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その眼には嘘が見えている。  作者: たぬきのみみ
秘められたこと
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第十話 開始

「んでさ、そのタイミングでその芸人が無理無理ってガチで拒否してて……いや芸人ならそこはいかね!?とか思っちゃって」


「あはは!確かに〜。私も見てて同じこと思っちゃった」


「やっぱそうよな!?いやー木之原っちとは波長が合うのを感じるね〜!」


 次の日の雑談タイム。盛り上がっているのは高村と木之原で、その二人の会話をじーっと聞いているのは雪だ。


 そして長峰は聞いているのか聞いていないのか、ソファーに座り携帯を眺めている。


 そしてそして俺と冬木。昨日の話もあって、高村に聞くタイミングを二人で探っているのだが……俺たちは肝心なところでミスを犯していた。


 そのミスというのも、この話をどう切り出すかということ。タイミング自体はもちろん今このときであるのは間違いないが、できれば長峰の癇に障らないように聞き出したい。


 それで言えば長峰のいないところで……というのが一番間違いないことではあるものの、そうすると隠れてコソコソしているようで嫌だというのが俺と冬木の結論だ。


 そんな結論を出した俺たちであったが、現状についての考えはどうやら冬木も同じようで、先ほどからチラチラと俺の方に視線を向けている。


 ……いや、もしかしたら「早く切り出してくれ」というメッセージの可能性もあるな。


「で、冬木さんと成瀬からなんか話あるんじゃないの?」


 迷いの中、言葉を発したのは長峰だった。他で行われている雑談を遮るような声量で、高村も木之原も雪も声を発した長峰へと視線を向ける。


 その言葉に俺も冬木も一瞬何が起きたのか理解できず、教室内には不思議な沈黙が訪れていた。


「なんか朝から様子が変だし、言いたいことでもあるのかなって思ったんだけど。違った?」


 俺も冬木も長峰のことを侮っていたわけではない。しかしそれでも長峰愛莉は予想を上回る鋭さを持っていただけだ。


 長い間一緒にいるから、というのもあるのかもしれないが……それにしても未だに驚かされることの方が余程多い。


「……いや、違わない。けど、なんていうか……」


 俺が返事をすると、長峰に向いていた視線は一様に俺へと集まった。冬木以外全員の視線が俺に向けられているのを感じる。


「長峰のことなんだ」


「私の?」


 観念し、俺は口を開く。長峰には文句を言われるかもしれないが……ここまで来たなら話す以外の方法が俺には思いつかない。


「犯人探しだよ」


「……ああ、そういうこと。別にそんな言いにくいこと?もしかしてこの中にいるとかそういう話?」


 俺と冬木にとって、それは意外な返事だった。怒る、呆れる、不機嫌になる。そのくらいの反応しか予想をしていなかったから、長峰の方からその話を進めるような言葉が出てきたのが意外だった。


「そういうわけじゃない。でも、長峰はあんま気乗りしてないだろ」


「それは私が率先してやるってのが嫌なだけ。っていうより、自分のことでみんなを巻き込むのってなんか気が引けるし」


 長峰は言っている途中で顔を逸らす。嘘ではなく本心だ。


「えーっと……?わり、話の流れが分からないんだけど……もしあれだったら席外した方がよさげ?」


 そんな空気の中、立ち上がりながら口を開くのは高村。さすがはコミュニケーション能力の塊……発言と行動が信じられないくらいに早い。


「いいよ別に。ここで話そうとしてたってことは、意味があるからなんでしょ?私は手伝わないし、できれば諦めてくれた方が良いのは変わらないけど」


 長峰が言い、俺と冬木に視線を向ける。その言葉には正直助かった。他でもない高村に聞きたかったことであったから。


「……では、私から。事情が分かるように、最初から話しますが……良いですか?」


「私は冬木さんも成瀬も信じてるから。任せるよ」


 長峰の言葉に冬木は少し目を見開いて、そのあと嬉しそうにしている横顔が見えた。


 確かに俺にとってもそれは嬉しい言葉だった。出会ったばかりの長峰からは絶対に得られない言葉だったしな。


 ……特に冬木にとっては、言い表せない感情になっているかもしれない。


「皆さんが知っているかは分かりませんが……しばらく前から長峰さんが嫌がらせをされているんです。その犯人が分からず、成瀬君がここ最近犯人探しをしていました」


「嫌がらせ……って、大丈夫なん?長峰っち」


「見ての通り。モテる女だしね」


 長峰は平然と返す。長峰を知らない奴からすればそれは強がりに見えたかもしれない。だが、長峰は傷は負っても折れることはない。


 ……もちろん、その傷が許せるものではないから俺たちは犯人探しをしているわけだが。


「って言っても動き出したのはここ最近のことなんだ。水原と協力して調べてた。姉の方な」


「お姉ちゃんが……そうだったんだ」


 雪が呟くように言う。誰かに向けたものではなく、独り言のようなもの。


「で、いろいろ調べたところ……その犯人は女子の可能性が高くて、多分夜に犯行が行われてる。そこで高村に心当たりないかなって聞こうと思ったんだ」


「へ?俺?いやいや心当たりなんてないよ?」


 高村は何故か慌てたように手を振り、俺から少し距離を取る。そんな反応をされたら怪しく見えてくるが……当然高村を疑っているわけではない。それに高村は今、嘘を吐いてもいないしな。


「……はぁ。黙って聞いとこーって思ってたけど、翻訳した方が良い?」


「……翻訳ってなんの?」


 俺が尋ねると、長峰は呆れたようにまたしてもため息を吐いた。そしてそのまま続ける。


「高村くんを疑ってるわけじゃなくて、高村くんが夜とかよく遊んでそうだから聞いてるってことでしょ?正しくは「夜遅くとかに学校の近くで怪しい人を見たことないか」だと思うんだけど」


「……なんだよそういうことかっ!うひゃービックリした……てっきりまた濡れ衣かけられてんのかと」


「また?」


 高村が安堵しながら言い、椅子に座り込む。しかしその言葉に引っかかりを感じた冬木が尋ねると、高村は「こっちの話」とお茶を濁した。


「もうちょい聞き方どうにかしないと。難しいならシンプルに聞いた方がいいよ」


「……ごもっとも」


 多分、叱られるというのはこういうことなのだろう。およそ友人という間柄では滅多に起こりそうにないことだが、長峰の言っていることに反論する余地が全くない。言われてみれば高村がそう受け取ったのも無理がないことだった。


「で、えーっとなんだっけ。俺が夜に遊んでそうだからって話よな?……つうかそれ偏見じゃね!?」


「偏見だな」


「偏見ですね」


「偏見だった!!……いやまぁ確かに夜遊ぶことは多いけど。でも最近はほとんどないぜ?この辺りの冬で夜に遊ぶって、さすがに寒すぎるし」


 確かにその通り。事実として、昨日はあまりの雪に帰ることを諦め、冬木の家でお世話になったわけだし。


「ってことは心当たりはないか、高村も。それなら夜に用務員とか巡回するだろ?それの時間とかは?」


「なんか成瀬っち俺のことすげえ不良かなんかだと思ってない?その節絶対あるよね?」


「いや、単純に知ってそうだなって思って」


 が、どうやら当ては外れたらしい。高村の今の反応ならば、その時間を把握していることはなさそうだ。


「まぁ知ってるけど」


 知ってるのかよ!やっぱり俺と冬木の偏見は正しかったってことでいいよな?これ。


「……夜……学校……木之原さん、もしかして」


 そこで口を開いたのは雪だ。黙って見守っていた木之原に向け、口を開く。


「私も丁度、もしかしたらって。あのね、最近噂になってる話が一つあって……」


 木之原はゆっくりとした口調で話す。


「夜の学校に幽霊が出るって噂。用務員の人が見かけたみたいなの」


 ……果たしてその怪談話がどこまで信用できるかは置いといて。


 最近噂になっている。という部分が気になった。その部分が本当だとしたら、長峰に対する嫌がらせが始まった時期と近い気もしてくる。何より怪談話というのは昔から語り継がれていくものであり、いきなりパッと出て来るものでもない。


「調べてみるのは、ありかも」


 雪が言い、辺りを見回す。


「俺はもちろん手伝うぜ!」


 当然、一番最初に返事をしたのは高村だ。雪の言葉というのもあるかもしれないが、高村であれば雪以外の言葉だったとしても返事は同じだっただろう。


「私も手伝うよー。愛莉ちゃんは友達だもん」


 そして軽く手をあげ言うのは木之原。優しい表情はそのままに、木之原がいればどんな場でも和んでしまうような安心感がある。


「俺と冬木は当然として……」


「だから私はやらないって。別にどうでも良いことだし……」


 と、長峰は腕を組んで顔を逸らす。流れに流されないのは実に長峰らしい。


「愛莉ちゃん、別に犯人探しをするわけじゃないよ。ただ仲の良い友達同士で、幽霊を探そうってお話だよ。それなら良いでしょ?」


 木之原は長峰の元に行き、長峰の手を握る。いくら木之原と言えど、長峰を説得するのは大変そうだが……。


「……あー、なんとなくこうなるんじゃないかって思ってたのに。なんで私は変な口出ししたんだか」


 意外にもあっさりと長峰は折れた。木之原の力か、そもそも長峰に最初からその気があったのかは分からない。


 ともあれ、こうしてこの問題に対しては全員で取り組むこととなった。


 名目は当然、幽霊探し。


 果たして鬼が出るか蛇が出るか。ここまでの話で俺と冬木が伏せていることが一つある。それは、犯人が単独ではないという可能性について。


 長峰からすれば、自分に敵意を向けている相手が一人でもいるだけでストレスにはなるだろう。そんな中、得体の知れない相手が一人ではなかったとなれば更に負荷がかかってしまう。


 できれば話を聞くだけ聞いて、高村も木之原も雪も巻き込みたくはなかったが……。


「うしっ!絶対犯人……じゃなかった。幽霊見つけんぞー!」


「作戦会議しないとだね〜」


「……がんばろ」


 みんなの前で話した時点で、こうなることは決まっていたのかも知れない。

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