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 楽しいかって?

 もちろん楽しくねえよ!

 あたしは言ってやった。

「しゃしゃ、社会人には礼儀と節度ってものが必要ですし? 個人の楽しさよりも社会へ貢献する心が重要、みたいな?

 それに、お、落ちない首が必要で? わがまま言って首にされたら人生おしまいだし? もう既にあたしの人生、首が回ってないし?」

 何言ってるんだろ、あたし。

 就職面接のときの自分のテンパり具合を思い出した。ちくしょう。思い出したくねえ。

 女の体は手持ち無沙汰な様子で踏んづけたままの首を揺らしていて、その首は何か考えるようにしていたが、言った。

「楽しくはなさそうだね。のっとふぁにー。

 あなたがここに引っ越ししてきてからたまに見かけてたけど、どんどん楽しくなさそうになってくよね。

 最初はまだもう少し首を上げて生きてたのに、どんどん縮こまってく。のっといーじー。

 だから声をかけてみたんだけど、お邪魔だったかなあ」

 え?

 そんな理由でここにいたのか?

 あたし、お化けにまで心配されるような顔して生きてたってわけ?

 何それ。


 なんか、一気に恐怖心が萎えた。


 それと同時に、今の自分が馬鹿らしくなった。

 いや、だからといって、今さら急には変われねえけど。

 学生の頃はさんざん根暗な親や周りに反抗してグレて生きてきて、けど、いざ親がおっ死んでみれば、生活費にも事欠くようになって周りに頭を下げてどうにか就職して、どうにか生きてるのが今のあたしだ。

 強がるだけの強さなんて無いことは、もう骨身に染みて分かってんだ。

 けど。

 お化けにまで同情されると、なんか、やってらんねえ。ほんと、やってらんねえ。


 だから、言った。

「……ああ、邪魔だね。

 ほんと、邪魔だっての。だから、首を出さずに引っ込んでてよ」

「あれ、なんか知らないけど弱気じゃなくなった? あーゆーふぁいん?」

「同情ありがとね。ありがた迷惑だけど、ありがたく受け取っとくよ。

 ったく、どっと疲れたよ」

 上昇していたエレベーターが何度目かの五階に到着し、ドアが開いた。

 あたしは言った。

「いい加減、あたしは降りるよ。あたしの部屋は四階だからさ、四階のボタンを押してよ」

「はーい。いえっさー」

 もう深夜どころか早朝に近い時間だし。

 数時間後にはまた仕事に行かなきゃだし、さっさと帰って寝よう。寝て起きたらまた数分前までのあたしに戻ってそうな気もするけど、少しはマシな気分で仕事に行けるだろう。

 そう思って、エレベーターの壁に寄りかかった。

 そのとき。

「シュートチャンス発見ー。べすとちゃんすとーらい、とぅーらいふ」

 ……は?

 女の体が、首をこちらに蹴った。

 首が転がってきて、あたしの足の間に。

 股の真下に。

 あたしのスカートの真下、見上げてくる首と目が合った。

「なんでこの景色ってこんなに魅力的なんだろうね。ぱーふぇくと」

「ぎゃああああああああ!!!!!」

 あたしは無我夢中で首をつかみ、なぜか咄嗟に出た最高に自己ベストなボーリングのフォームで、まだ開いていたドアの向こうに伸びる廊下に投げ捨てた。

「わわ。まいぼでぃ、かもーん」

 廊下の向こうに転がっていく首からそんな声が聞こえたかと思うと、エレベーターの中に残っていた女の体が慌てた様子で首を追いかけて外に出ていった。

 エレベーターのドアが閉まった。

 女の体はちゃんと四階のボタンを押してくれていたらしく、ガコンと揺れて下降し始めた。

 なんっつーか。

 ほんと疲れた。

 最初から有無を言わせず首を外に放り出せば良かったな、と思った。


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