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逃げるが勝ちとはまさにこの事

ちょっと長いかも





そういうわけで、今までの束縛が嘘だったかのようにトントン拍子で私が逃げる算段が立っていった。





私の姿をした、陶器に、幻惑の魔方陣が織り込まれた超リアルな身代わり人形をおいてきた。



人形の役割は、



発見を遅らせること。


お父様への置き土産。


言伝を伝えること。





使役魔法を使って動かせる人形だ。




攻撃魔法は使えないけど防御用の結界くらいなら張れるし、命令すれば水周りの仕事以外ならなんでもできる。



お父様の役に立つこともあるだろう。





何も言わず黙って出ていくのは、

なんだか気が乗らない。



でも、直接言えるわけはない。


許可が貰えるわけないから。




だから、事後報告だ。





私は別に、お父様のことが嫌いなわけでも、恨んでる訳でもない。



母がよくお父様の話をしていたからわかる。




私に優しかった記憶はないけど、少なくとも母にはとても優しかった(?)らしいし。




ちゃんと人間の心を持っている人だって。




だから、私という道具の持ち主としてでなく、一人の父として、私が消えてしまったことを憂いてほしい。




私の、娘としての最後の願いだ。







──ところで、私は今、唯一の専属侍女であり、最も信頼をおく人物であるネルとともに隣国である、ダウエル帝国の帝都に向かっている。




もっとも家を出た今、ネルとの間に主従関係はないのだから、一緒に来る必要もなかったのだけど。




ネルは、他ならぬ私に忠誠を誓ったのだと言ってくれたし、私的にも信頼できる仲間がいてくれるとありがたいということで付いてきてもらったのだ。





私の王太妃教育の一環に乗馬というものがあった。



その練習のためにお父様に頂いた、愛馬のイアン。




白い毛並みが美しい、強くて速くて賢い男の子。


乗り心地も私との相性もよくて大好き。




特になる気のない王妃になるための王太妃教育なんてかったるいだけだったけど、その中で乗馬だけは楽しかった。



淑女は馬にまたがるなんてことはしなかったから、ネルにこっそり、一般的な馬の乗り方を学んだのだ。


そしたら、風を切って走る気持ちよさに病みつきになってしまったというわけだ。



馬の背に足を揃えて座って、殿方と優雅に談笑しながら乗馬デート……だなんて全然全く性にあわない。


だって、王太妃教育で行う乗馬は王子と仲良くなるためのもので、イアンと仲良くなるためのものじゃないから、物足りなかったのだ。





「お嬢様、お疲れでしょう?

帝都まであと少しですが、休憩にいたしまし

ょう」



ネルは、自分の馬を私の横につけて走らせながら、自分は一滴の汗も見せず涼しい顔をして私の様子を伺った。


ネルの愛馬は柔らかい赤毛が可愛らしい雌だ。





「ちょっと、ネル、私はもうお嬢様じゃないの、ジュリアとよんでよ」




イアンが何を考えているかなんて分かるはずないのに、何故か走っている時は意思疎通ができているような気がして、とても楽しい。



だから私はイアンの体力の許す限りいつまでも走ることが出来る。





ネルは些か心配性……というか過保護なのだ。



まぁ、塔の上での私の生活を毎日見てればそうなるのか。



一月もぶっ続けで、魔力切れになるまでただただ魔石を量産するーなんてこともあったからなぁ。




魔石っていうのは、宝石など、とりあえず魔力に耐性のある強い石に魔力を込めれば作れる貯水タンクみたいな役割の便利な石だ。



基本的に、実用的な魔石は宝石からでないと作れないため、非常に高価なものだけど、たまに鉱石や道端の石でも魔力に耐性があるものもある。



石の容量しだいでは子供でも作れちゃう簡単な内職だし、ただでさえ高価な宝石に魔力を付与したものを売ればその価値は10倍にも100倍にも膨れ上がるのだ。




魔石を作る途中に死ぬようなマヌケな話は聞いたことないし、まさか私だってそんなドジやらかさない。



それなのに、あの時はなぜかめちゃくちゃ怒られた。


そんなに私って信用ないのかなぁ。





「……ジュリアさま、私は遠乗り、慣れていますがジュリア様は初めてなのです。休憩にしましょう。」



「もう、おおげさね

さっき休憩したばかりだし、帝都みえてるじゃない。イアンも大丈夫そうだし、休むなら帝都の宿でゆっくり休みたいの」





国を出てから一月くらいは経っているだろうか、アルクインの国内だと、追っ手が来ないとも限らないから、多少急いでたんだけど、もう国境は越えているので、私たちは愛馬の調子と相談しながら余裕を持って走っている。




帝国はものすごーく広いので、帝都までは時間がかかっていたのだ。



村や町を見つけたら休憩して、宿を探して寝泊まりする。



宿がなかったら野宿だが、狩りをしてその場で焼いて食べるなんて初体験だし、冒険者が書いた本の中の世界そのものだったから、ちょっと楽しかった。




「帝都のセキュリティは他の街とは比べ物にならないと聞きます。特に他国の人間は追い返されることが多いとか」




「だから帝都の周りには大きな街が沢山あるのね〜入れてもらえなかった他国民のための配慮ね」




ダウエル帝国は多種族国家だ。



アルクイン王国のように、人間以外の種族を差別する国は少なくない。




数百年間竜族が帝王であるダウエル帝国は他国で迫害され続けた、魔族、獣人族、精霊族を保護する国家で、帝都に住むそれらの種族へ危害を加えた人間は重罪となる。




だから、帝都には基本的に帝都生まれ帝都育ちの人間しかいないし、他国民の出入りはかなり厳しい。


帝国民を守るためだし、実際、母は人間に攫われたせいで娼婦になったわけだし、そもそも私は魔族なのでこの警戒度にやりすぎだとかいう気はまったくないが。




「私はお母さんが作ってくれたギルドカードがあるから大丈夫。ネルは人間だから、色々検査されるかもしれないけど、この際多少身分がバレても仕方ないよね。」




ギルドカードとは所謂、身分証のような役割の魔道具なんだけど、なかなか便利なもので、地図とか、依頼や予定を確認できたりとか、色々な機能がある。



私はお父様に内緒で、母の協力のもと冒険者ギルドに登録したのだけど、使ったのは今回の旅が初めてだ。




今までは領地と王宮の往復だったし、王宮は公爵家の家紋つけてればフリーパスだし。




ちなみに、母は確かに私を置いて出ていったのだが、音信不通だったわけではない。



連絡が取れる魔法具があるので、会話はしていた。



ギルドカードは自由になった母が今度はあなたの番と言わんばかりの笑顔で送ってきてくれたのだ。




「そうですよね、問題は私ですよね。

私が人間で申し訳ありません。

早々に足でまといになってしまうなんて……!」




腹を切りそうな勢いで嘆き出したネル。


いや、出生はどうにもできんし。




「稼ぎは私に任せてください、大物の魔物を狩って参ります!」





ネルは、基本大袈裟だ。心配性なだけではなかったようだ。









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