三日目
三日目は、双方が隊列を組んだだけで最後まで前進しなかった。
隊列を組んでも動かないスンディに、ザメシハも全軍を停止させたのだ。
あくまで攻め手はスンディ、彼らが守りを固めている場所に飛び込む必要はない。
昼の間、ザメシハは輸送した木材を用いて、簡易的な柵を立てるなど陣の強化に労力を費やした。
両軍の兵が、話すことが尽きるほど退屈な世間話に興じるだけで日暮れを迎え、双方が隊列を解いて下がった。
ティーゼ大臣は、敵が完全に増援を待つ方針に転換したことを疑った。戦い慣れない魔術師の損害を嫌っての判断だろうかと。
もしそうならば、増援の加わった大軍をまとめて受け止めねばならないが、それまでは防衛準備に集中できる。
魔術師を減らすのは困難になったが、次善の状況。
兵力を削った後、敵で最大の中央軍主力を引き込んで、発掘品の対魔法装備で叩くのが最善だったが、最初から難しい計画だった。副魔法兵団長も難しいだろうと言っていた。
主力が相手ならば、最大戦果で殺せるのは五万ぐらい。その中にどれほど魔術師がいるだろうか。
公式には、スンディの魔術師は十万人を超える。どれだけがまともな魔術師かは不明だが、千人減らしたぐらいでは致命傷にならない。
それを考えれば、最初から物量差のある、不平等なる大勝負を避けられたのは幸運だろうか。
増援待ち以外の可能性も当然議論されたが、スンディには大戦前の魔道具が多くあると思われ、狙いを特定することはできなかった。
「まずは小康状態か、こっちは義勇兵が七百増えたのだけが朗報。魔術師ども、古い品でも持ち出して、自爆でもしてくれないものか」
ティーゼがつぶやく。このままなら大勝負はしなくていい。
当面は大敗の可能性が無くなるだけで、いくらか彼の心が安らぐ。
彼は、魔力の余った魔術師を坂の工事に回し進捗させた。
さらに簡易的な錬金工房を坂の上に設営し、戦闘でよく使われる火に対抗するために、〔火属性抵抗/ファイアレジスト〕と〔火属性防御/プロテクションファイア〕の魔法をポーションに込める作業にも動員している。
〔火属性防御/プロテクションファイア〕は要所で使えば、ティカルサの一撃もしのげる。一部隊分ぐらいは準備したい。
あとは坂の防備を、どこまで急げるかが生命線。彼は何度も工事状況や、物資の輸送状況を確認した。
魔術師には仕事があったが、ハンターは暇と元気を持て余していた。
たき火の光が照らす中、ハンター達が大声で手を叩き沸きあがる。
ハンターたちの輪の中で、二人の男が槍を交えていた。
模擬戦である。
槍が何度も重なり、弾かれ、鋭い突きが放たれる。槍技のやり取りが数分続いた。
やがて、片方が槍を払われバランスを崩し、穂先を突きつけられて負けを認めた。
歓声に見送られ、槍使いが輪から出ていく。
二日目に、ややしてやられた展開になり、今日はやりかえしてやろうと思っていたが、あの展開になり鬱憤が溜まっていた。
これで酒もあまりないとくれば、暴れるぐらいしかないというわけだ。
次には、スミルナとヴァーラが輪の中で対峙する。
「よろしくお願いします、セイントさん」
スミルナが笑顔で言った。
「よろしくお願いします」
落ち着いた声が返ってくる。バイザーが下がって、表情は見えないが、威圧的なものではない。
この二人だけが赤星で若い女性だ。それでこの組み合わせとなった。
小剣と円盾のスミルナ。長剣と三角盾のヴァーラ。
スミルナは定番通り円盾を突き出して正対する構え、ヴァーラは体を開かず三角盾と剣の位置を近くして、半身を引いて構えた。
スミルナは最初から全力で斬り込んだ。これを軽くいなされ、すぐに下がる。
ヴァーラは戦陣の先頭を難なくこなしている。若いのにザンロと同格ということだ。神にでも祝福されて生まれたのか、手加減する相手ではない。
スミルナは小刻みに左右に動きながら、距離を計測するような突きを繰り返した。
ヴァーラは、それを小さな動きで全てかわし、牽制的な斬撃を返す。
スミルナは飛び退いてかわした。何度もお互いの剣が空を斬る。
スミルナは、下がった瞬間、大地を蹴り前へ。間を計っての深い斬り込み。
そして正面から剣がぶつかる。思わず、剣を弾かれた。体重を掛けた一撃だったはず。完全に力負けしている。
ここで初めて気付く。城壁に斬りつけているようだ。大地を思わせる絶対的安定。
模擬戦であるので、ここまでは浅くかすめるようにしか斬っていなかった。
(どんな腕力?)
確かめるような次の斬り込みは、戦技をのせた全力の振り下ろし。それを空間に固定されたような剣が受けた。
剣を弾かれ、返ってきたヴァーラの綺麗な斬り込みを、円盾で正面から打ち返そうとしたが、ただ押された。耐えきれず下がる。
聖騎士にしても腕力が強い。瞬間的には彼女の力が上回るはずである。
さらに二人の剣が幾度と交差する。
円盾で何度か攻撃を反らし、斬りつけた右手を狙ったが、コンパクトな斬り込みはすぐに引かれ、当たりそうで当たらない。
普段は足を使うスミルナは、動きを止めた。距離は一メートルない。お互いに片手の剣からの斬撃だけが、幾度も顔の前でぶつかり、キンキンキンギンキンと軽い金属音が連続する。
途切れない斬撃を可能にする力は、高めた感覚だけ。
極限の緊張。世界が広がる気がする、心地よい。
剣は見えていない。肩がかすかに動いた瞬間、受ける剣を出し、すかさず斬り返す。
目に留まらぬ火花散る剣劇、ハンター達が沸く。
あまり手を動かさず、何度も手首を返して、斬る受けるを繰り返す剣は、きらめく光にしか見えない。
しかし、見えている者は圧倒的な差を感じ取っていた。
スミルナの攻撃は、ヴァーラの突き出た兜の先端にかすめることすらない。完全に逸らされて、受けられている。
スミルナが下がった。頭に汗を感じる。息を吐いて言う。
「盾、使わないんですか?」
そう、ヴァーラは一度も盾を使っていない。三角盾は適度に軽く硬い。手堅く受けて守るにも、ぶつけて攻撃するにも使える。
そこが軽く牽制には便利だが、まともに攻撃を受けるには頼りない円盾との差だ。
「傷がつくので」
ヴァーラが真面目に答えた。
「そうですか」
聞いた全員が、あれだけ砲弾受けてただろう、と思った。
スミルナは本気で言ってるのかなと思いつつ、盾が火に照らされて表面に光の波がうねるのを見た。盾には傷一つない。
盾の表面に張った魔法だけで受けていたのかもしれない。
相手は完全に格上だ。
ただし、使わないなら外せばいいのに、とは思った。
「装備を変えても?」
「ご自由に」
スミルナは円盾の百目の眼光をベルトに戻し、天来剣デオグリを抜き、二刀流になった。
流石に、これで盾を使わず戦わせるつもりはない。
「〈流星剣〉」
戦技の使用を知らせる意味も含んだ宣言に、周囲がどよめく。
身を躍らせ、左右から流れるような斬撃が連続する。上段、中段、下段、突き、振り上げ、振り下ろし、あらゆる攻撃が流れに含まれる。
ヴァーラはやや後退したが、二刀流の連撃を、すべて剣で弾き返した。
弾く力がさっきより強くなったことからして、ここまで手加減していたのはわかった。
(母さんより、加速状態のチェリより速く、ザンロさんより硬い。レメリさんとどっちが力があるかな)
母でもこれを受けるには、同じ技を使う。他の一流戦士でも、戦技を使って受ける。それを変わらない速度で受けている。
(技術も身体能力も違う。でもこれならどうなる?)
スミルナは、今日は使っていなかった流星剣ヒターの〈流星剣〉と戦技の〈流星剣〉、さらに普通に発動できる限界を突破して、〈速攻〉〈大旋風〉〈超俊敏〉を同時発動した。
限界を超えた瞬間、全身が割れるような痛みを感じた。
初心者が戦技を修練する時、効果が実感しやすく便利な、筋力が増加する〈剛力〉〈剛腕〉や、攻撃時に速度が上がる〈速攻〉を好む。
これが熟練してくると、武器の威力や強度が増える技を好むようになる。
普段の感覚で動けるからだ。
さらに熟練者は複数の戦技を同時に使う。腕力上昇と腕力上昇、腕力上昇と衝撃力上昇のように。組み合わせる戦技の種類分、異なる感覚下で体を動かすことになる。
特に、攻撃時のみ速度上昇、足のみ筋力上昇などは、普段とかけ離れた感覚になる。
だから熟練者は、同時発動する組み合わせを何種類か決め、その感覚に慣らす。
さらに筋力上昇系は便利だが、体に負荷をかける。戦技で筋力は増えても、体は頑丈にはならない。
無理なく戦うには、〈剛力〉に、体力が上昇する〈頑強〉を重ねるような運用が無難である。
ゆえに、ひたすら速度増加を重ねることはありえない。筋肉が断裂したり、関節が壊れてしまう。
スミルナがゴンッという轟音を響かせ、一歩を踏み出した。
それを見た王都のハンターは何をやったのか理解する。彼らも目にしたことのないスミルナの極限速度。体の動きまでブレて見えなくなった。
輪を作っていたハンター数人が、驚きと、体に来る振動で倒れた。
「グラシアははずしてるのよ」
チェリテーラがつぶやいた。
スミルナは左の強引な斬撃で盾を狙ったが、盾を大きく引かれた。しかし、それで防御が空く。
空気の圧力を感じる。水の中にいるようだ。皮膚が動きについてこれず、引っ張られている。
剣がすっぽ抜けるのを心配して、握り潰す気持ちで柄を握る。
さらに前へ、姿勢は前のめりで崩れている。これが最後の連撃。
右から頸動脈を狙った斬撃を繰り出す。身を傾けながら引いてかわされた。歯を食いしばり、自分の振った剣を必死で返す。戻ってきた左手首を狙った切り返し。再び、左手が下がると同時に、ヴァーラが飛び退く。
追って一歩踏み込み、左の頸動脈への斬撃。これは剣で受けられた。受けられた剣を滑らせ、その肘を狙う。そして強く剣を弾かれる。
ヴァーラの速度が上がった。ヒターに感じるかすかな振動から、魔法を発動したのだと知る。
ヴァーラの反撃。上体を狙った、斜めの斬り下ろし。深く鋭い。これまで違う。当てに来ている。
体を左へ回転させ、右手で剣を振り切った。チンッと剣がこすれる音。わずかに斬撃を逸らした。目の前をヴァーラの剣が通る。
のけ反り、目をむいて、それを見送った。
次が最後の一撃。そのまま勢いを強め、より速く、全身を全力で回転させる。ヴァーラが振り切った剣の右側に流れながら、深く内へと入り込み、足元から全身を斬り上げる一撃。
ガンッと音が鳴った。
完全な一撃がヴァーラを捉えた。ただし、当たったのは盾だ。
当然の結果だった。盾のある側から攻撃すれば、普通はこうなる。
「なかなか速いですね。これは参りました」
ヴァーラが剣を下ろし、言った。
スミルナは少し笑顔になったが、すぐに訂正する。
「いや、盾に当てる競技じゃないから」
「そう言えば、そうでしたね。続けましょう」
そもそも本気でやる気が感じられない。戦うにも値しないということか。
「もう、体が動かないの。私の負けよ」
皮膚は裂け、回転を支えた右足の膝がひどく痛む。腕は全体が熱を持ち、肩が上がらない。どうにか最後の力で剣を鞘に納めた。
スミルナは歓声を受け、輪から出ていく。
鎧があるから大丈夫だろうと、殺す気でやっていれば、腕に当てるぐらいはできたかもしれない。
だがそもそも相手が本気なら、力で剣を大きく弾かれ、そこを攻撃されて終わりだった。
「あんたはやらないの? 相手にしてもらえば」
チェリテーラがザンロに言う。
「戦棍で殴るのは危ないだろ」
「昔は剣を使ってたけど」
「才能がないからやめたんだ」
「別にさっきの人なら、戦棍でもいいと思うけど? 絶対当たらないし」
「そりゃあ、あれを見ればな」
チェリテーラはほら見ろ、と思っていたが、わざわざ言わなかった。
多くのハンターはとにかくすごい、としか思っていない。ただ沸いて楽しんでいる。
もう死んでも悔いはない、などと言って笑っている者は、本当に死にそうだ。
赤星級になると、あれは完全に異様だとわかる。静かになっている者がそうだろう。
輪のすみに座った白銀の騎士は、不気味にすら見えるが、味方であることを思えば、幸運か。
カラファンは、陣の後方にある負傷者の救護所に来ていた。
ここに瀕死の者はいない。そのレベルは坂の上に搬送されている。
ここでは、指、目を失った者や、神経に麻痺が残る者、深手で体力回復が必要な者が休んでいた。
敵の武器が槍で、速やかに治療しているせいか、腕・足を切断した者は見当たらない。
彼には、ヴァーラのウマが付いてきて離れない。飼料が足りないのかと思ったが、肉を出しても食べない。
すぐ後ろで鼻息が聞こえるが、彼は気にしないように努力している。
ヴァーラは、あの状況で騙されるとは考えにくい。貴族の勧誘などもない。これはギルヌーセン伯の権威からだろう。
そこで彼はルキウスに依頼された第二の仕事をしていた。
「いやあ、助かるね。俺は大したことはないけどな」
彼の目の前の四つ星ハンターの男が言った。彼は右手の指を二本失っているが、また戦闘に加わる気だ。
「俺はただの代理人なんで。アニキからの心付けですから」
カラファンはそう言って、男に金を渡した。
そしてタグを確認して、紙に、所属、名前、症状、金額、日時を記録する。
「アニキは、神事で森を離れられないことを大変心苦しく思い、少しでも皆さんの力になりたいと考えているのです。それはもう悲痛な様子で、嘆き悲しんでおります」
「俺がヘマを打っただけだがな。まあ、礼を言っておいてくれよ」
「もちろんです。アニキも喜ぶに違いない」
ルキウスは、この気持ちとしての見舞金で労せず評価を上げられる、と言っていた。
それで代わりに戦ってくれた勇士たちに、との名目で金を渡している。
おかげで、袋には洒落にならない額が入っている。
(持ち逃げしたらとは思わないのか? 金じゃあ、お前の弟は治らないという警告なのか……わからねえな)
金満的善行で自分の流儀に合わないものを感じるが、額は大きく、誰からも感謝されている。
特に重傷を予期していなかった勢いのある若者にはよく効く。想定外の不幸から、想定外の幸運というのは、衝撃が大きいのか。
なるほど。困っている人間を助けるのは、確かに有効なようだ。
腕が無くなっても、高価な魔術的義手を付ければものを握るぐらいはできる。
治療せずに生活するのだって、金はいくらでもいる。
金をもらって文句を言う人間、受け取らない人間はいなかった。わざわざ赤星に喧嘩を売るわけもなし。
意図はどうあれ、実際に助けているというのが、弟のことで、彼がルキウスを信用する一要素にもなった。
さらに死んだハンターの遺族には、大きな金額を渡す。
そのため、尋ねにくい死亡者の情報を苦労して集めていた。タグは全て記録してある。
特に強い人間の情報を細かくと言われている。
強者なら金があれば復活できる。国のためにも、遺族のためにも、貴重な人員は戻せるなら戻したほうがいいだろうと。
(あれは嘘臭い。個人レベルの大金では復活には到底足りないはず。復活できるだけの資産があれば、一族郎党の生活は五代以上安泰。高齢の上位ハンターが、復活を望まないってのは聞く。全財産をはたいて生き返っても意味がねえ。アニキはそういう計算をやる人だ。何を考えてるのか)
昨日死んだ【青の連盟】の人員は、国の保証があるので生き返った。頭部も含め、かなり穴が空いたせいか、能力低下が大きかった。
一月ほどは魂が体に馴染むのに時間が掛かるとの説もあり、特に能力が下がると言われる。この戦争には戻れないだろう。
彼らにも戦死相当の金銭を渡し、感謝されている。
赤星だから、現金があるとは限らない。装備品など必要経費は多い。ルキウスが特別に稼ぎ過ぎなのだ。なんせ、出費が宿代ぐらいしかない。
(お金はみんなを幸せにするねえ。よいことだ)
「この一帯は、これで全部かね」
「ははは、受け取っていいなら、何回でも受け取るぜ」
カラファンが移動しようとすると、後ろ髪が湿った物で挟まれた。すぐに後ろのウマだ。ウマに噛まれた。
「おい、え?」
振り返ろうとしたカラファンが、頭から引っ張られ、ブチブチちぎれる音を聞いた。
「ギャアァ」
彼の体が浮き、首がガギと鳴り、飛ぶ。空中で一回転すると、ドンと鞍に着地した。
カラファンが苦悶の声を上げ、それを見たハンターの男が凍りついた。
突然、ズボッと音がした。音源は二人のあいだ、低くから。
カラファンが今しがたいた地面に、一メートルほどの針が突き出ている。
三つの節がある赤い大針だ。昆虫的な質感がある。先は両刃の刃物のようだ。
周囲はまだ状況が飲み込めていないが、男は目の前の針の造形を認識した瞬間、後ろに転がった。寸刻の差で男がいた場所に針が突き出る。
「魔物!?」
カラファンは、鞍の上で痛む頭を押さえている。
「地中から! 知らねえ魔物だ、種別完全不明!」
男は剣を抜き横薙ぎにした。ガギン、錆び付いた金属質な音。
周囲がざわめき、寝ている負傷者を急いで起こしている。
「硬えな。蟲? 鉱物か?」
針は切れ目が入るも切断にいたらず。針が少し曲がって傾き、それがぐるんと回る。男はそれを避けて後退した。
最初にカラファンを狙った針が引っこみ、ウマの腹めがけ突き出す。それをウマは横跳びでかわした。
「ぬお」とカラファンが馬上でよろつく。ウマはすばやい蹴りで針を折った。
「どういうウマだ!?」
それを見た男が叫ぶ。同時に男の前の針もサッと引っこみ、男が反応して後ろに跳ぶ。しかし、地中から斜めに出た針は右足の甲を貫き、大地に縫い止めた。男は態勢が崩れ、刺されていないほうの膝を突く。
「ぐぐう、オラ!」
男はうなり、全力で剣を緩い地面に突き刺した。二十センチほど地面に突き刺さった剣は、ガンと音を立てて止まる。
「クソが! 硬い」
男が力むが剣は進まない。また針がグルグルと回転、男は痛みでうめきつつも顔を逸らし避けた。
そこにウマが駆け寄り前足を高く上げる。体重の乗った足が、剣の柄をガンッと踏みつけると剣が地中に刺しこまれ、男はつかんだ剣に引かれ前のめりに倒れた。
「こんな魔物がいるなんて! とんだ危険地帯だ」
カラファンは頭皮の痛みにさいなまれながら、必死にウマにしがみついている。
ルキウスに文句を言って、給料を上げてもらわねばならない。
「違う! こいつは!」
男が動きを止めた針を見て叫ぶ。
針は塵になって消えていく。地中からも塵が噴き出している。




