騒乱3
「それで話が済むわけはなかろう。信心が足りないようだな」
神官がヴォルフの胸元の赤星に一瞬目をやって言った。
「それは悪いねえ。戦車に乗ってると神は見えない。視界が悪いんでな」
「不信心者が!」
神官の声が重くなる。
「いやあ、信心は薬室にまぎれ込んだようでなあ。荒野に飛んでいっちまった。見つけたら拾っておいてくれ」
ヴォルフが挑発的に言った。
「神を軽んじるならば、いずれ訪れる不幸より守られることはないであろう」
神官は真剣に言った。
「俺にそんなこけおどしは効かん。小細工は全部見えるんでな」
ヴォルフが頭のゴーグルを指先でさっとなでた。
二人は仏頂面で黙る。そこにレミジオが出てきた。
「俺が代わろう。話がまとまりそうにないんでな」
「神父が言うなら代わろう」
ヴォルフはゆっくり向きを変えて自分の席に帰った。
ハンターは教会の世話になる場合がある。組織間の小競り合いは珍しくないが、軍と同時はありがたくない。
何よりほぼ教会だけができることがある。
信用と金があれば治癒のための魔法薬はギルドを通して買える。問題は修理のほうだ。
卓越した〔整備士/メカニック〕は材料があれば、超常的な〈修理〉スキルにより、材料の金属を粘土をこねるようにして小さな亀裂ぐらいは完全に塞いで修復できる。
軍の最上位であれば、消耗品ぐらいはまるまる作り、鋼鉄の車両は真っ二つでも傷がわからないように直す。回線の断裂など、ついでの仕事だ。
民間の整備士ではそこまでの技量にならないが、仕事に不足はない。
問題は材料が確保できないときだ。神代の物だと破片すらないのは珍しくない。
機械を得意とする上位の神官は、修理の触媒――名工が長く使った工具など ――さえあれば、それを消費して問答無用で治せる。整備程度ならもっと安い触媒済む。
つまりハンター活動は教会の権能に依存している。当然、怪我も魔法薬より神官が治した方が安い。
その一方で教会からしても、ハンターは無視できない顧客だ。
レミジオが帽子のつばを上げて、気持ち居住まいを正した。
「それで用件はなんでしょうかな? メルセン司祭」
「ニコリーニ神父、あなたであってもこちらの方針に従ってもらいますぞ」
メルセンが言った。
「ちょっとばかり説教をしたいということですかな? 彼らが酔っぱらわない程度の長さにしてもらえるなら、よく聞くように言いますが」
「邪教徒です! 邪教徒が街に被害を与えたのですぞ。事は重大、今すぐに邪教徒を狩りださねばならない。疑わしい者はすべてです」
メルセンが興奮した。レミジオの表情は冷淡。演技だとわかっているからだ。
「どうやら不幸にも情報の齟齬がある様子、でなければ日々の修行によりお疲れかな、メルセン司祭。街で暴れたあの男は、邪教徒を掃討したと聞いている。ならば教会は賞賛してしかるべきではないのか。ともすれば、男を捕らえたという軍に待遇の改善を求めてしかるべきでありましょう」
レミジオは丁寧に言った。
「トレジャーハンターギルドからの報告書によれば、それを見たのはデクタ本人のみ。信用できません。何より困難な状況より一人で戻ったと考えるのは不自然。本人は本気で言っていても、偽の記憶をかまされている可能性はある」
「そのような精密な精神操作など、大戦以来、実例はありませんな。どんなものでも術者と距離が空けば長く維持できない」
「邪教徒であればできてもおかしくはない。奴らが独自に発掘をしているのは、あなたもご存じのはず。何よりよこしまな行いに長けております」
「実際に戦われたこともないのに、訳知りなご様子。神託でも受けられたのかな。それとも愉快なお友達でもおられるのか」
「勘ぐられることもない。邪教徒の邪悪は常に自明である」
「確証なしで、先走りすぎではないか」
「近年、街で怪しげな落書きを目にする。邪教徒が潜んでいるのは明らか。それがついに行動を起こした。そう考えるにふさわしい被害が出ております」
「さてな。司祭も軍を殴ってやりたいと思うことはあるのではないですか? ともすれば、あの男は神の遣わした使者かもしれない。軍の強権が過ぎるとな」
「兵をことごとく殴り殺したと聞いている。そのような野蛮が、神意であるはずがない」
(乗ってこない。軍は失態で面目丸つぶれ、やりやすくなっている。それでも実被害の出た軍からはむしれないか。邪教徒で、本土からせっつかれたか)
「つまり教会は誰が邪教徒か判別できるにもかかわらず、これまで放置されたということですかな?」
レミジオが考えたのは一瞬だ。
「そのような事はない。常に努力しているが、易い手段の確保にいたらない」
「それなら調査の上、証拠を揃えてから参られるがいい。ハンターは易くない」
「今は平時にあらず、疑わしい者はすべて調べるべきだ」
「ならばまず調査するべきは南方の邪教徒の巣。あちらは確実。教会から軍に訴えかけて、討伐を実現していただきたい。ハンターも依頼があれば受けるだろう。それにはぜひ教会も参加願いたい。我々が奴らの巣の真ん中まで案内してさしあげよう」
「私にそれを決定する権限はない」
「これはこれは。邪教徒の息の根を確実に止められるのですがね」
「準備が必要だと言っているのです」
「ならば今すぐ帰り、上申されよ」
ふたりとも踏みこまない。神官による同一話題論争の最長記録は七十三年だ。
「私の仕事は調査である」
「デクタ本人がなんの加害行動もしていない以上、こちらにはなんの落ち度もない。教会に使える権限はないはずだ」
レミジオが少し反って言った。調査権は軍にあると言えば、ほぼ確実に帰るが、逆に軍が戻ってきかねない。教会案件のほうがいくらか融通が効く。ここでは軍が強い。
「戦闘能力のある身元不明の者をここに運んだのは確実であり、邪教徒の選別は我らの権限」
「遭難者を街に運んだだけだ。あとの事はすべて本人のみが責任を負う」
「それが不確かだと言っている。計画があったのではとな。よって調査が必要だ」
「憶測でしかない!」
緊張感のあるふたりの目線が、静かに横にずれた。
いつのまにか小柄な男が二人の間に近づいている。
四つ星の思慮深きローランドだ。ハンターたちが少しどよめく。
「ちょっといいかね。そこのに聞きたいんだなあ」
レミジオは怪訝な目で思慮深きローランドを見た。何しに来たのかと。
見るからに貧相な男が出て、メルセンは内心で喜ぶ。
熱心で優秀な成績を修めた神官が、急に熱を失い、教会を出ることはたまにある。
外で布教すると言えば、止めることはできない。
過去、組織を離れた僧侶を妨害した際、公金で支援しているにもかかわらず職務を妨害したとして、政府の介入で妨害した教会が閉鎖された。政府は教会を出る僧侶が増えることを望んでいる。
レミジオもその口だ。優秀で、教会に従わず、民間では支持されている。教会内にも共感する者は多い。さらに子供の時に臨死体験で神の声を聞いたとの逸話を広めたのは政府だ。
面倒で強く出るのはためらわれる相手。
相手が素人なら、むやみに説得力を発揮する〔導きの声/ボイス・オブ・ガイダンス〕が効く。一人に効けば多少は伝播する。
邪教徒との関わりを信じこませられれば、対象は孤立する。それで最終的に身柄を確保できれば、確実にハンターの行動規範から問題を発見できるだろう。それは軍とギルドとの交渉に使える。
そこまで行かずとも、ギルドへの借りぐらいは作りたい。
「なんですかな? 疑問があるならなんなりと教えて進ぜよう」
メルセンの声に少し喜びが混じった。
「聞いてるとよお、疑わしいってなあ。そりゃあ、あんただってそうじゃないかい? 疑わしい」
ローランドがたどたどしく言った。
「何がですかな?」
「そもそも、あんたが正しい神に選ばれてるのかってな」
「それは我らの力によって証明されておる。我らが振るう奇跡こそ正しき信仰の証」
「魔法なら超能力者でも魔術師でも魔法は使うだろ?」
「奇跡による癒しは神が与えた力であり、我らだけが行使できる」
「でも、火を出すのはおんなじだよなあ?」
「それは判断手法がある。儀式場などの仕掛けが必要になるが」
メルセンは基本的な返しをした。
「なら、その儀式とやらは邪教徒も確実に判別できるってのか?」
「我らと邪教徒を比較するな! あの怪しげな儀式に興ずる連中が正しき道と申すつもりか、人の頭を串に刺して並べるような連中が!」
メルセンがすごんだ。同じ信仰術は区別がつかない。行動内容で分けるしかない。
「そうじゃねえけどよお・・・・・・」
「正しき神は一つであり、それは我々です。教会への協力があなたの幸福を招くのです」
メルセンが優しく言った。
「おい、ローランド。ここは俺の領分だ」
レミジオが刺す声で言った。思慮深きローランドはぼけっとして、何も考えていない顔だ。
「いいや、ここは俺がやるぜ。頭に・・・・・・光が来てやがるぜ」
ローランドの眼の合わない焦点に、レミジオが顔をわずかにしかめる。まずメルセン、次に遠くのマリナを見た。彼女は窓の外を見ている。
「神の意志ってのはどうやれば知れるんだ?」
「神意を知ることができるのは選ばれた僧侶のみだ。下級の者はそれに従う」
「邪教徒は選ばれていないとなぜわかる?」
「正しい神は機神のみである。よってそれ以外の信仰により力を行使するものは邪教徒である」
「神が一つであるのに、奇跡が複数に分かれるのはなぜか?」
「人ひとりではすべてを扱いきれぬゆえに、扱える力だけを授けてくださる」
「つまり正しき神の僧侶は万能ではない?」
「しかり」
「力を与えたのが悪魔でないとなぜ言えるのか?」
「教会と邪教徒の行いとは似ても似つかぬ!」
「悪魔が偽装し、故意に混じったなら行いは同じになる」
「いや、混じることは・・・・・・」
メルセンは言葉に詰まった。教会内でも確認程度に調査はしている。
「混じっていればわからない。邪教徒はよこしまな行いに長けるとあんたは言った。悪魔ならばいっそう長けていよう」
「そのようなことはありえぬ。すくなくとも確認はされていない」
「あんたに自覚がないだけでは? あんたは自覚がない。欺かれている自覚が」
ローランドがくり返す。
「僧侶でない者にはわからぬだけで、高位の僧侶同士では同じところに属しているかは感覚でわかる。その力も信仰により授かったもの。その神意が教会の権限を保証しているのだ」
「あんたはそう主張してるが、我々は区別がつかない。そもそも調査を求めるのはあんただ。あんたも区別がつかないのだ」
「識別には手間がかかる。あなたはどこかで邪教の影響を受けている。だから疑う。邪教に対抗するには訓練が必要なのだ」
「いや、俺は熱心な信徒だ。んなことはねえ」
「巧妙な工作に市井の者は対抗できぬ」
「ふむ。今ここに対立が生まれた。あんたによれば、正しいのは一方のみであり、どちらかが間違っている」
ローランドが急に大きな声で言った。さらに続ける。
「大衆にわかるように示されない神意に、大衆が従う道理なし」
こいつ、何か危険な事を口にしようとしている。論の気配が固まりつつある。
「あなたも我々の力の恩恵を得ているはずだ。それが神意である。意志は明確に示されている」
メルセンはやや早口で言った。この恩恵は否定できないはずと。
「語るに落ちたな。あんたは示せる力をもって神の代弁者の証とし、神の意を語った」
「それの何がおかしい」
「そもそも、異端審問も含め、現在の教会の権限を定めたのは第二代命鋼帝である。だとすれば、教会に強大な力を与えた命鋼帝は神である。認めるか? 命鋼帝こそが神であると。それとも否定するか? その場合、神意を定める者をどう位置づける? 教会の最高位に置くか? それとも神意が無くとも従うのか?」
皇帝の名前を出した、盾にしている。ハンターは権威を嫌うものだが。
教会の神学において、皇家に関する議論は避けられている。皇家と間柄は、教会の立ち位置に関わる神経質な問題。教会には皇帝の血筋はいない。一定の距離がある。どちらが上でも下でもまずい。遠くでも近くでも困る。
「それは違う。上位の僧侶であれば、神意を知れる。皇帝に従うのも主がそう望まれたからだ」
「そのような都合のよいことがあるか! ならばなぜ教会の庇護者である皇帝には神の加護がない? 奇跡の発露を信仰の証としていながら、別の場面では秘奥とする。そこには基準が無い。それこそ神によって明確に示されるべきだ。さらに政府はそのような布告を行なっていない」
「それは・・・・・・」
政府は布教の独占を認めているだけで、正当性は保証していない。教会内の争いにも定める道義にも関与しない。
これは信仰に関われば不幸があるとの、初代からの言いつけが守られている。
説明できる理屈はあるが、一般向けではないし、教会を立てられるほどの量の書籍から引用する必要があるはずだ。
「神意は通常、秘されるものであって・・・・・・一般の信徒には直接示されぬ」
メルセンは窮した。力の発露は正しさを保証しない。何より魔法が効いていない。
「続けるのか? この話を? とり返しがつかなくなるぞ」
レミジオが言った。メルセンは一息で精神を整えた。
「名も知らぬ方、皆が神について理解を深めていただくのに、協力していただいた。感謝しよう。話が長くなった。祈りの時間ゆえ失礼する」
メルセンたちは足取りを揃えて去っていった。
扉が閉まるまで静寂があった。それが一気に消しとぶ。
「どうしやがった思慮深きローランド? 悪酔いして神の声でも聞いたのか?」
「さすがに思慮深いぜ、ガハハハ」
周囲の酔ったハンターが、彼を囲んで揺さぶる。
「いやなんか、言わなきゃならねえと思ったんだよな。言葉が湧いてきたぜ」
思慮深きローランドは首を傾げて、頭をかいた。
「おいおい、神に選ばれたんじゃねえのか」
レミジオが騒ぎを無視して、速足にマリナのいる机に戻った。そして目を見開きささやく。
「またかよ。おい、またかよ、まただな?」
「何が、でございますか?」
マリナが不思議そうに言った。
「思慮深きローランドに決まってる。やっこさんにあんな頭はねえ。メルセンがなめてたとしてもだ。頭が割れれば、中から錆びたナットがわんさかが出てくる男だ」
「ならば神が言葉を与えられたのでは?」
「そんなに神にやる気があればな、俺はもっと信心深くなってるぜ」
「神を安く用いるとああなるのでございます。あの方の神は、詐術をお気に召されるようで。それに頼りすぎた結果です」
マリナが笑みを浮かべて言った。
「奴の声がよく通るのは有名だ。説教役としては優秀だぜ」
「だとしても神をうかつに盾にすれば砕かれましょう。神意は神意であるがゆえに神意なのです。神以外が語ることはできません。ただ察するのみ」
「・・・・・・それじゃあ何もわからねえ。存在すら不確かだ」
レミジオは酒をあおった。
「もし言葉をいただくことがあっても、その意は別にあるやもしれず、表現以上に単純で、そのままの意味やもしれず、意は状況から認識するしかない。そもそも恩恵などと・・・・・・人に神の行為は評価できない。恩恵に見えたものは、罰かもしれず、悪魔の誘いかもしれません」
「熱心だな。神意の判別と解釈は、分厚い法論書に敷きつめられたこまごまとした文字の並びだ。神意はそんな文字の廃棄場に埋もれちまってるのさ」
「なんであれ、思慮深き、と呼ばれるだけの事はあるのでございます」
レミジオは、酒を片手に騒ぐ思慮深きローランドの集団を見た。
「思慮深きは、あいつが万全の準備にこだわって、おいしい発掘品を二回連続でほかに越されちまった時に付いたあだ名だからな」
「もちろん、知ってございます。ご本人に確認いたしましたので」
「本人に聞いてやるな。自称しない場合はなあ、なんかあるんだ。ちなみに俺は神父なんて大層な呼び名で呼べと言ったことはねえ」
「わかってございます。レミジオさんとはそのような水臭い仲ではございませんし」
「あのなあ・・・・・・」
レミジオが困っている頃、ヴォルフは奥にあるカウンターへ移動していた。
「おーい。終わったぞー」
ヴォルフがカウンターの奥の扉へ声をかけた。
フロストウィーターが、おそるおそる扉を開けて出てきた。
「どうなったんだい?」
「ひとまず帰った。軍も教会も」
「教会にまでにらまれる覚えはなかったけどねえ」
「あの砂漠向きの車だろ。あれの権利でも確保したかったんじゃねえかな」
ヴォルフが盛りあがってきている酒場全体を見た。
「集合、上のほうのリーダーはカウンターに集合だ」
ヴォルフが呼びかけると、十数人のハンターがカウンターに集まった。
「これでどうなる? 街の気配はちょっと不安ってところだが」
「全員で手持ちの装備の確認が必要だ。先の連合戦おかげで組みやすいだろ」
「軍はどうせ上官へのごますりの点数稼ぎだ。教会に力押しはない」
ヴォルフが言った。
「いや、わからんだろ。外部の侵入者があんな派手にやったことはないぜ。百人以上やられたって噂だ」
「誰かが責任を取る事態に思えるが」
「だとして、本当に一戦やるのかよ。車両数じゃ倍以上違うぜ」
ハンターが口々に言った。
「そりゃあやりたくないがなあ、完全に言いがかりの逮捕例を作ったら終わりだ。終いには全員廃業することになる」
ヴォルフが言った。
「戦車部隊での威嚇ぐらいはあるかもな。ならギルド区画の角をとって封鎖の準備をしておく」
「こっちも威嚇に戦車と砲を並べようぜ。普段使ってない大口径砲や特殊砲に、倉庫でほこりを被せてる連中は多いだろ? 固定すれば使えるぜ」
「生きて帰ったってのにこれとはねえ。歓迎会は望めそうにないね」
フロストウィーターが嘆いた。
「そもそも単独で南を攻めるからだぜ」
「そうだ。単独で南部なんかに行くから」
「仕方ないでしょう! やばくなれば普通は逃げられるんだ」
フロストウィーターが言った。
「冬に【棘の車輪】の連中が帰らなかったのも同じかもしれねえな。全滅しそうにない編成だった」
ヴォルフが言った。
「仲間を捨てるからこうなったんじゃないか? そうだろう?」
「あの状況じゃあれしかなかった」
フロストウィーターが過去をふり返った。
「まあまあ、いいじゃねえか。【熱き鉛の知らせ】の内輪の問題だ。こいつのおかげで俺達は、邪教徒が電装を破壊する情報にあずかれてる。こっちは報告にあげてないからな。軍が痛い目を見ても知らねえ」
ゆっくりと集まりに来たレミジオが後ろから言った。
「そいつは大きい。一発だが現物もある」
「車両は持っていかれまったが。まあ、あれが発掘品なら性能確認は正常処理か」
「人も拾ってきたがな。大して訓練もやってねえ態度のでかい連中がおっちんだのは最高だぜ」
「荒野で困った人を見つければ、街に送って世話をするのは当然のことでございます」
マリナが胸を張って言った。
レミジオが半口を開けて、何か言いたげな表情で、帽子の角度を深くにした。
「そうでございましょう? レミジオさん?」
マリナが言った。
「とさかが付いていれば、少しは考えたろうよ。次は素通りするかもな」
「それより邪教徒は、車を奪われてどう思うのでございましょうか?」
マリナが言った。
「やったのが誰かわかったら、殺しに来そうだな」
「ありえるな、ちらっと見たが特徴的だった」
ハンターたちが言った
「スラムでは、街から遠い外側の住民は邪教徒との取引があるとの話は前々からですので、ある話かと思われます。彼らも街に人を遣っているでしょうし、いずれ外に連絡が行くのでは?」
マリナが淡々と言った。
「やめておくれよ」
フロストウィーターが嫌そうな顔だ。
「あいつらに理屈は通用せんぞ。教会と違って信仰最優先だ」
レミジオが言った。
「この中にいたっておかしくはねえ」
「ここにはいないと思います。皆さまは裏表のない方々ですから」
「確実か?」
レミジオが言った。
「おそらくでございます。酒席で人は気分よくしているものでございますから」
マリナリが言った。
「そっちはどうにもならんだろ。教会の判別はあてにしないほうがいい」
「とりあえず街から逃げたことにしとくか。それでしばらく隠れていればいいだろ」
「だとしても、ここに爆薬抱えて突撃してくるかもな。地雷人間に会ったことがある」
「物資はあるのか? ギルドの在庫は?」
ハンターの言葉がやんだところで、ジョッキをふいていたマスターが口を開く。
「昨日の騒ぎが始まってすぐに、酒、弾薬の買いつけにやった。注文も出せるだけ出してる」
ここで五代にわたって酒場をやっている血筋だ。争い事には慣れている。親戚の多くは、安全に暮らすために有意義な商売をやっている。
「さすがマスター」
「まずは飲みなおしだろ」
「そうだな、酒、酒」
「飲まないとやってられねえな」
酒の心配が解消されたハンターは盛大に酒盛りを続けた。




