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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
2-1 伝説の復活
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落ちてきた月2

 丸くて可愛らしく、それでいてはっきりと開かれた潤んだ瞳が彼を見ていた。シュケリーの腰まである髪は静止している。

 マウタリには自分でできるところを見せたい気持ちもあったが、そちらの選択はできなかった。


「父上に言うよ。きっとなんとかしてくれる」

「そう」

「でも、なかなか父上と二人になれそうにない。それまでは普通にしていよう」


 活気のある喧騒がずっとしていた。

 村は騒がしいお祭りの準備に突入して、誰も二人を気にしていないようだった。


「なら私は黙っているわ」

「シュケリー、怖くないの? こんな事は無かったろう」


 シュケリーの態度はまるでいつも変わらない。あまりにも変わらないので、マウタリは奇妙な気分になった。昨日までの日々と何も変わっていないように思える。


「ヌエテ婆さんは外の人だから、元々アリールには関係無いわ。私達には関係の無い事なら、放っておけば何も起こらないかも」

「それはそうだけど」

「外の事なら、外の役人の仕事だけど、彼らはここには関わりたくないと思う」

「なら、誰かがなんとかしないと駄目だろ」


 彼には彼が考える大人として責任感があって、それが発揮されようとしていた。


「どうしたいの?」

「とにかく父上に判断してもらうことにするよ、僕はあっちに行く」

「私も準備しないといけない。また薪を足して、水汲みをしないと」


 二人は別れた。

 日が暮れると宴会が開かれた。ユヌーム一族の家の前の広場に、一族ごとに、大きなたき火を囲む輪ができていた。あの恐竜の肉が調理され、配膳された。


 マウタリはユヌーム一族の輪にある、外部の人間の姿をちらちらと見たが、あの二人が誰だったのかはわからなかった。彼には見慣れない外の装備はみんなごちゃごちゃした物としか認識できないし、色も似たようなものだった。


 マウタリは大人たちに狩猟の成果を褒められても、気もそぞろで、ユネーム一族とシュケリーとを視線がさまよっていた。


 いつも通りの宴では、グレイダイと家長たちが酒を飲みながら取引の話をして、年寄りが何回も聞いた話を繰り返した。

 客人は脳以外を食べ、マウタリは大人になったので、初めて脳を食べたが味の記憶は無い。


 ヌエテ婆さんはいない。彼女は元々ほとんど村に来ず、薬や呪具の対価にちょっとした道具を受け取るぐらいの関わりだし、騒がしい所に来ないのはいつものことだった。


 宴が終わり、クラウリが家に帰ると眉間にしわを寄せてすぐに座った。


「どうも頭が痛い、飲み過ぎた」

「まあ、私もちょっと頭が痛いわ」


 ソラウが頭を押さえた。こちらも少しつらそうな顔をしている。

 エラウは宴が終わるなり、疲れた顔ですぐに床に就いた。

 元気があるのは、不自然にやる気があるのはマウタリだけで、村全体が静まりつつあった。


 家族だけになると、マウタリは言おう言おうと思ったが、すぐ外にあの護衛がいるかもしれないと思ったし、言った後で起こる事を、自由自在で縦横無尽に想像すれば、言う気がしぼんでいった。


「もう遅い、早く眠ろう」


 クラウリが言った。夜は暗いし、他にやることも無いので、マウタリはこれに従った。

 マウタリが寝る前に何度か窓の外を覗いてみても誰もいなかった。それでも彼の心配は解消できず、何かが起こるのではと、耳をそばだてて、繰り返し誰かが剣を片手に攻め込んで来るさまを想像した。


 彼は想像では、どんな斬り込みにでも対処できるコイハーナ家最強戦士だ。特に扉を開けた瞬間に、横から奇襲する腕は世界一で、何度やっても槍はしっかりと首筋に刺さる。自分は一人前だから、外の人間とだって戦える。

 そして気が付けば、酷い眠気を抱えて起きる羽目になった。


 何も異常の無い朝だった。昨日と同じ小鳥の声、彼が山ほど過ごしてきた朝だ。

 いつもと同じく起きて朝食。父と母に、二人の妹がいる。昨日より暖かい。


 婆さんは魔女だから、きっと不思議な力で幻を見せてからかっていたのではないか、とマウタリは思うようになった。


「狩りに、いや、罠の状態を確認しよう」


 朝食が終わると、クラウリはそう言った。


「もう良くなったのですか?」

「・・・・・・悪くはない」


 クラウリは大きく肩を回した。マウタリには覇気が無くぼんやりした表情に見えた。心なしか、動きもゆっくりに感じる。

 狩りに行く時、父の表情ははっきりと戦士のものに変わるが、今日はずっと同じ顔をしている。


「まだ悪いのでは?」

「そう悪くはない、仕事をせねばならない。グレイダイが帰る前に何か仕入れれば取引ができるから、そう・・・・・・早い方がいいだろう」

「そうですね」

「網場はしばらくあれの匂いで使い物になるまい。まず補修と調査だ。昨日・・・・・・は、調査をする余裕が無かった。枝ぶりと獣の道を見て、網の掛け方を考えるのだ。罠の張り方を学ぶのに丁度良い。今日も、二人で行こう」


 マウタリが待っていた機だ。周りに誰もおらず、二人きりになれる。なんであれ、父に言ってさえおけば、彼の仕事はそこで終わりだ。


 二人は昨日と同じように村を出て、網場へ向かった。

 そしてマウタリは途中で昨日の事を切り出した。


「父上、僕は昨日見たのです」

「何を?」

「ヌエテ婆さんがグレイダイさんの護衛らしい人たちに殺されたのです」

「なんだと! 事実か?」


 クラウリは歩くのを止めて、マウタリを見た。


「もちろんです」

「いつだ?」

「昨日、狩りから帰ったあとで」

「本当に見たのだな?」

「確かに見ました。でもヌエテ婆さんは魔女だし、幻でも見せたのかもしれない。でも本当のような気がして」


 マウタリは昨日の事を、詳細に説明した。ただし、シュケリーのことは言わなかった。


「・・・・・・そうか、帰ったら俺が実際に家に確認に行く。お前は誰にも言わぬように」

「はい」


 マウタリは重い荷を下ろして、足取りはすこぶる軽くなった。そのせいか、昨日より早く網場に着いた気がした。


 網場では、昨日の血の匂いが風に乗って流れてきた。

 昨日はゆっくり見れなかったが、紐が千切れるまでいかなくても、変に曲がったり、地面に粘着してしまっている箇所があった。

 昨日の恐竜が相当に荒らしたのだろう。一度切って張り直さないといけない。


「まず、全ての網の状態を確認する。それで変更する場所を決めるぞ」

「じゃあ、すぐにやります」


 少し経ち、マウタリは折れ曲がってしまった枝を切り落とす作業をしていた。これでは獲物が掛かっても枝が折れて、紐ごと逃げられかねないし、他の紐と絡まると困る。

 持ってきた鉈で、熱心に枝を切断していく。枝の切断を終え満足すると、次の紐の前で立ち止まった。彼のお腹ぐらいに真っすぐに張られている紐だ。


 この紐はちょっと中途半端じゃないだろうか、鳥を狙うにも獣を狙うにも、避けられそうだ。

 それでちょっと意見してみようと彼は思った。


「うあ!」


 マウタリは堪らず声を出した。前につまづき、胸元がべっとりと網に粘着してしまった。後ろから強く押されたのだ。大きな衝撃で、それができるのは一人しかいない。


「父上! 何を?」


 網が揺れ、体も揺れ、前かがみの中途半端な姿勢で、立つでも座るでもなく体を紐に預けた。


「勉強だ、罠のな」

「勉強ですか?」


 マウタリは驚いたが、父のやることだと思い指示を待った。

 左で父の気配がしたので、彼は左を向いた。父の胴体、その上には触手の塊がうごめいていた。ぐっと触手が迫る。言葉もでない。

 それが顔を撫でまわして、ぬるっとした感触が顔を埋め尽くした。


「うあああ!」


 頭を両手で押さえられて動けない。

 違う! 父ではない。どこで入れ替わったというのか、家から一緒に来たはずなのに。きっと森の魔物に騙されたんだ。


 両手は紐に粘着して顔に届かないし、下に下がろうにも態勢のせいで服を脱いだり、強引に引っ剥がしたりできない。

 マウタリは鉈を手放し、自由にならない右手でどうにか網をつかみ、手の平から精霊を出していく。

 触手が鼻から口の中に入ってきて、溺れそうな感じで吐きそうになった。

 それでも何とか、左手首の辺りで粘着している部分を無効化した。


 マウタリは滑った触手を全力でつかんだ。精霊を接触で使う時は、獲物が止まるまで食らいついて体内に精霊を撃ち込め、というのが父の教えだ。


 今度は触手が激しくのたうち、彼の顔から離れようする。放さない。

 強烈な衝撃が腹を襲った。蹴られても放さない。槍は――地面にあるのが見えた。

 触手の化け物が腕が彼の腕をつかんですぐ、化け物が倒れた。


「グホッ、ガハア」


 マウタリは涙をこぼし、何度も咳をして、様々な液体を吐き出した。紐が揺れていた。それでも、倒れた何かをずっと見ていた。何かは激しく痙攣して、手足が暴れ回っている。

 マウタリは服の粘着を無効化すると、長く座り込んでいた。彼は腹部の苦痛にうめきたちがると、槍で何度も触手まみれの頭部を突き刺した。

 どれぐらいたったか、何かは完全に止まった。千切れた触手が数本落ちている。


 死体は父に見えた。顔の穴から触手が飛び出していること以外は。

 手の動きの癖のついた服は間違いなく父の物だと思ったし、ズボンから出た脚の筋肉やほくろの位置だって同じ見えた。体格も全て同じだ。それが気持ち悪い。


 昨日の殺人とは違う得体の知れない恐怖が、湧き出した。何が何だかわからない。


 周囲には誰もいない。広大な森にポツンと自分だけが存在している。それだけが確かだった。


「父上ー」


 大きな声で父を呼んだ。腹部が痛む。風にそよぐ葉音が満ちていた。


 マウタリは走った。警戒も何もせず、息を切らして全速力で、村へと。

 前しか見ていないから、何度も木の枝に擦り、草を蹴とばし、風を受けた皮膚は凍りつきそうに感じた。槍を投げ捨てるか迷ったが、持って走った。手の平を開く余力が無かった。


 村が見えた。昨日の帰りに見た景色と変わらない。鹿革の靴には穴が空いていた。

 彼は村の門を潜ると自分の家を一瞥しただけで、シュケリーのシノエラン家に飛び込んだ。


「おい!」


 誰かが呼び止めたが、マウタリは狭い入口を駆け抜け、シュケリーの家の扉をガンッと開けた。


 シュケリーが四人に押さえつけられて、さらにあの触手の化け物が、彼女の顔に吸いついていた。

 しかし彼女を押さえているのは、彼女の親族だ。


 あれと同じだ。マウタリは何も考えず走った勢いで跳躍し、顔面の触手へ強烈な突きを見舞った。触手顔が、血を噴き出して倒れた。


「何をやってるんです?」


 マウタリが鬼の形相になった。


「これは何かと言ってるんだ!」


 槍の穂先を突きつけ、シュケリーを押さえていた人間を引き下がらせた。


「シュケリー、何があった!?」


 彼はシュケリーを揺すった。彼女はしばらくむせていたが、どうにか起き上がった。


「・・・・・・母さんがああなったのよ。月があふれてきたの、びっくりした」


 シュケリーが言った。疲れているようだ。彼女はマウタリが刺し貫いたものを見ていた。

 部屋の中では、彼女のいとこ、祖父母、弟、がじっと二人を見ている。いや、見ていない。二人が部屋をゆっくり移動しても、視線が動かない。何を見ているのか、とにかく動かない。


 マウタリはシュケリーの手を引いて、彼女の家を飛び出した。

 扉の外に進路を塞ぐ感じで、三人がいた。


「のけ! 逃げるんだ!」


 マウタリが槍を振り回し、進路を確保すると、二人が家の外へ出た。


「なんの騒ぎだ」


 外に出てすぐ、若い男性の声がした。


「ケイクラ兄さん!」


 同じコイハーナ一族で、四つ年上のケイクラ。家族以外でマウタリが一番親しい、頼りにするべき人間だった。

 マウタリがそっちに駆け出そうとした時、シュケリーが彼の手を引っ張った。


「駄目よ、緑の月と同じ気配がするわ。大きな月が落ちてきたのよ」


 ケイクラの表情も微妙にいつもと違う。弛緩している。

 マウタリは何となくわかってきた。曇り空で見え隠れする月のように、全体の形が何となく見えたのだ。この月は良くない。


「アーーッ」


 マウタリがたまらず絶叫した。肺の空気が枯れてもさらに叫び続けた。

 自分の家には帰りたくない。

 次にどうすればいいのかわからない。きっとどこの家も危険だ。森に入っても危険だ。


 ケイクラが完全に動きを止めて、棒立ちになった。こっちを見ているのか、何も見ていないのか。


 村人がぞろぞろと家から出てきた。外で作業していた村人も、グレイダイの隊商も寄ってきた。彼らは無言で、二人を遠巻きにして、少しづつ近づく。

 マウタリは息が詰まって、視界が一瞬白くなった。


「全部、月だわ。昨日より大きくなったの、言おうと思ったんだけど」

「・・・・・・逃げるんだ」


 マウタリはかすれる声で言った。しかし、体はどうにも動かなかった。

 一番、人が少ないのは西側だ。しかし走っても振り切れないのはわかっている。


「止めろよ、マウタリ。危ないじゃないか」


 ケイクラが緊張感のない表情で言った。


「寄るな!」


 マウタリが槍で牽制して、どうにか距離を詰めさせないでいる。

 きっと彼らもおかしい。しかし化け物ではない。マウタリをそれを突くことができなかった。


「うわっ」


 マウタリはいきなり後ろからしがみつかれた。


「捕まえたぞ」


 ジャンプ自慢のケイアリおじさんだ。十メートルぐらい真上に跳べる。きっと上から降ってきた。


「さあ、大人しくするんだ」


 マウタリが後ろから動きを封じられると、四方からもみくちゃになった。


「倉庫に入れてやるぞ。いたずら坊主め、今回は一日だからな」


 おじさんが普通に、これまでと同じように話すことに、マウタリは言いようの無い恐怖を感じた。

 二人はもう完全に押さえこまれようとしていた。


「離れろ!」


 マウタリは怒鳴って、必死にシュケリーを腕を握った。それでもどうしようもなく、人の圧力で体が浮き、手が離れた。


 その時、ゴギンッと鈍い音がして、村人が、知った顔の者達が、派手に宙を舞うのが、人々の隙間に見えた。さらに音が連続して、マウタリから重さが取り除かれ、熱い物が顔に飛び、明るさを感じた。

 シュケリーは彼の足元で倒れていて、起き上がろうとしていた。彼はそれを手伝った。


 辺りを確認すれば、村人は遠巻きになっていて、黄色いものが目の前にいた。


「我こそは森の神の使いルッキー! 私が来たからには安心するがいい、若者よ」


 現れたのは巨大な顔の怪物だ。

 長さ一・五メートルぐらいの、眉毛が無いいかめしい黄色の掘りが深い顔に、小さな手が生えている。右手に石槍、左手に大きな楕円形の盾を持っている。よく見れば、顔の下に藁草履を履いた足らしいものもある。


 こんなもの、村の外に人だって見た事は無いだろう。


「顔の化け物!」


 マウタリが叫んだ。


「誰が化け物か! 神の使いだぞ。助けてやっただろうが」


 大きな顔が強調的に表情を歪めた。


「え」「月じゃないわ」

「でも顔の化け物だよ」


「顔? こいつは仮面だ。顔みたいに動くものだ、見ろ」


 ルッキーが背中を見せた。後ろ側はローブを着た人間だった。頭部は全て仮面上部の穴に下から差し込まれている。仮面の端が頭に引っ掛けてあると表現していいかもしれない。


「あ」


 マウタリが声を漏らす。ルッキーの横合いから、戦士のキリウルが槍で襲い掛かった。それをルッキーは小さな動きでかわし、槍で頭を突き抜いた。そのまま槍を振り払って、死体を村人へ投げつけた。

 村人はまた遠巻きに彼らを囲んだ。


「どうした? 何も言わんのか?」


 ルッキーが村人へ言った。

 そこに槍を持ったケイクラと数人が、踏み込んできた。

 一閃だ。ルッキーの槍が、複数の槍を押しのけ、そのまま全員の顔を一文字にえぐった。倒れる音が重なる。


「あれは人ではないぞ」

「わかっています」


 マウタリが言った。


「村人にしては強すぎるが」 


 さらにルッキーが突き出された槍を弾き飛ばした。

 飛んできた矢は、途中で軌道を変えて、どこかに飛んで行った。村の門番が高所から放った矢だ。三人の周囲には不思議な風が渦巻いていた。


「矢は当たらんが」ルッキーが飛んできた槍を弾いた。「槍はかわせよ」


 村人はじりじりと包囲を狭めた。そして数人の体がまばゆい強烈な光を放った。視界が閃光で埋まり、何も見えない。


「しまった!」


 マウタリが叫んだ。外の人間なら、あれが効くはずだ。


「何!?」


 ルッキーが動きを止めた。そこに村人たちが一気に押し寄せ――先陣を切った全員が転倒した。

 地面の雑草が伸びて、村人の足首に巻き付いている。 


「秩序の光か、ここはいかんな」


 ルッキーは目を細くして呟くと、素早く二人を抱えて森へと走りだす。彼はたやすく囲みを飛び越えた。槍と盾は浮いて追随している。


「この村、何人いる?」

「二百六十三人と十三人よ、昨日数えたもの」


 シュケリーが言った。


「結構な数、君達も、多分感染しているな」

「感染って」


 マウタリが恐れを含んだ声を出した。


「既に治療した。心配はいらない」


 ルッキーは森で二人を下ろした。後ろから村人が大挙して追って来ている。


「そこの大きな木の後ろにいろ、片付ける」

「母さん」


 マウタリは集団の中に母ソラウの姿を発見した。シュケリーは木の裏に隠れたが、彼は突っ立っている。


「いま向かってきている奴は敵だ、それ以前に全部死んでる。中身が別物なんだ、どうにもできん」

「そんなこと・・・・・・」

「もう死んでる」


 ルッキーがはっきり言い切った。


「動いてるじゃないか!」


 マウタリが声を荒げた。それでもなんとなく、言ってる意味はわかっていた。シュケリーの母を見たあたりで、なんとなく起きた事はわかった。


「頭で偽の月が膨らんでいるんだわ」


 シュケリーが静かに言った。


「月?」


 ルッキーが怪訝な調子で言った。


「ええ、月が落ちたと思ったの。でもよく探ってみたら、ちょっと月とは違うみたい。月と似た気配なんて知らなかったから間違えたの、残念」

「どういう意味だ?」

「私は月に行きたいの」

「・・・・・・そうか。まず奴らを潰すいいな?」


 ルッキーの大きな仮面が、苦虫を食べたのを隠して我慢しているような表情をした。

 マウタリは村人を見つめて何も言わなかったが、ルッキーは村人の方へ一歩を踏み出した。

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