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茶釜

 巨大なタイヤの改造バギー三台に守られて、大型の輸送トラックが走る。


 ハンター【熱き鉛の知らせ】の車列が、高速で南下しているのだ。


「ここまで軍の車両無しか」


 先頭を行くバギーの後方座席で、フロストウィーター・デクタが言った。後ろで髪を束ねた壮年の女で、熟練した印象がある。標準的なアサルトライフルが脇にある。


「やはり悪魔の腕の騒ぎで完全に出払っている、と判断していいだろ」


 ホレーショ・ベスタルが言った。頭にターバンを巻きマスクをした彼がリーダーだ。露出した古傷の多い腕は筋肉で盛り上がっており、それに類する体格により、改造した助手席でも狭そうに見える。


「そっちの面倒はないね」


 フロストウィーターは風に吹かれながら外を見ている。


「ああ、代わって厄介な魔物が進出してねえか、よく見てやらねえと」

「そろそろ砂礫に砂漠地帯が見える」


 上に飛び出た銃座の索敵係が言う。

 進路右の荒野は、砂がちになってきた。


「ちっと揺れっぞ」


 運転手が言う。バギーの振動が不規則になった。砂が深いと車両が少しうねる。

 ホレーショが探知機の電源を入れて、アンテナを気にした。


「置いてきたビーコンの反応はまだねえな」

「もっと行った所だった気がする」


 フロストウィーターが言った。


「地形が変わりやすいからな」

「どっちにしろ、もうちょっとだって、目標星が出るは待ちたくない」


 空にはずっと動かない星がいくつかあり、大雑把な目印に使われている。


「わかってら、さっさと発掘して離脱する。この調子なら、明るい内に着いて、夜間で当たりを付ける。表面が露出しているようじゃ大したものは期待できないが、骨董品ぐらいはあってもおかしくねえ」


 未回収地は南部になると砂地が増え、風が強くなる。それで埋もれた物が顔を出すことがある。

 しかしさらに南部の廃都市地帯には、多くの犯罪者がいて近づくのはリスクがあった。彼らはその危険地帯の外側を攻めている。


 彼らが発見した遺構は、おそらく過去の道路か駐車場で、音波探知では多くの車両らしい影があった。


 中身によっては高額が期待できるが、そう当たりは出ない。収穫は一部の車両パーツや、金属ぐらいの無難な仕事だ。


「数が少なければ、邪教徒をやってもいいが」

「右方、砂塵! 距離二万」


 双眼鏡で周辺監視していた索敵が言った。


「あの車両、普通の盗賊じゃねえ。話に出せば邪教徒か?」


 ホレーショは車から乗りだし、双眼鏡を覗いている。砂漠の方から、向かってくる車両が一。

 先端の尖りが船を思わせる白い車体。帝国では製造していない。


「どこかに伏せていたな」


 フロストウィーターが言った。迷彩シートがあれば簡単だ。


「全車、進路を左へ。あれの速度は?」

「トラックよりは速いだろう」


 フロストウィーターが言う。


「避けられん」

「あれだけか、他の方角は?」


 ホレーショが言った。


「発見できず」


 索敵が答える。


「後方はいないと言ってる」


 フロストウィーターが無線を取って言った。


「完全にやる気だな。周辺警戒を維持、戦闘準備だ」


 ホレーショが言った。その後、邪教徒の方から空を切る音がした。


「上がったぞ!」


 ヒューという音が近づき、消える。

 高い軌道で来た何かが、かなり離れた場所に落下した。小さな砂ぼこりが見えた。爆発はしていない。


「誘導弾じゃねえ、なら迫撃砲か? この距離でかよ」


 発掘品でなければ、普通に走りながら当てられる距離ではない。


「回避運動、迎撃レーザーシステム起動しろ。トラックは逆側に退避、本当にほかはいないのか?」


 ホレーショが言ってる間にも、次の弾が落ちた。さっきより近い。爆発しない。


「また不発か? 観測にしても爆発しねえと見えねえはずだ」

「どうせ変な物でも詰めてるのさ。避けとくに越したことはない」


 フロストウィーターが言った。


 バギー後部から迎撃レーザーが発射された。射程は五百メートルだから、その範囲に弾が来たことになる。空中で何かが一瞬で燃え尽きる。


「迎撃は効いてるな」

「次々撃ってきている、距離でやるつもりじゃないか。あるいは不利になれば逃げる気か」


 索敵が言う。


「やはり、ほかは無しか。各車の主砲でやるぞ、迫撃砲は本車が正面で惹きつける。距離三千で攻撃を開始する。ロケットも準備だ。かかれ!」


 バギーには小口径の主砲がある。バギー三台が広がり、邪教徒を包囲するように機動する。


 その時、レーザーが発射された。一本ではない。連射されたレーザーは、空で放射状になって点滅している。彼らが初めて見る光景だ。


「なんだ!」


 ホレーショが叫ぶ。レーザーはまだ止まらない。空中で多数の火がボッと燃えて、何かが粉々になっている。火の高度が下がってきている。


「何か・・・・・・振っている。来る!」


 フロストウィーターは無数のきらめく物体を空に見ていた。それは広範囲に散らばり落下した。

 彼女は近くの大地に刺さったそれを見た。あわい緑色に光る尖った石だ。それがそこら中に刺さっている。すごい数だ。バギーから、ブゥンとぶれた変な音がした。


「ハンドルが硬い!」


 運転手が叫ぶ。


「野郎、何をしやがった!」

「さっき散ったやつだよ! レーザーの電源が切れた!」


 迎撃レーザーシステム応答なし。車はゆっくり減速している。何をやられたのか、車の電装が一気に破壊された。


電池バッテリーが壊れたんだ」

「止まるぞ、どうするんだ!」

電池バッテリーを予備に切り替える」


 ホレーショが言う。


「戦闘しながら? また同じの来るぞ」

「トラックも駄目だ。遠くへ行っちまった」


 トラックも減速しており、進行方向が違ったので離れている。バギー同士はまだ近い。


「止まる前に砲を敵に向けろ」


 ホレーショが運転手に言う。


「なんとかやるが、遠すぎるだろ」


 バギーの主砲は側面にあって、同軸で回頭できない。車の向きで照準する必要があるが、現状では、運転手自慢の精密ターンもできない。砂地で一気に速度が落ちた。


「近くに着弾するぞ」


 フロストウィーターが、落下音を捉えて叫ぶ。彼女は至近距離の着弾を確信した。すぐに敵と反対側へ走る。すぐに後ろで爆発が起こり、強烈な光が前を照らした。

 

 彼女は爆風を受けて、荒野に転がった。地面で顔を擦ったが怪我はそれだけだ。バギーが燃えている。至近で榴弾が炸裂したのだ。


 同じ方向に飛び降りたホレーショの頭には大きな破片が刺さっていた。そのまま倒れて動かない。あれの傷が浅いとは思えない。呼びかけたが返事はなかった。


 フロストウィーターは逃げた。敵のいない方へ全力で走る。こちらは足が止まり、敵には迫撃砲がある。手持ちのロケット砲では対抗できない。一方的に射程外から撃たれる。勝ち目はない。


 普通の対空砲があれば水平射撃できたが、重苦しいあれを、軽くて弾も使わない発掘品の迎撃レーザーシステムに替えたのだ。すばらしい古代か神代の魔法によってメンテ不要だったが、あっさり壊れた。


 離れた場所に停止したトラックから仲間が降りて応戦している。


 今なら燃える車体の陰になって、敵から自分は見えない。バックパックと銃を持って走る。


 トラックの近くに着弾するのが見えた。仲間が一斉に倒れた。トラックはまだ無事そうだが、どうにもならない。彼女はとにかく走った。


 どれぐらいか走ったかわからない。爆発が聞こえなくなった。彼女は目標にしていた岩塊の後ろに隠れた。五百メートルは離れたのではないだろうか。


 戦闘音は完全にやんだ。邪教徒の車が接近している。かなりの大型で横に広くタイヤは小さい。すぐに岩に身を伏せた。敵がここを確認しにくる可能性はある。仲間の邪教徒が戦利品の回収のために、別の方角から来る可能性も。


 隠れた岩の周りは黒い砂だ。多少荒いが掘るのは易い。スコップを出して必死に掘る。特に顔の辺りを必死で深く掘る。車輪が砂利をよける音がかすかに聴こえた。あの奇妙な車が、バギーの前で止まったのだ。バギー座席は五つで、死体は三つだ。一つには荷物を置いてた。


 掘った長方形の穴が棺桶に見える。そこに静かに横たわり、足から砂をかける。最後にバックパックの中に顔を入れて、砂に潜った。そして頭の横の砂山を全力で引き寄せ、頭に被せた。


 それから三時間はしただろうか、彼女はずっと闇の中で汗をかいていた。いかれた邪教徒が出てくるのを待っていてもおかしくない。


 本気で悪魔を信仰している連中だ。常識なんて通用しない。


 彼女は暑すぎて息苦しさを感じた。夜を待ちたいが限界。ゆっくり体を動かして、穴から這い出る。周りには誰もいない。全力で呼吸をする。


 周囲は大分暗くなっていて、破壊されて一部が燃える車両が残っていた。全車両がやられている。仲間の死体は一つもない。


 火は目立っているが、軍はここには来ないだろう。ハンターでも来ない。バギーを確認する。価値のある物資は車両に残されていない。しかし残った金属は使える。邪教徒が戻ってきてもおかしくない。


 彼女は自分のバックパックの中身を見た。


「節約すればなんとか、何も出なければ」


 食料に水、酒は五日分ある。街までは十日はかかるが、手前の軍基地なら七日で行ける。


「・・・・・・なんとかなっておくれよ」


 彼女は北へ移動を開始した。

 魔物の襲撃に怯えながら夜を明かし、その翌日、彼女は南方に見たくないものを見た。邪教徒、昨日と同じ車両だ。


 即座に伏せる。どこかに行け。それでも真っすぐに車が向かってくる。


「完全に見つかったか、でなくてもこの方向は見つかる」


 彼女は起きて全力で走った。

 邪教徒は射撃せずに追ってくる。完全に見つかっているが、動きなし。


 いかれた邪教徒に捕まるより自殺したほうが賢明か。しかしアサルトライフルはある。


 彼女は後ろを度々気にして走った。撃ってこない。まだ撃ってこない。その奇妙な時間が続く。そしてもう、完全に射程距離のはずだ。二百メートル。


 彼女は振り返り、姿勢を低くして銃を構えた。車は四人乗っている。全員ゆったりとした黒いローブが、頭までを包んでいる。限界まで引きつけて一気に掃討する。


 相手が撃ってくれば、そこが限界。運転手に照準する。

 しかし撃ってこない。五十メートルぐらいで車が停まる。


 三人が降りた。一人は車を運転している。

 リーダーっぽい髭の男が血走った目で言った。


「おお、感謝するのです。あなたは神に捧げられる権利を得ました。さあ、我らと共に神に全てを捧げるのです」


 その気味の悪い表情に、彼女は発砲した。倒れない。さらに発砲しても誰も倒れない。


「・・・・・・確実に当たったはずだ」


「神の前には、そのようなものは無力なのです」


 髭男が言う。そして手をかざした。荒野の石が複数浮き上がり、発射された。フロストウィーターを打ちつける。苦痛を感じるが、死ぬような傷ではない。


「魔法かよ!」


 彼女は恐怖でまた逃げ出した。しかし、どうにもならない。相手には車がある。


「喜べ、罪深い人間よ。神に恐怖を捧げるのだ」


 愉悦を含んだ叫び声が聞こえた。


「いかれてやがる」


 奴らは物取りではなく、儀式的な何かで行動している。これもきっとそうだ。


 進行方向に岩がある。伏せれば全身が隠れるぐらいの岩だ。ほかに岩はない。あの向こうに伏せて、一度視界を切って、寄ってきたら、ゼロ距離から全弾を連射で撃つ。それで駄目なら拳銃で終わるしかない。


 邪悪な力の射程に入れば、自殺もできなくなる可能性があるが、彼女は覚悟を決めて岩の向こうに滑りこもうとして、派手にけつまずいた。


「なんだっての!」


 ガランと金属音がした。何か金属を蹴ったのだ。黒い膨らんだ楕円形の物体だった。これが位置を先取りしていたらしい。影に黒で見えなかった。


 彼女は苦しまぎれに黒い物体を邪教徒に向けて蹴った。なんの意味もない行為だった。黒い物体は邪教徒の横までゴロンゴロンと不規則に転がって止まった。 


「神を受け入れよおお!」


 髭男がこちらに手をかざす。きっと、力の射程に入っている。撃つしかない。


 彼女がそう考えたが、引き金を引けなかった。


 妙な男が、最後尾にいた邪教徒の肩を横からつかんでいたからだ。

 いきなり現れた、すごい髪型の、若く屈強そうな男。


「お前か、俺を蹴りやがったのは?」


 獣じみた声に邪教徒が一斉に振り返る。

 妙な男は大柄で、見慣れないゆったりした灰褐色の傷んだ上下を着ている。上には袖が無い。腰の黒い帯には多くの道具が付いている。


 何よりの特徴は髪型、顔以上の長さの髪が直立している。それも全ての髪ではない。立った髪は×の字だ。それ以外の部分はきっちり剃られている。剛の表情からは凄まじい覇気を感じた。


「どこから出やがったてめえ!」


 肩をつかまれた邪教徒の男が、おののいて叫んだ。そして拳銃を抜いて頭へ発砲した。至近距離だ。


「これが本物の銃か、なるほどな」


 信じがたいことに、奇抜男は指と指の間に銃弾を挟んで止めていた。そしてしばらく弾をまじまじと見つめた。邪教徒たちが停止している。

 奇抜男は「アツゥイ!」と銃声を思わせる鋭い声で叫び、その指を軽く外側へ動かした。


 発砲した男が低い悲鳴をあげ、よろけた。目から出血している。銃弾が目に刺さっている。




 スーザオの目覚めは最悪だった。これが僧房であれば、とりあえず同室のケツァイを殴っただろう。


 しかし機嫌がよくなってきた。銃だ、銃がある。いかにも悪相の男達だ。こいつらが、帝国兵に違いない。つまり不倶戴天の敵。

 旅に出て、邪悪の森で地獄の生活を送り、辛気臭い荒野でまずい飯を食った甲斐があった。


 目をやられた男の隣の男が、アサルトライフルをスーザオに向けた。


 スーザオが即座に一歩を踏み出し、さらに腕が動く。腕の動きは滑らかで止まっているようにすら見えたが、一瞬にして静かに、その男の頭を軽く撫でた。


 男が銃をスーザオに向けたまま寸刻停止した。そして撫でた逆側が内より爆発して倒れた。


「邪な考えで濁った頭はよく爆ぜる。反省して生まれ直せ」


「撃てええい! こいつを撃つんだ」


 髭男が叫んだ。


 立ち直った目をやられた者と少し離れた車の運転手が、同時にアサルトライフルを発砲する。


 スーザオは両手を横に広げ、手先で弧を描いた。

 スーザオを側面から挟撃した全ての弾丸は、彼を避けて通過した。

 弾が撃ち尽くされ、彼は腕を下げた。


 空気功、気の流れが空中に道を作り、すべての弾をそらした。


「やはりお前達が帝国兵だな?」


「ハアア!」


 髭男が両手をスーザオに向けた。


「ぬ!」


 強烈な圧力がスーザオを全方向から圧迫している。大岩を乗せられたようだ。体が動かない。


「馬鹿が! 俺は信仰に目覚める前は心覚兵で、四年で大尉になったエリートよ。その時点で、戦車より強い。そして我が神に与えられた神薬の恩恵を得ているのだ。弾を装填しろ!」


 髭男が仲間を急かした。


 この時、フロストウィーターは迷っていた。念動力者らしい邪教徒はスーザオに集中している。攻撃は通るはずだ。


 しかし、彼女が銃を動かそうとした時、スーザオがワシのような目で睨んだので、彼女は銃から手を離して、弾が来る可能性が低い場所で伏せた。


「フフハハハ! 恨みはないぞ。我が同朋の魂は、神に捧げられた」


「それはない。確実に輪廻に返した」


 スーザオが静かで強い声で返す。


「ふざけるなあああ! ありえんぞ」


 髭の男はスーザオへの力を込める。首への力が強まり、締めてくる。元々恐ろしいスーザオの表情が、より際立った。


「今だ、撃て!」


 髭男の声と同時に装填した二人が発砲する。


「ヌウウ!」


 これは当たっている。しかしいくらか皮膚を叩いただけで、弾は荒野に転がる。そして弾は尽きた。


「なんだ、こいつは!」


 硬気功、気によって体の強度を高める。


「化け物め、貴様こそ神敵だな。神に捧げるにふさわしい。俺が殺してやるぞ」


 髭男から放たれるオーラが劇的に強まった。命を削った攻撃とスーザオは看破する。


 スーザオは手を合わせ目を閉じた。体の中心に気を集め、球を作る。それは弾け、重くゆっくりとした波となって広がる。


 体を拘束している力が消えた。


「ザァアァイ!」


 スーザオの切るような絶叫、髭男以外の二人が同時に倒れる。

 腰にあった鏢を、動けるようになった瞬間に投擲したのだ。片方は首、もう片方は頭に刺さっている。


「こっちも飛び道具ぐらいある」


 スーザオはさらに髭男へと距離を詰める。


「ウハァアイ!」


 髭男は異様な形相で悲鳴を上げながら、空へ飛びあがった。一気に百メートル以上の高さへ到達する。そしてローブの中から、筒を取り出した。


「貴様がなんであれ、ここにはこれまい。神から頂戴したプラズマ爆弾を喰らえい」


 髭男は手に持ったものを投げようとして止まった。そして視線を盛んに動かす。大地にスーザオの姿が無かったからだ。スーザオは髭男の正面にいた。脚に集めた気を爆発させて自分を撃ち出したのだ。


「空ぐれえ、誰でも鍛えれば飛べる」


「ウオォーー!」


 髭男は悲鳴に近い叫びをあげた。スーザオに向かって強烈な力が集まる。同時に爆弾の栓を抜いた。

 スーザオはそれの発動を待たない。


「ザアァァクッ!」


 スーザオの正拳突きが収束しかけた力場を貫き、髭男のあごを砕いた。


「ギャブヒッ」


 間髪入れず頭部への蹴り、これが首を折った。髭男が落下していく。そして地上で強烈な青の光を発生させ爆発した。


 スーザオは腕を組んでフロストウィーターの真ん前に真っすぐ降りた。


「お前は帝国兵か?」

「ち、違う」


 スーザオが即座に顔に張り倒した。フロストウィーターは急な衝撃で倒れた。


「うそ言ってんじゃねえぞ。罪を重くするな」

「ち・・・・・・違う」


 フロストウィーターは頬の傷みを我慢してなんとか声を出した。


「銃を持ってるだろうが!」


 スーザオは鬼の形相で叫んだ。


「銃なんて誰でも持ってるでしょ」


 フロストウィーターは探るように言った。


「そうなのか?」


 スーザオは真顔で言った。


「そうでしょう」

「俺は持ってないが」


 スーザオは理解しがたい発言に悩んだ。これは厄介な問答なのかもしれない。


「じゃあ、銃無しどうやって生きていくのよ?」

こぶしがある。お前にもあるだろ」

「いや、無理でしょ」

「体を鍛えろ、それとも病人なのか」

「・・・・・・病人みたいなもんよ」


 フロストウィーターは会話をあきらめた。


「病人ならば、やむなしっ!」


 スーザオは納得した。


「だいたい軍服も着てなければ、階級章も無いでしょう」

「なんだそれは?」

「軍人なら、そうとわかる物をわかりやすく付けてるでしょ」

「なぜだ?」

「わからないと仕事にならないでしょ。知らないの?」

「絶学無為を知らんのか!」


 スーザオは必死の形相で言った。


「・・・・・・知らないけど」

「やむなしっ!。ならば、緑のにょろにょろを知っているか」

「・・・・・・どんなものよ」


 フロストウィーターは怪訝そうな表情で言った。


「緑のこんなのだ。もっとにょろにょろが激しい」


 スーザオは照霊拳の技を駆使して全身で器用にうねりを表現した。


「ちょっと・・・・・・心当たりはない」

「理解した。ならば俺を帝国軍がいる所に連れていってもらおう。この地の事は知らぬゆえに」

「私は遭難中で」


 スーザオは彼女の言葉を無視して、邪教徒の車の後部座席に、腕を組んで偉そうに座った。


「機械はわからん。運転しろ」


 フロストウィーターは釈然としないが、運転席に座ると車を出した。


「あんたどこから来たんだい?」

「貴様! 照霊寺を敵に回すか!」


 スーザオの恐ろしい形相にさらに力が入る。


「いや、回さないけど」

「ならば場所は尋ねるな」

「じゃあ、あんたはなんなのよ?」

「・・・・・・イカレ爺は言った」


 スーザオが険しい顔で彼方を眺めて言った。


「・・・・・・誰よ」

「邪悪の森の真ん中に住んでる爺だ。完全にいかれてるが強い」

「あそこ、人住めるのかい?」

「あんな所は人の暮らす場所ではない」

「あんたが住んでるって」

「あれは物の怪だ。人ではない」


 フロストウィーターは首をかしげた。


「イカレ爺はいかれてるから意味のわからないことばかり言いやがる。だが、半年かかりでなんとか言葉を解した。北に行けと、至強は帝国に在りと」

「まあ・・・・・・そうかもね」

「それで帝国に行く、ここの景色は醜い。俺は疲れたので寝る。後はよろしく頼む」


 スーザオは全身がぐにゃっとして、瞬く間に茶釜になった。


「ヒイイィ!」


 フロストウィーターは仰天して叫んだ。


「なんだ!」


 スーザオが一瞬で茶釜から人に戻る。


「こっちの台詞だってのよ、何やってんだよ、あんた」

「寝ると言ったろうが」


 スーザオは眠くて機嫌が悪い。規則正しい生活は大事だ。


「普通に寝てよ」

「人間、寝る時は茶釜になるだろうが」

「ならねえよ!」


 フロストウィーターに力が戻ってきた。


「普通はなる」


 フロストウィーターはまたあきらめた。スーザオは、哀れな病人だと思った。


「そもそも名前も聞いてないね」

「照霊寺が勝空羅天、スーザオと知っておけ」

「私はフロストウィーターだよ」

「理解した、俺は寝る」


 それだけ言うと、スーザオはまた茶釜になった。

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