愛と真実と嘘
私のお父様、ガウェイン・オースティンは正妻を持ちながら、ある一人の娼婦を愛した。
私の母であるアメリアのことだ。
緩くカールした銀色の髪は柔らかく、ずっと撫でていたくなるし、濃いピンクの瞳は一度目が合うと目をそらせない。
男を惑わせて離さない、蠱惑の美女と呼ばれていたらしい。恥ずかしい二つ名だ。
……人間以外の種族を保護するために竜族によって建国されたといわれる隣国のダウエル帝国は、国民を他国の人間に攫われないようにするため、他国との交流を最低限に抑えている。
200年程前、そんな帝国が今ほど他国を警戒していなかった頃。
帝国からアルクイン王国に数人の魔族の子供が誘拐された事件があった。
その事件をきっかけに帝国は他国民の侵入を警戒し始めたのだが、その話は今は割愛しよう。
その時の誘拐された子供たちの中に母はいた。
母は、なんとか魔法で逃げ出して、借金奴隷として魔族であることを隠しながら娼館で育ったという。
その後、魔族であることがバレないよう娼館を転々としていたが、たまたま他の貴族に連れてこられた若かりし頃のお父様と出会い、お父様は半ば強引に高額の金でその娼館から母を買い、領地に連れて帰ったという。
正妻を放って置いて……夫としては最低だと思うけど、貴族ではよくあることらしい。
そんなこんなで、母は正妻からの嫌味な手紙を煖炉にくべながら父を待ち、愛され、私を産んだわけだ。
異種族とのハーフというのは基本的には、どちらとして生きるかを選択することが出来る。
選択するのは親だ。
生まれてから一定の年齢まで、人間として育てたら人間として育つし、魔族として育てたら魔族になる。
魔族は魔力があれば生きていけるので、
人間のように食事をとる必要が無い。
放置していても育つのだ。
つまり、魔族の親というのは基本的に子育てをしない。
私の母も例外ではなかったというわけだ。
そうでなければ、たった四歳の子供を一人放置するなんてありえないよね。
私がもつ“種族に関する情報”は 、すべて本から得たものなんだけど、魔族はこの国では忌み嫌われ差別される。
人より魔力量が多く、多くの知識と繊細な魔法技術に長けているので魔法においては世界最強の種族だ。
だから魔法オタクな私にぴったりな種族だと結構気に入っている。
ただ、元々の数が少ない種族であるのに、大昔に起きた人間と魔族の戦争で人間の圧倒的な数の暴力により敗北し、さらに数を減らしたという。
力の弱い女性の魔族は魔力抑制の魔道具で捕まえられて、貴族の奴隷になることも少なからずあるので、人間を警戒して、自衛できない弱い魔族は人が住めないような辺境の集落で隠れながら協力して生活しているらしい。
魔力の強い魔族ほど長く生き、美しい容姿をしていることが多い。
形は、角がある者、肌が青い者、尾があるもの、翼がある者など様々だ。
元々それぞれ違う形で生まれてくるため、人間のように見た目で差別することはないらしい。
はじめから人間と見分けのつかない見た目のものや、人間の姿に魔法で変えることも出来る魔族は人間に混じって生活していることもあるという。
そして、母もそんな魔族の一人だ。
母には角もなく、肌の色も人間と変わらなかったし、魔力量も多く美しかった。
自分の魔力を隠して男に取り入るなんて簡単なことだ。
だから、お父様に知られることなく私を産み、逃げることも出来たのだろうが。
私は7歳の時に、塔の上で本を読んでいたところをお父様に発見された。
私はお父様の姿を見たことがあったけど、お父様は母に子供がいたことを知らなかったみたいで、すっごくびっくりしていた。
そして、嬉しいような辛いような複雑な目で私を見つめた。
お父様は金色の髪に青い瞳の美丈夫だ。
私の髪の色はお父様と母を足して2で割ったようなプラチナブロンドで、母のように緩くカールしている。
そしてお父様と同じ青い瞳に顔は完全に母似。
表情筋が若干かためなのはお父様に似たからなのか、人と関わらなかったからなのかは分からないが、これは誰がどう言おうと完全に2人の子供だ。
疑いようがない。
表情筋さんもっと働いて!ってくらい無表情な父が、あんなに目を見開いていたのを見たのはあの時が最初で最後だろう。
なんなら、あの時の顔を母に見せてやりたかった。
母はお父様の表情を崩すのが好きだったらしいから。
どれだけ不自由を強いられようと、あんな顔を見せられたら嫌いになんてなれるわけがない。
お父様は確かに母を愛していた。
いや、きっとまだ愛している。
二度も彼をひとり置いて行ってしまうことに少しだけ胸が締め付けられた。
ガウェインとアメリアのお話も考えてます。
この二人は今までもこれからも結構な大恋愛です笑