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森の神による非人道的無制限緑化計画  作者: 赤森蛍石
1-6 東の国々 眠りの国
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捜査

 サンティーが夢の中で花子に咀嚼されている頃、吸血鬼ヴァンパイア二人の首は広場に晒された。

 混乱を避けるために強盗殺人犯とされ、逃げた一味の情報に賞金がかかった。


 吸血鬼ヴァンパイアは追跡を困難にする痕跡消しの粉を持っていた。足跡、匂い、思念等を自動で消し去る粉、これのおかげで一切の追跡はできなかった。

 王都内で販売された品ではなく、外部から持ち込まれたか、不法に販売された品、これは王都内に数十人規模以上の組織の存在を推測させた。


 一度落ち着きを見せた西部の動乱は、王都圏で再発の気配となり、ザメシハ嚆矢王国は対処に追われていた。


 王都の兵の動きは慌ただしい。

 ただしその兵も吸血鬼ヴァンパイアの情報を持つのは少数だ。魅了を受ければ捜査情報は簡単に漏れるし、魔法を使うまでもなく、口の軽い兵は勝手にしゃべる。

 正面切っての戦いでなければ数の差は優位とはいえず、かといって、都市内で組織戦を行えば被害は甚大だ。


 ザメシハからすれば勝手に外国にでも行って欲しいが、そうもいかない。ザメシハが吸血鬼ヴァンパイア部隊を攻撃のために送り込んだと考えられかねない。


 大戦前に存在したカルクレイン王国の終末を考えれば、それは自明である。

 吸血鬼ヴァンパイアが与える損害より、その供給元と疑われる方が損害が大きい。つまり国の威信をかけ、叩いて見せねばならず、そのためには巣を見つけて強襲せねばならなかった。



 王国の動きに反応を見せたのは当然に吸血鬼ヴァンパイアだった。


 デゥラ・カンコーネは鋭い目つきで遠目に首を確認して、すぐに広場を後にした。

 普段から彼は自分の巣である花月楼に人を遣るだけで寄り付かず、様々な拠点をうろついていた。

 追われる訳でもないのに、自由に回遊する吸血鬼ヴァンパイアにはあまりない生活が、拠点に執着しない彼の無軌道で攻撃的な精神を養ったのかもしれないが、これでは流石に何らかの手を打つ必要がある。


 最大の問題は派遣していた監視役が消息不明である事だ。

 連絡を途中まで受けていたが、そもそも話していた相手が監視役だったのかも不明だ。


(不自然な点は無かったが・・・・・・とすると最初から演技か?しかし、こちらの拠点は襲撃されていない。魔道兵団の上が出張っているなら、監視されていても気が付かぬ可能性はある、にしても気配は全く無いが)


 吸血鬼ヴァンパイアと体制側が組むことはままある。体制が安定した生活を提供し、吸血鬼ヴァンパイアは特殊技能を提供する。


 二人の首は確認したが、残り三人は不明。本気で捜査しているなら、出し渋る理由は無い。

 最近の状況の変化の中で、三人が結託して裏切り、王国側に付いたと考えるのが妥当。


(偽首ぐらい用意しても良さそうだが、相手も急だったのか?本気で潜伏すれば潜みきる自信はあるが、しかし、逃げても隠れても大きく勢力は減る。それならまず攻めるか。逃げるのはいつでもできる。兵を減らすなら戦しかあるまい)


 デゥラは貯めこんだ資産を散財する破滅的な楽しみを抱き、雑踏を歩いた。



 対するレイヴス・ウェオネッタは暗闇の中にあった、身がある場所も心持ちも。

 秘密の地下室は、周囲を暗くする暗黒のロウソクで照らされ、彼のベットの周囲は一段と暗くしてある。暗ければ暗いほど落ち着くからだ。


「早すぎるぞ、若造め。言ったそばから、工作の時間もないわ」


 レイヴスはデゥラに苛立ち、油に火が点いたように怒りが燃えあがった。が、すぐに鎮火した。


 緊急避難先はあるし、物資の備蓄もある。半年ぐらいは要塞と化した地下迷宮に籠っていられる。

 その間にデゥラ達が討たれれば、それで事件は解決とされる、との目論見だ。

 考えてみれば、奴の勢力が完全に消滅した方が望ましい。この先、数百年もあれと顔を合わせたくない。多少の危険は許容する。


 それで失敗したなら、王都を破壊、混乱させ離脱。新天地を探すしかない。資産はある。やりたくないがなんとかなるだろう。


 レイヴスは部下を呼びつけて命令する。


「一時的に連絡網を停止、十日間だ。最終命令は厳秘の四、監視は八だ。捜査があっても慌てるな。我らの隠形は完璧だ。余計な動きを一切させるな。それから念のため全ての避難門を開かせておけ、避難門だけだぞ、他は開けるな。命令を徹底させよ」



 騎士団長レメリ・レヌ・ホウエンは【生死の境】にいた。

 威勢の良い店主がまくしたてていて、それを部下と長々と聞く羽目になっていた。


「遅効性の毒は使わねえ、一気にカッと来るのがうちの売りだぜ。ねちねちした毒は邪道よ。研ぎ澄まされた毒は名剣の切れ味だぜ、ザクッと死ぬ、ザクッとだ」

「料理屋の店主から出る台詞じゃないだろう」


 一段落した店主に、レメリがやっと口をはさんだ。


「だからって。おれっちが吸血鬼ヴァンパイアに見えるってのか!」

吸血鬼ヴァンパイアなどとは一つも言いやしないがね」

吸血鬼ヴァンパイアだろう、ありゃ。でなきゃ、あんたらが来るわけねえ。大体強盗ぐらいでこれは騒ぎ過ぎだろうに。俺が毒を受け付けないから疑って来たんだろう。わかってるって」


 その通りである。レメリは疑ってないので面倒な確認作業でしかなかったが、特に探す対象は無いなか、疑いの声があがったので無視もできない。

 新人が勝手に捜査してここで問題を起こされると不都合なので、彼が自ら来た。


「とにかく吸血鬼ヴァンパイアの語句はよしてくれ」

「住民全員にライフポーションを頭から振りかけて回ればいいだろうに」

「そんな目立つことができるのものか」

「ふん!本気で探さないと見つかるものか、言っておくが客に迷惑かけてくれるなよ」

「重々承知だ」


 店主は話すべきことは話したという風に厨房に入って、何やら色々と生々しい物体を引っ張り出した。複雑な螺旋状の花、多くの棘を内包した肉、波打つ粘液。まっとうな食材は無かった。


「さあ、帰った帰った!俺は【絶対に頼むんじゃねえぞコース】を開発するのに忙しい、ウェスタ廃坑道の魔物が入荷すればやれそうなんだが・・・・・・耳石があればな。次は絶対殺してやるからな」

「死人は出さないでくれよ」

「解毒ポーションは用意してあるとも。値段は十倍だがな。いやあ、持ち込んだ魔道具、ポーションが効かなくて泣きつく客もいるからな」


 店主は馬鹿笑いして、その際、持っていた革袋を握り、緑色の粘液が床に飛んだ。粘液が落ちた石床はぼこっと小さく盛り上がって破裂した。

 レメリが慌てて後ろに下がった。


「この店、本当に料理屋ですか」


 レメリの部下が顔を引きつらせて言った。


「全く素人はこれだからよお、強力な毒で食った奴だけに作用させるのは難しいんだ。気化して毒食ってねえ他の客にいっちまったりする。そこを上手く料理して食った奴だけにがっちり決めるのが料理人の腕だ。それに美味くないとならねえ、言うまでもないがな。元から美味い毒を使うのは技が無い、不味い毒を美味くしてこそってもんよ。まあ、毒を無毒化して、味が凝縮してとびきり良くなった奴も出してるがな。あれはインチキ、反則みたいなもんだ。あれを使ってると全部あれで済ませたくなる」


「そりゃ難儀だねえ」


 レメリが自分の女にやるような相槌を打った。


「一口食ってみるか?美味いぞ、死ぬがな」


 そう言った店主が妙な肉を手に持つと、レメリの部下がレメリの後ろに隠れた。


「遠慮しておく」

「でも意外とよお、筋力低下みたいな弱毒が防ぎにくかったりするんだよな」


 ぶつぶつ言う店主をおいて、レメリは店を出た。


「団長、あれ、良いんですか?」


 部下が信じられないといった顔で言った。


「あの店は貴族の常連が多いんだ。そもそもあんなの物に手を出すのは金持ちと決まっているだろう。庶民はわざわざ食わん」

「あれは異常極まるのでは?手の形をした料理などは襲い掛かってくるそうですが、問題無いと?」

「味は良いそうだぞ。さらに毒の販売免許も持ってる。つまりハンターもよく来る」

「味方が多いと」


「そうだ。まあ、本人は吸血鬼ヴァンパイアとは関係無い。客はどうかわからんし、怪しいが」

「ちょっとでも怪しい所は捜査するべきでは?」

「立場のある高貴な方々は怪物を恐れ、徹底的な殲滅をお望みだが、自分も捜査の対象になると捜査は必要無いとおっしゃられるわけだ。おかげで結局進展は無い。長期戦になるだろう」


 レメリは気楽そうに言った。


「夜勤が増えるのはつらいですが」

「気長に力を抜いてやれ」


 レメリは深刻な状況と理解しているが、だからといってあらゆる家屋に押し入って調査などできはしない。


「襲った奴らは、運搬用、拘束用の魔道具なんかは無かったそうですね」

「魅了して歩かせる予定だったんだろう。普通に歩いていたら、衛兵が見ていても異常は無い。夜に逢引する連中だっているんだ」

「・・・・・・人のことを言えた立場じゃないですよね。団長」

「まあ、そうだな。しかし俺なら壁外を狙うが。そういえば俺の女の一人がオブロック街辺りで行方不明者が出ていると言っていたか」

「確かに街娼なんか狙い目でしょうね。でも異常とは言えませんよ。あれはいつの間にかいなくなるようなものですし」

「そうだが・・・・・・今夜はあの辺りを流すか」

「あそこは団長が行くと仕事しないから、行くなって言われてましたよね」

「まあ、非常事態だ。文句は言われんさ」


 レメリは無駄に力の入った笑顔を部下に向けた。



 名も無き料理人である彼は、百七十年間作り続けた味を進化させる着想を得たのだ。実に百七十年ぶりのことであった。

 街はなにやら騒がしいが興味は無い。今日は店をやらずに研究に没頭する所存であった。


 それで彼は三つの鍋を使って長々とソースを煮詰めていた。


「臓物との相性は抜群だ。酸味の強いものが良さそうか。あの女、外国人に違いない。営業をやめて詳しく話を聞くべきだった」


 ザメシハの食文化に果物はほぼ無い。野にあるものを採って食べるか、田畑に適さぬ斜面に土留めを兼ねて果樹を植えるぐらいだ。

 つまり大きく流通していない。季節も考えればなおさら。しかも値が高い。

 しかし部屋にはジャム、砂糖漬け、ドライフルーツが並んでいた。

 なんせ二百年も働いているのだ。無駄使いなどないもので金はあった。


「商売にするなら地方だな、一年分作り置きしておけば使える。三周目は西からにするか、たいそう栄えているというし」


「今日の分です」


 玄関で響いた声は配達人だ。

 巨人豆ジャイアントビーンのさやが届けられた。当然中には実がある。

 ひとさやの大きさは一メートル弱でかなり乾燥したさやだ。


「ああ」


 彼は生返事で、配達人に金を支払った。

 彼は元に位置に戻り、また鍋の様子を見始めた。

 しかし彼の仕事は料理人ではない。


 巨人豆ジャイアントビーンのさやをゴミとして捨てるのが仕事だ。

 このごつごつとした武器になりそうな頑丈さのさやに、特殊な突起が紛れており、それが暗号となっている。捨てられたゴミは家畜の餌として回収され、家畜を飼う家庭に情報を伝達する。


 しかし彼は今日、所定の時刻にゴミを出さなかったし、さやも見なかった。それだけ集中していたし、店をやらなかったので手順がおかしくなったのだ。

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