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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-7 東の国々 魔道の残骸
133/359

戦争の準備

「数日前からスンディ国内で大規模な軍の動きを確認しているが、現在は大規模な通信妨害を受けている。そのため情報に遅れがあるが、少なくとも十万を超える軍が、北上し、国境に迫っている」


 ハンター達は十万という数に、実際に戦争になるのだと実感し、眉をひそめた。


「戦争の理由は? 奴らが鼻につくのは毎度だが、そんな度胸は無いだろう」


 アッキが少し身を前に乗り出し言った。さらに別のハンターも言う。


「そうだ。ここらに来ているスンディ出身じゃあ変わり者の連中ですら、つまらん講釈ばかり垂れて、森で痛い目を見るような感じだ、そんな大層なことは・・・・・・」

「最近大きなもめ事があったとも聞かん、何があった」


 アッキが言った。


「向こうの都合は知らぬ。ここからでは遠すぎるのでな」


 伯爵が懐から紙を取り出し、それを見る。


「通告された開戦理由は、魔術王国を侵略するため対魔法用の銃火器を発掘と称して製造、販売している。さらに帝国と内応しており、連絡線を築くために悪魔の森を西へ開拓している。

 その証拠に、最近では明らかに製造したと思われる銃器を発掘品という隠れ蓑を利用して販売している。我が国の鑑定では、歴史的に遺跡からの発掘はありえない武器である。また、これまで開拓の中止を呼びかけたにもかかわらず中断の意志が無い。それで邪悪な野望を隠さなくなった我が国を成敗してくれるらしいぞ」


(んん? どっかで聞いたような・・・・・・倉庫から発掘したゴミ武器の話ではないのか? そこは正しいな。発掘品じゃないからな・・・・・・つまりばれてるじゃねえか! これはやばい)


 ルキウスは対魔法アンチマジック属性銃器を、生命の木の倉庫から優先して発掘していた。


 毒や呪いを撃ち込む銃は犯罪者が悪用しそうだったし、単純に威力が強いのは、危険で希少だった。

 そして弾薬を消費するのは高く売れそうになかった


 そこで、危険度の低い、魔術師の補助武器になりそうな魔銃を選択したのだ。これは自分に向けらられても対して害が無い利点もあった。

 実際、ほどほどの値段でさばけていたはずだ。


 ルキウスはどうもあれが戦争の原因らしいことに気付き、冷や汗をかきながら、何とかせねばと悩み始めた。


「馬鹿じゃねえのか、森を抜けるまでどれだけあると思っているんだ。森を知らんボンクラが」


 アッキがあきれ言った。


「とにかく向こうの言い分はこれだ」


 伯爵がなげやりに言った。彼も何を言ってるのか、と思っているのだろう。


「では、我々を呼んだのは・・・・・・」


 あるハンターが言った。


「諸君には戦に参加してもらいたい。戦力が必要だ。おそらくスンディは本気。大軍を興していると考えられる。兵数的には不利になるだろう。国境線付近で迎え撃つことになると予想している」


 半ば予想された答えだ。

 ザメシハは領土が広がり続ける開拓国家、ゆえに手が空いている農民は少ない。

 土地を相続できない次男以降は、通常は新規の開拓地に入る。

 そしてそうしなかった者の大半がハンターになっている。唯一の余剰人員だ。


 聞いたハンター達は返す言葉に困る。いや、それ以前に考えをまとめるのが難しい。

 危険を日常とするハンターであっても、大規模な戦争がどのようなものであるか、想像もできない。

 だから難しい顔をして黙っていた。

 そこで口を開いたのはやはりアッキだ。


「ここにいるハンターはどう選んだ? 上位か?」


 ここにいるのは全員五つ星以上だが、他にも何組かいる。


「急ぎのために連絡のつく諸君をまず呼んだが、星を問わず全ハンターに依頼する。ギルドには話を通した。先に有力なハンターに話を通しておこうと思ったまでだ」


 著名なハンターが参加表明すれば人を集めやすい。


「当然だが、強制はしない。ここに戦力が残ることにも意味がある。だが、国のことを考えれば、戦場が最優先の状況だ。活躍すれば特別な貢献と見なされる。五つ星で止まっている者は赤星を手にする貴重な機会だろう」


 これを聞いた五つ星の面々は俄然興味を強くし、真剣に考える表情をした。

 一瞬で赤一つ星になったルキウスでも、この一つの差が大きいのは感じている。


 街の人間の認識が、腕利きから英雄になる。

 赤星は敬意を払われるべきものであるとの社会認識があった。

 特権階級の仲間入りする絶好の機会。


「それはギルドの判断なんだな?」


 アッキが椅子に深く座り確認する


「もちろんだ」

「ギルドが人間同士の戦争を貢献と見なすとはな」

「それだけの不当な行いである」

「にしても、国家間に介入するのはよくないがな。国家間でギルドが分裂しちまう」

「それはそっちで解決してくれたまえ」


「そういえば、トンムスはいないのか。奴ならこの手に話をまとまるように動くだろう」


 ここのハンターの中で比較的いつもの調子で話せているのはアッキだけだ。

 ルキウスはこれどうしようと悩んでいるので、話す気分にならない。聞きたいこともない。


「彼と当家の者には森を探らせている。森が燃えたのは知っているな。時期が時期だ」

「なるほど」


 なお同じ頃、森に派遣されたトンムス達は、木も枯れ草も無い広大な空間を目にしていた。

 柄の無い剣や、完全に金属だけになった金属鎧などがたまに落ちている。他にも落ちているのは金属だけ。


 人がいなくなった痕跡だけが半端に残り、その不気味さは彼らを恐怖させる。

 視界の開けた空間は魔物に捕捉されやすく危険、彼らは拾得物を得て、帰途に就くことになる。


「まあ多分、彼にも戦場に来てもらうがな」

「あの火事も戦争絡みの可能性があるってことか」

「まだ調査中である。未確定だ、推測は遠慮してもらう」


 伯爵がアッキの顔を見て釘を刺した。


「わかった」

「非常に急ぐ事態ゆえ、第一陣は私が自ら率い可能な限り早く出る。陸路で向かうことになるだろう。水運は物資を運ばねばならん。判断が早いとこちらは助かるが」

「これはちょっと考えねえとな、俺は魔術師の相手は得意じゃねえし、相談しないと駄目だな」

「もちろん、それで構わない。ただし急いでほしい」


 リーダーでも単独で即決できる話ではない。しかし、その中で即決した者がいた。ルキウスだ。


「私は行かない。時期的に森を離れられない。特別な祭事があるのでな。それに戦場は森ではないだろう」

「・・・・・・ボジトン湿原か、デッセエフ平原となろう」

「ならば元より私向きではない」


「国の一大事だってのに、なんだそれはよ」


 責めるように言った屈強な男は、【土の継承】のリーダーのボロッカク、戦士である。


 この男だけはトンムスに紹介を受けていない。トンムスは彼が組んでいる相手以外も、多くをルキウスに紹介したが、そこから漏れている。

 つまり、問題があるということだ。

 トンムスが不要と判断した相手に気を使う必要もない。


自然祭司ドルイドが森を優先するのになんの不思議がある?」

「死にたくないだけじゃねえだろうな?」

「やれやれ低レベルだな、雑魚は引っ込んでいろ」

「なんだと、この野郎!」


 ボロッカクが勢いよく立ち上がった。


「雑魚にはわからん話だと言ってるんだ。森の機嫌がわからんだろう?」


 ルキウスがヴァーラを手で制しつつ、立ち上がる。


「星一つの差で調子に乗るなよ!」


 不穏な空気に伯爵の後ろの護衛が顔を強張らせる一方、アッキは全力で目を開いて楽しそうな表情をしている。


「星があろうがなかろうが、お前は雑魚だ」

「ふざけんなっ」


 ボロッカクがルキウス目掛けて猛進、顔目掛けて右ストレートを放った。ルキウスはそれをたやすく左手で手首をつかんで止めた。

 そして握る手に力を入れると、ボギィと音が鳴った。


「ガッ、ギィ」


 ボロッカクが顔を紅潮させ歯を食いしばった、しかし流石は五つ星か、即座に左手でアッパーを打ち込んできた。


 ルキウスはそれをアスクレーピオスの大蛇杖で受け、すぐに魔法で白蛇状態にした。

 いきなり部屋に出現した大蛇が、とぐろを巻き、鎌首をもたげ、舌を出し入れし、ボロッカクを見つめた。


 それにはヴァーラ以外の全員が驚いた。ルキウス自身も過剰に驚く。


「おっと、これはなんということだ。私の杖がヘビになってしまったではないか! これは殴られてたいそう腹を立てているぞ、誰か食わないと収まりそうにない」


 伯爵の護衛が前に出たが、伯爵は座ったままだ。顔は引きつっているが。

 二人の争いを座視していたハンターも立ち上がり、後ろに下がった。

 ヴァーラだけは座ったままだ。


 ルキウスが手を放すと、ボロッカクが後ずさりしたが、瞬時に白蛇が追撃して上半身に巻き付く。そして締め上げていくと、ゴギィ、ボゴと音が成りだした。


「グギャアァァ」


 そこから白蛇はその顔をボロッカクの顔とすりそうになるほど近くまで近づけ、よく見てから、その口を大きく開いた。


「や、やめろー」


 悲鳴が響く中で、少しずつ頭が飲み込まれていくと、やがて悲鳴が聞こえなくなった。白蛇の体は異様に引き伸ばされ、体は半分ぐらいまで飲まれている。


 そこで白蛇の口が閉じられた、と思った瞬間、白蛇は一気にボロッカクの体の吐き出しながら杖に戻って、上方に撃ち出されるように宙を舞ってから落ちた。


「どうやら怒りは収まったようだ。皆も自然の怒りには気をつけたまえよ」


 ルキウスは杖を拾い上げて座った。ボロッカクは倒れたままだ。動かない。他の面々も石像になったように硬直している。


「弱いものいじめは感心できんな」


 アッキがルキウスを横目に見て言った。


「勝手に幻覚を見て気絶しただけだ。皆さんもそのようだが」

「なんだと?」


 アッキが顔をしかめ、倒れたボロッカクの全身をぺたぺたと触った。そして振り向く。


「怪我がねえ。無傷だ。なーにをしやがった」

「自然を恐れよ」


 ルキウスは誇張的に笑ってそう言った。

 それを見たアッキもにやりと笑う。しかし他の面々は恐怖で硬直し、目を見開いている。


「面白いじゃねえか。なんなら、俺との訓練にでも付き合ってくれよ。良い相手がいねえんだよ」

「服が傷むぞ、借り物だろう?」


 ルキウスは、街着屋というレンタル服の商売があるのを最近知った。

 特に魔法的効果の無い無意味に華美な服の発生元は、大抵ここであった。

 今のアッキの服もそれだ。


 普段のアッキはハーフパンツとベルト、背負いカバンしかない。伯爵に会うので一応気を使っているようだ。

 魔法的な装備の効果ではないらしく、冬でも半裸で普通にしている。最初に見た時は、普通におかしい奴がいるなと思った。


「服ぐらい脱げるぞ」

武僧モンク自然祭司ドルイドとで殴り合えと?」

自然祭司ドルイドなのに木ばっかり伐ってるじゃねえか、らしくはねえだろうよ」

「人の仕事を奪わないように気を使っているんだ」


 そう答えはしたが、ルキウスもひたすら木を伐る自然祭司ドルイドはおかしいよな、と思っていた。それ以上に植えてはいるが。


「ふん」


 アッキは鼻で笑うと、ボロッカクの体に手の平から気を流し込んだ。その衝撃で目を覚ました彼は、ルキウスを見ると飛び起き、無言で部屋の隅まで後退した。


「伯、そんなわけだが」


 ルキウスが言った。


「私はそれでいい。森が騒がしい状況だ。森に最高の自然祭司ドルイドが張ってくれるなら言うことはない」


 伯爵が言った。


 彼の表情は相変わらず力に満ちているが、普段と違いわずかに緊張があった。

 ルキウスは庭木の調達、手入れをよく依頼され、何度か顔を合わせている。さらにルキウスは人の表情の機微を正確に捉える能力に元々長けていた。


(本当は来てほしいのだろうな)


 シュットーゼ戦で空を飛び交った高位魔法は、遠方から全て目撃されている。伯爵は当然それの格を理解しただろう。

 庭木の調達を依頼してきたのも、少しでも親しくなるために違いない。


(戦場なら範囲魔法が有効、と考えていたのだろうが、これは無理だな)


 ルキウスが森から離れるのは危険が大きく、さらに森に入らないと生命の木に戻れない。

 転移アイテムはあるが、転移するなら最も確実な手段を使わないと事故が怖い。

 長期間、森の外で拘束される仕事は無理なのだ。


「ただしセイントが参加する。それで充分だろう」

「なんだと?」


 仮面の奇人の言動に、部屋の面々は混乱し続ける。

 ただでさえ二人しかいないのに、それを割る判断。普通ではない。


「森にいる必要があるのは私だけだ。問題無いな?」


 ルキウスがヴァーラを見て言った。


「単独でも充分に戦えます」


(ヴァーラ一人でもなんとか状況に関与できるはずだ。敵にディープダークみたいなのがいなければ)


「伯もそれでよいですね?」

「そちらがそれでよいなら関与しない」


 それから契約条件などの話があり、その場は解散した。



 二人は伯爵邸を出た。

 ルキウスは、仮面を変えてから寄りつくようになった若い娘達に、適当に愛想を振りまきながら街を歩く。


 そこにソワラからの通信が来た。


『ルキウス様、急ぎの連絡です。スンディの首都、ワシャ・エズナに軍が集結しています。滅ぼしますか? ご命令さえあれば――』

「森に入るからしばし待て、攻撃はするな」


「このまま通信のために森に入るぞ」

「はい」


 ルキウスがヴァーラに言って、街を出て森に入った。


「森に入った。続き、詳細な情報を」

『東西から万単位の軍が集結してます。さらに首都でも募兵が始まりました。条件は良いようで、多くの貧民が参加するようです』

「他の軍は動いていないのか?」

『南方でも同様の動きがあるとターラレンが。都市内では大きな魔法使用はためらわれ、不正確ですが、熱が動いていると。大勢の移動は確実かと』


(伯爵の言った十万は今北部を行軍中か? さらに東西から首都に招集された軍と、南の軍が来ている。動員限界、総力戦だな)


 スンディの国土の内、人の居住域は北西から南東に広がり、概ねひし形をしている。

 それ以外は、湿地、山地、森、重汚染地であまり人はいない。


『やはりさっさと滅ぼしてしまいましょう、この国』

「まあ、待て。どれほどの戦力が隠れているか不明だぞ」

『強者がいても、先手を取って大魔法を一斉に使えばなんとかなります』


(それは大陸レベルでやばいやつだろう、そしてディープダークのような連中を確実に敵に回す)


 スンディは評判が芳しくなく、ルキウスの活動国にとって邪魔、だからといって滅ぼすのは短絡的過ぎる。


 グレートサプライズプランでも、問題のある国をすぐに潰したりはしていない。場合によってはむしろ補助し伸長させ、その影響を利用し再構築に繋げた。


(結局、情報が足りない。スンディの動きが周辺国、そして大陸北部にどんな影響をもたらすか読めない。しかし、スンディが大改革して立ち直るとは思えん。かといって、滅ぼすと失われるものが多い。腐っても魔術師、常人にできないことができる人間であり知識層だ)


「ソワラよ、スンディの動きは予想の範囲内だ。何も心配はいらない」


 まずはソワラをなだめる。また知らない所で激怒して暴走されてはたまらない。


『そうなのですか!?』

「私はこうなると思っていた。私が仕向けたのだ。あのオークションでな。あれで選んだ品には、今回の動きを誘発させる仕掛けをしておいた」

『流石ルキウス様。でも、なぜ教えてくださらなかったのですか?』

「情報不足で確実ではなかったからだ。つまりは、無数の事態を想定し、各状況に応じて何かの反応が返ってきそうな品を多種仕込んでおいた。今回の動きはその想定の一つなのだ。これで概ねスンディの状況はわかった」


(そうだ、そう思えばいんだよ! 俺は積極的反応観察をしているんだ。あれは調査だったのだ。そういうことにしておこう)


「しかし、スンディ国内の情報がもう少し欲しかったのだが、一人強者が隠れているだけで全ての計画は破綻するのだからな。それが不明では大きな動きはできない」


(今のうちにどうするか考えねば・・・・・・ヴァーラが頑張ればザメシハ敗戦だけは避けられる。スンディをどうするかが重要だぞ、時間が必要だな)


『申し訳ございません。潜みながら大きな動きは困難で、確実な情報は難しく・・・・・・』

「それはそれで良い。お前は少しでも情報を集めるのだ。静かにな」

『了解しました』

「この先も全て考えてある。余計なことはするなよ」

『はい』


 ソワラとの通信が終わった。


「・・・・・・詐欺師の家にいくぞ」


 ルキウスは街へと歩き出した。


「カラファンですか、用があるので? 先日行ったばかりですから問題ないかと」

「急ぎではないが、今が良い機会だろう」


 ヴァーラが意味を取れずに困った顔だ。


「お前が一人になるのは不安があるからな、その対策だ」


 ルキウスが、お前がポンコツだから、との言葉を飲み込んで言った。


「私であれば一人で問題ありません。完全に任務を遂行いたします」


(戦力的にはそうだがな、こいつも行動が極端だから放置できない)

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