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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-7 東の国々 魔道の残骸
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魔道2

 ターラレンとソワラは、一階直径百メートルある筒状の巨大な塔に相応しい大きな扉を抜け、外に出る。

 太陽の高さからすれば、午後三時頃だ。


 青い塔を背にして、高い石壁に挟まれた道を進む。道は塔を出た所では幅百五十メートルあるが、進むにつれ細くなっていく。


 その道を、兵士に、高価なローブに身を包んだ魔術師、魔術に使うであろう荷を乗せた荷車が行き交っている。


 二人はそれらの人々の視線を浴びていた。格の高い装備、ソワラの美貌、わかる者にわかる濃密なオーラ、塔長と懇意にしている客などは気を引く要素だ。


 しかし、そんな周囲を気に掛けることなく、二人は堂々と歩き、道の先にある城門に達する。

 それは、一対の櫓と合体した高さ十五メートルの分厚い門で、上部には華美な彫刻と魔道人形が立ち並んでいる。

 この門を超えて、王城から街に出た。出た先もしばらく壁に挟まれた道路である。


 スンディ魔術王国の首都ワシャ・エズナは奇妙な形をしている。

 都市の中央に王城があり、それをさらに王城の三角の敷地とは南北が逆の三角形になるように配置された外城壁がある。


 つまり、三角形の中に三角形が四つあるような形の城塞都市。

 その壁の外には貧相なレンガの家屋が立ち並び、そのさらに外は農地で、現在はコムギ、ライムギが主に植わっている。空いている畑はキビ、モロコシの畑だ。


 壁の中に住めるのは魔法使いとその家族、魔法関係の商売などをしている人間だけだ。

 見てすぐにわかる完全な階層社会である。


 門を出た二人は、念話で話しながら、内部城壁と外部城壁の間を抜け、街へ入る。


「今日は機嫌が良いようではないか」


 ターラレンはソワラから明るい気配を感じ取った。


「昨日はルキウス様のお役に立てましたから」

「そっちの情報も欲しい。強者と地下より湧き出した魔物、重要な情報であろう」

「詳細はあちらの王都の調査をしてからでしょう。それにルキウス様はお忙しいですから、多少掛かるのでは?」

「重大事案であろう。こちらにいても分析はできる。資料を寄こすようにしてくれ」

「余計なことをせず、調査に集中すればいいではないですか、それに、ふふふ」


 ソワラが含み笑いを始め、ターラレンはあきれてそれを見た。


「なんじゃ、またか」


 ソワラはついに耐えきれなくなり軽く噴き出し、口元を抑えた。


「ふふふ、なんですか、その髭、見るたびに笑い堪えるのが大変です」

「何を言うか、似合っておるだろう、今日は一層整えておいたのだぞ」


 ターラレンが髭をしごいた。

 着け髭である。髭の生えていない老人はかなり珍しい。人間なら生えているべきだと考え製作した物だ。


「服がそのままですから、違和感が強いですよ」

「この国の魔術師は見た目が重要だ、そして、戦闘能力の都合も兼ねておる。お前も同じではないか」


 ターラレンは自分のことを棚にあげおってと、気を悪くした。


「ルキウス様のご指示ですから」

「そうとも、実際に国も見ずに国柄を当てられた、見事なものよ」

「私達のことを心配してくださっているのです。いつ強敵に遭遇するやもと」

「まあ、それもあろう、前衛もおらぬし」


 二人は商家が多い通りに入った。

 王城近くの街の景色は、青や赤など様々な強い色で飾られ、これ見よがしに魔法円が描かれた石造りの建物が並んでいる。


 それらの効果は、簡単な魔除けや材質強化で、さほど強力ではないが、ターラレンは参考資料として全て記憶して、後で書きだしていた。


「なんにせよ、運が良かった。望みの上位者と知己になれたのだから」


 ターラレンが満足そうに髭をしごいた。最近、癖になっている。

 これも笑われる原因だった。


「運? 事前に調べての接触でしょう」

「偶然を装って、運命を演出せよ。これも主の進言に従ったまでよ。事に退屈に生きておる人間はよく引っかかるそうだ。待ち望んだ偶然の刺激は、運命の呪縛だそうだ」

「まあ、かわいそうなお友達、悪い爺に騙されているとも知らずに」


 ソワラが悪い笑みを浮かべる。


「何も騙しておらぬ。魔術師として親交を深めておるよ。色々と教えてもらった分、こちらも教えておるぞ」

「あれでお返しですか」


 初歩的な話ばかりではないか、と言いたいのだろう。


「補い合っておるのだ」


 お互いに出している知識は、大した物ではない。だが、相手にとっては価値がある。理想的な交換だ。


「一任されているとはいえ、このまま親交を深めるだけですか」


 ソワラがもっと得られるものはないのかという口ぶりで言った。


「塔を離れると言っておっただろう、国に特別な忠誠は無さそうだ。取り込める可能性はある」


 ターラレンは、急がず、時間を掛けてやればいいと考える。


「あんなものは本気ではないでしょう」

「・・・・・・今はそうやもな。だが、年もあるし引退すれば、いけると思うが」

「他に候補は?」

「あれ以上の人材は望めぬだろう。そして森に興味を持っておる」

「それは大きなプラス」

「いかにも、そう嫌悪もないようじゃ、他の魔術師は恐怖しておるが」

「それは愚か」


 ソワラが冷たい調子で言った。それにターラレンは何も言わない。言うまでもなく、同意しているからだ。


「しかし、中々引っかからないものです。少し色気をだしてくれれば、引き込みようもあるものを」

「あの御仁は真面目なお方よ、そこも良い」

「つまらない」

「面白くなられてもな」


 ターラレンからすれば、充分に合格だ。単純な強さで計ってはいない。重要なのは、研究者としての姿勢。そこはソワラとの違いだった。


「そういえば、最後の顔、見ましたね? あれはやましいことがある顔ですよ」

「まあ、隠し事はあろう、立場が立場であるし、これまで多少オーラが揺らぐことはあった。深追いしてはならぬぞ」

「わかっていますよ。しかし、あれは少々引っかかる」

「女の勘か」

「術師としての勘ですよ」

「当てになるものかの。お、あれだな、あの店を見ていくぞ」


 ターラレンは視線で魔術書の店を示した。そんな彼はソワラに多少不満気に見られたが、彼女も仕事を進めるのに同意する。


「ええ、新しく口利きさせた店ですね」


 二人はその店の他にもいくつかの店を見て回った。そして気になる品を購入した。


 それから二人はスンディの魔法技術に関して論評しながら歩く。


「やはり、ここの魔法は細分化されている」


 ターラレンがここに滞在して見る魔法の多くは、彼が知る魔法の亜種だ。


「ええ」

「元の魔法の効果を限定することで、修得を容易にしたり、効果を引き上げたり、消費を抑えたりしておる。まあ、当然の帰結か、都市で魔術を仕事に使うならそうなる」

「赤色に囲まれていると身体能力が上昇・・・・・・これはどこで使うのでしょう? 仕事ではないですね」


 ソワラが巻物の一枚を引っ張り出して言った。


「《色魔術師/カラーリスト》ぐらいだろう、それを使うのは」

「にしても使いにくそうですが・・・・・・しかし、これらの魔法は我々でも完全に発動可能と」


 ソワラが視線をよこした。


「大体は、な」


 ターラレンが意味ありげに言った。


「つまり?」

「これは我らの修得可能リストに含まれていると考えるべきだ」

「これらがねえ」


 知らないだけでなく、なんとなく、自らの考える魔術師から外れたような魔法を扱えるのは、違和感を感じることだった。


「そこは重要、と思うが、結論への取っ掛かりが見つけられぬな」


 ターラレンが興奮を抑えて言った。

 彼は謎が多いと幸せを感じる。無限に考えることがあるのは最高だ。


 術が修得可能かどうかは神が定めた重要な法則に関わること。これを調べれば、なんらかの真理に至れる可能性があるのだ。いくらでも考えられる。

 ただし、ソワラはそんなことに興味は無かった。 


「奇妙な効果が多いですが、これは売れているのですか?」


 知らない魔術に関わるものは片っ端から購入しているが、役に立ちそうな術は少ない。


「焼きたての純ライムギパンを一欠片の青金石ラズライトに変える魔法は人気だ。青の顔料は高いらしい」


 ターラレンは実利ばかり考えおって、と思いながらも仕事なので説明する。


「ここは食料が足りていないという話でしたが、輸入しているのですよね?」

「足りないとも、しかし顔料の方がいくらか儲かる」


 ソワラが黙っているので、彼は続けた。


「ここの連中は魔術しか見ておらん。魔術師としては正しい、と言いたいところだが、その研究も権力闘争、限られた席を奪い合うための方便でしかないときている。これはサスアウ殿の他に、下位の魔術師や、貧民からも漏れる声。とりあえず、新術を開発すれば評価が上がる、ゆえに奇妙な新術が増える」


 ターラレンが棘のある声で語った。


「食料が足りていないのに? 最重要問題でしょう」

「はて何をもって足りていないと定義するかによるが。人口が維持できればよいのであれば、多少の餓死者が出ても問題あるまいし、気候は安定し調和は成り立っておる。多産多死じゃ、これに関しては多産少死のザメシハの方が歪よの。どこかで傾くぞ」

「たしかに」

「ルキウス様が言っておられたことよ」

「流石はルキウス様」


 ソワラが高い声で一層感心した。同様にターラレンも主の知見に感心している。

 どうも、主は長期的な大きな物事にこそ関心があるらしい。流石は神の視点、人の世の一瞬などどうでもよいに違いない。

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