騒乱2
「誰も全然鍛えてねえな。師範級はどこにいる?」
スーザオは黒い電信柱の上で屈んで思案していた。
日が暮れてから、そう時間は経っていない。騒乱を嫌った民間人が夜の街から消え、軍の小型トラックとバギーが道を走るようになった。
街灯があるのは主に大通りと街の外周で、それ以外は暗い。窓の明かりは中心部に集中している。
六人一組の歩哨が所々に配置されている。
これの士気は高くない。きょろきょろとして落ち着かず、あるいは退屈そうに話している。何か愚痴でも言っている顔だ。
「軍服は覚えた。で、あれが戦車か」
かなり遠方の道の中央に戦車が一台と、随伴歩兵部隊がいる。大型の魔物に対処する構えだ。
戦車はコモンテレイ基地をはじめとする重要施設へ通じる幹線道路を警備していた。
スーザオはその戦車群の配置をいくつか確認した。友軍を支援する配置を除けば、砲の反対側はおおむね同じ方向。
「あの道の先に大将がいるな、街の南西、外寄りか」
スーザオが見る遠方には、広い敷地を囲むコンクリート壁がある。
「だがまだ戦車とやってねえ。あのペラペラの薄い戦車は手応えがなかった。ありゃ、幻術だ。さあ・・・・・・やるか!」
スーザオは電線の上を静かに駆けた。そのまま誰も捕捉されず戦車の近くの電信柱まで到達、戦車の上へ跳んだ。
戦車機銃の兵の頭を派手に蹴って車上から弾き落とし、砲塔に右の拳を付けて着地した。スーザオが深く息を吐く。
「コオオィ」
ビリィと音がして、右手の付近で細い光が流れた。その音で随伴歩兵六名が硬直して、スーザオを驚きの目で見た。そこを飛び降りて一瞬で殴り倒す。
「ハッチを閉めろ、取りつかれた」
戦車の中から声がした。すぐにハッチがガチャンと閉じる。
「回頭できません!」
「電源が落ちた! 再起動できない」
「なんで動かない!」
スーザオは戦車が擱座したのを確認すると、興味を失った。中で何か騒いでいるがどうでもいい。
「よし効いてるな」
彼はゆうゆうと倒れた兵士の荷物を探り、手榴弾を三つ奪った。
それを数百メートル先を封鎖する四両編成の戦車部隊へ次々に投げる。
兵士が慌てて逃げようとしたところで、手榴弾が炸裂。破片を浴びた兵士が転がる。
そこへ手榴弾を追うように駆けよったスーザオが、次々に戦車の後部に触れる。光が弾ける。この戦車も行動不能になった。
近くに倒れていた兵の一人が発砲した。これを硬い手の甲でたやすく防御、すぐさま射線から逃れ接近、銃身を握りつぶし、兵に打撃を入れて終わらせる。
ここでも手榴弾を奪った。
これに、二区画先、六百メートルの距離の部隊が反応、歩兵と戦車の機銃が散発的な射撃を開始した。小さな光がまたたく。
スーザオは逃げずにそちらへ一直線に駆ける。そこに銃弾が集中した。それでも彼はひたすら加速する。
照霊寺の技は四つの基本状況に対処できる。
対銃器の空気功による逸らし。
対機械の雷気功による電子回路破壊。
対空の爆気功による人間ロケット。
対魔法の波気功による相殺無効化。
スーザオは弾丸の海の泳ぐ。気功で保護された体は猛烈に滑るスーツを着ているような状態だ。
強度で弾丸を弾き返す硬気功ではなく、薄い防御膜で体表面を滑らせる。ただの金属では、よほど鋭利な物が完全な角度で入らないと、物理法則にしたがって後方へ流れる。
硬気功は防御より攻撃に用いるべきもの。
原則として、敵の攻撃は受けるより避けるが上。
スーザオは戦車が近づくと、走りつつ手榴弾のピンを抜き握った。戦車の操縦手の視界を確保する視察窓をその拳でバギンとぶち破り、すばやく手を開いて抜く。
スーザオは減速していない。
その勢いで戦車を飛びこえつつ砲塔の機銃手を粉砕、戦車後方の随伴歩兵の集団の中央に突撃、押し分けるように二人をつかんで投げとばした。残りの兵は飛んできた兵の質量に叩きのめされる。
遅れて戦車内では爆発音がした。
スーザオ相手では戦車は機能しない。主砲が活きる距離ではなく、街中のせいで榴弾にガス弾も使えないし、接近してくる敵では壁にもならない。
スーザオはそのまま五区画分を一気に走り抜け、コンクリートの壁を飛びこえた。
そこはコモンテレイ陸軍基地だ。
彼は手頃な建物の屋根に上がると、中心部に造りが違う白い大きい建物を発見した。
「あれだな」
すぐに飛びおりて、静かに走って近づく。ちらほらと人の気配があるが、大将首以外に用はない。
建物の隙間にある砂利の広場に出た。道からはずれているせいか、人がいない。
「ぬ」
そこでうぶ毛がそよぐような違和感、何かが頭に接近している。
雷迅の知、雷気功は短距離の索敵としても機能する。
彼は急な動きで姿勢を低くしてかわした。たしかに何か通過した。物は見えない。
近くには誰もいない。見えない斬撃、スーザオは姿を消した敵がいると判断した。
足元の砂利を巻き上げるように蹴り、広範囲に石をばらまいた。何も起こらない。
スーザオの表情がいっそう鋭くなった時、次の斬撃を察知した。
やや低きから左の脇腹へ上がってくる一撃と、後方から背、胸部を貫通する一撃。
左前方へと足を滑らせてながら、全身を竜巻のように一回転させて、砂利を飛ばしながらかわした。
「風がない・・・・・・斬撃じゃねえ」
スーザオがすぐに背後から正面に視線を戻した。
三十メートルの位置に力を抜いた男が立っていた。
五十を過ぎていそうな男だ。顔がかすかに傾いている。
やや小柄で、くたびれており、やる気にとぼしい目に薄いくまがある。
机に座って事務仕事中の顔だ。しかし目線はスーザオに固定されている。
黒い服には金色の刺繍で模様が描かれている。
見慣れた軍服ではないが、あれの話は御者の女に聴いている。軍の魔法使い。
基地の電灯によってわずかに照らされて白い輪郭がきわだっている。近くに伏せられる場所はない。
この距離で、幻と思うほどに希薄。
スーザオはこれに似た存在を知っている。場に溶けて気配を殺しているが、間違いなくそこにいる。
「あれをかわすか? お前も普通ではないようだ」
小さな声が至近距離でした。これは二メートル先ぐらいからだ。
こいつには距離がない。視覚は頼りにならない。
「誰だお前、何をしやがった? 言わねえとぶち殺す」
「誰だ、はこっちの台詞だが・・・・・・こっちはガルデン・ソルベイ、心覚軍少将」
個人としては未回収地で最強の軍人。発掘品を配備された特殊部隊や、戦車中隊より上になる。
「勝空羅天、スーザオ。帝国を壊滅させる男の名だ」
スーザオは楊柳の構えをとった。手を半開きにして、全身の力を少し抜き、あらゆる動きに対処できる。
あれを殴るのは危険だ。何かの力で膜を張っている。壁ではない、おそらく攻性のもの。
指先に練った気を至近で爆発させて膜を破り、そこを殴る。
「無理だな、触れもできんよ」
ガルデンは表情を変えず小さな声で言った。
「おもしれえ、揺るがぬ確信があるな」
「そっちも選ばれた人間なら、争うのはむなしい。去れ」
「ここまで来て帰るはないだろう」
気配は薄いがそこにいるのは確信できる。
(やばいジジイの半分程度の力量か、やれる相手だ)
「特別に生まれついた者同士で争うのは不毛だと言っている」
「とくべつう? 俺は普通だ。鍛えはしたが」
「・・・・・・いや無理だろう。銃弾を皮膚で止めたな。見ていたぞ、手前ではなく当たっていた。動きでわかる」
「行は普通じゃなかったがな」
「それはお前に普通ではない強度があるということだ」
「ああ、特別ってんなら言っといてやる。その服は特別に似合ってないぜ」
スーザオが敵を観察しながら気を練る。
「君とは絶対にセンスが合わないが・・・・・・これは帝国の伝統で、私の趣味ではないし抑えているほうだ。派手なやつはフリルが山盛りで服が見えない。初代皇帝の腹心だった将の趣味だよ」
ガルデンから感じる力の質は鋭利で強固な壁。破るには勢いが要る。
スーザオが爆発的に加速して突撃、そして指先に気を集中して――スーザオは全力で飛びのいた。蹴った大地が爆発し、それに比例する勢いで大地をこする。
スーザオは地面に溝を作って停止した。とっさに硬気功で強化した拳が少しえぐれている。
「無駄だ、硬さでは止められん。語りつがれる絶影のように一瞬でバラバラとはいかんがな」
ガルデンの直前で、石が見えない壁に当たって粉々になった。
スーザオの投石。ここには投げやすい大きさの石が多い。
「射程距離は短いとみた」
スーザオが獰猛な笑みで言った。
ガルデンはこの奇妙な存在を理解できないでいた。
私の名を知らないなら未回収地の者ではない。本土にこんな目立つ者はいない。魔道諸国の刺客とは思えない。となると、魔道諸国との緩衝地帯になる自由の街の出身か。
姿勢を変えず、また来た石を空間障壁で受ける。
「正解だ。能力には通う部分があるらしい」
ガルデンの空間掌握能力は近いほど正確で強く、力の発動も速い。まともに戦闘をやるなら三十メートルが限度、理想は五から十メートル。
「余裕だな」
「当然だ。早く無意味だと理解してほしいものだ」
戦闘を避けるように求めながら、ガルデンの内にはかすかな火が灯る。
自分が全力で戦う相手は未回収地にはいない。上位の空間能力者は、空間ごと敵をえぐり切断する。攻撃が成功すれば必殺、回避、相殺されればまったく効かない。
射程が短く戦争には向かない。しかしやっかいな魔物に対する最終防衛線としては確実な能力だ。認識できれば確実に殺せる。
それだけに出番はあまりなく、たまにあればさっくりやって終わり。
スーザオは接近戦を基本とする。それをやれる俊敏さがある。殺し合いが成り立つ相手。全力で力を使うに値する。
しかしそれに乗らない程度に、彼の心は錆びついていた。
能力を高めれば、転移で敵に接近、即座に攻撃、敵の攻撃は空間壁で防御、力が尽きそうなら離脱する。そんな戦い方ができる。
しかし熱心に訓練をやるような気力はない。
彼は日々をぼうっと人を眺めて過ごしている。
なぜ生きているのか? どうせ最後には何も残らないのに。
出世になんの意味がある? 立場が動いても、本質は何も変わらない。
知識を増やしても意味はない。知れば知るほど未知が増える。この世はどこまでも続く監獄だ。
なぜこんな能力があるのかという問いにも答えはないだろう。多少の興味は残っているが。
かといって、この能力が極限に達し、宇宙のすべてを掌握しようものなら、自分はきっと絶望で死んでしまう。
本土には帰らない。あくせく働き財を貯める人間を見ているとむなしくなる。
それでなんとなく未回収地にいる。何もないから、何も考えないで済む。
彼は僻地に置いても文句を言わず、上層部からすればありがたい人材だった。
今だって、心は波打たない。
スーザオが全力で石を投げた。銃弾並みの速度、一瞬で来る。
ガルデンは姿勢を変えず、右に一メートルずれていた。
「なんだろうと当たらない。防ぐ必要もない」
ガルデンが得意とする〔転移/シフト〕の魔法。短距離の瞬間移動で、空間能力者として空間認識能力により、歩くのと変わらない感覚で使える。魔力消費も極めて少ない。
「ならば石が無くなるまで投げ続けてやる」
「石は私にとっても石である」
ガルデンの手の中に足元の石が出現した。それがすぐに消える。
スーザオが爆風を浴びたように自ら吹き飛んだ。元いた場所に現れた石が落ちる。
「体にぶつかるぐらいを狙ったが、大した反射だ、だが力を使ったな」
魔術師にはできない芸当。魔術師なら正確な位置を知るのに一手を使う。その間に動かれてしまう。
しかしガルデンにとって二十メートルは、手を伸ばし物をつかむ距離感。
スーザオは無言で警戒している。
そして二発目。何をやられたか認識していれば、攻撃か退却する。
ガルデンの手から石がふっと消えた瞬間、バガーンと鈍い音が響いた。
ふたりの中間地点で石が粉々になって散ったのだ。石だった煙がライトに照らされている。
「来るとわかっていて、喰らうか!」
スーザオが投石して、ガルデンが前と同じように避けた。
(相殺・・・・・・知らない手段だな、あまり魔法的ではない)
「根競べといこうや」
「それも正解だが、一対一ではない」
銃弾とロケット弾がスーザオに降りそそいだ。やや遠目の建物の屋上からだ。
ガルデンは自分で勝負を付けるつもりもない。スーザオが神出鬼没に街で暴れていたせいで、戦闘区域を特定できず、精兵は基地に残っていた。
(基地に来る前に、どこかで気を引く程度に暴れておくべきだったな)
銃弾が集中したスーザオは防御姿勢をとり、全身に気を巡らせて強化した。
そこを狙ってガルデンが空間を削りとる。
スーザオの足元が爆発して、上に飛んだ。
そしてすでに、ガルデンはスーザオの頭上にいた。
「クソが!」
「加速が可能なら跳躍もできると思っていた」
スーザオがとっさに鏢を上に投げる。
ガルデンはスーザオの四肢の関節を撃ち抜いたように破壊した。
「ガァ!」
スーザオがうめく。
ガルデンは鏢を転移でよけている。
「これも戦いだ、残念ながら。本当に人生はつまらない」
スーザオが地面に落下していく。そして叩きつけられた。
「貴重なお客だ。拘束しろ」
ガルデンの連絡を受けて、基地の兵が集まってくる。ガルデンは仕事は終えたと仕事場に帰る。
スーザオの笑うとも睨むともわからぬ瞳は、最後までガルデンを見ていた。
五百人以上入る大きな酒場である【星旅烏の巣】は、剣呑な空気になりつつあった。憲兵隊が入ってきたからだ。
「敵を街に連れてきた者をひき渡せ! 反乱罪の嫌疑がある!」
階級の高い憲兵がつばを飛ばしてわめく。
「なんで俺達が渡すと思ってんだ? ああん?」
憲兵の前に出たのは【赤の眼差し】のヴォルフだ。
「犯罪人を引き渡すのは当然だ! かくまう者も同罪だ」
「いったいなんの根拠があってそう言ってやがるんだ? ここにはとびっきり善良な人間しかいないぜ」
ヴォルフが笑って言う。
すべてのテーブルで下品な笑いが起こった。それ見た軍人が激怒した。
「笑う事か! どれだけ被害が出たと思っている!」
「なら真面目に言ってやるよ。荒野で遭難者を救助して街に連れてくるのがおかしいか? どっちかてえと、そちらの仕事だと思うがな。これまでに何人救助したか教えてくれよ。具体的にな。そもそも善良なハンターを表彰するのが、そっちの仕事じゃねえのか。それとも遭難者を見捨てるのは軍の方針になったのか?」
ヴォルフはこんこんと落ち着いた様子で言った。
「だから・・・・・・それを調べるのだ。それが職務である」
憲兵がやや下火になった。
「ならここで取り調べをやれよ」
「そうだここでやれ」「なんなら俺達がやってやるよ」「お手本を見せてやろうぜ」
他のハンターはそれに同意してはやしたてる。
「取り調べは我々の職務だ」
憲兵が目に力を込めて言った。
「だから、それを、ここでやれってんだよ」
「我々の職務に口をはさまれるいわれはない」
「そりゃあ疑うだろが、お前らがでっちあげをやるんじゃないかってな」
どこかのテーブルから声が飛んできた。
「貴様! 軍を愚弄するか」
憲兵にまた火が点いた。ハンターたちは笑ったままだ。
「いいや、だからここでやれって言ってるんだぜ。やるよな? やらねえなら、やましいことがあるって言ってるようなもんだぜ」
ヴォルフが憲兵に迫った。これを憲兵はにらみ返した。
「ハンターは軍と事をかまえるつもりか?」
「ここにいる連中はずっと命をかけてるんだぜ。退くとでも思ってんのか? 駆け出しなんて一人もいねえよ、ここの軍と違ってな。とっくに命は荒野に捨ててきてるぜ」
これに同意してはやすハンターたちの声がわき起こった。
「どうなるかわかっているんだろうな?」
「お。戦争か? かまわないぜ準備はできてる。たいていのハンターはあの作戦の後で軽く整備はやってるからな。弾薬は十分にある」
ヴォルフは頼もしい笑顔で言った。
「・・・・・・どこまでもたてつくつもりか?」
「だから、お前らが俺らにけんかを売ってるんだろうが! 因縁を仕掛けられて黙ってるほどおとなしいのは少ないぜ。戦争が望みならやれよ」
ヴォルフがひたいを憲兵の帽子に押し付ける。二人はそのままにらみ合う。
「まあまあ、ここは平和に収めようじゃねえか」
変化に乏しい顔の大男が出た。ゆうに二メートル以上で、筋肉の鎧を着ている。
コテルノ・ローリンジャ、身体強化系の超能力系魔法使いだ。
筋力強化に、自己治癒能力がある。過去に失った指を十日で復元しており、腕が落ちても時間があれば治ると思われている。
彼の能力は戦闘より、発掘作業や車両整備に用いられていた。
「おお? どうするんだい、コテルノ?」
「渡すかどうか、平和な殴り合いで決めようじゃねえか。それで恨みはねえだろ」
コテルノが酒場のすみにあった錆びた戦車砲を担いできた。砲は四トンほどある。
「こいつでやろうぜ、安全だろ」
コテルノを見た憲兵は表情がわずかにひきつった。
「なるほど、それなら不発弾をつかんでの殴り合いと違って死人は出ねえな」
ヴァルフが最高だという風に言った。
「そうだ。俺が街中から観客を引っぱってきてやるぜ。軍が権威を示してくださるってな」
エドガーのすっとんきょうな声が飛んできた。それにヴォルフが続ける。
「やるのか? どうなんだ? 誰が出る? お前か?」
「お前らの・・・・・・そんなバカげた流儀など」
ヴォルフが憲兵を頭で押しこんだ。
「いいか、俺たちは旧技術を見つけて国家に貢献している。お前らの基地にある武器だってそうだろうが、それとも自分で掘るのか? お前らが掘れるのは墓穴ぐらいのもんだぜ。国家への貢献者である俺らと事をかまえるなら、お前の首が落ちるだけだよ」
憲兵は苦虫を噛み潰した顔をした。
「これで終わったと思うなよ! また来るからな」
憲兵は舌打ちして、酒場から出ていった。
「腰抜けが。ぐだぐだぬかさず最初から帰りやがれ」
ヴァルフがようやく一杯にありつけると席に戻ろうとした時、酒場の両開き扉が勢いよく開いた。
「ここのハンターに邪教徒と共謀した嫌疑がある! 神の目はごまかせんぞ」
入ってきたのは神官。さらに教会付きの衛兵が数名いる。
「お次は教会かよ」
ヴァルフがうんざりした様子でひき返した。
「お互い面倒だからさっと終わらすぞ。それは間違いだ。さっさと帰れ。それで祈ってろ。最近は祈りが足りてないんじゃないのか。おかげでこっちは苦労してるんだぜ」
ヴァルフが諭すように言った。




