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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
2-1 伝説の復活
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世界崩壊

「まず基本を確認する。奴ら――蟲は成り替わった人間に近い能力と記憶を獲得する。寄生できるのは人種だけ。そうだな?」

「そのはずです」


 ルキウスの確認に、ソワラが答えた。


「能力が低下するのは、多分変わらない。完璧な演技ができるなら、最初からやった方が蟲どもの生存に有利だ」


 ルキウスは自分に言い聞かせるようにして考えていく。

 指揮官がいれば、捨て駒を使って欺瞞情報をかますかもしれない。

 しかし、人を模した社会的動物ならば、分散知能的な振る舞いができても、組織化はされてはいない。

 今は指揮官がいるかもしれないが、最初はそうだったはず。つまり、元の人間より劣る。

 

「力は強かったぞ」


 サンティーが言った。


「やつらは脳を自在に使う。だから力は増える。そして電気には強い。ある意味、電気の専門家ではあるし」


 それでも、サンティーへの襲撃は成功率が低い。捕虜はこちらの戦力を知っている、わかったはずだ。それに成功しても露呈するだろう。

 それでも動いたのは、外の蟲が動き出せば本性がばれるから、と考えれば納得できる。


 他には、何かのトリガーで、一気に行動が活発化したとかか?

 もしも俺が敵なら、俺を敵に回さずに限界までこっそり増える。

 それをやらないのは、できないか、単に馬鹿だからだろう。

 それならまだ、対処の余地はある。


「基礎能力は、変わっていない。問題は繁殖だ、どうやって増える? 雌雄は?」


 全個体に繁殖能力があるなら、真社会性ではない。そっちの方が助かる。

 各個体が自己の繁殖を優先して、協力に限界が生まれる。


「召喚した時点で培養液に幼体が含まれています。幼体は人体に入ると脳まで移動して同化吸収して成り代わります。性別はありません。繁殖方法は不明です」


 ソワラが言った。顕微鏡を使わないと見えないような大きさの幼体だ。


「不明な」

「接触しようとしたなら、貧弱で外部生存できないのは変わらないかと。飲み水に混ぜて、全てに感染とはいかないでしょう。ただし、魔術などで一時的に強化、生存できる可能性も」


 ヴァルファーが言った。


「スンディで感染させた連中の動きは追っていたな?」

「ほとんどはワシャ・エズナより出ておりません。死亡した個体もいません」


 ソワラが答えた。


「彼らは社会的地位の高い人物と、その周辺。王都を離れません。こちらの認識していない子を通じて増やしたのは確実です」


 ヴァルファーが言った。


 あれが伝染的に増える認識は、ルキウスにも無かった。

 あの蟲はアトラスでは時間で悪化する特殊な病気扱い。最後まで悪化すると、死亡扱いで敵になる。

 プレイヤーを別物に変える攻撃としてはぬるい方で、簡単に治る。


 これが活躍するのは推理クエストの敵役ぐらい。これに苦しめられたという人はいないし、これが役に立ったという人だってあまりいないだろう。

 ルキウスは大したことが無いという第一印象に、思考が引っ張られていたのを自覚した。


「国外に出ようとした個体はいないな? 反乱開始が今日か、二か月前か、その間かで、話が大きく変わってくる。奴らの配置を予測する必要がある」

「第一世代は、昨日まで確実に国内に留まっています。最短距離でも国境まで百キロはあります」


 ソワラの声が小さくなった。


「ヴァルファーはどう考える?」

「寄生に時間が掛かる性質上、拡大速度に限界があるでしょう。高位の者を狙うのは難しく、貧民が寄生のターゲットとなります。しかし、スンディの国内は緊張状態、貧民は簡単には移動できません」


「そうだな。すでに広がったスンディと、ザメシハの方はいい。国境は封鎖してるし、散々破壊工作されたおかげで、不審人物に敏感になっている。伯爵が人の流れが遅いと嘆いていた。問題はモヌクだ。船に乗られたら大陸南部まで広がってしまう」

「この場が終わりましたら、国境沿いにはアルトゥーロの機械部隊を送り、モヌクの港も監視させます」


 ヴァルファーが言った。


「出港した船の記録も集めておけ。あとは我々の知らない蟲の情報が必要だな」


 蟲の能力を確かめるのは難しくない。

 すでにスンディで活動している個体を観察すれば確実だ。

 そして当人以上に知る手段もある。


「エヴィエーネ、蟲の性質を調べられるか」

「現物があれば簡単、簡単。まずは寄生後の成長体をいただきたいなあ」


 エヴィエーネが笑顔で答えた。


「標本を作ろう。ホムンクルスはあるな?」

「いっぱい、準備しとる。臨床試験はいっぱい解体せんと、信用できん」

「知りたいのは習性だ。まず好みが知りたい」

受容器レせプターと薬物との反応を見て、そこから習性を逆算すればええで。体は正直や」

「次に対処手段、引き寄せることができれば最高だ。選別的な毒も欲しい。奴らにだけ効くのが理想だ」

「その要求は時間が欲しいなあ」


 エヴィエーネがニヤけた困り顔をしていると、部屋のドアが静かに開いた。

 面だよ!目覚まし面熊君が竹刀を構えて、とことこと入ってきた。

 そしてサンティーの前まで歩き、跳躍する。そして面だ。


「起きてるよ」


 サンティーは慣れた様子で、身体能力を上げ軽くかわした。

 面熊君の後ろからは、なぜかギャピーが入って来ていた。


「ギャピ」


(そうだ、こいつもいたな。実体化している召喚体)


「それも処分した方がいいな」


 ソワラがこの世の終わりのような顔で、ルキウスを見た。


「ま、待ってください。この子は安全ですから」

脳憑依虫ブレインディペンデンスワームにも言っただろう」

「安全だと証明します。できます!」


 ソワラが早口で食い下がった。


「そんな時間は無いし、ギャッピーが必要なら普通の召喚体は呼べば出てくるだろう」


 ルキウスはペット問題で揉める家庭みたいで面倒だな、と思った。


「この子は特別賢い子で」


 ソワラがすがるような目でルキウスを見てくる。


「余計に危険だろう」

「きっとこの子がお役に立ちますから」


 ソワラがギャッピーを抱えてルキウスに見せる。彼からは多くの足が見えた。


「またお前の失敗に付き合えというのか?」


 ルキウスが苛立った。


「ルキウス様、私も同じ能力なら同じ対処をしました。呪術だって私にも未知の事が多いのです。ですから――」


 アブラヘルがソワラの前に出て言った。


「アブラヘル、私は失敗を許さないとは言わない。だが事態の収拾は必要だ。実体化した異星生物を野放しにはできん。どんな影響をもたらすかは誰にもわからぬ」


「イヤアァァァーー」


 ソワラが金切り声を上げ、ギャッピーを抱えてしゃがんでしまった。ギャッピーがうつろな目でギャピギャピと鳴いている。


「急なことで混乱しているようです。この話は日を改めてということにしては」


 ヴァルファーが言った。


「そんなことより早く現物の確保をしたいなあ、もう調査に行ってええかな?」


 エヴィエーネが言った。


 ルキウスはこの事態に戸惑っていた。

 なぜ、こいつらは言うことを聞かないんだ? 人類存亡の危機だというのに。既に封じ込めには手遅れの可能性もある。それなら、あれの存在を広く告知して全人類で戦うしかない。

 スンディは全て焼却することになるだろう。どれほどの犠牲が出るかわからない。


 それと同等の脅威が目の前にある。害しかない。すぐに駆除するべきだ。

 なぜ、そんな簡単なことがわからない。

 なぜ・・・・・・なぜ?


 ルキウスの世界が急激に歪んでいく。

 喉が猛烈に乾いた。軽い吐き気がする。


 知るべきではないこと。

 彼はそれに気付いた。気付いてしまった。

 初めに忘れてきた恐怖が、追いついてきた。


 ルキウスの心の中で、自分を支える全てが破滅の轟音と共に崩れ去る


 サポートキャラクターは従順ではなかった。

 そもそもサポートが従順など誰が決めた?

 マニュアルに書いてあるとは思えない。


 なぜ自分に従うと思った? ゲームでは自分の命令で動く存在だったからだ。

 これはゲームではないのに、そこだけ引きずっていた。


 彼らの立場を、自分の場合に置き換えたならばどうだ?

 会社が丸ごとアマゾンの秘境にでも転移してしまった。

 状況不明の異常事態だ、誰もが混乱している。


 それでまず社長をぶっ殺そうと言う奴がいるだろうか・・・・・・いるかもしれない、少しは。だが一般的ではないだろう。

 指揮系統は維持される。上がよほどの馬鹿でない限りは。変化は最小に、それが誰にとっても負担が少ないのだから。


 ここで最初に聞いた声は、社長、だった気がする。認識は最初から顕著に示されていた。あれが答え。


 彼らは特に逆らう理由も無いので従っていただけ。消極的支持。

 状況は落ち着き、生活に慣れる。そこで彼らが従わない方が良いと気付いたならどうなる?


 そもそも、なぜプレイヤーに会わない? 存在しているはずなのに。

 召喚したサポートに殺されたでは?


 転生しないプレイヤーキャラは少ないが、サポートが千レベルになったら、それ以上転生させないプレイヤーは多い。


 もしも、プレイヤーがランダムなタイミングでここにやってくるなら、千レベルである可能性は低い。経験値を無駄にしないために、千レベルになればすぐに転生するからだ。


 同時に転生しても、プレイヤーは一レベル、サポートの基礎職業ベースクラスは固定だから、初期百、中期百、最終一の二百一レベル。


 つまり、サポートの方が強くなる。自分より弱いプレイヤーを助けてくれるのか? 邪魔なだけでは? しかも多くの場合、サポートは貧乏で、プレイヤーが金貨を持っている。

――殺して奪おうとしないと、なぜ言える?


「願望だ」


 ルキウスがつぶやいた。

 最初は彼らを疑っていた。しかし、自分に従う方が都合がいい。思考は都合の良い方に偏り続けた。


――見たままが答え。


 ウリコは今に至るまで、金のことしか考えていない。

 それを特殊な例外だと思っていた。

 しかしそんなことはない。全員が自分のことだけを考えている。


 そしてサポートは同じ仲間同士、プレイヤーは異物。

 部下はプレイヤーを見つけたが、始末したのではないか?

 彼らがプレイヤー同士の接触を望むとは思えない。異物が増えるのだから。


 こいつらは全員蟲と同じだ。


 気が狂ってしまいそうだ。何も見たくない。


 ルキウスの体の周囲の空間が歪み始めた。

 真なる狂気のオーラが部屋中に渦巻く。


「お、お待ちを、私がよく言い聞かせますから」


 アブラヘルが怯えた。エヴィエーネが部屋の隅に逃げた。ソワラが泣き出した。サンティーが倒れた。


 ヴァルファーがどうにか前に出た。


「どうかお怒りをお鎮めください。事態は私が収拾してご覧に入れます」


 ヴァルファーの声が震えている。


 部下達が慌て始めたが、ルキウスにはガラスの向こうの出来事に思える。

 視界が波打ち、ルキウスには全てが蟲に見えてきた。

 蟲、蟲、蟲、うごめく化け物の群れだ。


 今も部下達は反乱の機を窺っているのだ。いや、そもそもソワラが召喚体を把握できていないというのが怪しい。


 これは蟲ではなく、部下の反乱なのではないか? そう考えると納得できる。

 彼らは手駒を手に入れて、俺が森から離れるのを待っている。


 ルキウスは何か騒いでいる四人を見た。口を動かしているが何も聞こえない。

 この四人、今なら三秒で殺せる。ここは木の中、転移を潰せば逃さない。次に生命の木の中のいる人員を一人ずつ、次は庭にいる人員、最後は外の人員を呼び戻せばいい。

 一番危険なターラレンが外にいる今が絶好の機会だ。

外伝を書くので投稿ペースが遅くなります

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