表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-7 東の国々 魔道の残骸
137/359

水の兵

 ピンクの層をすぐに突き抜け、彼女の視界は瞬時に暗くなる。

 あの層は光をかなり遮っていたが、それでもかすかに光はあり、彼女の目はそれを捕まえる力があったが、水中の濁りのせいで視界は限定的なものとなった。


 すで十メートル、急速に潜行している。

 赤い魚の大群の中を突っ切った。まだ底は見えない。

 陸の世界――植物が視界から消え去り、わずかに気分が沈む。


 陸なら鼻が利くが、水中で広範囲の敵を探す手段はない。

 魔法で悪・負属性ならよくわかる。それ以外は近距離でしか認識できない。


 今は混沌属性の河童が水面の近くで、素早く泳いでいるのを感じている。

 しかしそれ以外は探知できず、深度が下がると河童は探知外に消えた。

 こうなると目視でオーラを探すのが最善手。


(使役できる距離からして、湖の中央部にいるはず。それでも、しらみつぶしにするには広い。河童使いが護衛を近くに置いていれば見つけやすいけど・・・・・・)


 ヴァーラに水中戦の適性はない。つまり水流を操作できない。

 スキルでは、低レベルの〈水泳〉ぐらいで〈潜水〉すらない。主力中で最低の水中戦能力である。

 同じ壁役のテスドテガッチが、水中、空中で機動できるのとは対照的だ。


 召喚できるのは土と植物のみ。敵が悪・負属性でなければ効かない攻撃魔法が大半。

 さらに水中では声が届かず、多くの心術は掛からない。

 基本的に彼女は多くの状況に単独で対処するように設計されていないのだ。


 行軍に深刻な問題が出ると飛び込みはしたが、手探りで解決方法を探さねばならない。


 ルキウスなら致命的損害が無ければ構わないと、リスクを避け船上に留まる場面だろう。しかし、彼女は命令を完全に遂行しようとした。

 困難な状況、しかし利点はある。人目が無いことだ。


 彼女はインベントリから振動型遊泳装置を二つ取り出す。腕時計の帯と本体の両方を大きくした形状で、材質は黒い合成樹脂。

 本体部分から発する振動波で水流を操り、時速五十キロまでは出せる。

 動力は自然水に付けておくと充電される水中充電電池、海なら一か月以上継続稼働できる。


 これはルキウスが現実でも所持していた軍用品と同型である。サイボーグ以外の人間には最高レベルの水中活動用装備だった。


 ヴァーラは籠手ガントレット外してインベントリに入れ、装置を両手首に巻き付ける。

 装置との仮想的な紐子フィルミオン接続が終わると、感覚的に水流を起こせるようになる。


 装置の動作を確認していると、前方から大きなオーラが接近するのが見えた。彼女はそれを警戒しながら潜行する。


 それは前から徐々に姿を現していく。

 ぬっと闇から出て来たのは、鋭利な牙が側面から飛び出した平たく長い口先。その後ろの目には垂直に細く開いた瞳孔。全身は頑丈そうなごつごつしている角質化した鱗に覆われている。


 ワニだ。《巨大鰐/ダイアクロコダイル》、全長十五メートル以上。


 ゆったりと体から尾までを波打たせ、うねりながら向かってくる。


(大型はこれですか。原住生物ですね)


 ヴァーラは力を抜き、盾と剣を構えた。

 ワニは全身を激しく波打たせ、口を開き、急激に加速した。

 陸上では鈍重で、陸上深くに進出した個体は村人に狩られ、しばしば臨時収入となるが、水中では素早い。


 槍の突きのように絶え間なく襲う繰り返しの噛みつき。

 連続する巨大な衝撃を感じ、目の前が泡立つ。

 彼女は迫る口を側面から盾で弾いていた。横に逃れ、さらに距離を取る。


 ワニはそのままの勢いで通り抜けかけたが、最後にくねらせた尻尾を打ちつけてきた。水が激しくかき回される中、これも盾で受ける。情けなく歪んだ鈍い音が響き、横に流される。


 尻尾を切り払おうと思ったが、体を動かす時の水中の感覚に慣れず躊躇し、防御に徹した形になった。


《信仰の力・緑/ファイスフルパワー・ヴァーダント》《信仰の鎧・緑/ファイスフルアーマー・ヴァーダント》。


 長時間持つ型の魔法で少し自己強化する。レベル基準で五百以下と推定したが、鎧をへし曲げるぐらい噛む力がある相手だ。


 体の向きを変えて、優雅に泳ぐワニの姿を追っていると不意に後ろから圧力を感じ、瞬時に振り向く。

 開いた口が閉まるところを目撃した。


(二匹目!)


 反射的にのけ反り、身を翻す。

 しかし肩の端に引っ掛けるように喰いつかれてしまった。凄まじい顎の力で鎧をへし曲げる。

 そしてワニが全身で横回転を始める。デスロールだ。ヴァーラの体が引きずられるように縦回転を始めた。


 この程度は力技で突破は可能、しかし確実な手を選ぶ。


(我が神よ!)


 中位魔法《神罰障壁/パニッシュメントバリア》、体を薄っすら光る膜のような障壁で覆い守ると同時に、触れた者にダメージを与え気絶させる。


 即座に障壁が力を発揮、後ろから来たワニは体を一度大きくびくつかせると、目を開いたまま微動だにしなくなり、水中を漂いだした。

 そこをすかさず頭を一突き。頭蓋骨の真ん中に小さな穴ができた。


 最初のワニが戻ってきたが、盾に接触するなり同じようになり、始末された。


(ここでは後手に回るのは避けがたい)


 水精霊の宝石などを消費すれば、水中での機動性を充分にできるが、補充不可能なアイテムを消費するのは避けたい。


 彼女はさらに落ち、ようやく湖底に到着する。少なくとも五十メートル以上は下っている。

 降り立った場所は切り立った高台の上で、さらに深く切れ落ちた場所が多くあり、それらは闇になっていた。


 周囲を見回し目標を探していると、人間大の《水の精霊/ウォーターエレメンタル》が十数体接近してくる。

 その姿は形を成す水で変幻自在。渦巻き、人型、立方体、魚類など、各々が好きな形状で接近した。

 水に溶け込み水中では目視困難であるが、純然たる青い水のオーラの塊がはっきりと見える。


 ヴァーラは水流を操り接近し、斬りつけようとしたが、水の精霊達が結託して巻き起こした水流に捕まり、不規則な回転をしながら湖底に叩きつけられる。


(相手が悪かったかな)


 身を起こした彼女は、全力で後退しながら魔法を使う。

 中位魔法《無制限移動/アンリミテッドムーブ》、この効果で水を無視して陸上同様に動ける。

 ただし、湖底はかなり足場は悪く、泥が溜まっている。


 彼女が湖底にストンと落下すると、硬い場所を探してから激烈な踏み込みで泥を舞い上げ、直線的に群れへと飛び込んだ。

 対抗する水流が彼女の姿勢を少し乱したが、強引な一振りで二体を両断する。

 斬られた水の精霊は、青い粒子となり霧散していく。


(これは召喚体、河童使いとは別? 相当な人数がいる)


 ヴァーラは湖底を足場に何度も突撃を繰り返し、水の精霊を撃滅、索敵を再開した。



 モヌク紫海王国のハンター文化は独特である。


 彼らの活躍する主戦場の一つは船上。

 船団の護衛を専門とするハンターは多く、彼らは船旅の性質上、長く同じ仕事をする。

 優れたハンターは、実質的に特定の商人専属となるのはよくあった。


 そのため、敵対する他船団に雇われたハンターと交戦することも少なからずあり、その性質は極めて傭兵的で、人殺しも最初から仕事の一部と認識している。


 今回、モヌクの上位ハンター集団【黒の川蠍】は、スンディに雇われていた。

 人数は二十八名。依頼は渡河の妨害である。雇い先がスンディと深い付き合いがあったので、その繋がりからであった。


 ザメシハの商船団を密かに始末して成り替わった彼らは、ポタウィ湖の近くまで川を遡上すると、関の手前から潜水してポタウィ湖の湖底の各所に伏せた。


 彼らは特に水に特化した《召喚士/サマナー》が多い。

 水中戦の訓練をしても、人間である以上水は避けたいので、別次元より召喚する召喚体を戦わせる召喚士サマナー召喚術師サモンウィザードは人気で、資質がある多くの人間が目指した。

 【黒の川蠍】の半数近くが魔法使いで、その過半数は召喚を得意としている。


 さらに特定の性質に特化した召喚士サマナーは、熟練すれば自らの定めた召喚体と近い性質を宿す。水属性であればエラ呼吸が可能などだ。


 そして【黒川蠍】の中で異質なのが、チェイ・プーホー。

 五十六歳の五つ星ハンターで、高位の魔法使いだ。


 彼は木、火、土、金、水の五行の中で水に特化した《祈祷師/シャーマン》の一種である《河童拝み屋/カッパオガミヤ》で、特に河童の使役に優れる。


 彼は子供の頃に河童の襲撃に遭い、尻子玉を抜かれ、虚弱体質となってしまった。

 しかし、彼はそれにへこたれず、尻子玉を取り戻すべく、数十年ひたすら河童を殺し続けた。


 彼はついぞ尻子玉を取り戻すことは無かったが、尻子パワーは大幅に増加し、河童酋長を超えた。これにより、彼の河童に対する権威は盤石のものとなった。

 おかげで単独で大勢の河童の群れを従えることができている。


 彼は湖中央の深みに河童に大きな横穴を掘らせて潜み、周囲には八体の河童を護衛に置いている。


 彼の仲間が展開しているため、湖の生物の多くは制御下だが、強力な魔物はそうはいかない。周囲を警戒する必要があった。


 とはいえ、水中の大型魔物は刺激しなければ比較的安全であるので、近くにくれば穴の奥に潜みやり過ごすなり、河童を餌にするなりすれば済む話だ。


 河童達は戦闘でやられているが、いくらでもいる。

 河童をおびき出すのに使用していた彼が品種改良したキュウリは、河童に活力をみなぎらせ、数を増やすのにも有効だったのだ。


(足止めは完全に成功している。順調だな)


 しかし、ここで脅威を認識する。

 彼は水中の振動を検知していた。特殊な振動だ。


(真っすぐに向かってくる。速いぞ・・・・・・この動き、魚と違う。敵? 探知されているか?)


 振動が正確に姿を捉える距離まで一気に接近する。

 水中にあるまじき勢いで飛来したのは、全身を白っぽい金属鎧で包んだ騎士。

 彼のいる横穴目掛けて飛び込んでくる。


(騎士!? 速い)


「《水流波/ウォーターブラスト》」


 彼が反射的に放った、特別な尻子パワーを宿した高圧水流の直撃で、騎士は数十メートル押し戻された。


「水中活動用の装備があるようだが・・・・・・近づけんよ」


 彼は念のため、河童を穴の手前に集める。

 騎士が少し止まっていたが、再度走り出し、突入してくる。


(無駄なことを)


 彼の掘らせた横穴の上は分厚く、穴の前方は大きく下がってから、平たい地形が続いている。何かを壁にはできないのだ。隠れて接近はできない。

 騎士が横穴へ飛んだ。彼は再び水流を放ち、それが騎士を捉えた。盾で少しでも逸らそうとしているが無駄だ。


 騎士が後ろへ下がり出した瞬間、こちらに向けた剣の切っ先から、光線が飛び出す。


(光線だと! 装備か、それともあのなりで魔法使いと?)


 光線は瞬時に彼まで到達、急に穴が光で満たされ、目がくらんだ。

 河童をかすめたのか、数体がダメージを受けている。しかしプーホーは驚いただけだ。


 彼の体からしみ出した光る液状の召喚体が、彼を包み込み、さらに光を拡散させたのだ。

 これは契約している特別な水の精霊。彼と半同化している。

 対して騎士は、圧力で押し戻されて底に着地した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ