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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-7 東の国々 魔道の残骸
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三日目

 三日目は、双方が隊列を組んだだけで最後まで前進しなかった。

 隊列を組んでも動かないスンディに、ザメシハも全軍を停止させたのだ。


 あくまで攻め手はスンディ、彼らが守りを固めている場所に飛び込む必要はない。

 昼の間、ザメシハは輸送した木材を用いて、簡易的な柵を立てるなど陣の強化に労力を費やした。


 両軍の兵が、話すことが尽きるほど退屈な世間話に興じるだけで日暮れを迎え、双方が隊列を解いて下がった。



 ティーゼ大臣は、敵が完全に増援を待つ方針に転換したことを疑った。戦い慣れない魔術師の損害を嫌っての判断だろうかと。


 もしそうならば、増援の加わった大軍をまとめて受け止めねばならないが、それまでは防衛準備に集中できる。

 魔術師を減らすのは困難になったが、次善の状況。


 兵力を削った後、敵で最大の中央軍主力を引き込んで、発掘品の対魔法装備で叩くのが最善だったが、最初から難しい計画だった。副魔法兵団長も難しいだろうと言っていた。


 主力が相手ならば、最大戦果で殺せるのは五万ぐらい。その中にどれほど魔術師がいるだろうか。

 公式には、スンディの魔術師は十万人を超える。どれだけがまともな魔術師かは不明だが、千人減らしたぐらいでは致命傷にならない。

 それを考えれば、最初から物量差のある、不平等なる大勝負を避けられたのは幸運だろうか。


 増援待ち以外の可能性も当然議論されたが、スンディには大戦前の魔道具が多くあると思われ、狙いを特定することはできなかった。


「まずは小康状態か、こっちは義勇兵が七百増えたのだけが朗報。魔術師ども、古い品でも持ち出して、自爆でもしてくれないものか」


 ティーゼがつぶやく。このままなら大勝負はしなくていい。

 当面は大敗の可能性が無くなるだけで、いくらか彼の心が安らぐ。


 彼は、魔力の余った魔術師を坂の工事に回し進捗させた。

 さらに簡易的な錬金工房を坂の上に設営し、戦闘でよく使われる火に対抗するために、〔火属性抵抗/ファイアレジスト〕と〔火属性防御/プロテクションファイア〕の魔法をポーションに込める作業にも動員している。


 〔火属性防御/プロテクションファイア〕は要所で使えば、ティカルサの一撃もしのげる。一部隊分ぐらいは準備したい。

 あとは坂の防備を、どこまで急げるかが生命線。彼は何度も工事状況や、物資の輸送状況を確認した。



 魔術師には仕事があったが、ハンターは暇と元気を持て余していた。

 たき火の光が照らす中、ハンター達が大声で手を叩き沸きあがる。

 ハンターたちの輪の中で、二人の男が槍を交えていた。

 模擬戦である。


 槍が何度も重なり、弾かれ、鋭い突きが放たれる。槍技のやり取りが数分続いた。 

 やがて、片方が槍を払われバランスを崩し、穂先を突きつけられて負けを認めた。

 歓声に見送られ、槍使いが輪から出ていく。


 二日目に、ややしてやられた展開になり、今日はやりかえしてやろうと思っていたが、あの展開になり鬱憤が溜まっていた。

 これで酒もあまりないとくれば、暴れるぐらいしかないというわけだ。


 次には、スミルナとヴァーラが輪の中で対峙する。


「よろしくお願いします、セイントさん」


 スミルナが笑顔で言った。


「よろしくお願いします」


 落ち着いた声が返ってくる。バイザーが下がって、表情は見えないが、威圧的なものではない。

 この二人だけが赤星で若い女性だ。それでこの組み合わせとなった。


 小剣ショートソード円盾ラウンドシールドのスミルナ。長剣ロングソード三角盾ヒーターシールドのヴァーラ。

 スミルナは定番通り円盾ラウンドシールドを突き出して正対する構え、ヴァーラは体を開かず三角盾ヒーターシールドと剣の位置を近くして、半身を引いて構えた。


 スミルナは最初から全力で斬り込んだ。これを軽くいなされ、すぐに下がる。

 ヴァーラは戦陣の先頭を難なくこなしている。若いのにザンロと同格ということだ。神にでも祝福されて生まれたのか、手加減する相手ではない。


 スミルナは小刻みに左右に動きながら、距離を計測するような突きを繰り返した。

 ヴァーラは、それを小さな動きで全てかわし、牽制的な斬撃を返す。

 スミルナは飛び退いてかわした。何度もお互いの剣が空を斬る。


 スミルナは、下がった瞬間、大地を蹴り前へ。間を計っての深い斬り込み。


 そして正面から剣がぶつかる。思わず、剣を弾かれた。体重を掛けた一撃だったはず。完全に力負けしている。

 ここで初めて気付く。城壁に斬りつけているようだ。大地を思わせる絶対的安定。

 模擬戦であるので、ここまでは浅くかすめるようにしか斬っていなかった。


(どんな腕力?)


 確かめるような次の斬り込みは、戦技をのせた全力の振り下ろし。それを空間に固定されたような剣が受けた。


 剣を弾かれ、返ってきたヴァーラの綺麗な斬り込みを、円盾ラウンドシールドで正面から打ち返そうとしたが、ただ押された。耐えきれず下がる。


 聖騎士にしても腕力が強い。瞬間的には彼女の力が上回るはずである。

 さらに二人の剣が幾度と交差する。

 円盾ラウンドシールドで何度か攻撃を反らし、斬りつけた右手を狙ったが、コンパクトな斬り込みはすぐに引かれ、当たりそうで当たらない。


 普段は足を使うスミルナは、動きを止めた。距離は一メートルない。お互いに片手の剣からの斬撃だけが、幾度も顔の前でぶつかり、キンキンキンギンキンと軽い金属音が連続する。


 途切れない斬撃を可能にする力は、高めた感覚だけ。

 極限の緊張。世界が広がる気がする、心地よい。

 剣は見えていない。肩がかすかに動いた瞬間、受ける剣を出し、すかさず斬り返す。


 目に留まらぬ火花散る剣劇、ハンター達が沸く。

 あまり手を動かさず、何度も手首を返して、斬る受けるを繰り返す剣は、きらめく光にしか見えない。


 しかし、見えている者は圧倒的な差を感じ取っていた。

 スミルナの攻撃は、ヴァーラの突き出た兜の先端にかすめることすらない。完全に逸らされて、受けられている。


 スミルナが下がった。頭に汗を感じる。息を吐いて言う。


「盾、使わないんですか?」


 そう、ヴァーラは一度も盾を使っていない。三角盾ヒーターシールドは適度に軽く硬い。手堅く受けて守るにも、ぶつけて攻撃するにも使える。

 そこが軽く牽制には便利だが、まともに攻撃を受けるには頼りない円盾ラウンドシールドとの差だ。


「傷がつくので」


 ヴァーラが真面目に答えた。


「そうですか」


 聞いた全員が、あれだけ砲弾受けてただろう、と思った。

 スミルナは本気で言ってるのかなと思いつつ、盾が火に照らされて表面に光の波がうねるのを見た。盾には傷一つない。

 盾の表面に張った魔法だけで受けていたのかもしれない。


 相手は完全に格上だ。

 ただし、使わないなら外せばいいのに、とは思った。


「装備を変えても?」

「ご自由に」


 スミルナは円盾ラウンドシールドの百目の眼光をベルトに戻し、天来剣デオグリを抜き、二刀流になった。

 流石に、これで盾を使わず戦わせるつもりはない。


「〈流星剣〉」


 戦技の使用を知らせる意味も含んだ宣言に、周囲がどよめく。

 身を躍らせ、左右から流れるような斬撃が連続する。上段、中段、下段、突き、振り上げ、振り下ろし、あらゆる攻撃が流れに含まれる。

 ヴァーラはやや後退したが、二刀流の連撃を、すべて剣で弾き返した。

 弾く力がさっきより強くなったことからして、ここまで手加減していたのはわかった。


(母さんより、加速ヘイスト状態のチェリより速く、ザンロさんより硬い。レメリさんとどっちが力があるかな)


 母でもこれを受けるには、同じ技を使う。他の一流戦士でも、戦技を使って受ける。それを変わらない速度で受けている。


(技術も身体能力も違う。でもこれならどうなる?)


 スミルナは、今日は使っていなかった流星剣ヒターの〈流星剣〉と戦技の〈流星剣〉、さらに普通に発動できる限界を突破して、〈速攻〉〈大旋風〉〈超俊敏〉を同時発動した。 

 限界を超えた瞬間、全身が割れるような痛みを感じた。


 初心者が戦技を修練する時、効果が実感しやすく便利な、筋力が増加する〈剛力〉〈剛腕〉や、攻撃時に速度が上がる〈速攻〉を好む。

 これが熟練してくると、武器の威力や強度が増える技を好むようになる。

 普段の感覚で動けるからだ。


 さらに熟練者は複数の戦技を同時に使う。腕力上昇と腕力上昇、腕力上昇と衝撃力上昇のように。組み合わせる戦技の種類分、異なる感覚下で体を動かすことになる。

 特に、攻撃時のみ速度上昇、足のみ筋力上昇などは、普段とかけ離れた感覚になる。


 だから熟練者は、同時発動する組み合わせを何種類か決め、その感覚に慣らす。


 さらに筋力上昇系は便利だが、体に負荷をかける。戦技で筋力は増えても、体は頑丈にはならない。

 無理なく戦うには、〈剛力〉に、体力が上昇する〈頑強〉を重ねるような運用が無難である。


 ゆえに、ひたすら速度増加を重ねることはありえない。筋肉が断裂したり、関節が壊れてしまう。


 スミルナがゴンッという轟音を響かせ、一歩を踏み出した。


 それを見た王都のハンターは何をやったのか理解する。彼らも目にしたことのないスミルナの極限速度。体の動きまでブレて見えなくなった。

 輪を作っていたハンター数人が、驚きと、体に来る振動で倒れた。


「グラシアははずしてるのよ」


 チェリテーラがつぶやいた。

 

 スミルナは左の強引な斬撃で盾を狙ったが、盾を大きく引かれた。しかし、それで防御が空く。

 空気の圧力を感じる。水の中にいるようだ。皮膚が動きについてこれず、引っ張られている。

 剣がすっぽ抜けるのを心配して、握り潰す気持ちで柄を握る。


 さらに前へ、姿勢は前のめりで崩れている。これが最後の連撃。

 右から頸動脈を狙った斬撃を繰り出す。身を傾けながら引いてかわされた。歯を食いしばり、自分の振った剣を必死で返す。戻ってきた左手首を狙った切り返し。再び、左手が下がると同時に、ヴァーラが飛び退く。

 追って一歩踏み込み、左の頸動脈への斬撃。これは剣で受けられた。受けられた剣を滑らせ、その肘を狙う。そして強く剣を弾かれる。

 

 ヴァーラの速度が上がった。ヒターに感じるかすかな振動から、魔法を発動したのだと知る。

 ヴァーラの反撃。上体を狙った、斜めの斬り下ろし。深く鋭い。これまで違う。当てに来ている。


 体を左へ回転させ、右手で剣を振り切った。チンッと剣がこすれる音。わずかに斬撃を逸らした。目の前をヴァーラの剣が通る。

 のけ反り、目をむいて、それを見送った。


 次が最後の一撃。そのまま勢いを強め、より速く、全身を全力で回転させる。ヴァーラが振り切った剣の右側に流れながら、深く内へと入り込み、足元から全身を斬り上げる一撃。

 ガンッと音が鳴った。

 完全な一撃がヴァーラを捉えた。ただし、当たったのは盾だ。

 当然の結果だった。盾のある側から攻撃すれば、普通はこうなる。


「なかなか速いですね。これは参りました」


 ヴァーラが剣を下ろし、言った。

 スミルナは少し笑顔になったが、すぐに訂正する。


「いや、盾に当てる競技じゃないから」

「そう言えば、そうでしたね。続けましょう」


 そもそも本気でやる気が感じられない。戦うにも値しないということか。


「もう、体が動かないの。私の負けよ」


 皮膚は裂け、回転を支えた右足の膝がひどく痛む。腕は全体が熱を持ち、肩が上がらない。どうにか最後の力で剣を鞘に納めた。

 スミルナは歓声を受け、輪から出ていく。


 鎧があるから大丈夫だろうと、殺す気でやっていれば、腕に当てるぐらいはできたかもしれない。

 だがそもそも相手が本気なら、力で剣を大きく弾かれ、そこを攻撃されて終わりだった。



「あんたはやらないの? 相手にしてもらえば」


 チェリテーラがザンロに言う。


戦棍メイスで殴るのは危ないだろ」

「昔は剣を使ってたけど」

「才能がないからやめたんだ」

「別にさっきの人なら、戦棍メイスでもいいと思うけど? 絶対当たらないし」

「そりゃあ、あれを見ればな」


 チェリテーラはほら見ろ、と思っていたが、わざわざ言わなかった。

 多くのハンターはとにかくすごい、としか思っていない。ただ沸いて楽しんでいる。

 もう死んでも悔いはない、などと言って笑っている者は、本当に死にそうだ。


 赤星級になると、あれは完全に異様だとわかる。静かになっている者がそうだろう。

 輪のすみに座った白銀の騎士は、不気味にすら見えるが、味方であることを思えば、幸運か。



 カラファンは、陣の後方にある負傷者の救護所に来ていた。

 ここに瀕死の者はいない。そのレベルは坂の上に搬送されている。

 ここでは、指、目を失った者や、神経に麻痺が残る者、深手で体力回復が必要な者が休んでいた。

 敵の武器が槍で、速やかに治療しているせいか、腕・足を切断した者は見当たらない。


 彼には、ヴァーラのウマが付いてきて離れない。飼料が足りないのかと思ったが、肉を出しても食べない。

 すぐ後ろで鼻息が聞こえるが、彼は気にしないように努力している。


 ヴァーラは、あの状況で騙されるとは考えにくい。貴族の勧誘などもない。これはギルヌーセン伯の権威からだろう。

 そこで彼はルキウスに依頼された第二の仕事をしていた。


「いやあ、助かるね。俺は大したことはないけどな」


 彼の目の前の四つ星ハンターの男が言った。彼は右手の指を二本失っているが、また戦闘に加わる気だ。


「俺はただの代理人なんで。アニキからの心付けですから」


 カラファンはそう言って、男に金を渡した。

 そしてタグを確認して、紙に、所属、名前、症状、金額、日時を記録する。



「アニキは、神事で森を離れられないことを大変心苦しく思い、少しでも皆さんの力になりたいと考えているのです。それはもう悲痛な様子で、嘆き悲しんでおります」

「俺がヘマを打っただけだがな。まあ、礼を言っておいてくれよ」

「もちろんです。アニキも喜ぶに違いない」


 ルキウスは、この気持ちとしての見舞金で労せず評価を上げられる、と言っていた。

 それで代わりに戦ってくれた勇士たちに、との名目で金を渡している。

 おかげで、袋には洒落にならない額が入っている。


(持ち逃げしたらとは思わないのか? 金じゃあ、お前の弟は治らないという警告なのか……わからねえな)


 金満的善行で自分の流儀に合わないものを感じるが、額は大きく、誰からも感謝されている。

 特に重傷を予期していなかった勢いのある若者にはよく効く。想定外の不幸から、想定外の幸運というのは、衝撃が大きいのか。


 なるほど。困っている人間を助けるのは、確かに有効なようだ。

 腕が無くなっても、高価な魔術的義手を付ければものを握るぐらいはできる。

 治療せずに生活するのだって、金はいくらでもいる。


 金をもらって文句を言う人間、受け取らない人間はいなかった。わざわざ赤星に喧嘩を売るわけもなし。


 意図はどうあれ、実際に助けているというのが、弟のことで、彼がルキウスを信用する一要素にもなった。


 さらに死んだハンターの遺族には、大きな金額を渡す。

 そのため、尋ねにくい死亡者の情報を苦労して集めていた。タグは全て記録してある。

 特に強い人間の情報を細かくと言われている。

 強者なら金があれば復活できる。国のためにも、遺族のためにも、貴重な人員は戻せるなら戻したほうがいいだろうと。


(あれは嘘臭い。個人レベルの大金では復活には到底足りないはず。復活できるだけの資産があれば、一族郎党の生活は五代以上安泰。高齢の上位ハンターが、復活を望まないってのは聞く。全財産をはたいて生き返っても意味がねえ。アニキはそういう計算をやる人だ。何を考えてるのか)


 昨日死んだ【青の連盟】の人員は、国の保証があるので生き返った。頭部も含め、かなり穴が空いたせいか、能力低下が大きかった。

 一月ほどは魂が体に馴染むのに時間が掛かるとの説もあり、特に能力が下がると言われる。この戦争には戻れないだろう。

 彼らにも戦死相当の金銭を渡し、感謝されている。


 赤星だから、現金があるとは限らない。装備品など必要経費は多い。ルキウスが特別に稼ぎ過ぎなのだ。なんせ、出費が宿代ぐらいしかない。


(お金はみんなを幸せにするねえ。よいことだ)


「この一帯は、これで全部かね」

「ははは、受け取っていいなら、何回でも受け取るぜ」


 カラファンが移動しようとすると、後ろ髪が湿った物で挟まれた。すぐに後ろのウマだ。ウマに噛まれた。


「おい、え?」 


 振り返ろうとしたカラファンが、頭から引っ張られ、ブチブチちぎれる音を聞いた。


「ギャアァ」


 彼の体が浮き、首がガギと鳴り、飛ぶ。空中で一回転すると、ドンと鞍に着地した。

 カラファンが苦悶の声を上げ、それを見たハンターの男が凍りついた。


 突然、ズボッと音がした。音源は二人のあいだ、低くから。

 カラファンが今しがたいた地面に、一メートルほどの針が突き出ている。

 三つの節がある赤い大針だ。昆虫的な質感がある。先は両刃の刃物のようだ。


 周囲はまだ状況が飲み込めていないが、男は目の前の針の造形を認識した瞬間、後ろに転がった。寸刻の差で男がいた場所に針が突き出る。


「魔物!?」


 カラファンは、鞍の上で痛む頭を押さえている。


「地中から! 知らねえ魔物だ、種別完全不明!」


 男は剣を抜き横薙ぎにした。ガギン、錆び付いた金属質な音。

 周囲がざわめき、寝ている負傷者を急いで起こしている。


「硬えな。蟲? 鉱物か?」


 針は切れ目が入るも切断にいたらず。針が少し曲がって傾き、それがぐるんと回る。男はそれを避けて後退した。


 最初にカラファンを狙った針が引っこみ、ウマの腹めがけ突き出す。それをウマは横跳びでかわした。


「ぬお」とカラファンが馬上でよろつく。ウマはすばやい蹴りで針を折った。


「どういうウマだ!?」


 それを見た男が叫ぶ。同時に男の前の針もサッと引っこみ、男が反応して後ろに跳ぶ。しかし、地中から斜めに出た針は右足の甲を貫き、大地に縫い止めた。男は態勢が崩れ、刺されていないほうの膝を突く。


「ぐぐう、オラ!」


 男はうなり、全力で剣を緩い地面に突き刺した。二十センチほど地面に突き刺さった剣は、ガンと音を立てて止まる。


「クソが! 硬い」


 男が力むが剣は進まない。また針がグルグルと回転、男は痛みでうめきつつも顔を逸らし避けた。

 そこにウマが駆け寄り前足を高く上げる。体重の乗った足が、剣の柄をガンッと踏みつけると剣が地中に刺しこまれ、男はつかんだ剣に引かれ前のめりに倒れた。


「こんな魔物がいるなんて! とんだ危険地帯だ」


 カラファンは頭皮の痛みにさいなまれながら、必死にウマにしがみついている。

 ルキウスに文句を言って、給料を上げてもらわねばならない。


「違う! こいつは!」


 男が動きを止めた針を見て叫ぶ。

 針は塵になって消えていく。地中からも塵が噴き出している。

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