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その眼には嘘が見えている。  作者: たぬきのみみ
秘められたこと
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第十二話 夜の学校にて

 数日が経った。俺たちがしていることは単純で、学校の正門と裏門を二人で抑え、高村の持ってきた情報と合わせて規定の時間に不審者が入っていかないか見張るというものだ。


 だが、今の今まで成果はない。長期戦になることは覚悟していたが……こうも寒いと心が折れてしまいそうだ。


 神中の夜は寒い。雪も降るし、それが余計に寒さを増していく。まるで冷凍庫の中に放り込まれているような気分だ。


「異常なし……と。高村の方も変わらないみたいだな」


 そして、この校門を見張るというのは話し合い通り俺と高村の仕事となった。他のメンバーは学校近くにある水原家で待機しており、用事がある場合は欠席となっている。


 その点で言えば見張り役が俺と高村というのは正解だったかもしれない。


 冬木には家の手伝いがあるし、長峰にも家のことがある。それは木之原や水原姉妹にも言えることで、唯一暇人なのが俺と高村の二人なのだ。


 ちなみに今日の参加メンバーは俺と高村、長峰、冬木、雪、木之原の勉強会メンバー。水原姉の方はバレー部の試合が明日行われることとなっており今日は休みだ。


 本人は長峰のことというのもあり参加したがっていたが、長峰がキッパリと断ったという形。自分のことで部活を疎かにされるのは嫌なのだろう。


 とは言っても待機しているのは水原家であり、情報は共有されると思うが。


「そろそろ次の見回り時間か」


 用務員による見回りは数回行われる。その最後の見回り時間が近づいており、俺は少し離れた位置から校門を見守っている。


「……今日も収穫はなさそうだな」


 しかし、得ている情報もあった。この見張りをし始めてから長峰に対する嫌がらせは行われておらず、それはつまりこの見張りが結果として繋がる形が大いにあるということだ。


 もしも見張り中に嫌がらせが行われてしまったら、このやり方を根本的に変えなければならなかったからこれはありがたい。この見張りを継続していればいつかは尻尾を掴める可能性があるということ。


「高村に連絡して戻るか」


 そう思い、携帯に再び視線を落とす。ちょうどそのとき携帯の画面が着信画面へと移り変わった。


 基本的にやり取りはメッセージのみ。何かあったときしか電話は使わないという話でまとまっている。今この瞬間、高村から着信があったということは……。


「もしもし、何かあったか?」


『来た。成瀬っち、多分犯人だ』


「……本当か?」


『周りすげえ気にして中に入ってったから間違いないと思う。暗くて顔まではよく見えなかったけど……俺バレないように後をつけてくから、みんな呼んで来てくれ』


「分かった。無理はするなよ」


『おう』


 高村の声は小さく、警戒しているのが伺えた。一番良いのは一旦高村と合流していくことだが、見失っては元も子もない。このチャンスを逃すわけにはいかない。


 俺はすぐに待機している冬木へと連絡する。冬木からはすぐに向かうとの返事を受け、俺は現場に向かうのは高村に任せ、他の全員が集まるのを待つことにした。




「高村君は?」


 それから数分、すぐに出られる準備は常にしていたのか冬木たちはすぐに姿を現した。水原姉以外の全員が揃っており、あとはどう役割を分けて逃げ道をなくすか……だが。


「電話だ」


 またしても高村からの電話。俺はすぐさま手に取り、耳に当てる。


「どうした?」


『教室、来てくれる?逃げる気あんまないみたいだから』


 その言葉を聞き、不審に思いつつも俺は全員に同じ言葉を告げ、教室へと足を向けるのだった。




 目に入ってきた光景はとてもわかりやすいものだった。


 教室の入り口で中を見つめる高村。そして長峰の机の前でゴミ箱を持ち、座り込んでいる一人の人物。恐らくゴミ箱の中身をどうこうしようとしたところで高村に止められたのだろう。


 その座り込んだ人物は諦めているのか「ごめんなさい」という言葉だけを延々と呟いている。


 そして犯人は予想通り、女子。


「あんただったのね……三河さん」


 三河と呼ばれた女子生徒は体をびくりと反応させる。まさか嫌がらせをしている長峰本人が目の前に現れるとは夢にも思っていなかったのだろう。


 更に言えばその三河という女子生徒には俺も見覚えがあった。名前こそハッキリとは覚えていないものの、顔には見覚えがあったのだ。


 クラス委員として動き出したばかりの頃、俺に相談をしてきた女子。その内容は「長峰が校外学習で何かを企んでいる」というのを報せに来た女子だ。クラスの中でもおとなしい方の女子で、目立つ存在でもなければ積極的に口を開く方でもない。友人が多いという印象もない目立たない女子である。


「ごめんなさい……ごめんなさいっ!」


「別に謝って欲しいわけじゃないんだけど。それよりなんでこんなことを……って聞かなくても、なんとなく分かるか」


 長峰は言いながら呆れたように笑う。その言葉には俺も少しばかり心当たりがあった。


 記憶が正しければ、長峰は三河のことをあまり快く思ってはいない。そこにどんな理由があるのか詳しくは知らないが……長峰の口から「また男を頼って」というような言葉を聞いた覚えがある。


 そこから推察できるのは、長峰自身は三河を好いていないということ。逆に三河もまた同様なのだという考え。


「ま、一応聞いてあげよっか。私のこと鬱陶しかったんでしょ、三河さん」


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 しかし、長峰の問いに対して三河はひたすらに謝るのみ。顔を伏せ、長峰の方へ視線を向けることもしない。


「あんたねぇ……顔見るくらいしろっての!」


 長峰は三河の髪の毛を掴み、無理矢理顔を向かせる。その表情は怯えきっていて、長峰が受けたことを考えればやり過ぎだとも言えないが……無理矢理やっても今の三河がまともに答えてくれるとは思えない。


「長峰さん、落ち着いてください」


 そこで冬木が長峰を止めるように肩に手を置く。それを受け、長峰は勢いよく冬木に振り返り、口を開く。


 否、開こうとした。長峰は何かを冬木に向けて言おうとしたものの、数秒の間冬木のことを見つめ、そして三河を掴んでいる手を離したのだ。


「ただちょっとムカついただけ。昔からそうなのよ、こいつ。すぐに泣いて逃げるしすぐ男に頼る。なんも変わってない」


 そう言う長峰の方は少しばかり変わったようだ。前までの長峰ならきっと、冬木の言葉に耳を傾けることはなかっただろう。


「あの、とりあえず……場所を変えた方がいいかなって思うんだけど。あんまり騒ぐと、ね?」


 木之原が周りを気にしながら言う。確かにその言葉通り、深夜の教室で生徒が数人騒いでいるのを見られるのは非常にまずい。しかも光景が光景だ、大問題にもなってしまう。


「あー、それなら俺んちでどう?水原っちの家はあれだし、俺んちならこの時間誰もいねえし。三河っちもそれで問題ないよな?」


 様子を伺うように高村が言う。水原の家には水原姉がいるからだろう。更に言えば今日この場に水原姉がいないのは逆に良かったかもしれない。三河の態度を見た水原姉が、どんな対応を取るのか検討もつかないしな。


 ともあれ、三河が高村の提案を断れるわけもなく。力なく頷いた三河を見て俺たちはひとまず高村の家へと足を向けることにしたのだった。




 その後、場所を高村の家へと移動した俺たちはまず、木之原たちに三河のことを一旦任せた。部屋の中には三河、木之原、雪、高村。長峰はリビングで同じく気持ちを落ち着かせているらしい。


 俺はその様子を少し開いた扉の外から確認しながら、目の前に立つ冬木に小声で話しかける。


「やっぱり、なんか妙だな」


「三河さんのことですよね」


 俺と同じ情報を持つ冬木であれば、その疑問を抱くのは当然だ。


 長峰からしてみれば、犯人が三河だったというのはそこまで不思議なことではないだろう。長峰自身が三河のことをよく思ってなく、それを感じている三河が長峰に嫌がらせをしたというのが普通に考えれば自然な流れ。


 だが、それだとやはりあの手紙の書き方についての疑問が残ってしまう。三河が長峰に書いた嫌がらせの手紙は、とても憎しみを込めて書かれたものだとは思えなかったからだ。


「何か聞けたか?三河から」


「二つほど。一つは「どうしよう」という考えで、もう一つは「バレちゃう」というものですね」


「まぁ自然な思考だな。俺と冬木で尋問できる流れを作れれば良いんだけど……」


 出来る限り自然にそれは行いたい。もちろんこのまま有耶無耶で今日の出来事が終わるというのはあり得ないことだし、別に今日という日ではなくとも犯人が分かった以上、出来ることだが。


 それでも推察通りに三河以外の人物が隠れているのなら、今日のことを密告される可能性がある。そうなれば結局完全に解決したとは言えないのだ。


 表面だけでも綺麗に終わらせるのなら、それはアリだけどな。


「さっきまでの様子だと、成瀬君の方は無力ですからね」


「会話が成立しないとそもそもな。冬木がうまいこと聞ければ良いんだけど」


 落ち着きを取り戻し、話せる状態になれば俺も役には立てる。一つずつ質問していき、三河の本心を知ることができるのだから。


「ん」


「……どうかしましたか?成瀬君」


 何かが引っかかり、俺は思考を巡らせる。それを心配してか、冬木が顔を覗き込んできた。


 眠そうな目つき。銀色の髪。白い肌。相も変わらずおとぎ話にでも出てきそうな見た目。


「そうだ、冬木だ」


「私……ですか?」


「さっきなんて言った?三河の思考」


「えと……「どうしよう」と「バレちゃう」というものですが」


 それだ。


「あの瞬間にそう考えるのはおかしくないか?バレた瞬間ならともかく、最初に見つけたのは高村なんだから」


 そう、高村が最初に現場を抑えたのだ。そしてそれから数分して俺たちがやってきたという流れ。それなら冬木が言ったような思考をしているのはおかしな話になってくる。


「冬木が悪さをしたとして、それを見られたときを考えてくれ」


「悪さ、ですか。成瀬君の物を隠すとか……?」


「別になんでもいいよ。対象が俺なのは気になるけどな」


 悪いこととは無縁なのが冬木空という奴。まぁでもこの場合はそれこそ何でもいい。


「その瞬間、なんて思う?言い逃れができない状況になったとき」


「そうですね……見つかってしまった。どうしよう。バレてしまった。などですかね」


 言い終わり、冬木は数秒考える。その後、何かに気付いたように少しだけ目を見開いた。


「おかしいだろ?バレちゃうって思考は。もう暴かれてるのに普通はそんなことを考えない」


「……やっぱり、まだ何かありそうですね。今回の事件は」


 三河が隠している何か。どうやらそれに触れる必要がありそうだ。

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