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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
2-1 伝説の復活
209/359

魔道城2

「それは事象介入では」


 サスアウが言った。

 魔法円の中で外部補助を受けながら使うような魔法だ。


「ええ、格下にしか効きません。それに長くはもたない」


 二枚の膜が細切れに破れて消滅した。


「砲手は魔法に弱く、装備にも逆流処置がない。これで砲は減らした」


 ターラレンが言った。彼は少し離れた下方に熱を感じて、ちらりと下を見た。普通の衛兵がちらほらと寄ってきている。脅威はない。

 彼らが走って廊下の半分まで来ると、サスアウが言った。


「そろそろ廊下に細工があってもおかしくない」

「敵も使う予定があったのか、見える範囲にはない」


 ターラレンが言った。

 廊下の突き当たり、城への入口に多くの魔術師が現れた。

 顔に群青の塗料を塗りたくって、目元を白で囲った魔法使いが中心にいる。

 

 その手前の床に光が起こり、青白い光のもやの大きなイヌが召喚された。目標とする入口が、ぼやけた光で遮られた。


「《祈祷師/シャーマン》か。多重に強化されておる」


 イヌが青白い尾を引いて、低く駆けだす。それは青白い線となって、一気に距離を詰めてくる。


「あれは上位の使い手だ。制御を完全に手放した。こちらの召喚は?」


 サスアウが聞いた。防御には壁を出すのが最適だが、それだと進めない。

 いろいろと準備をしたが、ここは火力と速度で抜くしかない。


「内部まで温存した方がよい。《大炎上/フレイムブラスト》」


 サスアウが全力で走る横で、気楽に走るターラレンの杖から、火炎放射器のように放射状の火が長く伸びた。流れがイヌを飲み込む。

 イヌは多重の輝きの層で保護されている。炎の激流を散らしてさかのぼり、ターラレンの腕にかじりつこうとした。


 ターラレンの手刀の先から鋭い炎剣が噴出し、即座に振り抜かれる。イヌは口から胴体まで両断されて霧散した。


 祈祷師シャーマンが中へ後退し、黒いローブの集団が見えると、すぐに次の召喚が起こった。

 

 でこぼこの兜の奥には、ヤギの足型に近いいびつな形の赤い眼、暴力的にうねる長槍を持ち、使い古された棘鎧スパイクアーマーで筋肉質な身を包んでいる。それが赤いウマに乗り、廊下いっぱいに広がり、二列になっている。

 《怒りの悪魔/ラースデヴィル》だ。


 悪魔が雄たけびを上げ、ウマが甲高く鳴き、走りだす。


「悪魔の騎馬隊か」ターラレンが言った。「直線ですからな」


 騎馬隊は徐々に加速して、蹄の音を響かせる。


「あれを素で呼べる召喚者はいない。何か道具を持ち出したな。火は効きませんぞ」

「とるに足りません」


 ソワラが前に出て足を止める。《呪文狙撃手/スペルスナイパー》が城の窓から出した大型の杖から、暗い光弾が放たれた。狙いはソワラの頭。

 サスアウが手をかざし、透明な力場の盾を空に生み出し防いだ。


 騎兵はその間も走る。騎兵が最後に加速して、槍を突き出した。


「ただれるがいい。《酸の爆発/アシッドバースト》」


 突撃陣形に覆いかぶさる形で、酸の爆発が四重におきた。騎兵と透明な液体の膜が衝突して、しぶきをぶちまける。酸の滝から槍だけが飛び出し、消える。魔法の後には何も残らない。


「酸が勢いで飛んだぞ」


 ターラレンがローブの袖で顔を隠している。


「前に出過ぎなんですよ」


 ターラレンが気を悪くして、口をもごもごと動かした。

 城までの距離はかなり近くなった。敵の動きが魔法なしで確認できる。

 魔術師は城内に消え、代わりに盾を構えた重装兵が廊下に並んだ。さらにその上から火砲の頭らしきものが覗いた。


「セリテ魔道砲、あれは城に配備していない。近隣から分解して運びいれたか」


「あれは実体弾か?」

「ああ、中に複合魔法が詰めてある。連射はできぬから、一度集中して受けた方が――」


 ターラレンがサスアウに尋ねると、すぐにソワラが動く。


「このままで。こちらで止めます。《失意の黄色/ディスアポインテッド・イエロー》」


 黄色の大きな四角い布が、進行方向に現れ、視界を塞いだ。かすかに風にそよいでいる。


 砲声が聞こえた。黄色の布がボウッと砲弾を受け止め、一部が突き出し、包み込みながら急減速する。砲弾はソワラの手前で落ちて転がる。彼女はそれをすばやくかわした。


 後方では、転がる大きな砲丸をすねに受けた魔術師が、軽い悲鳴を上げた。


「速度、魔力、の概念を消失させ無害化しました」

「あれの弾込めは半自動、あと数発は来る」


 サスアウが言った。距離は五百メートル以上ある。


「いや、射程内じゃ」ターラレンが杖を振る。「《火の嵐/ファイアストーム》」


 入口で火が吹き荒れ、兵は焼け焦げてあっけなく倒れた。敵はまだ防御魔法を展開していない。何かに誘爆して、青と白の光が混じる爆発がおきた。


「急げ、一気に入ろうぞ」


 サスアウが振り返り、鼓舞した。後ろに続く魔術師の多くが息を切らしている。二キロ以上を疾走するのは魔法で強化しても、彼らにはつらかった。


「ここらで準備を」


 ターラレンが廊下の側面に杖を向けると、二つの大炎が空中に現れた。それは膨らみながら人型へ変化する。

 地に足が達しても、頭の先が横に見える大きさ。


 ターラレンが自力と杖の力で召喚した火の大精霊だ。杖の中で燃える大きな炎が小さくなった。

 さらに彼は小型の火の精霊を無数に生みだした。小さな火が空を無数に漂い、それらは膨らみながら落下していく。

 火の精霊は廊下の下に集まってきていた射手をなぎ払い、敵が占拠する二つの塔の近くにある城門へ向かった。


 城外からの増援を足止めし、城内の標的の逃走を防ぐ意図。ついでに、物質透過の矢を持っているはずの射手を粉砕した。


 さらに走り、城まで百メートルほどになると、様々なオーラをまとったボルトが一斉に飛来した。


 サスアウは左手の袖をめくり、腕に巻かれた〈堅き守り〉を外に出した。

 このポルトガルカットの様々な大粒ダイヤモンドが、魔力で互いに引き合い構成された腕輪は、色に応じて中位までの防御魔法を込められる。卓越した防御術師しか扱えないのが難点。


「守りを!」


 ダイヤモンドの半分ほどが瞬き、前に八角形で色ガラスに似た防壁を十枚以上作った。ボルトは前の色とりどりの数枚を通り抜ける時にオーラを失い、後方の透明な防壁に当たると弾かれた。


 防御術師ならば、敵の術の発動を見て適切な防御を展開できるが、あらゆる属性が飛んでくる状況では、とにかく強力な防御手段をとるしかない。


「長くはもたぬ」

「ここが勝負所よ」「ええ」


 ターラレンとソワラが、併用できる防御系の薬をまとめてすべての指の間に挟んで取り出すと、そのまま割って荒っぽく体にかけた。

 ターラレンが入口の奥の方に火の嵐を起こした。敵に強い魔力の反応が見える。おそらく軽減された。さらにこちらの後方の荷台から反撃のボルトが、壁を越える軌道で数発放たれた。


 二人が浮きあがり、爆発的な勢いで入口へ飛んだ。


 二人は城へ入ると同時に、左右へと準備した魔法を放った。業火と無数の青い輝きが城の奥へと放たれている。


 即座に中から反撃があり、多様な輝きが、廊下へ爆発的に吐き出されて消えた。

 さらに二人が吹きすさぶ火炎に包まれた。

 ターラレンの火ではない。しかし彼が杖先で軽く弧を描くと、空間を満たす火は渦を巻いて杖先に集まり、球体になった。彼がそれを奥に放り投げると、炎が炸裂した。


 サスアウも急いで城内に入る。城へ入るとすぐに通路が三又に分かれる。正面は特に敵が多く、左右にはバリケードが築かれている。


「太古の長老にして、文明の護り手よ」


 サスアウは床に両手を突き、石壁を造った。急いで引き伸ばしたのでやや低い。続いてきた部下たちが石壁の後ろに滑り込み、杖に込められた魔法で応戦を開始した。 


 城内の壁はうっすらと青く輝き、ほの暗い。奥では人が転がって燃えており、火、水光弾、光線、煙、重力などの様々な現象が飛び交う。

 何か硬い物が、壁にぶつかってガンガンと絶え間なく音を鳴らし、視界を光がちらついている。


「無理をしすぎでは! 一度下がっ」


 サスアウが戦闘音に負けじと叫んだ。二人は立ったまま応戦していて、かなり被弾しており、衝撃で体が揺れている。

 声が途切れたのは、部下が音魔法攻撃を静寂で打ち消したからだ。


「魔法なら死にはせん。飛び道具は対処してある」


 ターラレンは険しい顔で、火球を三連射した。


「問題ありませんが、多いですね」


 ソワラは通路の角を曲がって飛来する《魔法の矢/マジックアロー》を、何度か腕に受けている。針で刺されたぐらいの傷。


 しかし攻撃者は見えない。壁は透視妨害などの措置があり、生命探知には虚偽情報らしいものが掛かり、さらに敵の数が多く、兵種の判別は困難だ。


 それで目についた場所に《魔法誘導弾/マジックミサイル》を片っ端から撃ち込んでいる。


「《歩哨魔術師/センチネルウィザード》に、《制御者/コントローラー》がおる。術が乱され、流されて軽減される」


 こちらの攻撃は的をとらえているが、敵は魔法で保護されて硬い。さらに重装の壁役が多くいて、倒れても後ろから代わりが出てくる。


「あっちは神殿の者がおるな」


 サスアウは頭を出して前を確認すると、すぐに石壁に隠れて、少し集中して大きめの鉄壁を造った。


「壁の強化急げ!」


 魔法の轟音の中でサスアウが叫んだ。

 鉄壁は出したはしから歪み、削れていく。それでもターラレンが破壊力の大きい火球を引きよせて、敵に返しているから損害は減っている。


 ターラレンの頭に鋭利な水晶が直撃した。鉄兜なら粉々する魔法的威力がある。

 彼は瞬時に反応したがかわしきれず、ふらついて踏んばった。


「ちょこざいな」


 ターラレンは深く息を吸うと、左の通路が一杯になるだけの火炎を吐いた。左の通路は粘りつく炎の道となった。


 それと入れ替わるように、正面通路から侵入者を押し出そうと、天井まである水流が押し寄せたが、彼の放った火で相殺され消滅した。


「後ろは到着したか?」


 ターラレンがこめかみから血を流し、前だけ見て言った。


「一応は! 両側面の壁はすぐにできる」


 彼らは三方を抑えず、正面の通路を進む。ここを進めば左右の後ろをとれる。逆に左右を追うと、狭路で何度も防陣に遭遇する。


 到着した後方が、ありったけの魔術を前方に放つと、多くの防御魔術で強化された者達が魔法を放ちながら前に出た。

 数人は防御を抜かれ倒れたが、敵の陣地を破壊して押し込む。


「急げ、永遠の間に、調和の間、カラスザクラの通路を塞ぐ。二塔の魔術師が殺到してくるぞ」


 城は広大だ。一階は一平方キロメートル以上あり、十二階建てで地下が三階ある。


 この部隊は約百名、直近の役目は三階以下の一時制圧。

 戦力の半分は侵入した近辺を制圧するのに残る。敵が廊下から逆流すれば塔が落ちるし、退却もできない。


 彼らは正面を深く侵攻する。硬い部分を突破したらしく、第二の防御陣地はない。


「では」

「御無事で」


 ターラレンは一人で大階段を下っていった。三階から一階までは大階段でそのまま行ける。

 一階が見えてくると、床に光る半円の先が見えた。光は魔法円の一部だった。


 その中心には高い天井まで届く大きく太い人影がある。


 四角で少しごつごつした川の石みたいな顔で、ぼそぼさの髪、下の犬歯が巨大で飛び出し、目元まである。肌はくすんだ赤で、黒い目は真ん丸だ。その頭は三つある。錆びた金属棍棒をだらっと持っている。


《三首巨人/エティン》だ。一つの頭がこちらを見ている。


 ターラレンが階段の半ばから、軽く首の高さへと跳躍すると、三首巨人エティンは全ての頭で振り向き、けだるい動きからは想像しにくい速度で棍棒を振り抜いた。


 棍棒はターラレンの芯をとらえ、そのまま柱を叩いた。柱に挟まれたターラレンがぐにゃりと歪み、燃えて消える。 


 三首巨人エティンの足元に現れたターラレンが、手の先から噴出する炎剣を振り上げた。三首巨人エティンは股から真っ二つになり、全てが塵になって消えた。


 城の一階は部屋数が少なく、開けた空間が多く、柱が多い。階段から三百メートルほど行くと、正面玄関がある。


 彼は同じ高さで近づく多くの熱を探知した。兵士の詰め所などに待機していた兵が一階から殺到している。

 ターラレンが杖を両手で握り、瞑目した。


「《聖火の陣/セイクリッドファイアフィールド》」


 杖から火が水のように流れ出し、床に流れつくと瞬時に広がり、一階の広くに敷きつめられた。


 広間、通路のすべてが赤く照らされ、音が消えた。魔術師が詠唱を阻害され解呪を試みるが、火は変化しない。

 これは大魔法、簡単には解けない。


 この火は熱をもたない。術者の能力を引き上げ、敵の行動を阻害する。


 彼は捕捉した敵に火球を放って牽制する。

 遠くからで光が瞬き、レーザーガンの光弾が飛来した。転がってかわす。発射点へ火の嵐を放ったが、そのまま射撃が続く。

 幻術ではない、対火装備だ。火以外が届かない距離。


「これはたまらん」


 階段の裏にまわったが、城の奥からも兵士が現れ、矢がどんどん来る。それを焼いて防いだ。


 予測系の術を常用していなければ、何度か深手を受けているだろう。

 薬は使うほど効かなくなる。緊急時まで温存し、できるだけ火の中での自然回復にまかせる必要がある。


 敵は人間大の火の精霊を盾にして、矢を放ちながら前進してくる。召喚したか、変身したものだ。


「さすがに厳しい」


 彼はインベントリから人型の小さな埴輪を複数出して床に置いた。

 埴輪たちは彼の姿となって、四方へ逃走した。同時にターラレンは不可視化して火にまぎれる。

 敵の射撃が埴輪を追ったすきに、少し離れた柱の裏に隠れた。


「ふう、二時間はかかるまい。節約してなんとか凌ぐしかない」


 最高の魔力回復薬があるが、長期戦になれば魔力がもたない。彼は常識的な構職業成クラスビルドの攻撃型魔術師、つまり他の魔術師と弱点は同じ。

 格下の敵多数、精神系魔法が通れば上手い手はあるが、ここは泥臭い戦いをやるしかない。


 彼は身を隠し、やっかいな相手を奇襲して潰し、階段や、隠された通路に近づく敵が現れれば攻撃するという戦術で、ここから時間を稼いでいく。

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