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森の日常

持続不能社会

ゾト・イーテ歴 三〇一九年 五月 三日 


 森の神に選ばれた神王マウタリは、アリール神国の建国を宣言した。


 この急な宣言に対する地方の反応は分かれた。


 旧スンディの南西部と西部のレンタリ家は森が急激に拡張して街に迫る現象への対処を強いられて、それどころではなかった。

 北西部のセチュー家は経済的にザメシハとの結びつきが強く連帯を模索していたが、ザメシハは森の神を恐れ、色よい返事は得られていなかった。

 南東部のツッパエ家は、活発化の気配があるセテパト丘陵地帯の亜人の動向を注視していた。


 北東部を治めるドン公は、記憶の混乱が生じていたが、自領に集積された資源を消費することをいとわなかった。


 他の諸侯がやや混乱したすっきりしない頭で、事態の把握と対処に逃げたのと違い、彼はあらゆる物事を単純に考え納得する能力に秀でた自信家であった。


 元々中央の切り崩しを考えていた彼は、記憶が曖昧な過去の行動も自分の意思と納得し、モヌク紫海王国の支援を得て、王を名乗る専横者を討つ、と挙兵した。


 ドン公は三十万の兵を伴い、行軍を開始した。中央が混乱しているのは間違いなく、王都途上にある街を牽制しつつ、直接王都を落とすに十分な規模であった。


 そして五月二十八日、中央部との境にさしかかった。境には広大な森が生まれており、人々を圧倒した。街道は残されていたので、軍は木々を見上げ、道を進んだ。


 二十キロ以上になった隊列が森の回廊から出ようとした所で止まり、後退を始めた。

 硬剛の士ドテンが道を塞ぎ、先頭に襲いかかったのだ。彼は森に挟まれた狭路をひたすら前進、敵を押し返した。


 列の中央に位置していたこの軍を指揮する将軍が前方の混乱を察知し、収拾しようと部隊を前に移動させようとした時、側面の森より現れた敵部隊に奇襲され討たれた。


 奇襲部隊は、アリール神国の大元帥兼大宰相コロが指揮する民兵五百、そして神王マウタリもこれに含まれている。


 さらに少し遅れて新編成の王国魔術師団が後方のドン公を襲撃、捕虜にした。

 これにより軍の大半は降伏、潰走、戦闘が終わった。


 人が避けるべき森の中に兵を伏せるという、奇想天外にして狂気の伏兵戦術によって、彼らは神の祝福があると証明した。


 軍の三分の二――ほぼ民兵は新たな王に恭順し、中央部へ移住することになる。


 ルキウスとエヴィエーネは 森の木の上から戦いを観戦していた。


「特に異常はないようだな」


 ルキウスはマウタリを見ていた。

 堂に入った戦いで敵陣をまっすぐに切り裂き、そのまま将軍討ったのは見事だった。自分が抱きかかえた時とは、完全に別人に感じる。


 ひとつきで積んだ経験は、水にインクを垂らしたように過去の経験を塗り替える量と質、身体能力上昇で選択肢が拡張され、環境は子供から王へ、振る舞いの変化は必定か。ただ、なんとなく今の方がしっくりくる。似合っている。


 対して自分はどうか。少なくともこの体で会社には行かない。

 今の立場、所属先、人との関係、周辺の状況。ここへ来た当初よりはしっくりくる。しかし、まだ噛み合っていない、そんな気がした。


「そうやね」


 エヴィエーネはニタニタと含み笑いで戦場を見ていた。


「偉大な王になるかね?」

「人と違う考え、容姿、体質に、率いる姿勢、前に出る性格、神に選ばれる。神話になるんちゃう?」


(〈魅力〉が高いってことだな。俺の高い〈判断力〉は、あくまで状態異常関係としてのみ反映されている気がする)


「人と違うことをやると怒られると思うがな」

「一度英雄になったら、差は好意的に解釈されるもんやなあ。明らかな失政でも、変わっとるなあで済みそう」

「楽でいい」

「普通は都合よく揃わへん」

「運命に選ばれ、さらに大金がかかっている」


 ルキウスの総資産は来た当初で十億以上あった。それが今は二億を切った。このペースでいくと、この星の一年目が来る前に破産する。

 それに物資。飛行できる兵器は風の精霊にでも絡まれたのか、いくらか大破した。すべての兵器に弾薬、燃料を〈補給〉するには数年かかる。さらに、予備弾薬に薬剤や使い捨ての魔道具をかなり減らした。


「うちの研究室も豪華にしてや」

「まず、研究室をふっとばすのをやめろ。お前は服の効果で爆発時のダメージ〇でも、破片が飛んでるぞ。子供に当たる」

「あれは、久しぶりに超爆発ひいてもたから」

「ヴァルファーがあれから三時間ぐらい土いじりに逃げて、話しかけても無反応だった。殴ったら直ったが、次は無理かも」

「ええお薬あるよ」


「……想定外の邪魔はなかった。帰ろうか」

「そうやね」

「彼が代理人として仕事をしてくれることを祈ろう。土地の浄化に緑化、人がやったほうがいい。大きな力を使うと、地脈だとかに影響があるようだからな」


 二人は転移して消えた。



 ルキウスが生命の木に帰還すると、ソワラが出迎えた。


「ルキウス様、捕捉ゼロでした」

「そうか、よくやったぞ」

「占術には反応がないのですから、そろそろよろしいのでは?」

「石化して石像になっているのや、木になって自我喪失している可能性もある。それがなんの拍子に戻るか。魔術の国だ、油断できん。技術水準が上がればいずれは根絶されるだろうが、すぐに反発されてはかなわない」


 ルキウスの働きたくない一心から出た言葉だ。

 マウタリの蟲を滅ぼした光は、彼の意志では使えない。しかしアトラスの経験からすると、本人の成長で使えるようになる。それで蟲の大量発生の目はなくなる。


「いつまでになりますか?」

「あの国の治安が回復して、激しい移動が収まるまでだ」


「言われた通りにやってればいいのよ」


 声をかけたのは王女だったミカエリである。作業着を着て、スコップで庭の土をほじくっている。


「あなたは黙っていなさい」

「国のことは意見を求められているのだけど」


 ソワラは険しい顔で、ミカエリはそもそも興味はなさそうで、うっすらと笑うと目線は地面にもどる。


「私は求めていません」


 ソワラの強い言葉にルキウスが割って入った。


「そんなに嫌わなくてもだな」


 アブラヘルと違って本気で憎いらしい。力が釣り合わぬのは幸運で、争いにならない。それに姫様はあまり他人に興味がない。


「この女は信用がならないのです」


 ソワラが強く言った。


「姫をいじめるな」「そうだそうだー」「年寄りのひがみはみっともないぞー」


 庭を年寄りらしく散歩している六爺たちが、離れて騒いでいる。


「あなたたちに年を言われる筋合いはありません!」


 ソワラが鬼の形相で睨むと、六爺が元気に散っていった。


 ミカエリが六爺を確認してから声をかけたのを、ルキウスは気付いている。

 あのジジイどもは揃って女に弱い。しかしソワラよりミカエリのほうが上になる。きっとソワラがルキウスにしか興味のないつれない態度で、ミカエリは愛想がいいせいだ。


 ルキウスがミカエリの横でしゃがんだ。


「情報は要らないのか? 国の行く末が気になるだろう?」


 彼女は地道にアリの巣を掘り返して、箱に移していた。


「特になにも。城の中しか知りませんし」


 どうも彼女は屈折している。本気でアリだけを眺めていたいようだ。

 復活の魔法は、復活であって治療ではない。しかし状態異常は治す。体は完全に人間に復元されている。これで正常、というのが魔法による回答。


「そうですよ。何も知らない娘です」


「書類仕事でもやってくれれば助かるんだが。そうすればソワラも静かになる気がするな」

「ヴァルファー君には求められた意見書を出しましたわ、そしたらもういいって。新しい情報が入るまでは、今の方針だとか。だからアリを観察するの」


(この子は興味はないようで、人を見ているな。習慣的に染みついた行動形式だ)


 ヴァルファーはそれなりにミカエリを当てにしている。ミカエリがキラキラした瞳で、まあ! なんでもできるのね素敵と言えば、ヴァルファーがまんざらでもない顔をしていた。あいつは褒められたことがない。

 ルキウスは他人の評価など気にしないので、思いもしなかったが、褒めてやろうと思った。


 ミカエリはここの人々の関係性を見て、すぐに重要な部分に食いこんでいる。

 アリを観察してもルキウスが怒らないのは、確かめて知っているのだ。


「ハチの巣は覗いていらっしゃいましたよね。アリは見ないのですか」


 ミカエリが言った。


「ああ、アリは小さいからな。あまり美味くもないし。甘いのはミツアリぐらいだ」

「大きいのもいますよ」

「大きいのがここで繁殖したら大惨事だ。そっちこそハチは無視だね。あっちの方が多様性があって、面白みがあると思わないか?」


 ルキウスが対人戦でよく使ったハチだ。あれの羽音は能力値とは無関係に敵を圧迫した。戦場をハチまみれにするだけで、有利が取れた。


「ハチは巣の中が見えないです。透過させても変に見えますし、巣を平面にしないと」


「ミツバチなら安全にできるぞ。巣を作ってから、中身だけをガラスの平面的な巣に移し替えればいい。暗くする必要はあるが、面で見れる」

「ちょっと興味が出てきました」

「だろう? なんなら部屋の壁にして観察できるぞ」


 ルキウスはそれから食事や生活様式の話をして、そこを離れた。


「あれを甘やかさないでください」


 ソワラがピリピリしている。


「復活させろと言ったのはお前じゃないか」

「それは間違っても他人に情報を渡さないためです。確実に始末しなくては!」

「貴重な人材だぞ。協力的で魔術師で王族だ。ほぼ庭の虫を凝視してるけど」

「あんな娘はですね……」

「使えるのはわかってるだろ、ソワラ」

「ええ、まあ、スンディ、旧スンディの国情に詳しいですから。だからといって、甘やかす必要はありません。二十四時間働かせるべきです」


 ソワラが苦々しく言った。


「六爺とは仲がいい。ジジイも仕事をするようになった。いいところを見せたいんだ」


 彼女は自分のために行動しているのだろうが、潤滑剤として機能している。足りていない所に割り込む形で居場所を確保した結果だ。王城で臣下に好かれていたというのは、なんとなくわかる。

 影響のひとつとして、ソワラがだいぶん感情的になった。


「あっちはそもそも、ずっと遊んでいたのがおかしいんです。そもそも――あれこれ――かれこれ――」


 ルキウスはソワラの長い苦情からなんとか逃れて、庭を歩くとサンティーがいた。彼女はコーヒーの実を食べていた。


 その後ろではティラノサウルスとトリケラトプスが取っ組み合いをしている。


 庭には三種類の植物がある。この世界由来、ルキウスの魔法由来、アトラスの種由来の植物。コーヒーはアトラスの種で、三十本植えた。

 この妙な気候で普通に育つか試しているが、とりあえず収穫したいので、ルキウスが強引に五本を成長させた。


「コーヒー美味いぞ」

「こっちが求めているのは種だ」

「種?」


 サンティーが種を噛み潰した。


「種は不味いぞ」


 ルキウスも実を取って噛み潰してみた。


「味はないな。焙煎しないとこんなものか」

「不味いだろ?」

「これはこれでいいんだ」

「食べにくいのは珍しいな。新しい区画もこういうのか?」


 サンティーは葉っぱを擦る。この振る舞いはもう完全に安定したもので変化がない。

 ルキウスは、サンティーとミカエリを混ぜて割ったぐらいが標準なのだろうと感じた。


 二人の来訪者は振る舞いが異なる。サンティーはメルメッチと親しいぐらいで、人と関わらない。ずっと庭を動いていて、一か所に留まらない。目に付いたものに片っ端から行くのはルキウスに近い。


 ミカエリは庭であまり動かない。しかし関わる人間が多い。知らない人間が多いのは普通なのだろう。


 自己を立場に依存しておらず、能力にも依存していない。それは流動的で、自分のことをどうでもいいと思っている。欲求が少なく薄く、偏っている。死に近い。機械的ともいえる。


 性格は逃避的に獲得されたもので、気質と異なるように思えたが、それが本人の今ならそれでいい。AIの評価では、気質外の能力獲得は高評価になる。優秀だということだ。


 そして二人はあまり接触しない。興味へのアプローチが異なるせいかもしれない。ミカエリは見る。サンティーは触る。

 ルキウスは二人に自分の特徴的な一面を感じていた。切り離した自分を眺めるような、不思議な気分だった。


 サンティーがコーヒーの幹にまで噛みつく前に、ルキウスが言う。


「食料が増えたら、次は嗜好品だ。とりあえず食料はスンディに回すが、かさばって仕方がない。それで換金性のあるのを植えた。貿易も再開させないと、ザメシハの経済にも影響が出ている」


 他にも農工具を作って与える予定だ。ボックに性能が悪くてもいいから量産しろと言わないといけないが、不服が服を着ているようになる。言いたくない。しかし、ヴァルファーが言っても聞こえないふりをする。ルキウスがでかい声で言わないといけない。


 サンティーの後ろでティラノサウルスの花子が大きく動いて突進をかわした。巨体がこっちへ来る。

 トリケラトプスが減速しきれず、サンティーに横からぶちあたった。

 サンティーが軽く宙を舞った。頭から落ちて、首が曲がった感じで倒れている。


「……折れたか? 治す?」

「……生きてるぞ」


 サンティーがのっそり立ち上がる。


「三郎、畑で走るなって言ってるだろう」


 スピードスター三郎は十二トンの体重で、時速五百で走る。ブレーキ能力は低い。


「いやあ、退屈で退屈で、我慢できなくて」


 小さな男の子の声で、少しばかり申し訳なさそうだ。


「運動不足だな」


 ルキウスは三郎の角を抱えて、砲丸投げの要領で投げ飛ばした。三郎は着地すると転がり、その勢いを使ってどんどん遠くへ転がって加速していった。花子ものしのしとそれを追った。


 ペットの相手をする仕事が増えた。テスドテガッチがいなくなったせいだ。

 彼の立っている周りには自然とペットが集まっていたし、彼は力の強いペットの相手ができた。サンティーではすぐに骨折する。


 サンティーの足元にある白い水たまりが、中央からにゅっと盛り上がった。先端がネコの顔に変化する。さらに全てが盛り上がりネコの体に変わった。このターキッシュ・アンゴラの子猫は〈猫は液体〉スキルをもつ液体猫だ。


「今日も元気に液体になっているな。シージャ」


 ルキウスは喉を撫でた。


「遊ぶ遊ぶ!」


 シージャはごろんと横になった。ルキウスは腹を豪快に撫でてやった。

 シージャは一通りたわむれて満足すると、ばっと起き上がった。


「なぶり殺しにするネズミ探しに行ってくるー」


 志向と思考が完全に畜生だ。シージャは畑に走っていった。


「子猫はかわいいな。危険だから触らないけど」


 サンティーが言った。シージャはレベルが高い。夢中でじゃれつかれると怪我をする。


「そうだな。予定通り狩りに行く。準備してこい」

「おお、そうか」


 サンティーの足元からハイイロリスが素早く駆け上がって、肩に登った。


「デルデル」


 サンティーは見知った顔の背中をすっと撫でる。

 デルデルはサンティーの髪をつかみ、体をこすりつけている。


「フォー! くんかくんか! そろそろ近い。とりあえず俺の匂いをつけとくぜ! さあ、しっぽり行こうぜ!」


 ルキウスは無言でデルデルをつかみとった。


「とりあえず準備をしてきたらどうだ?」

「ああ、そうだな」


 ルキウスはサンティーが生命の木に入るのを確認した。


「……アンブロジウスはどこだ?」


 遠くの農水路からボンと水柱が立ち、ハルキゲニアが飛び出すと、水滴を散らしながら走ってきた。


「お呼びですか、ルキウス様」


 アンブロジウスが渋い声で言う。


「この変態を友にあまり近づけるんじゃないぞ」

「フォー! ファックしようぜ! ファックファック」


 デルデルが叫ぶ。

 ルキウスは、他人にはポッポッと鳴いて聞こえるデルデルを遠くへ投げた。


「心得ましてございます」

「本当に頼むぞ。哺乳類は当てにできん」

「おまかせあれ! 節制においては我ら葉足動物こそが至高でございます」


 ルキウスはアンブロジウスにおやつをやって、その場を後にする。


「なんで別の生物に発情するんだ。忠実にリスを再現してるのか、ふざけた開発者の設定か。夏になっても落ち着かなかったら考えないと」


 ルキウスも狩りの準備を始めた。もっぱら一緒に連れていくビラルウの準備で、才能のある彼女をさっさと強化してしまおうという腹だ。他のアリールの子も大きくなったらそうしたい。


 蟲騒動のおかげで戦力不足を痛感している。数が必要だ。特別に強くなくてもいいが、一般人では弱すぎる。今は二つの村から見込みがありそうな者を選抜させているが、訓練を担当できる者の数からして、滑りだしは遅い。




 準備は完全で、生命の木から少し離れた森に、三人とタドバンの姿があった。


 ビラルウはタドバンの背中の鞍にがっちり固定されている。お気に入りに赤いドレスの上に、ベルトが複数巻きついた状態。

 プラズマライフルは彼女より大きく、大砲を持っているようだ。


「タドバン、木の枝にぶつけるなよ。道の中央を歩け」

「動きにくい」


 タドバンが目をぎゅっと上を寄せた。銃を見ている。

 プラズマライフルはタドバンには無効だ。サンティーでも防御できる。ルキウスは撃たれると痛い。


「ルッキーを撃つんじゃないぞ」


 ルキウスがビラルウの頭を撫でた。


「むう、むう」


 ビラルウが口を閉じたままで、なんともいえない返事をした。


 サンティーは指輪と金属の伸縮竿ロッドを装備してご満悦だ。杖は動力者キネティスト向け。


 指輪の方は効果が低いがアトラスでは高級品、千レベルのプレイヤー向けの最高品質の装備以外に、転生してレベルを上げなおす時に使う、装備条件が緩い物が高値になる。


 サンティーの指輪は魔法系の雷全般の威力を少し上げる。

 カサンドラが低レベルの時に使う物であるのは言っていない。

 敵を倒すには銃器を使わせるのが確実だが、それだと歩兵インファントリーのレベルが上がりそうだった。


 かくして、ペットと遊ぶ体力をつける訓練である。

 ルキウスはまずサンティーを自由にさせてみることにした。


「自分で探して獲物を獲れ。自由にやっていいぞ」

「おう、まかせろ」


 サンティーは背の高い草むらを突き進んでいく。


「いきなりそこに入るのかよ」


 ルキウスがあきれていると、サンティーの全身に細長い草が巻き付ていく。最初は強引に進もうとしていたが、完全に行動不能になったらしく、怒った顔をルキウスに向けた。


「何をする!」

「なんでこっちを見るんだ」

「お前の仕業に決まっている」

「言いがかりだ。そいつは貧弱な魔物だよ。単体なら地味にうっとうしいだけだ」

「力は強いぞ!」

「数が多いんだよ。群生地だ。そこ、百はいるな」

「ぬぐぐ!」


 サンティーが全身はバチバチ発光させて、腕に巻き付いた葉をちぎろうとした。


「ちぎるんじゃない」


 ルキウスが頭に頭蓋骨が割れない程度の威力でチョップした。


「ギャー! 何をする!?」

「樹液が毒の場合だってあるんだ。光毒はすぐに気が付かないし、面白くもない。みずみずしい植物は切らない」

「じゃあどうするんだ!」

「焼けば? 電気でいけるだろ」

「熱は私も焼けるぞ」


 サンティーがどうにもできないので、ルキウスが魔物を枯らして脱出させた。

 サンティーは気を取り直して、歩きやすい所をどんどん進む。


「おい! 少しは警戒して歩け、訓練なんだから。森は罠だらけだ」


 ルキウスが言った。タドバンはルキウスの横を静かに付いてくる。


「警戒はしているぞ」

「足元だって見てないだろう」

「草むらには入ってないし、地雷は無い、金属反応もな。上方には電波を飛ばしてる」

「ふむ、まあ、やってみろ」


 ルキウスとは勝手が違う能力なので、本人に色々やらせてみようと放置することにした。自分の場合は、魔法的視聴覚に頼るが、彼女は索敵では超感覚の要素が強い。

 

 サンティー五分ほど歩くと、初めて足元を気にした。

 彼女の前には半径十メートルほどの盆地があり、草木が分厚く茂っている。中央には特に草の茂った塊があった。


「あそこが怪しい」

「ああ、怪しいな」


 ルキウスの同意にサンティーは気をよくして、慎重に盆地の草むらに踏み入った。

 直後、サンティーが風を浴び、髪をそよがせると、二秒ほどで無防備に倒れた。

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