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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-7 東の国々 魔道の残骸
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三日目2

 スミルナはグラシアが戻ってくるのを待って、へたばって冷たい地面で伸びていたが、それを気にしたヴァーラに治療してもらった。

 これ幸いと、いつもと同じように、親しげな様子ですり寄り、「こんなにすごい治癒は初めて! 剣も魔法も完璧なんて! すごいですね。ヴァーラさんって呼んでもいいですか?」と、隣に座った。


 グラシアはまだ戻らない。

 きっと、呪いや疫病などを噛まされていないかを、慎重に調べているのだろう。


 目の前では、模擬戦が続く。

 金を取れる高レベルな戦い。一生に一度見ることができれば幸運な、戦士の祝宴とも呼べるもの。

 しかし、気になるのは隣の聖騎士だけ。自らの最速を超える聖騎士。


 ハンターになった時から、年上で格上のハンターに囲まれ学んできたスミルナ。

 そんな相手との話は慣れている。機嫌よく話してもらおうと、明るく話しかける。


 これまでとの違いは、彼女が年下かもしれないということだけだ。

 自然体の彼女にしては珍しく、頭が働き、年齢だけは尋ねないようにする。


 模擬戦の話を振りながら、少し剣術の話をした。


「戦争は明日も休みかな。それなら、ずっとこの騒ぎが続きますね」


 スミルナが言った。

 このままなら、また戦える――戦ってもらえるという期待がある。


「・・・・・・長期戦はよくないですね」

「なんでですか?」


 長くなれば防衛側の方が有利に思える。国境とはいえ、向こうは湿原を越えて補給しないといけないし、数が多い。負担は多いはずなのだから。


「敵は一日休めば魔力が戻るので」

「こっちだって傷は癒えるわ。正面の壁は増えてるけど、敵だって邪魔で攻めにくいはずだし」

「攻撃と防御は一体のものです。剣も魔法も変わりません。一手積み立てれば、その分有利です」

「守りに徹すれば、敵の守りの札は浮くでしょ」

「兵自体が増えますから」

「向かっているらしい増援のこと?」

「それもありますが・・・・・・」


 ヴァーラは敵陣の方を窺った。そして向き直る。敵陣は、遠くにぼんやり灯が見えるだけだ。


「まあ、敵の触媒の具合次第でしょう」

「魔法もお詳しいんですね」

「詳しいというほどでもありませんが、魔力と物資に余裕があるなら、魔力をあふれさせはしないはず。魔力は、攻め手であり守り手、自由にさせてはいけません」

「自分ならそうすると」

「ええ」

「ヴァーラさんはどんな魔法を?」

「無論、我が神の恩寵によるものです」


 周りのコフテームのハンターが耳をそばだてている。これはよく聞いた、と思っている反応だ。

 スミルナが聞くと、口が緩む。過去に何度も経験した、それを期待した雰囲気。

 スミルナは、同じ街の人たちも知らないんだ、と思った。


「・・・・・・それはどのような神でしょうか?」


 宗教を尋ねるのは勇気がいる。事に野良の聖騎士ともなれば。


 聖騎士はなんらかの聖戦を行うために存在している。大規模な戦いであれ、個人規模であれ、それは変わらない。

 平時は、神殿で神官の護衛として待機しているものだ。

 自分の意志で戦いを求め、神殿を離れたなら、相当な急進派なのかもしれない。

 

 しかし、魔法を使えているのは、正しい信仰者であるとの証明だ。

 つまり、今だってなんらかの教義の範囲内で行動している。その信仰のために、命を危険に晒すことに、なんのためらいもない篤き信仰者。


 スミルナが知る聖騎士といえば、高慢で尊大、潔癖で口やかましい、さもなくば変人だ。

 水神の神殿のとある聖騎士は、毎日欠かさず、一刻は川で泳ぐ。冬だって関係無い。

 彼が水に入る場所には、「これは彼個人の信仰です」と書かれた立札がある。


 風の神殿のとある聖騎士は、定期的に風と一体になろうして、高所から飛び降りて足を骨折する。

 俺は風になると叫ぶ姿は、馬鹿にしか見えない。


 どれにしても付き合いにくい。模範的で誰もが尊敬する――そんな聖騎士を見たことがない。


「神に興味が?」

「ええと、ヴァーラさんのことが知りたいの。ヴァーラさんみたいに強くなりたくて」

「我が神は、古き緑にして、繁茂する者、埋め尽くす手、一房にして全、絡み合う法典です」


 あまり善神っぽくない御名みなが並ぶが、回復魔法が使えるなら、悪神ではない。

 なんとなく、いっぱいになりそうなイメージ。


「つ、強そうですね? 自然神ですか?」

「ええ、人の世界の続く所には、どこにでもおられます」


 中立だとすると聖騎士パラディンではなく、何かの神聖騎士ディバインナイトと呼ぶべきだが、そこまで聞けない。聞けば、気を悪くするかも。


 しかし語調には、誇らしいものが含まれていた。

 ハンターになる前から、現在までに聞き慣れた、熟練ハンター達の息遣い。

 自慢の技・装備、潜り抜けた修羅場。話したがるものは、まず聞かねばならない。


「なんか、繁栄とかの御利益がありそうですね」

「うーん。我が神は分裂で増えるので、人には・・・・・・どうでしょうか」

「増えるんですか?」


 スミルナはつい尋ねたが、頭の中は本当に疑問でいっぱいだ。

 信仰者が神を語る時に、まず出ない単語を聞いた。正しい対処がわからない。


「水分があると増えます」


(干物かな? 人型じゃなさそう。粘体の可能性も・・・・・・)


「それに暖かい方がいいでしょう」

「それは春が待ち遠しいですね。それまで戦争が終わるといいな」

「ええ、伸び縮みするので狭い所にも入れます」


(生き物? 精霊的な方向なのかな)


「あとは、美味しい食べ物を多く作られます」

「豊作ですね! それは素晴らしいです!」


 やっと合わせやすいのが来た。


「そう! 豊作です。成長などを司っています。それで伸びます」


 ヴァーラが思い当たった感じで言った。


「どうですか、美味しい物が食べたいですよね?」


(勧誘なの? わからないよ)


「それはもちろんそうね」

「そうでしょう」


 ヴァーラが大きくうなずいた。

 しかし、次には動きを止めると、バイザーを上げ、周囲を窺った。


「泥臭い。これは・・・・・・知らない匂い」

「そうね。なんの匂いかな」


 スミルナも匂いを嗅ぎとった。湿原の匂いとは違う。治療で薬草でも使った人間が帰ってきたのか。土に金属的なものが混じった匂いだ。

 少し神経を集中しても、どこから来るのかわからなかった。



 ヴァーラはあるじの性質を説明するのに困っていた。

 主の性質、欺き・防衛・植物・成長・土・混沌、そして狂気。

 狂気の森の主は、一般受けが悪いので省いた。


 ヴァーラはスミルナが動物系《魔族/ナイトメア》だと、報告で知っているので、一人前に育てねば、と思っていた。

 大戦前の記録からすると、魔族ナイトメアは一定数いるはずだが、普通に畑仕事をしていれば、力が目覚めることはないだろう。

 魔法的な血筋はたまにいて、魔法使いとして教育を受けている。しかし、戦士系は他に確認できない。

 貴重な同胞。ちゃんと力が使えるようにしてあげたくてたまらない。


 しかし、ちょっと変化へんげしてみましょう、とは言えない。魔法使いなら言ってもよかったのだが。

 初期の魔族ナイトメアでも、腕だけ獣化のような部位強化はできる。筋力強化的な意味で、腕を獣にしてみよう、と言ってみようか。

 幸運にも、相手はこっちに興味を持っている。やって見せて、真似させるのが早いか。


 ヴァーラが不審な匂いを気にしつつ、そんなことを考えていた時、乗騎から精神の波を感じた。


(やはり来たか。ここまで見なかったのは、意識させないためか。カラファンは、まあ大丈夫でしょう)


 ヴァーラはすくっと立ち上がった。


「ヴァーラさん?」


 スミルナはそれを見て、不思議そうに言った。


「戦闘準備をしなさい」

「え?」


 スミルナはついて来れない。横目にやり取りを見ていたチェリテーラは魔銃を抜いた。

 ヴァーラは瞬時に五メートルほどの距離を駆け、足を伸ばしてだらっと座っているハンターの足の間の地面を突き刺した。


「うわー! 何をする!!」


 ヴァーラに飛びかかられたハンターが、声を裏返らせた悲鳴を上げた。

 見ていた者もこの行為を理解できない。鋭い目で見ていたのはチェリテーラだけだ。


 しかしすぐに、ヴァーラ目掛けて地中から胴体目掛けて針が飛び出し、それを後ろに引いてかわした。ハンターは完全に動転して、喉の奥からかすれた叫びをこぼした。


「手応えはあったのに、二匹? どんな形?」


 ヴァーラは疑問に思ったが、次の針が出た地点を突き刺す。何かを貫き、針は塵になり分解していく。地面からもわずかに塵の噴出がある。


「敵襲! 地下より! 目視困難!」


 チェリテーラが魔法で拡声した大声を響かせた。

 外で騒いでいたハンターが静まり、天幕から人々が飛び出る。


「どこだ!? 識別は?」


 認識が遅れたザンロが言った。


「地中よ! でかい針が下から飛び出す。地面の盛り上がりは見えない。召喚体、他は不明」

「捕捉できるか?」

「わからない。でも浅い所にいる。攻撃を届くと思うけど、顔を出すタイプじゃないかも」

「近くにはいない。匂いが薄くなった」


 スミルナが言った。


「匂い? 相変わらず鼻が利くね。私にはわからない。魔力は視認できず、至近距離にはいないと思うけど油断しないで、真下から接近されると、反応が遅れる」


 チェリテーラが言った。


「低い場所の方が濃い匂いよ」

「下に顔を近づけない方がいいぞ」


 三人は目を凝らして警戒する。ハンター達は、警戒するか、周囲に状況を尋ねている。


 その時だ。少し離れた場所で、死体の回収をしていたハンターと、湿原のヒバリを仕留めて帰る途中だったハンターが、同時に地中から飛び出した針に突き抜かれた。一撃を受けたこの二人は、さらに飛び出した針に貫かれ、最後には五、六本の針で固定されて止まった。

 そして少しすると針が連続して地中に引っ込む。残されたのは死体だけ。


「あれか!」


 攻撃を完全に認識したハンターがどよめく。

 それを待っていたように陣内のあらゆる場所で、地面から針が飛び出す。それは容赦なく人々を貫いた。悲鳴が上がる。先ほどまでとは種類の違う喧騒が爆発する。


 針は必ずしも致命傷ではない。攻撃を受けた者が、近くの針を見つけた者が、反撃を試みる。

 しかし、その強度に阻まれ、針を切断することも、地中にある本体を仕留めることもできていない。


「叩き折ってやれ」「負傷者を後送しろ!」「地中を探れる奴は?」


 ハンター達はまずパーティーで集まろうとした。しかし暗い陣地は人々が走り回り、完全に混乱状態。離れていたなら合流は困難だ。

 判断できずに止まっている者、とりあえず攻撃から逃げようと走る者も目立つ。


 さらに合流したパーティーも対処に困っている。地中を攻撃する手段が無い。真下から来ると防御もできない。

 

 むやみに地中を攻撃する者もいる。しかし湿原とはいえ、そう簡単に深くまでは刺さらない。


 下方から来る鋭利な一刺しは、ハンター達の装甲の弱い下半身を切り裂いた。

 それでいて低い敵に有効な全力の振り下ろしは土の防壁に阻まれている。

 彼らは慣れない下方に備え、思い思いの態勢で構えた。


 ヴァーラは特徴的な匂いと魔力反応を追って、暴れる針の動きを見切り、次々に地面を突き刺す。しかし、正確な位置は見えていない。


(多分そんなに大きくない。動きも遅い)



 そこにグラシアが戻ってきた。


「なんの騒ぎ?」


 遠目に見る暗めの陣地は、やたらと人影が走り回って、火が何度も遮られた。

 馬鹿騒ぎにでもやりすぎだ。

 困惑した彼女は足を止めた。しかし、武器を抜いているのが見える。普通ではない。

 何か危険がある。錯乱などの遅効性状態異常か。にしても多すぎる。


 背中のカバンの中の響き石が振動した。それを取り出す。


「今どこ?」


 チェリテーラの声だ。切迫している。


「戻ってきたところです。騒ぎが見えます」

「地中から敵襲よ。かすかに魔力がある。地面を見るのよ。気をつけて。こっちから合流する」

「わかりました」


 グラシアはすぐに地面を見て魔力のオーラを探した。

 足元に、どんよりと地面近くに立ち込める魔力のよどみが見える。


 まさか、これ? グラシアは後ろに一歩下がった。

 ズボッ! 飛び出したのは、左足の太ももを狙った突き。


「うひい!」


 グラシアは左足を引き、身をよじって回転、どうにかかわした。


「ほひょい」


 そして、グラシアは反射的にそれを杖で打ったが、硬い音が返ってきただけで意味は無かった。

 針の先が斬りつけようとしてきたので、後退する。針はゆっくりと前進してきた。

 目の前の針を注意しつつ、周囲の魔力を探る。

 そして、視界の隅からこちらに飛ぶ赤い光弾が見えた瞬間、目の前の針が、火炎を湧きあがらせ爆発した。


「のわいっ!」


 グラシアは爆風の勢いで後ろに転倒した。

 急いで身を起こすと、三人が走ってくるのが見えた。


「チェリ! 撃つなら、撃つと」

「人が多くて、なかなか射線が通らないのよ!」


 到着したチェリテーラが言った。そしてザンロが周囲を窺う。


「今のはどこだ?」

「見えなくなった。深く潜ったのかも。多分、針はすぐには回復しないわ。あれを折るだけでも意味はある感じよ」

「数が多いぞ」


 ザンロが、周囲で飛び出し引っ込むを繰り返す針の群れを見て言った。


「盾を置いて」


 チェリテーラがザンロに言った。


「なに?」

「盾を足場にするのよ」


 ザンロは渋々盾を置いた。それにザンロ以外が乗った。


「これで真下は大丈夫」

「俺の場所は?」

「あんたは大きいから無理よ」「困難な試みでしょう」「無理かなあ?」

「・・・・・・お前らちょっと酷くないか?」

「移動速度は遅い。心配いらない」


 チェリテーラが言った。


「なら降りたらどうだ?」

「念のためよ。そっちは鎧があるでしょ。なんなら、あんたを敷いて、上に乗ってもいいのよ。盾役だし」

「それは盾か?」

「下から敵が来てるんだから、盾は下向きでしょ。少し集中する」


 チェリテーラが目を閉じ集中して、索敵範囲を三十メートルまで広げた。地下深くは索敵できない。

 おぼろげな魔力反応が地中に感じられる。地上の魔法使いの反応が大きく邪魔だ。


「動きは鋭くない、対応できるわ。でも多い。囲まれている。土と水っぽい感じ」

「全部同じか?」

「大きさは同じぐらいよ」

「結界を張りますか? 召喚体ですよね」


 グラシアが見た先では、魔法使いが結界を張り、その周囲にハンターが群がってできた団子がある。


「他の奴らにはきついだろ。こっちで減らすぞ、減らさないと終わらねえ」


 ザンロが言った。


「まあ、あんたはほぼ鎧だから大丈夫だろうけど」

「自慢じゃねえが、靴の裏は薄いんだからな」

「来た、そこよ!」


 チェリテーラが四メートル先の地面を指差す。

 すかさずザンロが踏み込み、両手持ちした戦棍メイスを振り下ろす。


「おらぁ!」


 全力の一撃が、地面を爆破し、泥が飛ぶ。


「まだよ!」


 チェリテーラの警告が飛ぶ。

 地面から斜めに飛び出した針が、ザンロの鎧をこすった。


「効くか、よっ!」


 ザンロが戦棍メイスを横薙ぎに振るった。針が爆発とともにへし折れる。


「くたばれいっ!」


 ザンロが何発も連続で地面を叩き、その度に爆発が起きる。

 八発目、やっと地中から塵が噴き出した。地面はかなりえぐれている。


「土を剥がさねえと駄目だな、だが針の威力はそれほどでもねえ」

「やはり水属性がありますね。水属性探知に引っ掛かる」


 グラシアが言った。


「全部かはわからないけどね、別種が混じってる可能性がある。この状況なら索敵は私でしょ」

「そうですね。次が来たら送還を試してみます」


 グラシアが言った。


「私の仕事は?」


 スミルナが言った。


「お前向きじゃねえな」


 ザンロが言った。


「ええー」


 スミルナが不満気に言ったが、チェリテーラも同意する。


「盾を構えて警戒だけやってなさい」



 魔法使いが出払って減っている。索敵手が足りない。

 周囲が騒がしい上に、敵が地中となると、通常の索敵は困難だ。

 それに地面を掘るにも魔法使いがいる。さらに触媒も。工事専門の魔法使いは坂の方だ。


 ヴァーラは手応えの中途半端さを不自然に感じた。貫いても、塵にならない時ある。おかげで荒っぽく何度も刺していた。彼女の流儀ではない。

 気配の近くで足を止める。


 足の裏を貫かんと、針が土を盛り上げた瞬間、彼女はその振動を感じて足を引いた。

 直後、ズボッと飛び出す一メートルの針。それを中頃でつかんだ。


 ヴァーラは、魔法で土を柔らかくして、壊さないように全体を引っこ抜いた。


 それはひどく単純な形をしていた。その姿は、針が一本生えた球体である。直径は三十センチぐらい。

 臓器的なものは見つからず、表面は荒くざらつき、タコが努力して描いたような紋様がある。

 彼女も初めて見るものだ。類似する魔物を知らない。


 つかんでいる針が小さな体の中に、にゅっと引っ込んでいく。

 ヴァーラの持ってる部分がほとんど無くなる。このままでは、完全に無くなりそうだったので、強くつかんで引っ込むのを止めた。


「さて、どうしますか」


 観察していると、球体の体の表面が、水面のように波立ち揺らめく。

 そして別の場所から、ヴァーラの腹部目掛けて針が飛び出した。

 体をひねり、持ち方を変えてそれをかわす。

 その針は先ほどよりやや短い。


「河童の腕と同じですか。片方を縮めれば、もう片方が伸びる。そして特に急所を狙っていない。知能が低いか、大まかにしか見えていない」


 針先が暴れ始めたので、それを空中に投げた。そして、その中央を剣で貫く。瞬時に全体が塵と化していく。


 だが、塵の中には残るものがあった。地面を見れば、黒い乾いた粉末が散らばる。


「そして半実体、何かに憑依させる形で召喚したものですね」


 しかし引っかかる。


「まだ、何か・・・・・・」


 ヴァーラはここで落ち着いて周囲を見た。周囲のハンターは必死で悪戦苦闘している。


 逃げようとしたのか、走っていたハンターが、運悪く正面から飛び出した針に、顎から頭を貫かれ絶命した。そう一撃で。

――針が長い。指揮個体か?

 ヴァーラは一瞬で混乱の中を駆け抜け、地中に引っこもうとしたそれを力強くつかみ、前と同じように引っこ抜いた。


 さっき見た球体が二つくっ付いていた。大きな針は片方から出ている。もう片方はただの球体で、わずかに重なった接合部は、切れ目なく綺麗にくっ付いている。


「連結能力?」


 ヴァーラは針が出ていない方を貫いた。瞬時に貫かれた球体は粉末になった。もう片方の球体はそのままだ。しかし、針はさっき見たのと同じ大きさまで小さくなった。


「なるほど、合点がいきました。能力は共用。命は別々、全てを壊す必要がある」


 ヴァーラは戦場となった陣内を駆け回り、情報を共有させ、負傷者を回復させつつ、飛び出た針を斬り捨て、地中を刺した。

 この敵は地属性を有している。そして特別な隠密性は無い。彼女でも周囲三十メートルぐらいなら、精神集中することで発見できた。


 混乱は襲撃の間ずっと続いた。それでも一部の上位ハンター達の活躍で敵は減っていった。急報を聞き、魔術師達も戻ってくる。


 勘のいい者は飛び出る瞬間をカウンターで粉砕、土魔術師は強引に広域の土を引きはがし、姿を現した敵に、返礼心に満ちた礼儀正しいハンターが群がった。

 風使いのレターリオは低空で滞空して、飛び出した針に雷撃を見舞った。

 効果的な対処ができない者も、闘志があれば針をつかみ、固定したところを、大勢でひたすら攻撃した。


 二十分ほどで攻撃が一段落した。確認できた敵は一種類だけだった。

 混乱が落ち着くが、ハンター達は背をかばい合ったまま、張りつめた空気が漂う。

 血を流している者が多い。


 徐々に、ポツポツと話す者が出てくる。

 しかし本当にいなくなったのかはわからない。

 索敵魔法の専門でなければ、普通は十メートルぐらいしか探れない。地中となれば、それ以下。


 そんな中で、ヴァーラは剣を抜いたまま歩き、スミルナの近くに来ると言った。


「敵の魔力を余らせればこうなります。魔術防御が徹底された要塞でもない限りは、攻めるしかないんですよ」

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