大陸最強の国
長いかなー
「……着きましたね、ジュリア様
帝都の門前街ブレンバです。」
城下町ビグスビーを守るように囲まれた巨大な門の下に栄えた街、ブレンバ。
ちなみに、ブレンバを囲っている門の外は草原だ。
私たちは草原の中から街まで一直線に整えられた道を駆けてきた。
草原に住む魔物から門前街を守る門はせいぜい2mくらいで、飛び越えられそうだが、ここの草原の魔物はスライムなどの小型の魔物なのでその心配は無い。
門前街なんて紛らわしい言い方だが、要するにブレンバは低い門と高い門に板挟みにされた街だ。
ダウエルの帝都は門前街ブレンバと、冒険者の街コブと、城下町ビグスビーの三つの街でできている。
私が住む予定なのは城下町ビグスビーだが、冒険者の街であるコブにはこの帝国一番の大きなギルドがあるので、通うことになるだろう。
ブレンバには他国民が結構いる。
つまり、ここは人間の街だ。
魔族として来ている私が堂々と歩くことはない。
「よし、とりあえず無事にビグスビーに入れたら、宿を探して明日に備えよう。
明日は忙しくなるからね!」
あ、お城が見える!
アルクインの王宮よりずっとでかいすごい!
早く行きたいなぁ
第一関門はここの関所だろうけど、門番さんに聞けばいいかな。
「門番さん。こんにちは
ビグスビーに行きたいんですけど、ブレンバからはどうやったら行けますか?」
上目遣いで門番を見つめる。
あざといと言われてもいい。
魔族の私は成長速度が遅いようで、どうにも成人しているようには見えないらしいのだ。
胸は特別大きいわけではない普通のサイズ……だと思うけど。
比べる対象なんて義妹くらいだし、ちなみに妹は小さかった。
……でも、母みたいにもうちょっとくらい大人の色気が出るようになるって信じてる!
なんならお父様だって、娘の私がクラッときちゃいそうなくらいすごい色気だし。
子供の時からの付き合いの精霊さんは、魔族の成長期は人間でいうところの20代までがピークだから別にまだ落ち込まなくてもいいって言ってたけど、あれおかしいな、私今18なんだけど。
もうすぐ20代なるんだけど。
今は大人の男性相手だと少女感出てた方が警戒解けてやりやすいから好都合だし。
好都合だからいいの!!
「姉妹でお使いかな?どこから来たの?」
「アルクインです」
ギルドカードを見せると、門番さんは目を丸くしてカードを凝視した。
「……君、魔族だったのか。よくアルクインで生きてたね、おいで、ブレンバだとちょっと危ないから係の人にビグスビーまで送ってもらおう」
なんか、想像以上に親切だった
「彼女は人間だから、手続きをすることになるだろうが、君をここまで無事に送ってきたことを考慮してくれるだろう」
「……はい、ありがとうございます。
ジュリア様、私が行くまで待っていてくださいね!くれぐれも、1人で行動しないでくださいね!」
なによ、私信用ないなぁ
わざとらしく唇を突き出して呟くと、ネルに普段の行いですと一蹴された。
解せぬ。
門番さんが連れてきた案内係のお兄さんは、どうやら獣人さんのようだ。
騎士のような服装だけど、アルクインの騎士みたいにきっちり着てない。
着崩しててゆるいかんじだ。
野性的な感じのするイケメンさんなんだけど
何よりも、あの黒のふさふさの尻尾……
あれ絶対触り心地いい
あっ耳がピクピク動いてる
可愛い……触りたい
「ジュリア様……?大丈夫ですか?」
あっ邪心のせいでトリップしてた
だめだめ、獣人の耳や尻尾は性感帯だから番にしか触らせないって、本に書いてあったもん。
私欲でそんな大事なところ触っていいわけないでしょ、我慢我慢。
というか、亜人族に生える角や耳って全部そういう扱いらしいんだよね。
私にはないけど、竜族なんて特に番への独占欲が強くて、縄張り意識も高いって聞く。
そんな竜族の角を間違えて触った日には私消し炭にされる……逆鱗に触れるってやつだね
あとは、加護持ちに現れる紋章かな
私の紋章は背中にある。
直接触られることなんてないから、触られるとどんな感じなのかわからないけど、たしかに結構敏感だ。
パーティのエスコートとかで王子がよく腰に手を回してきたがあれは嫌で嫌で仕方がなかった。
しかもあいつ絶対私が背中弱いの知ってたし。
今思えば、ことある事に背中触ってきてたもん。
私の体が跳ねるの面白がってたに違いないわあの変態死ねばいいのに
……うん、嫌いな人に触られるって不快だよね。
だから、知らない人に触られるのも嫌だろう。
私も気をつけよう。
「すみません、獣人の方は初めてお会いしたので嬉しくて。よろしくおねがいしますね」
「おー、俺は帝国騎士団のロウだ。
傭兵上がりなんで堅苦しいのは苦手だがよろしくなー」
「ジュリアです。アルクインから来ました。」
さっきの門番さんほどではないけど、軽く目を見開いて驚く獣人さん。
鋭そうな牙が見えたし、たぶん狼の獣人なんだろうな。
ワイルドでかっこいい。
やっぱり、魔族でアルクイン出身だとかなり珍しいんだね~
だって、アルクインでは人間は犯罪奴隷とか借金奴隷で限定されてるのに、獣人の奴隷はその二種類じゃなくても容認されている。
完全なる人間至上主義、他種族差別国家だ。
たぶん、今まで人間の目から隠れながら、過酷な生活を強いられてきて、ついに人間に見つかって、命からがら帝国に逃げてきた
……って思われてるんだろうなぁ
そこまで深刻ではないんだよね
上手く隠せてたから
追われてるのは事実だし、何か言われたわけでもないから訂正する気にもなれないしなぁ
「あんた、どっか村に行かなくていいのか?
帝都と言っても危険でないわけじゃないぞ」
「あ、それはいいんです。
私はアルクイン生まれだし、母は帝都生まれなので、どこの村に行っても完全に部外者ですから」
母が帝都で誘拐されてアルクインに来たように、今でも帝都では誘拐事件がよくあるという。
外に逃げる前に犯人を捕まえているから、誘拐された子が奴隷にされたことはここ数十年ないけど、誘拐事件自体は一月に3回はあるらしい。
そのため、帝都に住んでいる亜人族は自衛できる騎士、魔術師、冒険者とその家族が主。
私のような子供が、親なしでいるのも珍しいだろう。
ロウさんとは長い付き合いになりそうですね