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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-7 東の国々 魔道の残骸
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右の戦い2

 スンディ左軍の本陣は、他と違い、動く予定が無いために、周囲は魔法で作った、厚さ5センチの鉄の壁に囲まれていた。

 壁の中には、魔法使いと弓兵が配置され、高等武官と上位の魔術師が控え、多くの大型魔道具が、すみに陳列されている。


 中央には、全身鎧に似た機械人形マシンパペット、人間大のぬいぐるみで、道化師の恰好をした魔道人形マジックパペット、ひょうきんだがどこか不気味な表情が描かれた焼物人形パタリィゴーレムが整列している。


 その後方に、丸眼鏡をかけた、赤毛でカーリーヘアの中年の女が、椅子に毛皮を敷いて座っていた。

 虚実の塔の塔長、ブデピッソ・テカセーヤ、四十七歳。

 彼女はうつむき加減で、長さが五センチ無い望遠鏡を覗いている。


《魔道具研究者/マジックアイテムリサーチャー》、《遠隔制御博学者/サヴァント・オブ・リモートコントロール》などの職業を修める。

 完全に研究系の人間。面と向かって戦うのは得意ではない。


「ギルヌーセン伯の位置は?」


 テカセーヤが望遠鏡を覗いたままで部下に尋ねた。


「動いていません。本陣です」

「偽装検知は継続的に。石の予備は常に確認して」


 テカセーヤは少し前に言ったことを繰り返した。部下は慣れた様子で返事をした。


「あれが来たらすぐに連絡して。退避させないと全滅しちゃいますからねー」


 テカセーヤは空中に映し出された映像を見た。

 この本陣に長い棒を立てて、その上にあるレンズで照準し映した映像だ。

 音は無いが、戦闘の怒声が聞こえだしそうな激しい戦闘が展開され、血しぶきが飛び、人が苦しみ倒れていく。


「野蛮ね、でも他より激しくないのかしら」


 テカセーヤは気分が悪くなって、見るのをやめた。そこに部下が言う。


「塔長、第十六隊から通信途絶」

「場所は?」

「この辺りです」


 部下が陣形を書いた紙を出して示した。

 紙の上では、いくつかの小さな赤い点が少しずつ動いている。これは部下に持たせた位置を知らせる魔道具から発信された情報を示したものだ。

 テカセーヤはまた望遠鏡を覗いた。


「これが多分・・・・・・砕魔の盾か? この鎧の色、攻撃が爆発している。十デコッツぐらいは一瞬で詰めてくるのね。これが戦士団長の娘か、速くて見えない」


 たまに矢で魔術師がやられているが、部隊が壊滅するのは初めてだ。

 彼女は、使えるレベルの魔術師をこんなことで失うのは、不条理で愚かなことだと思う。


 しかし効果的に支援するなら、十メートルぐらいの距離にいる必要がある。射程距離なら、三十メートルぐらいあるが、人が多過ぎて見えない。

 瞬間的に前に出して、すぐに下げるような運用をするべきだろうか。


「少しずつだが押されている。第二防衛線まで下げるのか」


 ここで軍の最上位になる将軍が言った。


「いいえ、射程内よ。ここの魔力を満タンで余らせておく手はない。一撃はします」

「先ほどの、爆発するのは使えないので?」

「あれは使える術者が限られるし、消費も大きい。それに遅くて、不安定だから、魔法を受ければ、途中で爆発してしまう。魔術師がいる所に撃つのは博打だわ」

「ままならないものですね」


 テカセーヤは、すみに置かれている様々な吹奏楽器や鍵盤が飛び出した奇妙な物体――【協奏曲はどこまでも響く】を見やった。

 突破能力を奪うべきだ。壁が抜かれなければ魔術師の損害は少ない。


「威嚇に、《音爆発/サウンドバースト》を撃ち込んで。照準は慎重にね。打ち消されるようなら、別の前に出てる箇所を狙うように」


 彼女の命令に、かなり大型の【協奏曲はどこまでも響く】を六人の部下が囲み、集中を始めた。

 《音爆発/サウンドバースト》は、大音量による攻撃だ。ダメージは少ないが、聴覚異常を長く起こし、瞬間的に意識を飛ばす場合もある。

 これを魔道具を通し、集団魔術で強化して放つ。

 味方に当たっても影響が少なく、連携を重視する敵が嫌がりそうな魔術を選んだ。


 テカセーヤはまた片目を閉じて、望遠鏡を覗いた。


「もうちょっと引けないのか・・・・・・ああ! 駄目ね。近過ぎると、ごちゃごちゃして目が痛くなる」


 彼女の望遠鏡、【街のうわさ】は周囲一キロなら、仮想のカメラを配置したような視界を得られる。つまり高くに配置した視界も得られるのだが、複数の占術妨害を視界に含んでしまうと、完全に視界が遮断されてしまう。


 そして狙った位置で、《音爆発/サウンドバースト》が炸裂した。本陣にも、ギリィーーン、と鼓膜を引っ掻くような音が少し聞こえた。

 炸裂点では、多くのハンターが耳を押さえることもできずふらつき、離れた位置では、顔をしかめ耳を押さえる者が目に付いた。


「あまり効いていない者もある。だが、本人が無事でも周囲が異常なら下がる。やはり無理はしない。追っ払うだけなら簡単かな」


 攻撃を受けたハンターは回復しながら、少しずつ下がっている。近くの民兵もダメージを受けているので、その後ろから送り出した民兵がやや押し返した。ハンターはさらに後退している。

 ただし、戦場は広い。一キロに渡る範囲で戦闘状態だ。多くの場所で敵がこちらに向かっている。


「これは大丈夫なんでしょうか?」


 馴染みの部下が不安そうに尋ねた。


「まあまあ、なんとかなるって。でも、簡単に入られてしまいました。今日の負けが込むようなら、明日からは川沿いに壁を作りましょうかね」


 明日を考えてると、別の部下が報告する。


「ハンターの一部が大きく前進しています。軍も川を越えて拠点を造りつつあります」

「ここを狙う動きは?」

「依然、戦略意図の感じられない動きだ。だが、これではただ兵を削られる。私の兵をぶつければ止められる。魔術師の援護があれば、優勢に戦えるだろう」


 将軍が言った。

 テカセーヤからすれば、軍人がいくら死のうが知ったことではないので、出陣してもらいたいが、口を挟まれるようになると、自由に製作物の試験ができない。


「いえ、こっちでやるんでー。まだ先は長いですもの、軍の方にはその時、仕事をしていただきますので、英気を養っていてくだされば結構ですよ」

「そうか」


 将軍は引き下がった。

 とはいえ、少しずつジリジリ押されると判断しにくい。一点突破でもしてくれれば、そこを集中攻撃するのだが。


「うーん。このままだと、大分やられるなあ。霧玉を撃ち込んで、そこに黒石油弾を。それを二回で、攻撃地点を選定して」


 テカセーヤが言った。部下が聞き返す。


「二回だけ、ですか? 場所は二か所で?」

「そうよ。後は、霧玉だけ撃ち込めばいい。霧玉は一杯作ったし、あれで視界が塞がれれば、無理はできないし、その後に攻撃が来ると思えば、防御魔法を使うなり、退避するなりするでしょう。風の予知をして、深めを狙うのよ。掛かりなさい」

「はっ」


 魔術師が五人一組になり、四人で四角を作り、その中心に拳大の球体を浮かべた。 残りの一人は照準役だ。受け取った情報から、球体に目標の場所を付けたす。


「座標は七、四十六」「カウント、三、二、一、発射」


 四人の中心から、推進力を与えられた球体が、真上に打ち上がり、そこから敵へと飛ぶ。

 これは非常に単純だが、魔法で遠距離を攻撃する方法の一つ。魔法で直接攻撃せずに、魔法の力で物体を飛ばす、だ。


 専用の魔道具があればそれを使うが、多くは中央軍に配置されている。

 ただし、人力でやれば、細かい調整や効果を付加できるし、何より持ち運びの必要が無いという利点はあった。

 魔力の個人差から来る乱れがあることで、情報を読まれて、送り返される危険も小さい。


 欠点は効率の悪さだ。


「あとはもう、今日は物資を温存してえ・・・・・・そうね、情報収集に集中して」


 彼女は空中に旅立っていく球体を見ながら、命令を下した。

 ハンターの情報は少ない。まれに、特定の属性を受け付けない者や、瞬間的に防御力を高める者がいる。

 彼女が開発したり、調整した多くの魔道具を持ち込んでいるが、数に限りがある。使いどころを考えねばならない。


 せっかく準備してきた魔道具が、不発に終わっては堪らない。有効な場面で敵に当てる必要がある。そのために情報が必要だ。


 他には、魔法使いの数がわかれば、どれくらいで魔力を切らすか計算できるし、短期間に集中的に魔法を使わせ、そこを叩くこともできる。

 ただ、魔術師なら、誰でも魔力を切れを嫌う。魔力切れで部隊は後退するだろう。逆に特定の部隊だけ、魔力を消費させずに引き込んで、そこを攻撃するのもありだろう。


「どんどん霧玉を放り込んで。無効化の反応を重視して観測を」



「死ぬ覚悟が無いなら、来なければよいものを」


 ヴァーラは中途半端に槍で突いてきた民兵を切り捨てた。

 彼女は気が進まない戦いを強いられていた。敵はどう見ても一般人だ。訓練している人間の動きではない。隊列がバラバラ、横並びになっていない。ハンターが各々の戦い方をするために距離を空けるのとは、違う動きだ。


 今日は、最初から両軍の様子を見るつもりだったが、自然と足が止まる。

 足を止めると圧力が無くなるのか、突いてくる民兵がいるので、それをまた簡単に斬った。


 周囲はコフテームのハンターが固めており、彼らの面倒を見ながら前進しているが、脅威らしいものは何もない。

 民兵でも、全員が一斉に襲ってきたら脅威だ。しかし、隊列が崩れた状態で連携する練度も士気も見当たらない。

 彼らの振る舞いは、戦闘というより、各自で自衛しているだけだ。


「よそ見していると死ぬぞ」


 あるハンターが言った先には、民兵の死体をあさっているハンターがいる。


「たまに金を持っている奴がいるんだよ、結構な額だ。帰ったら酒をおごってやるからな」

「あっちは預金先が無いのか?」


 そう言ったハンターが、殺した民兵の槍を拾い、民兵の群れへ投擲した。槍は鎧でそれたが、彼らを囲む民兵の輪が開いた。


「あっちだってハンターギルドはあるだろ。あっても信用できないのかもな、ハンターじゃないし」


 大抵のギルドは金銭を預かる能力がある。ここにいる者も預けているし、死後の管理も遺言通りにできる。ハンターには重要な機能だった。


「金を渡す家族もいなかったんだろうぜ」


 死体をあさっていたハンターが、突かれた槍を盾で弾き、立ち上がると同時に、一気に踏み込んで放った突きで、首を貫いた。民兵が倒れる。

 腰の引けていた民兵が前に出てきたのは、金を見てのことだろうか。


「ふう、危ない。まあ、要らないものなら活用させてもらうさ。当然というか、ポーション類は無いけど」

「左の方は前に進んでいます。右は大分遅れているようです」


 響き石を握ったハンターが言った。響き石は本陣を中継して繋がっている。

 彼らはこの連絡を待っていた。敵が防衛策を講じてきたからだ。今も、戦場の各所を霧が包み、視界が悪くなってきた。

 大反攻の可能性も考えられる。ごちゃごちゃした戦いに慣れてきたが、話していても神経をとがらせているのだ。


「さっき燃えちまったからなあ。俺達も気を付けないと」


 右方からは煙と焦げた匂いが漂ってくる。

 右の後方では、空で油が炸裂。それを頭から被った百人ほどが燃え上がり、治療のために後退した。間が寸断され、包囲されかねないので、楔のハンターも下がった。


「魔法じゃないんだろう? 飛んでくるとわかっていれば、迎撃もできるが」


《一級射手/シャープシューター》のハンターが言う。


「へんな薬品だろう。かわした方がいい。それより魔術師を狙えよ」

「姿が見えないんだよ」

「どうします? セイントさん」


 ヴァーラの後ろのハンターの問いに、彼女は前方を一瞥して答える。


「横と歩調と合わせるには、右寄りに進みましょう。いくらか支援できるでしょう」

「そうしますか」

「まだ、後退には早すぎるしなあ」


 彼らはまた前進を開始した。


 ヴァーラには、魔術師の位置がわかっている。

 民兵の隙間から、金属の鎧を着た正規兵の反射する光が見えており、その後ろに確実にいるからだ。斬り込めば確実に届くが、安全重視で、できるだけ避けている。


 ヴァーラは淡々と一日を戦い続けた。

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