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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-6 東の国々 眠りの国
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地図

 ディープダークがオーブを持っていた男の体を探り始めた。

 それを見たルキウスは、オーブ以外にもなにか危険物があったか、と思いながら部屋に入る。


 部屋中に転がっている敵だったものは、もやのようなオーラが残留しているだけだ。特殊な手段が無ければ滅びているはずだが、場所が極めて特殊なので用心して歩く。

 チェリテーラも警戒しながら恐る恐る付いてくる。


「全部死んでるんでしょうね」

「やったのは私ではない。よって保証せん」


(金属、電気、火薬なら、極小の動きで感覚に引っ掛かるが、悪や負は得意じゃない)


「悪いけど、かなりあてにしてるのよ」

「手の届く範囲なら対応する」


(ここであれと二人きりになりたくないし・・・・・・誰であれ、同行人を死なせるへまは二度とやらん)


「恐ろしい、ついでにあんたらも恐ろしいけど」


 チェリテーラが周囲――床も壁も天井も全力で警戒している。


「いまさら怖いのか?」

「だってさっきの《呪詛君主/カースドロード》じゃない。死後の呪いを受けると、体がゆっくり曲がり続けて最後に頭が潰れるのよ、恐ろしい。それに部屋に入ってから寒気がするわ」

「まあ、こうも負に満ちていてはな。しかし、あれは跡形も無いだろう。塵になった」


 ルキウスはアトラスであれが実装された時、街中でやたら手足がひん曲がって移動困難なプレイヤーが発生したのを思い出した。

 現実で起きればさぞ悲惨だろう。


「ああ、すぐに潰した問題は無いよ」


 ディープダークが作業を中断せずに言った。


「あの呪い、こっちは壁になるのに苦労したぞ」


《僧侶/クレリック》系なら普通に呪い除けを張れるが、ルキウスはもっぱら自分しか守れない。

 入口を神気で直接封鎖したために消耗が大きかった。神気を使えば、魔法やスキルを一段超越した現象を起こせるが、量は無い。勝負所だけ使うべきものだ。


「神の加護があれば問題無いだろうと思ったさ」

「あっさり言うけど、戦闘力とは別の意味で大災厄なんだけど。どっかの王墓から出る類でしょ」

「どこかの墓でも掘ったか、シンプルに王族殺して取得したのか」

「もしくはどこかの博物館の遺跡でも掘り当てたのか・・・・・・神代にどこかの王宮であれが湧いて、大惨事になった伝説があった気がする。陰謀で殺された王だとか、秘されし血筋とか、高貴な呪いは噂になりやすいね」

「普通に答えないでよ。なんですぐに回答できるのよ」

「普通に考えれば、そうなるのが道理だ」


 言ったルキウスの目線の先には敵の装備が落ちている。

 人間の頭蓋骨が全面に固定してある盾、人の眼球が樹脂のようなもので固められたブローチ、人の皮が張られた剣の柄や鎧、歯をあしらった兜、手のミイラのネックレス。

 人外が使うに相応しい。


(奴らが世界を支配したなら、ファッション誌にはあんなのが並ぶのかねえ、今年の流行は仙骨の呪符アミュレットみたいな)


「よかったな、お姉さんの取り分だ」

「後で持って帰るわ、一応」


 チェリテーラが顎を引いてそれらを眺めた。


「価値はあると思うぞ」

「絶対呪いがあるわよ、忠誠とか信仰の強制だと困る。職業クラスの強制ぐらいは珍しくないし。鑑定してからじゃないと使えない。そういえば、呪いの効果で【永久貧人】に改名した奴がいたわ。普段は別の名前を使ってるけど」

「それは製作者のちょっとした悪戯だろう」

「しかしよく作るわ、こんなの」


「人が獣を加工するように、彼らも獲物をそうする。強い、美しい、奇形、著名人、獲物に付加価値がある場合は特に。まあ、人間でも人体を加工した装身具を使うけど。親族の棺をずっと背負ってる祖霊術者とかは、この辺りにいないの?」

「知ってはいるけど、えげつない物がこうも並ぶとね」

「遺跡から出たミイラは色々と貴重らしいな。薬品に、魔道触媒にと」

「価値といえば、これじゃないの」


 チェリテーラは転がっていた黒いオーブに手を伸ばす。それは未だに光沢が揺らめいている。


「それに触れない方がいい。多分、誰かが所持していると起動する。負の力を出すなら人間には有害だ」


 ディープダークが男のローブをまくり、手で探るのを止めてから、制止した。


「壊すべきだろう。壊せるか?」


 ルキウスがオーブにこびり付く粘着質なオーラを見て言う。


「神官とかの仕事だと思うけど。強引に分解できるかな。おかしいな、どれだ」


 ディープダークは死体をひっくり返した。


「さっきから、なにを探しているんだ?」

「んー、なにというか・・・・・・これか。あ、これは!」


 ディープダークがローブの中、腰の後ろ側のカバンから、高さ約十センチの黒い四角柱を取り出した。


「それは確か財宝の鍵」


 ルキウスは報告にあった形状、と思って言葉が漏れた。


「財宝の鍵?・・・・・・よく知っているね、これはかつて組織で使われていた財宝を隠すための鍵さ」

「ああ、調査の過程で偶然な」


 ルキウスは思わず言葉が口を突いて出て、まずかったかと思ったが、相手が知っているなら言っていい。言わなければ、相手も知らない振りをしたかもしれない。


「ちなみに僕はヒーローだから知っている」

「まあ!財宝、やっと夢のある話がやってきたわ、危機も去ったし」

「この規模の施設であれだけはないよ。それに鍵は他に四つあるはずだ、これだけじゃなんにもならない。でも近くにあれば見つける自信はある」


 ルキウスは焦っていた。このまま行けば、確実にディープダークとカサンドラが鉢合わせる。


 どうしたものかと考えながら回復のため、創造召喚したチェリモヤの果実の皮を剥いて、丸々口に突っ込んだが噛めなかった。


「なるほど、このカエルには歯が無かった」


「腹が減ったな、ちょっとハエでも探してくる。あと爆発物の処理」


 ルキウスは不発パイナップル数個を宙に浮かし、手元に引き寄せると、連れ立つように部屋を出ていく。


「・・・・・・あれって頭まで獣になったりしないわよね」

「冗談だと思うよ、確実じゃないけど」


 ディープダークは黒の鍵を顔の近くまで引き寄せ、回転させて見ている。


 ルキウスは部屋を出るなり、カサンドラに神託で連絡を試みた。地下施設は魔法を遮断するようだが、次元を超越する神託は正常に機能した。

 そのまま歩いて部屋から離れる。

 カサンドラによると、鍵は揃いつつあるとのこと。


「とにかくそちらの手元に残らないようにしろ、思念も残すな」

『少しお待ちを。メルメッチに取りに行かせましたので』


 それからすぐに届いたと連絡があった。


『確実に送るのは難しいかもしれませぬが』

「神気で空間を曲げて位置を示す。《物体送達/アスポートオブジェクト》で送れ、失敗したらしたで構わん」


 しくじっても問題は無い。鍵が破壊されるか、どこかに飛んでいって回収不可能になるだけだ。それならそれでよかった。


『送ります』

「ああ」


 ルキウスはさっきの鍵を両手で受け取る姿勢で、手の中に物を受け取るイメージ、神気を集中する。手の中に一瞬で鍵が出現、それをつかむ。


「無事に到着した」

『それはようございました』

「お前はサンティーを連れて王都レンダルより離れ、秘密裏に待機、危険があれば離脱せよ」

『わかりました』


 ルキウスが到着した鍵を見ると、欠けている部分は一つ分だけだった。


「空きはあと一個、あれで完成だな」


 ルキウスが部屋に戻ると、入ってすぐにディープダークが出迎えた。チェリテーラはまともな装備品を物色している。


「オーブは?」


 転がっていたオーブは無くなっている。


「跡形もなく」


 ディープダークが肩をすくめた。


「そうか、残りの鍵があったぞ。偶然な」

「・・・・・・そう。そんなこともあるかもしれないね」


 ディープダークが明るく言った。


「おかしいでしょ」


 チェリテーラが装備を漁るのを止めて、がばっと振り向いた。


「爆発物を処理しようと小部屋に入ったら偶然な」

「それは運が良かったね、キメラ」

「だから、おかしいでしょ」

「なにもおかしくはない。日頃の行いがよいと、幸運なことが起きるものだ。ほら」


 ルキウスが鍵をディープダークに渡すと、すぐに組み上げた。

 そして、組み上がった星型の柱を床に立て、その上部に触れた。

 すると、柱の頂上の中心から真っすぐ上に光の線が伸び、光は瞬時に複雑な枝分かれをして、ワイヤーフレームの立体地図を作り上げた。


 それはこの地下施設の立体地図に違いなかった。

 三人は三メートルぐらいの地図を覗き込んだ。


「地図だね」

「先に欲しかったわ、それ」

「ここの地図なら価値が高い」

「あの点が宝だ」


 ディープダークが柱の横を触り、なにやら操作すると地図は部屋一杯まで広がり見やすくなった。

 地図は地下深くに点が付いている。鍵が示す場所はそこだ。 


「取りに行くか、危険物なら破壊しなければならない。この調子じゃ碌な物ではないだろう」


 ルキウスが部屋中の装備品を見て言った。


「三十分もかからない。早く行こうよ」


 ディープダークが乗ってきて、ルキウスは安心する。これでルキウス達を害する可能性のある物を渡さないという当初の目的は達成できる。



 彼らは地図に従い進んだ。防衛線を超えたのか、あまり徘徊する不死者アンデッドに遭遇せずに無駄な時間はかからなかった。


 そして地図でもわかる非常に大きなトンネル状の空間に出た。高さは約八十メートル。

 地図が正しければ、長さは数キロある。

 彼らその上部にいて、真っすぐな階段が足元から長く下っている。

 進行方向は工事途中なのか、時間経過で壊れたのか、少し土が露出した壁。逆側にトンネルが続いている。

 つまり階段を下まで降りれば、そこが最下層の端の一つだ。

 これまでと同じように下には、横に入る通路が複数ある。


「かなり広いな、どんな車両を走らせる予定だったのか」

「ここがグラキッティーの線路部分。車両は当然無いし・・・・・・線路も多分無いね」

「なんで普通に話してるのよ、あれが見えてるでしょ」


 チェリテーラがかなり抑えた小声で言う。


屍鬼ロォトゥンだな、随分とこさえたものだ。遠くには一部、骸骨スケルトンも見えるな」


 ルキウスが下の進行方向逆側を覗き込んで言った。

 チェリテーラが怯える原因、屍鬼ロォトゥン

 骨格はほぼ人と同じ、異常に瞳孔の開いた赤い目、口の歯は全てが鋭く尖っている。全身が茶色で干からびていてミイラに近い。


 吸血鬼ヴァンパイアが作る最弱の眷属。

 それが線路があるべき空間を押し込められ、綺麗に整列している。ほぼ隙間が無く、茶色の絨毯のようになっていた。

 列は現在地から見えない距離まで続いている。万単位で存在してもおかしくない。


「取りあえず写真撮ろう」


 ディープダークがあの自慢のカメラを取り出した。


「ちょっと、大丈夫なの!?」


 チェリテーラが焦った。


「休眠状態だろう、それに何万いても相手にならんよ」

「確かに一体一体は弱いけど」

「まあ、あれはどうでもいいんだ。ちょっとばかり珍しい光景で、作った奴の根気を見習いたいがそれだけだ」

「記事にする価値があるね、下に降りて正面から撮りたいけど」


 ディープダークが惜しそうに言った。


「じゃあ、降りていって戦うの?」

「いや、降りはしないな。なあダーク」

「そうだね、降りるべきじゃない」

「じゃあ、ここから始末するの?」

「それはそれでいいがな」


 ルキウスは気の無い返事をした。


「何よ、その言い方」


 チェリテーラは二人の関心が見下ろしている軍隊みたいな隊列に興味が無いことに気が付いたようだ。


「気付いているな、ダーク」

「もちろんさ、大きいのが控えているのは察していたとも」


 チェリテーラは二人の間から、二人が揃って見ている通路らしい横穴を、二人にならって見た。


 そこから人影がゆっくりと現れた。

 ほどほどの大きさの黒い杖は、先端に曲がったヒツジの角が生えた悪魔的な頭蓋骨があり、全身を包む紫のガウンは、魔術的な幾何学紋様の刺繍がある。

 ただし露出した手と顔には骨しかない。頭蓋骨には長い頭髪が付いたハンチング帽を被っている。


「《不滅賢者/リッチ》!!」


 チェリテーラが目を見開き言った。


「なにか騒がしいと思えばシュットーゼめ、滅びたか。そういえば、久しく連絡が無かったわ。くくく、これで自由の身か。まったく、我を連れて行かぬからだ。目立つ仕事ならしてやると言ったものを」


 不滅賢者リッチは一人の世界に没頭しているらしく、三人の方を見ないが、当然認識しているだろう。


「シュットーゼとやらが製作したとみるべきか?」

「そうだね。少なくともさっきの連中に御せる領域ではないね」

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