表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その眼には嘘が見えている。  作者: たぬきのみみ
二人の少女と一人の少女
36/164

第四話 所謂、最悪の形

「……ん」


 どれくらいの時間が経っただろうか。 ぼーっとする頭と視界の中、点けっぱなしの電気が視界に入ってくる。 丁度昼飯時なのか、良い香りが鼻腔を突いた。


「ん」


 あれ、いや、おかしい。 それはおかしいぞ。 思い、俺は壁に掛けてある時計を見る。 時刻は12時25分、丁度昼飯時なのは良いとして、室内にはご飯作ってますよ的な匂いが広がっている。 だが、やはりそれはおかしい。


 だって、朱里は中学校があるし、母親も夜までは帰ってこない。 となれば、一体全体誰が昼飯を作っているのだという話になる。


「……っと。 あ、起きてるじゃん」


「え」


 部屋の扉が開かれる。 そして、その人物を見て俺の思考は固まった。 いや本当に、ぴたりと凍った。 目の前に居る人物が誰なのか一瞬理解できないほどに。


「なに鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるの。 折角こんな美少女がお見舞に来てあげてるのに」


 そいつは、ある意味では宿敵とも言える相手である。 俺のというより、冬木の宿敵。


 長峰愛莉が、そこには居た。




「抜け出した? それ、後で怒られるだろ……」


「だいじょーぶだいじょーぶ、可愛く謝れば大体許されるし」


 嘘偽りなく言っているのが心底恐ろしい。 ここまで外面アイドル内面ビッチはそうそう居ないだろう。 そして何をしに来たんだと言う俺に対し、お見舞に決まってると平気で返してきたこいつを信用していいのだろうか。


「はい、あーん」


 長峰は座る俺の真正面に座り、笑顔で作ったおかゆを差し出す。


「良いよ自分で食えるから。 つうかお前、不法侵入とか犯罪だからな、通報するぞ」


「私にそれだけ冷たく当たるのって成瀬くんだけだよねー。 それに不法侵入じゃありませーん」


 言いながら、先ほどまで嬉々として俺に向けていたスプーンを雑に茶碗に入れ、俺へと突き出す。 受け取った俺は恐る恐る、そのおかゆを口に入れる。 これには正直驚いたが、もちろん熱を出しているからかもしれないが……悔しいことに、美味かった。


「成瀬くんの妹には許可取ったしね。 んで、鍵渡して貰って入って来たから」


 ポケットに手を入れ、右手に持った鍵をチラつかせる。 その鍵は確かに朱理のもので、付けられたパンダのキーホルダーが印象的だ。 殺戮パンダシリーズと言われる手に血に染まった包丁を握ったパンダのキャラクターという、狂気に満ちたキャラクターである。


「……は? お前、朱理と知り合いなの?」


「正確に言えば妹がだけどね。 同じクラスなわけ、成瀬くんの妹と」


 ……そりゃまた随分性格が悪そうな妹だ。 この長峰愛莉の妹となれば、見た目こそ可愛いだろうがその性格はより磨きがかかっている可能性すらある。 一生会いたくない人物のワンツーを姉妹で独占する日も近い。


「まぁそれは良いとして……なんで来たんだよ。 笑いにでも来たのか」


「私って成瀬くんから見るとそういう人なわけ?」


「そりゃ水をぶっかけるくらいだしな」


「……だから、私のせいかなって思って看病しにきたの。 冬木さんは嫌いだし、その冬木さんと仲良くしてる成瀬くんも好きじゃない。 でも、昨日のことが原因で体調を崩したなら、それって私のせいでしょ? それで知らん顔は無責任だと思っただけ」


 ……嘘、ではない。 そして、それを聞きますます長峰愛莉という人物が分からなくなる。 いや、むしろ少し分かった……のか? ただただ性格の悪い奴かと思ったが、その反面責任感というのは持ち合わせているのかも。


「まーでもアレで体調崩す成瀬くんが一番ダメなんだけどねー」


 前言撤回、こいつは生粋の性悪女だ。 そして嘘ではないことから、こいつは責任を感じつつも俺が一番悪いと思っているようだ。 改めて考えてみても、ここまで自分に素直な奴は他にいない。


「それで具合はどうなの? もう平気なわけ?」


「ああ、なんか飯食ったら元気出てきたよ。 お前って料理できるんだな」


 と、言いながら一口頬張る。 やはりというかなんというか、丁度良い味加減で美味しい。 ネギが沢山入っており、それがまた絶妙な風味である。 母親は冷蔵庫に物を殆ど入れておかないということもあり、きっと長峰がわざわざ買って持ってきたのだろう。


「私って女子力高いからねー。 見た目も可愛い、料理もできる、裁縫も完璧、掃除もできるし家事全般もオッケー、勉強は……まぁできるかな。 女子力四天王とは私のことってくらいにはね」


「その女子力四天王って言葉から滲み出るアホっぽさ半端ねえな」


 少なくとも、それで頭が良いかどうかは脳内成瀬会議で議論の的になるであろう。 恐ろしいことに自分でそう思い込んでいるのか、嘘じゃないことが怖い。


 ……というかこいつ、本当に嘘を吐かないな。 何度か会話をした限り、遠目から話しているのを聞いた限り、長峰が嘘を吐いているところ自体を見たことがない。 ここまで自分に正直な奴というのは、初めてだ。


「てかそんなことより、最近成瀬くんと冬木さん、秋月さんと仲が良いでしょ?」


 それまでの会話の流れをざっくりと切り捨て、長峰は言う。 どうやら、本題はそれらしい。 わざわざ看病と称して家を訪れてくるから何かあるとは思ったが……この話がメインということか。 秋月純連とはあの一件から良く話すし、秋月がクラス委員室を訪れることも多くなっている。 その理由というのも「帰ったら仕事をさせられて面倒だから」というのが不純過ぎるが。


「あいつの悪口とかなら聞かないぞ」


「そういうのじゃないって。 私可愛い子は好きだし、カッコイイ子も好きだから秋月さんのこと嫌いじゃないし。 ただ私じゃ仲良くなれなかった秋月さんと仲良くなったなら、ずっと仲良く居てあげてねって話」


「……それ、お前が気にすることか? ていうか可愛い子とかカッコイイ子が好きなら冬木のことも好きになっとけよ」


「あはは! 真顔で言うこと? それ。 やーだよ、性格悪い子は嫌い。 特に裏切る子は大っ嫌い」


 お前が言うかと言いたい。 が、過去に何があったのかを知らない俺には、きっとそれを言う資格がない。 だから、俺は長峰の言葉を待つことにした。


「悔しいじゃん、私がいくら話しかけても興味なさそーにしてたのに、楽しそうに成瀬くんとか冬木さんと話してる秋月さん見てたら、ムカムカしてくるって。 だって超人気者の私が話しかけてあげてるのにだよ?」


 ……自分で言うところが心底怖い。 しかし事実は事実、長峰愛莉は我がクラスのアイドル的存在である。 学校という場所にはカースト制度が存在するが、その上位に居るのが長峰愛莉という奴だ。 周辺には常に人がいて、そのグループでは長峰の言葉は絶対のものとして存在している。 長峰が一言「喉乾いたなぁ」と言えば、周りに居る誰かが飲みかけではない飲み物を進呈するという光景すら見られるくらいには。


「秋月には人を見る目があったってことだな」


「ああそれ分かるかも。 私と関わって幸せになるって人いないだろうしねー」


 俺が皮肉交じりにそう言うと、予想外の言葉を長峰は口にした。 最早わざわざ考えるまでもないことだが、その言葉に嘘はない。


 ……というか、それを自分で言うわけか。 一体何を考えているんだ、こいつは。 冬木に是非ともこいつの思考を聞いてもらいたいもんだ。


「なんでだろうね?」


「お前の性格が悪いからだろ。 俺はお前のことが大っ嫌いだ」


 少なくとも、冬木の件に関しては。 面と向かって人のことを心の底から嫌いだと、そう言えるこいつの神経というものが分からない。 俺や冬木は、人が隠そうとしたものに気付いてしまう力を持っている。 逆に、長峰愛莉という人間はそれらを隠すことなくぶつけてくる、だからこそ「私と関わって」という言葉が出てきたのかもしれない。


「知ってるよ、好かれてるとは思ってないし」


「……まぁでも、看病しにきてくれたことには感謝してる。 おかゆ美味しかったよ、ありがとう」


 それはそれ、これはこれ。 長峰が俺を心配し、そしてわざわざ学校を抜け出してまで来てくれたという事実は変わらない。 それについては素直にそう思ったから、そう伝えた。 すると、長峰は。


「……」


 口をぽかんと開け、固まっている。 俺の言葉がどうやら意外だったらしいけど、その反応自体が遺憾である。 俺がお礼を言うのがそんなにおかしいか!?


「ま、まぁ言ったじゃん。 私、女子力には自信があるって。 これでもその辺にあるマズイ料理屋には負けないって感じ」


 顔を逸らし、長峰は言う。 多分だが、照れているのだと思う。 こいつもこういう反応はするんだなと思いつつ、俺は思わず笑う。


「……やっぱ私、成瀬くんのこと嫌いだなあ」


「はいはいそうかよ」


 そして、やっぱりそれは嘘じゃない。 俺にとっては長峰愛莉という少女は、少なくとも話しやすい部類に入るのかもしれない。 どんなことであれ、嘘を吐かずにありのままの本心を伝えてくるという奴は話していて気が楽だと、そう思ってしまう。 もちろん俺も嫌いではあるけどな。


 しかし、いつだって事の流れというのは思いも寄らぬ方向に転んで行くものである。 思い通りに行くことなんて、きっと数えるくらいしか存在せず、それ以外の殆どは思い通りになんていかないもんだ。


 ガチャリと、ドアを開ける音が聞こえる。 それに伴い、俺と長峰はほぼ同時にそちらへと顔を向けた。


「……どういう状況ですか」


 長峰愛莉と冬木空。 決して同じ部屋に入れるべきではない2人は、こうして最悪の形で同室することになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ