国が併合した王国の避難民で、それを支援しました。あの頃は今ほど汚染も酷くなかったし、食料も含め、使える物資が埋まっていた。それの探索を支援すれば十分だった」

「製造設備が維持されているということですね」


「ええ、しかし、維持するのも楽ではなかった。それでチャフトペリは少しずつ自己拡張した。私は彼に積極的に人に関わり組織化するように勧めた。世代が変わるにつれ、彼の精密な予想と知識は、神と崇められるようになった。それを……私は後押しした。

 信者が、せっせとスクラップを運びこみ、施設は拡大し機械は増えた。といっても、汎用型や工業用機械が多く 労働力としての意味が強かった。この状況は長く続いた。それがここ二十年で帝国の難民が流入するようになり、彼の行動方針も変わった。学習したんです。人が統治を続けると汚染により人は滅ぶとね。

 それに今の人間の指導者はシファ・トゥメンという南部の男で死霊術師ネクロマンサーです。彼はこの汚染された世界に適応するため、すべての人類は不死者アンデッドになるべきとし、チャフトペリと共鳴しています」


 アマンは苦々しそうに語った。ルキウスは極端な連中をさげすむ笑みを浮かべた。


「戦力は?」

「帝国軍の一師団ぐらいは容易に壊滅させるでしょう。前時代の兵器を修復した物に、神代の品もある。そもそも、あれ自体がそうです」

「一軍団相手なら?」

「防戦なら勝ってもおかしくない。数は少ないですが、指導能力のある自律思考型の高等アンドロイドが八機、帝国軍を想定した兵器は多く、帝国軍の出身者も多少いますし」


(帝国との戦争に横から絡まれると困るな)


「ふーん、機械が機械を生んだか。それはだめだな」


 ルキウスは常識を述べた。


「ええ。しかしそれが生活基盤を作るのに必要でした。重汚染で通信がとぎれるから自律思考型である必要があった」

「蟲の次は機械マシン不死者アンデッドか。それで神ときた」


 ルキウスは椅子に深くもたれた。


「それにあなたがここに来て状況が変化しました。あるいは帝国内での工作に出る可能性もある」

「なるほど、つまりあなたは善意の警告者というわけだ」


 ルキウスは念押しの確認をやる。言葉以上にアマンの顔を見ている。


「ええ、まあ、あっ! 追手に注意を、私を追ってきている可能性が高い。住民にも相当数いるはずです」


 落ち着きなく左右を気にすると、立ちあがって窓の外を気にした。

 アマンにはどうも狡猾で残忍な闘争の心得がない。ルキウスが森で見かけたときに、採取地を教えてあげたり、鹵獲品を恵んでやったりするタイプだ。


「それなら窓に寄るべきではない。大丈夫、私がずっと警戒していますよ。基地の敷地内に敵はいません」

「それはよかった」


 アマンはあからさまにほっとした。


「あなたは人間の味方で、私の味方と考えていいかな?」

「もちろんです」


 アマンは神妙な顔になった。


「ルキウス・アーケイン将軍」

「んん?」


 ルキウスは言葉の意味を理解しかねた。


「どうか願いを聞いていただきたい。あれは元々私の会社の資産で、それを教育して世の役に立てるはずでしたが、この様です。子供の始末は自分でつけたいが、どうしようもありません」


「まあ危険なら対処する。将軍なんて柄じゃあないが」

「え?」


 アマンは意外な顔をして、そのままルキウスを見つめた。


「ん?」


 ふたりはお互いになんらかの齟齬が生じたのを悟った。



「二四〇〇年の一月だ」


 ルキウスは言った。


「こっちは二四〇四年十一月です」


 ルキウスがあってもおかしくないと思っていた状況。そしていろいろと気分が楽になる状況。


「うそは言っていません」


 アマンは切実そうに言った。


「疑ってはいない。プレイヤー選びの基準はわからんが、むしろ予想的中で安心した」

「ほかの誰かに会われた?」

「いや、会っていない」

「それで将軍だって? それも含めてそこまでを聞きたいなあ、仕様変更とかもあれば」

「どこから話したものか……」

「どのようにしても全部聞くことになる」

「ならあなたにとって重要なことはなんですか?」


 それは決まっている。どのプレイヤーにとってもそうだろう。


「この事態に、我々がこうなっていることに心当たりは?」

「いえ、まったく。あまり考えもしませんでした。今のように荒廃していなかったですし」

「大戦前が?」


「ええ、今は悲惨ですけど、僻地での戦争や、魔境から来る魔物や地下世界との事件があるぐらいで、中央は安定していた。それで普通に就職しましたし、風変わりになった現実の延長ぐらいの感覚でした。仕事はここでも技術者で変わらないし」

「なら、アトラスで二四〇四年までにあった変化を」

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