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テスト2

 ルキウスは三系統の中の信仰術系の魔法使い。自然関係の魔法、スキルを主に修める。

 信仰する側を通り越し信仰される側になった。アトラスにおいて特殊な事例ではないが、転職条件はシビアだ。


 そして地形を操れるのは、自然系神格の権能で大地に干渉できるからだ。

 その間欠泉は残っている。


 ルキウスは限界まで間欠泉の勢いを弱めたが、熱湯がチョロチョロ湧き出す穴が残り、濁った小さな湯溜りができている。実際に地形が変化した可能性がある。


「火山とかは迂闊に出せんな、つまらん」


 黙々と立ち昇る噴煙、流れる赤く光る溶岩、飛びだす熱石、庭先噴火に怯えながら生活する羽目になるだろう。


「でも、気にいらない奴がいたら溶岩に落として遊ぼう」


 熱湯の噴出が持続するなら、この星は地熱を持ち水脈もある。魔法は既に切れているはず、泥水を吐き出す穴に魔力は見えない。


 魔物はうろついているが真っ当な大地だ。

 時間がむやみに加減速しないし、冷たい火や空気より軽い石も無い。現実よりの法則が有効な土地だ。


 彼はアトラスの様々な非現実的環境を思い出し、空気に毒でも含まれていないかと不意に気にかかった。


 彼は完全毒耐性を持つ。これは耐性が二〇〇%以上の状態。耐性は一〇〇%あればダメージを無効にできるが、弱体化で半分まで落ちるので、二〇〇%で完全。


 さらに彼は毒が視覚的にわかるが、ほかは違う。気付かぬ間に毒ガスが流れこむというのもありえる。

 

 今後は周囲の環境に注意するべきだな、とルキウスは考える。


(これからは用心しないと。アトラスでは無用だった探知系、警報系の魔法もいりそう)


 ソワラも魔術の確認を始めた。ルキウスから離れた場所で彼女も木や虫に魔法を使っている。

 大魔術は絶対使わないように重ね重ね言い含めてある。大魔術こそテストが必要なのではと主張されたが、生命の木が消し飛ぶと困るだとか、お前の身が心配だとか、適当な言葉を並べて強引に押しきった。


〔終末の日/ドゥームズデイ〕でも使われた日には、本当に色々終わりそうだ。


 ルキウスはインベントリから槍を取り出し片手に持った。

 穂先には流れるような字体の文字が彫られ、穂先の根元に紐が巻き付き、その紐にも読めない文字が書かれた札が複数ジャラジャラと付いている。


 古代サリティセの魔印槍、装備するには槍専門職業レベル百に、その他の条件を満たす必要がある。ルキウスは条件を満たしていない。


 持った槍を傾け、指先でクルクルと回しながらルキウスは思う。


 槍は装備に設定しないと持てない。誰も装備していないアイテムに触れると、拾った扱いでインベントリに自動で入る設定にしてあった。これは装備できているのか、否か。


 使い慣れない槍を両手でしっかりと持ち、中段で構える。

 的に定めた樹木へドンと大きく踏み込む。足は土にめり込み、地を揺らす。荒い突きは狙った点をとらえた。槍を握る手に衝撃。


「フンッ! んんっ?」


 体が後方に滑って、木から少し離れてしまった。突き抜けず、反動で後退した。

 足元では、踏み込んだ位置から現在の足の位置までえぐれ、溝ができている。

 力が強くなっても靴底の摩擦は増えない。魔法やスキルで体を強引に安定させられるが、筋力に対して自重が軽い。


(力は外側からだな)


 彼が視線を木に向けると、槍の穂先は全部分が木に刺さっている。


「この程度か」


 ルキウスは槍をインベントリにしまう。これの扱いは既に慣れた。

 大きく開こうと思考すれば、大部屋ほどに開く。逆に指一本分だけでも開く。


 身軽になったルキウスは、先ほどの木を全力で蹴った。太い枝を折るぐらいの感触で、足は振り抜かれ、レジェンドボクトーの時と同じように木は打ち倒された。


 周囲に木片が散っている。


「槍のダメージはあるが、素手のほうが強い。槍の場合、武器の攻撃力も腕力も結果に反映していない? ならば槍のダメージは……素材の強度分か、槍に付加されている魔法の分のダメージ? 物理法則がわからん。アトラスと違う、やっかいだ」


 ルキウスはレジェンドボクトーの刃の部分に手を添える。刃の部分を恐る恐る握り、力を入れていく。何も起こらないことを確認して次は全力で握る。


「フンッ、うぬぬぬ。手は切れない、壊れない。分類は長剣ロングソードだが、〈木製武器〉の性質か、わからんな」


 次にルキウスは両手でレジェンドボクトー中ごろの左右を持ち、へし折ろうと手に力を入れる。硬い手応えを感じ、息を止め全身に力が入り腕がプルプルと震える。かすかに木がきしむ音がするが、折れそうにはない。力の限界だ、と彼は腕に力を入れるのを止めた。呼吸が乱れ強張った体を休める。


「ふう。とりあえず、そこらの木と別次元に硬いな。俺のスキルで強化されているせいかな」


 ルキウスは軽く肩を回すと、また両手でレジェンドボクトーを持つ。


「全力ならどうか。〔神話級大猩々の相/アスペクト・ミソロジーゴリラ〕、〔自然の力/ネイチャーパワー〕、〔緑の祝福/ヴァーダントブレス〕、〔力強い腕/ストロングアーム〕。どらぁあ」


 ルキウスの腕が強化魔法によって変形、十倍の太さに盛り上がる。意識的に腕にだけ巨大化させた姿は完全に異様だ。


 腕に込める力を強めていくと、筋肉の盛り上がりが最大に達する前にバキッと折れた。

 二つになった木刀は、尖った断面がむき出しになり、破片が地面に落ちた。


「よし。次は〔緑の復元/ヴァーダントレストレーション〕」


 魔法の発動と同時に、木刀を構成していたすべてのが柔らかな光の膜に包まれる。

 それらは浮き上がると空中で集合して、パズルを組んでいくように部位が組み合わさり、最後に元の黒い木刀の形を成した。


 アトラスの装備品は使用していると耐久度が減少し、ゼロになると壊れる。基本的に壊れると装備品とはお別れだ。ただし、課金アイテムを使用したり、特定条件下の魔法などで耐久度ゼロからでも修理できる。


「復元が有効で助かる。回復魔法も有効な可能性が高まった」


 予想通りの結果に刺激はない。それでも不安定な世界に確かな足場を得た。


「次はと」


 ルキウスは生命の木の方へと向き直り、垂直に跳躍する。十メートルは跳んだ。跳躍のテストだ。


「腕が重いせいだな。明らかに低い」


 跳躍したルキウスの正面には、生命の木の窓があった。窓は直径二十センチぐらいの円形。その窓が大量に生命の木の外側にある。それを見て階層から高さを認識しているが、今のはエントランスホールの天井にも達していない


 ルキウスは魔法を解除して腕を元に戻すと、いくらか余力を残して跳躍した。

 多くの窓が下へ方向へと流される、七十から八十メートルぐらいか、本気なら倍ぐらいはいけそうだ。


 そう考えつつ、綺麗な身のこなしで着地する。着地後には足跡すら無い。舞ったほこりが気まぐれに床に座った程度。魔法は使っていない、スキルのおかげだろう。


「軽業系を使った戦闘には訓練が必要だな。アトラスより自由に飛び回れそうだが、難易度も高くなった。何より自分の基本能力がわからん」


 測定しやすい身体能力は大まかにわかった。課題は多いとはいえ、だ。


「次はあれをやるか、やるしかないからな……重要だしな」


 ルキウスは億劫な気分でさっきの槍を取り出すと、切っ先を手の平に押し付ける。


「刺さらねえ。ステータス的には俺の皮膚もかなり硬いか……鋼鉄ぐらいの強度はあると考えるべきか? もっとかな?」


 いったん、穂先から手をのけてぼやく。


 前回よりも強く押し付ける。チクッとした。すぐに槍をのけて手の平を確認する。


「あっれー、刺さったと思ったが」


 手の平を近くでよくよく見ても、傷が無い。様々な角度から見ても無い。触ってみてもやはり無い。


 覚悟を決めて、一気にグッと力を入れた直後、鋭い痛みを感じる。槍の先端が一センチは刺さった。傷から血が出ている。


「かゆい。まずは……魔法薬ポーションからにするかな」

 

 インベントリを小さく開け、赤い液体の入った透明な小瓶を出す。下方がやや太くなった手に平に収まる小瓶、ライフポーションだ。


 アトラスではライフポーションは即座に生命力を回復させ、マジックポーションはゆっくりと魔力を回復させる。双方とも大量に使うと中毒症状に陥り、能力全般が低下する。


 設定ではライフポーションは飲んでも傷口につけても効果があったはずだ。

 まずは手にかけてみようと、魔法薬ポーションの封になっているコルクに触れる。

 不意に気付く。既に痛みはなかった。


 不思議に思い、固まった血を爪で削る。ポリポリと削る。赤い血だ。血を取り去った後には傷が無い。


「これは自動回復か! そうか、あったな。今は邪魔だ」


 ルキウスの所有スキルの〈森の支配者〉、〈緑の古き神〉などは複合的な効果があり、中には森林・密林地形での生命力自動回復がある。

 彼はこのスキルをオフにしようと試みる。唸ったり、念じたり、力を入れたり抜いたり。解除できた感触はない。


 隠密を使う、隠密状態になる。隠密を切る、標準状態に戻る。隠密スキルでの切り替えはできている。変化は感覚でわかる。

 これは技能より体質か。神であることは一瞬たりとも放棄できないのか。


 正確な回復能力計測には誰かの協力が必要だ。


 ルキウスがソワラのほうを見ると、木々が溶け、焦げ、凍ったりしている。一メートルぐらいに巨大化したアリが切り刻まれ、穴あきになってひっくり返ってもいる。いかにも魔法の織りなす空想的な景色のひとかけらだ。


 ソワラの機嫌を損ねれば、魔術の一発ぐらい飛んできそうだ。


「実験継続は困難、道端で死にかけの人でも発見した時に試そう」


 残念ながら実験を断念したが、ほかにもやるべきことは尽きない。

 それを邪魔する不気味な楽しさがある。心の内から湧いて邪魔をしている。精神の内側で繋がるタドバンから来ている。

 心がふわっとして、思考が緩む。情緒不安定な感じで気分が悪い。


「思考接続実験かよ……こんなときじゃなければな」


 人が悩んでいる時に楽しそうにしている奴を見ると腹が立つ。

 問題を根絶すべくタドバンを召喚する。

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