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第三十一話 蛇足な話

「冬木、今日は何日だっけ」


「5月13日ですが、それがどうかしましたか」


 言う冬木も、少々怒っている雰囲気が滲み出ている。 それもそうだ、今日は土曜日、本来であれば休みである日なのに、俺と冬木は何故かクラス委員室にいる。 それは何故かと問われれば、こう答える他ない。


「俺とお前、そろそろ北見にキレても良いと思うんだけど」


「言いたいことは分かりますが、北見先生も新人教師ですので……確かにどうかと思うときは、多々ありますが」


 ちなみに高校一年生を始めてまだ一ヶ月と少しである。 その時点で「どうかと思うときは多々ある」と感じている時点で既にアウトな気がしてならない。 冬木はその事実に気付いているのか、それとも既に洗脳されてしまっているのか……!


 本日この日、俺と冬木は「各委員会の報告書類をまとめ忘れちゃってて」という有り難い言葉のおかげで、土曜日に学校へ越させられるという横暴を取られている。 北見が忘れていたのは、一年三組の生徒たちが所属する委員会をまとめた書類提出で、誰々がどこどこに所属して、誰々はどこにも所属していません、的な書類だ。 どう考えてもこれは俺と冬木の仕事ではないが、金曜日のそれもクラス委員の仕事が終わったあと、下校しようと思ったそのときにそれを伝えられたのだから、最早どうしようもなかった。 クラス委員なんだから、という言葉をあいつは万能な言葉か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。


「提出期限今日らしいぞ? 俺と冬木が仕事放棄したら、北見クビになるんじゃないかな? やってみる?」


「……可哀想なので止めておきましょう」


 少し悩む素振りを見せたあと、冬木はそう告げる。 おい北見、教え子に可哀想だと思われてるぞ。


「それに、どうせ私たちも暇ですし。 仕事がないよりかはあった方が、暇を持て余さなくて良いです。 それを北見先生も分かっているのでは?」


「そんな気の利かせ方されてもな……いやまぁ、確かにそうなんだけど」


 言われて考えてみると、確かにそうである。 どうせ家にいたところで、ぼけーっとしているか朱里をからかって遊ぶか、それとも朱里とニュース番組を見ながら討論ごっこをするかのどれかしかない。 全て時間の無駄な気がしてならないな……。 そう思うと、こうして学校で何かしらの仕事をするということがとても有意義に思えてきた。 あれ、俺も洗脳されかけてる?


「ですが、お祭りには行きたかったです」


「わりと楽しみにしてたもんな」


 一緒に行かないか、と冬木の方から誘ってきた。 どうやら冬木は祭りそのものが好きらしく、雰囲気というのを遠くから感じては行きたいという思いはあったらしい。 意外かもしれないが、冬木は興味のあることには行動的だ。 今まではその行動に移すまでの方法がなく、自室でネットを使い調べていたようだが。


「はい、でも地元のお祭りというのは、好きにはなれないんですよね」


「……まぁそりゃな」


 これこそぼっちの悩みである。 だって同じ学校に通う奴と出会う確率が非常に高いからな、避けられるものは避けたいというのが本音だ。


 機会がもしあれば、どこか別の場所でやっている祭りに冬木を誘ってみるのも良いかもしれない。 俺も俺で祭りなんて行ったのは数年も前のことで、それこそ俺も朱里も小さい頃の記憶だ。


 今はまだ5月だが、7月、8月になればいろいろな場所で祭りは始まるだろう。 そんな春から夏への切り替わりを感じるように、クラス委員室の中は少しの暑さを感じるほどであった。


「窓、開けましょうか」


「ん、だな」


 冬木も同じことを思っていたのか、それとも俺の思考を聞いたのか、それは定かではないものの、そう言うと立ち上がり、窓まで歩いて行く。


 北見は本日この日、春夏祭の会場でもある秋月神社の見回りに駆り出されている。 大きめな神社の秋月神社を見回るにはそれなりの人手が必要で、その神社内はもちろんのこと、そこの前に広がっている道路にも出店が出ているとのこともあって、北見も依頼されたとのことだ。 それなら代わりに俺と冬木が行きたかったくらいであるが、さすがに生徒にそこまで任せられはしないのだろう。


 まぁ、この書類をまとめるのも本来であれば生徒に任せるようなことじゃないけどな。 北見なら仕方ないって感じ。


「……どした?」


 ふと、冬木が静かなことに気付き、俺は冬木の方へと視線を向ける。 冬木は何故か窓を開けたところで立ち止まっており、仕事に対して真面目なこいつにしては珍しいことだった。 逆の立場だったら今頃俺は文句でも言われているだろう、そう考えると俺が如何に心優しい奴かよく分かるな、うん。


「……」


 しかし、冬木は俺の声が聞こえていないのか、声をかけても何の反応も示さず、外の景色を見て固まっている。 最初の頃はこうして良く無視をされたものだ、懐かしい。


 ……まさかまた無視されてるとかじゃないよね? なんて、心配になった俺は懲りずに声をかける。


「おーい、冬木?」


「……あ、と、はい。 なんでしょう?」


 すると、冬木は驚いたかのようにそんな反応を示した。


「いや、なんか面白いものでもあったのかなって。 外見て固まってたし」


「ああ、面白いかどうかは分かりませんが……笛の音が聞こえてきたので」


「笛?」


 俺は言い、冬木の横へ行き耳をすます。 すると、確かに冬木の言う通り笛の音が聞こえてきた。 山の方角、秋月神社からだろうか。


「篠笛ですかね。 風情があって良いですね」


「祭りって感じだな。 もうすぐ夏かぁ……日本の夏って、暑くなければ俺は好きだな」


「暑いから夏なのですが……暑くない夏、というのはあまり夏という感じはしませんね」


 言う冬木は少し呆れているようにも見える。 確かにそりゃそうだ、暑いから夏というのはごもっとも。 そんなことを思いながらも外へ視線を向ける俺と冬木。 窓から入り込んできた風は心地よく、二人の顔を撫でていた。


「そういえば、夏は臨海学校があるんだっけか」


「おお、成瀬君にしては詳しいですね。 これから先の行事を知っているなんて」


「朱里に聞いた」


 それも今日の朝。 いつもより暑いこともあり、夏が近いという話になり、海に行きたいという話になり、その流れで今日の朝知ったことである。 もしもこれが一週間前だった場合、忘れている可能性がめちゃくちゃ高い。


「……成瀬君に朱里さんという妹がいて良かったと心底思います。 確か二泊三日で、山の向こうの海でしたね」


 少し目つきをじっとりとしたものに変えながら、冬木は俺を見る。 蔑んでいるような目付きが痛い!


「そうそう、それで朱里と冬木の話になったんだよ」


「私の? どのような話でしょうか」


 依然として、冬木は窓からの風を浴びるようにその前へと立っていた。 どうやら少しの休憩時間と入るらしく、それに習って俺は窓枠に寄りかかる。


「冬木は果たして泳げるのかどうか。 30分くらいそれで討論してて、結論は「泳げないけどすぐに泳げるようになる」だったな」


「兄妹揃って何をしているんですか……。 勝手にそんな討論をしていたことに物申したいですが、その元気も出ないくらいですよ」


 くだらない話し合いをよくするからな、俺と朱里は。 靴下はどっちの足から履くかとか、朝起きて飲むのは水かお茶かとか、コップに入れる氷はいくつか、とか。 そんなくだらない討論をたまにしている。


「で、答えは?」


 俺が聞くと、冬木は風によって乱れた前髪を直しつつ、口を開く。 ハッキリと、自信ありげに。


「泳げます。 浮き輪があれば」


「それ泳げるって言わないからな」


 いや、けど予想通りである。 浮き輪をつけて泳ぐ冬木というのも見てみたいな……とっても笑えそうだ。 しかし、なんでも卒なくこなしそうな冬木もやはりというべきか、運動系は苦手らしい。


「第一、普通に生きていく上で泳げて得をすることの方が少なそうなので。 海に近いところへ住んだり、それに関する仕事をするのであれば別ですが」


「まぁ確かに。 そりゃ言えてるけど……練習とかしないの?」


「……水に顔をつけるとかですか?」


 そっから!? 冬木にとってはそっからしないといけないレベルなの!? なんか一気に心配になってきたぞ!?


「お前、まさか水に顔すらつけられないの……?」


「……いえ? 少なくとも、成瀬君よりはマシかと」


 俺の言い方が馬鹿にしたように聞こえたのか、冬木は若干声色を変えていう。 しかし、その周りには黒い靄が現れていた。 どうやら冬木さんは水が苦手らしい。 というかそこで強がる意味はなんだ! 俺よりマシって俺はどんなレベルなんだよ!? 水をかけられたら即死とかしちゃうわけ!?


「だったら勝負しようぜ。 どっちが長く水に顔をつけてられるか」


「別に構いませんが」


 どこからそんな自信が出てくるのか分からないが、どうやら乗ってくれたらしい。 ちなみにだが、今日の冬木は化粧なしのすっぴんである、いつもの化粧も薄いから殆ど変わりはないけど……そのことからの提案だったが、この分だと化粧をしていても乗ってくれそうな勢いだ。


 ともあれ、そんなこんなで俺と冬木は勝負をすることになるのだった。




「勝ったら1ポイントな、今って引き分けだよな? 確か」


「そうですね、この前のコミュニケーションテストでは一対一だったので」


 そんな勝負は今も尚続いている。 期限は決めていないが、リードを取っておくに越したことはない。 正直賭けの内容はどうでもよかったりする俺だ、一番大事なのは冬木に勝ったということなのだから!


 並んで座る俺と冬木。 目の前には洗面器、水道に置いてあるものを一時的に借りた形で、水を注いだそれを長机の上に置いている。 一体休日の学校で何をやっているんだろうという思いにも駆られそうになるが、気にしたら負けだ。 一応北見の依頼を片付けてからのことなので、こうして遊んでいても問題あるまい。 どのみち北見が見回りを終えて帰ってくるまで暇なことだし。


「皆は今頃お祭りを楽しんでいるんでしょうね」


「言うなよそれを。 めちゃくちゃ虚しくなるだろ……」


 開け放たれた窓からは、秋月神社で行われている春夏祭の音が聞こえてくる。 そんな中、俺と冬木は「どちらが長く水に顔をつけていられるか」という勝負を行おうとしている。 なんだこの悲しすぎる状況は。


「……では、順番にやりますか。 最初は成瀬君からどうぞ、私が数えておきますので」


「オッケー、嘘吐くなよ?」


「吐いたところでではないですか」


 確かにその通り。 嘘を吐いたところで俺の眼にかかればすぐさま真偽なんて見破れる。 一応そう言ったのは様式美とでも思ってもらえれば良い。


「では、準備は良いですか?」


「おう」


 俺の返事を聞きながら、冬木は携帯で時間を見せる。 それを確認した俺は短く返事をし、冬木の合図を待った。


「用意、始め」


 テストかよ、とツッコミたい衝動を抑えつつ俺は洗面器に顔をつけた。 ひんやりとした水は思いの外気持ちよく、今日の暑い気温となれば尚更だった。


 ……まだ余裕だ。 冬木はどうやら俺がしっかりと顔をつけているのか、近くで確認しているらしい。 なんとなくだけど気配を感じる。 そこまで真面目にやってる辺りが冬木らしいと言えば冬木らしい。 何かこういう風に、審判とかを任せるなら冬木以上に適任な奴はいないだろう、くらいには。


「あ、北見先生」


「お?」


「30秒ですね」


「……お前それはずるいだろっ!! 帰ってきたと思うじゃん!」


 顔を上げた俺の視界に映ったのは、してやったと言わんばかりの顔をしている冬木だ。 さすがに北見が居るときにこんなことをしているのはマズイと思い、俺は咄嗟に顔を上げたのだ。 しかし、どこにも北見の姿なんてない。


「私の独り言に勝手に反応をしたのは成瀬君ではないですか。 というわけで、成瀬君の記録は30秒です」


 ……この野郎。 良いぞ別に、俺にもそれならば考えというのがある。 冬木が顔を付けた瞬間に、冬木のツボに入るような質の悪いギャグを言えばいいだけだ。 こいつの笑いのセンスは壊滅的だからな、とりあえず駄洒落なら笑ってくれるくらいだし。


「ああ分かった分かった、それならそれで良いよ。 次は冬木な」


 立ち位置交換。 俺はそのまま洗面器に新しい水を入れ、座る冬木の目の前へと置く。


「ちゃんと測ってくださいね。 30秒を越えれば私の勝ちですから」


「分かってるよ、任せとけ」


 俺が言うと、冬木は頷いて洗面器に注がれた水を見る。 一体全体どうしてこんなことをしているのか分からないが、冬木に勝ちさえすればポイントゲットだ。 そして、冬木が顔をつけた瞬間にギャグを言えばほぼほぼ俺の勝ちは見えている。


 そう思ったのだが。


「えーっと……冬木さん?」


「……なんですか」


「いや、測ったけど……2秒なんだけど」


「……」


 俺の言葉を冬木は顔をタオルで拭きながら聞いている。 いや、だって顔をつけてられるかからすぐにだったし……俺が何かをするまでもなかったし……。 まさかと思うが、冬木がそこまで水を苦手にしているとは。


「体感的には1分ほどでしたよ」


「その体感絶対おかしいからな!? お前今のを1分にするなら俺の15分になるけど大丈夫!?」


「では」


 顔を拭き終え、タオルを傍らに置いて言う。


「成瀬君が1分を超えられたら、成瀬君の勝ちで」


「……おかしくない? 絶対おかしいよなそれ!? そもそも俺勝ったよな!?」


 どうしてか冬木の中では未だに勝負が続いているらしい。 いやぁ不思議だなぁ!


「どうします? 負けを認めますか?」


「この会話最初から録音して検証したいレベルなんだけど……」


 冬木が負けず嫌いだというのはなんとなく察しが付くけど、これは最早負けず嫌いというよりもただのワガママである。 普段なら屁理屈とか絶対言わないのに、勝負事になれば話は別ということだろうか。


「ま、良いけど。 代わりに俺が勝ったら「成瀬君に負けました」ってちゃんと言えよ」


「ええ、構いません」


 そうして、俺は何故かもう一回洗面器に顔を付けることになる。 冬木は何かしらの形で妨害をしてくるとは思うが……既に分かっていることとなれば、問題はあるまい。


「うし。 それじゃやるか」


「はい。 用意、始め」


 冬木の言葉と同時、俺は洗面器に顔を付ける。 実のところ、1分なんて余裕も余裕だ。 冬木の策にもよるが、まさか物理的な攻撃なんて仕掛けてこないだろう。 あるとすれば言葉による精神的攻撃で、それも何かをしてくると分かっていれば問題なんてまったくない。


「あ」


 丁度、三十秒ほど経った頃だろうか。 冬木は唐突に口を開く。 が、俺は無視して水に顔をつけたままにする。 やっぱり何か仕掛けてきたな、分かりきっていたことだ。


「秋月さん、お疲れ様です」


 ……なるほど、そう来たか。 確かに秋月純連というのは俺の天敵……とまではいかないけど、俺が恐怖している存在でもある。 何より一度、手痛い攻撃を食らっているし……いきなり絡まれたしで、恐れていないという方が無理があるだろう。 しかし! 秋月は今日この日、秋月神社での祭りによって手伝いをしないといけないと言っていた! だからこの場に秋月純連がいるということはあり得ないのだ!


 そしてそのまま、冬木は諦めたのか何も言わなくなった。 秋月純連という名前を出してどうしようもないなら、いくら冬木と言えどどうしようもないということだ。


 それから数十秒、やがて時計は1分を回る。 確実に1分を回ったであろう瞬間、俺は顔を上げて高らかに宣言する。


「よし! これで俺の勝ちだな!!」


 爽やかな顔で俺は言う。 が、目の前に居たのは冬木ではなく、秋月純連。


「お前は学校で何をしているんだッ!」


「いてっ!」


 見事な手刀は、勢いを落とすことなく俺の頭に叩き落されたのだった。




「成瀬君に負けました」


「笑顔で言うんじゃねえ……」


 それも超綺麗な笑顔で。 最早嫌がらせ以外の何物でもない。


 その後、秋月にしっかりと説教をされた俺は、洗面器を片付けた後、秋月を混ぜて椅子へと座っている。 最近ではこうして秋月もたまにクラス委員室を訪れることがあり、そのときのためにと机を長机へと変えている。 それが功を成したのか、本日この日に限っては良い方向に転んでくれた。


「まったく、北見先生に言われて来てみれば……油断も隙もないな、成瀬」


「ははは……」


 どうやら秋月は、北見に言われて差し入れを俺たちに持ってきてくれたらしい。 机の上に並べられているのは、祭りで売っていたであろう焼きそばや焼き鳥、団子にたこ焼きイカ焼き焼きとうもろこし、フランクフルトにりんご飴にわたあめにクレープ……いやなんかすげえ量。 いくら秋月の分もあると言われても、これは相当な量だ。


「美味しそうですね」


「……量が」


 ちなみに俺は、わりと少食である。 朝なんて食べることの方が少なく、昼もおにぎりが二つもあれば充分で、夜は普通に食べるけど沢山食べるというほどでもない。 今でいうと、焼きそばがワンパックあれば充分と感じるほどだ。


「クラス委員というのは、やはり大変そうだな」


 言う秋月は、今日はその長い黒髪を後ろに一本で縛っている。 隅の方で纏められている書類を見ながら、そう呟いていた。


「なんだかんだやってるよ。 それより秋月の方が大変だろ、行事多そうだし」


「そうだな、まぁまだ紙送りや年末年始に比べればといった感じだよ。 それでも今年は有力な助っ人が二人いるからな、とても助かる」


「いえ、お力になれれば。 迷惑をかけてしまうかもしれませんが」


「なに、気楽にやってくれればいいさ」


 気楽に、か。 でも真面目にやらないと叱られそうだ、それも秋月と冬木の二人から。 想像しただけでなんか怒られた気分になってくる、これぞまさに怒られ損……違うか。


「そういえば、月末の校外学習のことですが……」


 そんなことを考えていたところ、冬木と秋月は校外学習の話をし始めた。 内容は、班での行動をどうするかというもので、自由時間にどういうルートで見て回るか、などなど至極真面目な話である。 俺は同じ班として当然聞くべきなのだろうけど、俺が入ったところで逆に邪魔になってしまう気がし、外の景色へと視線を移した。


 丁度昼過ぎ、太陽はまだ高い位置にある。 開け放たれた窓からは風と共に笛の音が聞こえ、春がもう終わりを迎えていることを告げている。 たった一ヶ月、高校に入ってから信じられないほどに色々なことがあった。 冬木空という俺と似たような立場の奴と友達になり、秋月純連という変わった友達もまたできた。 中学生の頃では考えられないような話で、それがなんだか新鮮だ。


 これから先、一体どのように俺はそれらと関わるのだろう。 まだ解決できていない大きな問題があるのは間違いない、しかしそれにどう向き合えば良いのか、それはまだ分からない。


 でも、この一年はきっと大事な一年になる。 俺だけでなく、冬木にとってもそれは一緒のことのように感じる。 うまく行かないこともあるだろうし、悩むこともあるかもしれない。 けど、それと向き合って過ごしていくのもまた、良いのかもしれない。


「成瀬君」


「ん」


 ふいに、冬木が俺に声をかける。 俺が視線を向けると、秋月と並んで座る冬木がこちらへ視線を向けていた。


「今度、成瀬君の家で遊ぶお話をしていたのですが、どうします?」


「……えーっと、どうするってのは?」


「いえ、成瀬君も一緒にどうかと思いまして」


「俺の家で遊ぶのに俺抜きってどういう状況だよ!? 最早俺の家で遊ぶ意味あんのかそれ!?」


 きっと、恐らくそれは冗談の一つだと思うが……。


 冬木空とは大分仲良くなれたと思っている俺だが、相変わらず冬木の冗談ほど分かりづらいものはないと感じる俺であった。


 ……冗談だよな?

以上で第一章終わりとなります。


評価してくださった方、お気に入り登録してくださった方、読んでくださった方、ありがとうございます。



第二章も前半は成瀬修一視点で、後半は冬木空視点となります。 基本的にはこの形で物語は進む予定となっています。


次章の内容に少し触れますと、冬木空の過去に大きく踏み込む形のお話となります。 長峰愛莉も関わってくる内容になっており、楽しみにして頂ければと思います。


それでは、改めてここまで読んでくださりありがとうございます。

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