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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-7 東の国々 魔道の残骸
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右の戦い

 ザメシハ右軍は、左がハンター、右が軍、に分かれて隊列を組んだ。

 先頭のハンターは、気楽な調子で中央の戦場を見ている。


「爺さんどもは元気だな」

「やはりあっちの兵は弱いな。水に浸したパンみたいにもろいぜ」

「年寄りに負けてたら、帰ってからが面倒くせえや」

「攻めてこねえな。ビビってんのか」

「こっちはいつ始まるんだ? 体が冷えちまう」


 正面のスンディ左軍は、細い川の向こうから動かない。


 これを見るギルヌーセン伯は、後方に控え、他の戦場の戦況報告を受けていた。

 こちらの攻め手は左軍、無理をする必要はない。しかし、総魔道長がいないなら好機ではある。


 前を無視して、中央に援軍を送る手もある、と彼は考える。

 しかし、流石にそうなれば座視してはいないだろう。それを受けきれるか? 敵の装備、練度はおろか、指揮官すら不明だ。

 となれば、初戦は無難にいくとするか。



 やがて、進め、の号令が掛かった。やっと来たか、とハンターは進軍する。兵士達も同じだ。

 下った命令は軽くひねってこい、だった。


 ザンロやヴァーラのような、重装備のハンターが最前列を固めている。全員が徒歩で揃えた。

 中頃まで進むと、砲撃が始まる。彼らは足を速めたが、他のように全速力ではない。

 彼らは隊列を崩さないことを重視して走る。


 「《引き寄せの盾/アトラクティングシールド》、《聖騎士の盾/シールドオブパラディン》」


 ヴァーラの盾が厳かに輝いた。他にも多くの者が、〈戦列〉などの戦技を使い、後方から強化魔法を受ける。


「おらぁ!」


 ザンロは闘打の盾目掛けて曲がってきた魔道弾を、盾で打ちつけた。弾が炸裂し、青い光が散るように弾けた。ザンロは、気持ち体を小さくし、盾に隠れている。


「軽いな」


 わずかな重みを感じただけだ。爆発の衝撃も、〈衝撃盾〉の戦技で打ち消しており周囲に影響は無い。


「問題無い?」


 後ろのスミルナが尋ねた。


「余裕だ、任せろ」


 ザンロの右、二十メートルで、やたらと爆発音が連続した。

 そちらを見ると、ヴァーラが盾で砲弾を受けていた。


 周囲十メートル以上から砲弾を集めているように見える。はるか上を通り過ぎるかと思われた砲弾が、道に落ちている大金貨を発見した調子で、直角に曲がって盾に当たった。

 魔法弾も通常弾も見境なく弧を描いて引き寄せ、砲弾の軌道と、赤と青の爆発が、見たことの無い幻想的な景色を生み出しているが、金属音と爆発音が相当やかましい。


 足元に通常の砲弾が転がって、邪魔そうにまたいでいる。

 両横のハンターは余波の衝撃を受け、たまったものではない、という顔をしている。


 引き寄せる力が強すぎでは、とザンロは心配になるが、受ける盾を持つ手は、前に出したままで動いていない。

 能力か装備に特別な性質があるのかもしれない。純粋な聖騎士なら戦技は使えないはずだ。


 これを後ろで見ていたチェリテーラは、強張った半笑いだったが、ザンロにはわからない。

 ザンロは左右の様子をうかがい、死人が出る心配は無さそうだ、これならいける、と思った。

 砲弾の多くは前列に引きつけられ、受けたハンターは走り続けられる程度のダメージだ。

 すぐ後ろではスミルナが斬り込みの時を待ち、その後ろにチェリテーラ、グラシアと続く。


 この砲弾、通常は上位の彼らでも、連続では受けてはいられない威力。しかし、支援があり、正面から来る分に問題無い。

 彼らは初めて実地するやり方が通用したことに安堵した。


「その調子だ! 装備をやられた奴は交代。ペースを上げろ」


 ザンロを始め、まとめ役のハンターが鼓舞する。前列は速度を上げた。

 後方から替えの大盾を受け取るハンターの姿もある。普段盾を使わないハンターは〈盾強化〉などのスキルが無い。本人は頑丈でも盾が持たない。


 後列への砲弾が被害を生んでいるものの、前列は順調に前進、川まで迫った。

 砲弾に代わり、矢が増えたが、これも盾に引き寄せられ無効化されている。


 そろそろ衝突が始まろうかという時、【告げる野分のわけ】のヴィンスが隊列の後方から抜け出し、枯れた高木にすいすいと上った。そして長弓ロングボウを構える。

 距離は敵陣まで三百メートル。


「うじゃうじゃいるな。こりゃあ、戦争が終わったら、不死者アンデッドまみれになっちまうぞ」


 ヴィンスの目に、後方に控えた魔術師が飛び込む。五・六人が一塊になり、満遍なく散って配置されている。その前には正規兵がいるようだ。

 川で止めるか、川へと押し返すつもりか。


 ヴィンスには、禁制の〈人殺しの矢〉を配給されている。この矢は、装備品も含め人間相手に威力を増す。

 ヴィンスはこの矢をつがえた。狙いは魔術師そのものではない。


 風の壁は、正規兵の後ろにある。鎧を着こんだ兵は、装備で対処できると考えているのだろう。その手前の兵を減らす。


 矢が放たれた。放物線を描いた矢が、吸い込まれるように、兵士の兜を撃ち抜いた。

 さらにどんどん射ると、後ろに、風の壁の後ろに下がった。風の壁を抜こうと、一射したが、駄目だった。


「こっちを試すか」


 ヴィンスは別の矢を取り出し、矢を巻いている紙を取って捨てた。

 そしてこの矢を放つ。大きく弧を描く軌道。これの狙いは魔術師だ。矢は風の壁で上に舞い上がった。


「真上からは難しい。案の定だが・・・・・・どうなる」


 舞い上がった矢が、地面に落ちる。そして、炸裂、矢尻から強烈な閃光が発生し、付近の目を突き刺した。

 魔術師が目を押さえてもがいている。


 これは〈閃光の矢〉。少しの間、目を暗ませ、盲目にする。そして、昼では見にくいが、目標の位置を示すのに使える。


 ヴィンスは二つの矢を、様々な場所へ射かけ、魔術師の前線への介入を阻害する。

 敵は浮足立ち、右往左往しているのが見て取れる。倒れた兵士をどうすればいいのかわからない、といった様子だ。


「目の前で死人が出ただけでこれか。戦い慣れはしていないな」


 これなら、普段使っている無音の矢の出番は無さそうだ。


 敵陣の中頃から、大きな火球が真上に打ち上がった。

 火球は少しその場で滞空したかと思うと、動き出し、一気に加速して、こちらに向かってくる。


「・・・・・・俺かよっ、集団魔法か!」


 ヴィンスは高木から、素早く飛び降りて走った。全力の走りだ。

 後ろで轟音が響く。背中に熱と風を感じ、木の破片が体にぶち当たった。


「ぎああ」


 ヴィンスは風圧で、半ば飛ぶように倒れ、振り返れば、三、四本あった木が完全にバラバラになっていた。


「あっぶねえ。あれは完全に終わりになる。しかし、あれを使ってくるぐらいには嫌だってことだ」


 魔法は、術者から遠のくほどに効果が弱まる。

 これを緩和するには単純に魔力を多く込めるか、複数人で担当を分担――威力、撃ち出し、魔法の保護、照準、追尾、索敵などの構成要素を分担する必要がある。

 これらの調整は難しく、即席で連携はできない。

 ヴィンスは、流石に魔術の国らしいところを見せてきた、と思った。


「そろそろ衝突か、別の位置取りを考えるか」



 飛び越えられるほど小さいとはいえ、落ちれば厄介な川。さらにその対岸では、民兵が槍を突き出して、槍衾を作り出している。

 正面から見れば圧力を感じる光景だ。


 そこに走りよったハンターは、川の手前で一斉に止まった。含み笑いのハンターを見た民兵達は戸惑った。

 そしてハンター達が一斉に動く。


 衝突寸前、ハンター達が取った行動は投石。次々に石が飛ぶ。

 攻撃と様子見を兼ねて、彼らがよくやる行動だ。石は事前に準備していた。

 至近距離での強烈な投石を受けた民兵達が、悲鳴を上げ倒れ、槍衾が乱れていく。


「槍より石の方が、射程は長いんだ。アホどもめ」


 民兵の顔面に直撃させたハンターが、興奮して言った。


「一部に障壁、確認してから進め」


 このハンターの投げた石は、透明な何かに当たって川に落ちた。


「水中に魔力反応、落ちるな。危険があります」


 民兵が大きく崩れた部位を狙って、ハンター達が川を飛び越え、陣地を広げていく。

 兵士達は槍兵が前に出て交戦しており、同時に後列は射撃戦を展開している。


 ザンロも川を飛び越え、赤い戦棍メイス――即剛火道を振るった。それは突き出された槍に当たった。戦棍メイスの打点が爆発、それに驚いた民兵が、槍を放し、槍は高くに飛んでいった。


「ぶっ飛べ、クソドモガァアァ」


 ザンロが叫び、踏み込んで放った一撃が民兵の胴体をとらえた。ボゴン、火を噴く爆発、戦棍メイスを振り抜けば、民兵は大きく飛んで、別の民兵にぶち当たり倒した。

 転がった民兵の胴体は弾け飛び、煙を出し、服には火が点いていた。


「掛かってこい。糞野郎」


 ザンロが戦棍メイスを構え、鼻息荒く前進する。

 それを見た民兵が恐怖し、後退する。できた空間に、スミルナが円盾と剣で飛び込んだ。盾で槍を弾き、俊敏な動きで舞うように斬りつける。

 民兵は傷一つにうろたえ、戦意が大きく低下、戦闘に支障をきたした。

 そこに他のハンターも斬り込んでいく。


「ぶっ殺せーー!」「脳天砕いてやらー」「雑魚があ! 死ねい」


 方々から怒声が聞こえる。


「勢いに乗り過ぎて捕虜の確保を忘れるなよ」

「そっちは兵士が真面目にやるっしょ」

「安全第一だぞ。次に魔術師を減らせ。なんか持ってるかもしれんが、下手にいじくるな」


 ザンロが大声を出した。前には敵兵しかいない。ハンター達はそれぞれの渡河地点で分断され、横の隊列は消えた。これは予定通りだ。


「恐怖せよ!」


 チェリテーラが、後方からザンロを巻き込む形で、正面方向に《恐怖/フィアー》の波動を放った。

 これを浴びた民兵は恐れおののくを通り過ぎ、十名ほどが悲鳴を上げ全力で潰走した。それにつられるように、魔法の影響がない民兵も潰走を始める。


「ずいぶん戦意が低いのね。それとも、おひげが怖いのかしら」


 チェリテーラが言った。ザンロが敵を追いかけて走る。


「これなら簡単に崩せる、でも・・・・・・しくじったか」


 空から来る無数の黒い影、矢の雨だ。味方ごと撃ってきた。


「上から! 防御を」


 スミルナがザンロの後ろに隠れた。グラシアもチェリテーラの後ろに潜んだ。

 ザンロが〈領域防御〉で矢を受け、矢が自主的にチェリテーラを避け、地に落ちた。後ろに続いたハンターは数名負傷している。


 スンディにとっては民兵はどうでもいい。むしろ積極的に敵ごと潰したい訳だ。しかし、味方を直接は撃てない。

 命令を無視してくれればそれができる。相手に攻撃機会を与えただけになった。


「敵と距離を空けるな。少し奥に進んだら他の様子を確認してくれ、チェリ。敵の使用魔法を知りたい」


 ザンロが言った。そして、こちらの位置を認識されている、と警戒する。


「わかった」


 精鋭ハンター達は、一組五人から十五人ほどに分かれている。戦い慣れたパーティの延長だ。


 魔術師の前で一人にはなれない。

 眠りや麻痺、支配など、頻繁には受けないが、数十発放たれれたなら効果を受ける。一人でそうなれば終わりだ。だから事前に対処能力のある組み合わせにした。


 彼ら――精鋭はくさびとなり、敵陣に食い込む。

 そして精鋭が切り裂いた後に残った谷間を、後ろから来たハンターが埋めていく。

 次にまた、楔が前に進み、隙間を埋めるを繰り返す。これなら手堅く進める。


 そしてベテラン達は口にしなかったが、後ろの方が大きな攻撃される可能性が高いと考えていた。

 固まっている相手の方が魔法は当てやすい。大きな魔力を効率的に使うなら、確実に多く殺せる方を攻撃するだろうと。

 それもあって突出しないようにしつつ、少し前を進んでいる。


 だが、民兵が押し負けるのは、わかりきった話だ。スンディ側の反撃が始まる。

 他軍同様に、魔法攻撃が来る。射線が通らないので、ピンポイントの状態異常攻撃が多い。しかし他軍のような混乱はない。


「後退する。盲目だ! 誰か治療を」

「デークテが麻痺だ、援護しろ」

「ブハハハ、クレンジが小さくされた」「笑うな! すぐに治るっての」

「砂塵が来たぞ」


 ハンターはお互いに援護することに慣れている。ベテランなら状態異常を受けた経験もある。

 他軍でも援護しようとはしているが、要援護者に対し、援護者が足りない。

 これは足を引っ張る者がいないことからできた差だ。

 助けは呼ぶが、自力でなんとかしないと死ぬ、というのがハンター基本的な行動原理だ。だからすぐに対処する。


 この戦場で一番ガラが悪いハンター達は、民兵は当然、正規兵を心理的に圧倒した。

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