表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
2-1 伝説の復活
179/359

友人

「なんとかしないと」


 ルキウスがうわごとのようにつぶやいていると、サンティーがふらつきながら立ち上がった。人間不信なネコみたいな表情だ。

 ルキウスは出会った頃に見たような目つきだと思った。


「どうすると言った?」


 サンティーはほとんど口を開かなかった。


「あれも処分しなければならない。状況の変化でどうなることか」


 価値が無いはずのものを必死にかばうのは、彼には奇妙で疑わしいことだった。

 それを再確認すると、余計に視界がぐらつき、上も下もないような感覚に陥る。

 喉の奥のむかつきを吐き出せば、自分より大きな何かを生み出せそうですらある。


 サンティーが頼りない足取りで歩いてきた。


「どうした、体調が悪いのか?」


 サンティーが両手でバンッと机を叩き、怒鳴る。


「私をなめるな、私は暇人だぞ!」

「はあ?」


 ルキウスが気の抜けた声を漏らした。のたうち絡み合うものが少し緩んだ。


「私は暇人だと――言ってるんだ! 今や、仕事という概念は忘却の彼方であり、日々を食って寝て遊んですごしているのだ」


 サンティーが正々堂々と誇って見せた。


「いや、今は真剣な話を」

「知るか!」


 混沌に混沌が重なる部屋で、サンティーがルキウスの顔面を殴りつけた。ゴギと音がして、彼女の手首が変に曲がった。ルキウスはなんともない。さらに折れた腕を限界まで振りかぶった。


「おい! 何を」


 ルキウスが慌てるが彼女は止まらない。折れた腕が強烈な電気をまとった。渾身の一撃が――電気そのものとなった腕が顔面に稲妻を落とした。

 ルキウスが強烈な衝撃で一瞬ふらつく。


「ぐがっ! な?」


 目の奥から脳までが焼き付き、視界が一瞬白く染まった。彼は何が起きたかわからない。頭の中が痺れ、鼻先が痛む。人目が無ければ押さえていた。


 ルキウスの頭は新たな混沌で一杯になった。

 何が起きているんだ? なぜ攻撃が通るのか、そもそも殴られる筋合いはない。

 サンティーも含めて人類のために戦う決心をした。生まれて初めて真面目にやってる。自分は感謝されるべきだ。


「私は誰よりもここを見ている。ギャッピーさんが悪い事をするわけ無いだろうが!」

「……何を根拠に?」


 サンティーは過去最高の力に満ちていて、光で神々しく見えた。

 しかしルキウスもはいそうですか、とはいかない。


「何も見ていないな」

「同じ異星生物だぞ、どう考えたって危険だろう」


 ルキウスの苛立ちが少し音に現れた。部下と友人が入り混じる中で、抑えていた自然な感情が戻ってきた。


「どこが同じだ!? あのにょろにょろは最初からおかしかったし、ギャッピーさんはずっといい人だ。全然違うだろうが」

「だとしても演技かもしれないだろう? 頭がいいらしいし、状況が変われば脳みそみたいに変態して、身体自体が変わってしまうだろう」


 意思が体を動かすのか、体が意思を定めるかはわからないが、二つは絡み合って無関係ではいられない。

 そしてあらゆる意味で緑野茂がもういないことだけは知っている。彼は身体というものを理解し始めていた。人の体はもう無いのだと。


 物を食べるのに毒を気にしないし、石が口に入っても出すのが面倒だから噛み潰す。 

 腕が取れてもショックは受けない、自分でも他人でもだ。

 あれ以来、火も苦手になった。体に意志が付いてきたのだろう。


 そして市井の人であっても、このシステム下では振る舞いを変える。生物は環境に適応する。


 脳憑依虫ブレインディペンデンスワームとて生物の一種、彼らなりの繁殖戦略があり、それは遺伝子要素に染みついている。彼らは遺伝子にささやかれ、環境の導きに従っているのだ。

 ならば同じく生物であるギャッピーも、増えようとするだろう。


 だがサンティーの前にこの思考は意味を持たない。彼女は見た世界が全てであり、見ていないものは無いとする人であった。


「お前は何も見ていない! ギャッピーさんは率先してドニの娘の相手をしている。岩にガンガン叩きつけられるから背中が割れるし、たまに足がとれるが、黙って脱皮で足が生えるのを待っている。追いかけられても逃げない。あの娘は走ると危ないからな。あの子はギャッピーさんが大好きでいつだって探しているぞ」


(それは止めろよ。モーニの将来が心配だろ。破壊神にでも育てるつもりかよ)


「いや、しかし」

「虫にだって優しいぞ。毎日、アリの巣の前に残飯を置いてる」

「だからだな」

「ギャッピーさんに謝れ」


 ルキウスが想定外の情報に追い込まれ困惑していると、抱えられたギャッピーが足の一本を動かした。


「ギャピギャピ」

「そんな事言わないで!」


 湿った声に、ソワラが絶叫した。


「……何か言っているのか?」


 ルキウスはサンティーの視線から逃れるように尋ねた。


「私は奴らの反乱を知った時、こうなると予測してここに参りました。皆さまが争う事はあってはならないのです。私が死ねば全てが解決するのですから本望。現世の母上様、今までありがとう、と言っています」


 ソワラが泣き崩れた。


「ほら見ろ、悪い奴がこんなこと言う訳がない!」


 サンティーが怒鳴った。


「友もあれと喋れるのか?」

「さっぱりわからん、だが目を見ればわかる」


 サンティーが力強く言い切った。

 ルキウスは虚ろなひとつ目を見た。感情がまったく読めない。そもそも表情がない。

 ソワラのうるんだ目が見つめてくる。


「……処分は不要とする。だが増やすな」

「ありがとうございます!」


 ソワラがギャッピーを強く抱きしめた。足がもげて落ちた。よくとれるようだ。


(人類的には駆除が正しい、正しいんだよ。でも俺、神だし。友がすげえ怒ってるし仕方ないよな)


「ギャッピ」

「なべぶたの隙間より新たな命が舞いこんだ。今より我が命は天のものとなった。  我が天運をもって安寧の世をもたらさん、と言っています」


(長すぎるだろ、聞き取れない音波があるのか?)


 ルキウスは視覚を音波視覚に変えた。ギャッピーは口以外に、背部中央寄りの四か所から振動を出している。かなり複雑な音波信号を意思疎通に用いているようだ。


 彼はギャッピー同好会がギャッピーは文明的な生き物だから外交関係を樹立するべきだ、と戯言を言っていたのを思い出した。


 多くが重なり、ルキウスはシェイカーの中身みたく混乱して押し黙った。

 ここからどうすればいいのかわからない。

 部下達は言葉を待っているに違いない。


「怒ってるのか?」


 サンティーが気まずそうな顔をしている。


「腕だ」

「なに?」

「腕だよ、痛みが無いのか」

「なんだ、これはあ!?」


 サンティーが自分の手首を見て驚いた。彼女は騒くだけでらちが開かないので、ルキウスはさっさと腕をつかんで治療した。


(神経制御による痛覚無効、上位職業に至ったか。どこで経験値が? わからん……三日に一回ぐらい罠踏んで、ペットと遊んで体当たりされ骨折、噛まれて出血、毒草とか一杯食って、毒虫をつかんで刺され、バイクやらの機械で交通事故。結構死にかけてるか。負傷からの回復でも経験値入るからな)


「成長したものだな」

「何が?」

「目覚ましに使える電圧にはなった」


「それで、いかがされますか?」


 ヴァルファーが緊張した面持ちで言った。成長に感じ入っている場合ではなかった。


「少し一人で考える。お前達はここの安全確認でもしておけ」


「まあまあ、お疲れの様子。あたしがお慰めして差し上げたいわあ」


 アブラヘルがすり寄って来た。


「いらん」

「つれない態度も素敵ぃ」


 アブラヘルが悪戯っぽく笑い、クルクルと華麗に身を翻し、ケープとスカートをなびかせて離れた。そしてソワラに引っぱられて行った。


 全員が部屋を出て、ルキウスは一人になった。

 ルキウスが魂の混じっていそうな重いため息をついた。


「なーんも解決してねえ」


 言われてみればサポートのことを含め、自分の家を何も知らないし、脳みそは元気に繁殖中だ。


 思えば自分は何も成し遂げたことは無く、優位の拠り所は栄えある組織の一員であることだけ。それもいまや夢幻となった。

 それでも彼を支えるのは協会の教えだった。


――協会員の誓いを思いだせ。


 全ては人類を正しく導くためにある。

 徹底して活性を促し、腐敗と怠惰から逃れるため。

 そして選択を誤らぬため。


 部下は敵ではないかもしれない。それでも部下は信用できない。能力と性格の両面で、当てにするのは危険に思える。


――本当にそうか?


 答えを出すには早過ぎる。だって全く見てこなかったのだから。


 師からたまに、答えはいつも見えている、との言葉を聞いた。

 その真意をはっきり尋ねたことはない。

 色々と解釈できる言葉だが、概ね思い込みをたしなめ、手にした情報をしっかり認識しろという意味に受け取っていた。


「アトラスの敵はトラウマ主義だ。逆流者達は、人類が打破すべきものと協会が定めた対象。妄執は我らが怨敵。ゼウス・クセナキスはそれに反逆した」


 逆を行けばいいという訳ではない。一人一人を思い浮かべる。


 ウリコ、金のことしか考えていない。金集め自体を目的とする宗教の信者だ。


 ソワラ、ギャッピーといる時、幸せそうにしている。パートナーとして傍にいたがる。好意的だが、その源泉が何かはわからない。


 アブラヘル、奔放でいかにも女性的なところが少し苦手だ。しかしこれまで命令に背いたことは無い。ふざけていても、はっきり言えば従う。


 カサンドラ、何を考えているかわからない。仕事はそつがない。何が見えているのか、ひとりで納得している事がある。


 ヴァルファー、若いのに真面目に働いている。それ以外は知らない。


 ゴンザエモン、戦うことしか考えていない。これは断言できる。命令を聞かない。命令を聞く必要があるという認識自体が無さそうだ。


 テスドテガッチ、難しい事は考えていない。守ることがアイデンティティーのようだ。日向で動かない彼の周りにはペットが集まる。


 ゴッツ、頑固な職人だ。あまり変な物を作らせようとすると、怒って説教が始まる。あの顔ですごまれると怖い。


 ヴァーラ、人助けが彼女の生き甲斐だ。長く一緒にいるせいで一番知っている。


 メルメッチ、普段の自分に少し似ている。仕事はするが余裕があると遊んでいる。ハイクの護衛に付けた際に、ハイクに与えた食料をつまみ食いしていた。

 ハイクに家に妖精がいると言われ発覚した。一度シメておいた方がいいかと思ったが、俺と同じなら――きっと何も聞きはしないだろう。


 ターラレン、行動型の研究者だ。研究畑の友人たちと似ているせいか、付き合いやすい。言っている事は大体聞き流している。


 エヴィエーネ、定期的に爆発して、へんな薬をキメている印象しかない。研究室に籠っているので普段会わない。


 アルトゥーロ、機械の整備、設定を黙々とやっている。飛行機を磨いている時は少し表情が緩む。


 エルディン、妖精人エルフらしく、森がさまになる男だ。一人を好むが、レニに弓を教える姿が見られる。


 マリナリ、彼女は狂信者だから、命令すればなんでも従うはずだ。その命令の解釈に相違が生じそうな予感はあるが、彼女が裏切るなどあり得るか? 考えにくい。


 主力を含む、千レベルはこれだけ、他は接触回数が少なすぎる上に、性質をあまり知らない。

 ショクザイソウコのおかげで、料理にありつけて助かると思うぐらいだ。ドニも同じように思ったのか、料理人を目指している。


 彼が思い返せば、大半の部下は好きな事をやっている。

 だからこれまで従っていた。


 だがもし、意に沿わぬ命令を下したならどうなる?

 全員がさっきのソワラのようになるのか?


 これまで、善・悪・秩序・混沌の属性、種族、職業クラスから、性格を推定していた。

 しかし心までは見えなかった。


「誰がどの程度の無理を聞いてくれるかが重要だ」


(ほかに見落としていた要素……ヴァーダントか?)

 ルキウスがヴァーダント系の主神であるせいで、そのサポートは簡単な前提条件でヴァーダント系の職業クラスに就ける。


 代表格はマリナリ。彼女はすべての職業クラスがヴァーダント系で、基礎職業ベースクラスは〔森人/マセワルティン〕系の森特化だ。


 アトラスのシステム上、信仰は捨てられる。しかし信仰魔法や職業クラスレベルを丸ごと失う。

 ヴァーダント系は、マリナリ、ヴァーラ、メルメッチ、エルディン、アブラヘル。

 レベルを失う影響は深刻だ。この五人は離反しにくいと考えられる。


 それでも、ヴァーラに悪事を成せとでも言えば、従うとは思えなかった。

 言いくるめることが可能だが、それには行為の善性を理解させねばならないだろう。


 ルキウスは改めて部下達の再確認を終えた。

 部下を評価して、信用できるものをより分けられるのか。


「無理だな。人は複雑なのが面白いんだから、無理だ」


 だからといって、部下を使わない選択はあり得ない。

 部下達は皆が何かの専門家、特殊な技術と知識を有する。ルキウスはそれに頼るしかない。

 そして彼がその全てを理解、監督するのは不可能、つまり、この先もトラブルは起きる――起きてから対処するしかない。


「彼らの望みを考えた事が無かったな」


 ルキウスは地道に部下と向き合おうと思った。そして蟲の対処だ。


「ルキウス様」


 ターラレンからの通信だ。


「状況はどうか?」

「人口千人以下の小さな町がいくらか陥落しております。中央部以外の大都市ではさほど広がっておらぬ様子」

「拡大より人の模倣を優先するか」


(なら封じ込めできるか。いや、一匹でも包囲の外に出れば失敗、全体の傾向は関係ないか)


「落ちた村は血痕や破壊など多少混乱の痕跡ありますが、平時と変わらず見えます。奴らは至って真面目に畑仕事をしており、他の街に攻め入るような動きはありません」

「中央は軍までやられているだろう。そいつらは動かないのか?」

「大規模な軍の動きは確認できておりません」


(あくまで演技をするか。それが奴らの好みか)


「奴らの探知は可能か?」

「隠密性が高く、わしでは精神集中して三十メートルまで。ただし触手が外部に出ていれば、周囲三百メートルはいけます」

「厳しいな」


 探知の網が小さすぎてとても封鎖できない。


「ですなあ。奴らは信仰魔法すら使います。神を騙すのは難しいですから、完全な人間偽装モードと、蟲の本能モードを切り替えている気配が少し。自分が蟲であるのを本気で忘却すれば、神とて騙せますからな」

「普段は偽装モードと」

「はい」

「ふむ、ならば意外と国中で大混乱ではないのか……」


「一部の街では蟲の存在が露呈したらしく、疑心暗鬼から人間同士で殺し合っております。その混乱に乗じて増えておるやも」

「ああ、そうきたか」


 気付いても気付かなくても問題になる。これは解決しても尾を引くかもしれない。

 しかし根絶を確認するすべがないから、それぐらいの警戒がある方がいいか。


「魔法に頼らずに見分ける手段はあるか?」

「感染から数日は思考が安定しません、これは従来通り。それと別に、動きが緩慢になる時が。会話しておれば気付くでしょうな」

「なぜ、鈍る?」

「その後、行動が変化する個体が散見されます。通信をしているのかと」


「通信能力は確定的だな」

「はい、細かな条件を知るには時が必要です」

「他は?」

「これは確認中ですが、感染者同士は争わないかもしれませぬ。不自然に喧嘩が収まるのを見ました」

「同族同士は仲が良いか。人より優秀だな」

「そうですな」

「この事態、お前ならどう処する?」


 ルキウスはサポート理解の一環として、部下の意見を尋ねた。


「未感染者を可能な限り避難させ、全てを焼き払います」

「お前でも数日掛かりの作業だ。討ち漏らしが出よう」

「何も無い焼け跡なら、それも探しやすいかと」

「あまり助けることを考えていないだろう。焼却した土地に戻しても生きていけぬ」

「大衆を選別して避難させるのは無理です」


 ターラレンの声は平静で、アップルティーを飲みながら話す調子であった。

 蟲を知らない者は意味がわからず、蟲を知る者は疑ってくる。そして民衆は数が多く、管理が困難。

 言っていることは正しい。しかしルキウスはターラレンの目的がわかる。


「お前が助けたいのは魔術師だろう」


 大衆の感染状況を正確に知れないのだから、彼の言う未感染者は相当に限られる。


「手が届くのはそれだけでして」


(これがこいつの仲間意識の範囲かな。近しい者に価値を見出すのは誰でも同じか。知り合いがいなければ、すぐに焼却すると答えただろう)


 職務の範囲で自分の都合が良くなるように振る舞う。魔術研究の予算請求と同じだ。彼は上司に交渉をやる人なのだと、ルキウスは理解した。


「そうか、だがまずは調査だ。殲滅は最終手段になる」

「人々を助けようというのですな。ルキウス様はお優しい」

「焼いたつもりで逃走された場合を考えただけだ。隔離環境で観察しても、奴らの正しい姿はわからない」

「後にも備えると」

「ああ。ターラレン、迷惑をかけるな。つまらん雑務だろう」

「ありがたいお言葉。しかし迷惑などありません。これこれで興味深い事態ですからな、かか」


 ターラレンが笑った。


 いくつかの情報を得て通信が終わり、ルキウスはまた一人になった。 

 初めて部下と話したような気がした。きっと錯覚だ。


 彼は組織の長としてやるべきことがはっきりとわかった。

 俺が力を示せば済む話。優れた管理者であれということ。それで全てが解決する。これまで放置で任せすぎた。


 としてどうする? 今は部下と親睦会をやっている場合ではない。

 あれと人種は相いれない。どちらかが滅びる。対処は必須にして緊急。

 放置すれば、奴らが宇宙進出する可能性だってある。可能性は非常に低いが、先はわからない。


 ルキウスは師の宇宙への憧れを思い出した。

 無限に広がる可能性の海まで、蟲の汚染が広がってもおかしくない状況だ。


「俺が師の余栄を汚してたまるものかよ」


 そして奴らが進化するなら、完全に人体と一体になることだってありえる。

 人の知性と群体の連携能力。彼らが理想の知的生物なのかもしれない。

 彼がこの世界を手中に収めたら、一種の理想世界がやってくるのかもしれない。

 なんせ全員が繋がっている。確実に平和になり、安定的な発展が訪れる。

 それは人間にはできない事だ。


 人はただの器として存在する。そんな世界をなんて呼べばいい?

 いつか奴らの学者が自分の体を研究してこう言う、我々の肉体はどこからやってきたのでしょう? 起源はどこにあるのでしょう、不思議ですねと。


「糞くらえだ、俺の趣味じゃない。あんなびっくり脳みそ野郎はな。あれが理想なら、人類が宇宙全体に広がった後に生まれるとされた理想郷ユートピアだというのなら、いらん」


 人類に気に入られることで、数を増やし繁栄した植物が多くあるという。

 ルキウスはそれを生存戦略だと認めていたし、一種の勝ちだと思っていた。

 しかし蟲に利用されて繁栄する人類は認められなかった。

 矛盾だった。しかし嫌なものは嫌であった。それは彼の規定する人類ではなかったのだ。


「穴の無い計画が必要だ。しかし駒が足りない」


(俺を合わせて、主力十二名。機械が一杯あるからアルトゥーロも主力に数えられるか。しかし、敵が多く広範囲に散らばりすぎている。戦争と防疫を同時にこの人数で? 無理がある)


「殲滅、索敵、封鎖、どれも決め手に欠ける」


 殲滅、感染者で満ちた街は感染源にしかならない、今すぐ消し飛ばすべき。だが通信しているならばれる。敵が一斉に逃げ出す可能性がある。

 そして全都市を一斉にはやれない。


 索敵、広範囲の索敵に掛かるなら逃がす可能性は低い。国外まで広がっても追って殺せる。しかし隠密能力が高い。


「奴らが独特の脳波パターンや化学物質を出していれば、追跡する道具はある。だがもし無かったら厳しい」


 封鎖、完全に国境を封鎖できるなら、時間が掛かってても殲滅できるだろう。

 だが魔術師なら瞬間移動テレポートで十キロ以上を飛べる。転移系の魔道具もあるかもしれない。


 転移事故が恐れられてはいても、転移を試みることはできるのだ。

 既に偶然の転移事故で、他の大陸に飛んだ可能性すら否定できない。それに追い込めば、一斉に転移で四方八方に逃げ出す可能性がある。


「高位の魔術師だけは先に殺さないと駄目だ。幸い魔術師は名簿がある」


 自分を追いかけてくる敵ではなく、自分から逃げ隠れする敵。しかも大勢で増殖する。

 細菌、ウイルスならワクチンが簡単に作れるが、異星の蟲となれば難しい。


 アトラスの異星生物は、多くが実在のものをモチーフにしていたが、あの蟲は違う。参考にできる現実の対策が無い。

 ルキウスは考えるほど厄介だと感じた。


「地球のやり方は通用せんな。やはりまずは情報だ。これは手っ取り早い手がある。地球にはない手が」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読み直しました。 読んでて楽しいです。 更新楽しみにしています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ