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ぐぐきゅるるるう~。
「……………」
「す、すみません!」
主張の激しいお腹を抱え、謝ったあたしに。
御主人様は、言った。
「……僕は料理を一切しないんだ、カノコ。料理人も雇っていない」
……そうでしょうね~。
片付け作業中に見たキッチンは、シンクも調理台も多種な不要品であふれかえっていた。
ゴミを取り除いたそこには、本来の使用目的で使われた形跡がまったくありませんでしたから……。
ん?
でも、居間の堆積物の中には陶器のお皿やカップも多くあったし、もちろん食べ物のなれの果ても出土(?)した。
この家で食事をしてるからこそ出るゴミなわけで……御主人様はデリバリーやケータリングのヘビーユーザーなのかしら?
このヨーロッパっぽい異世界に出★館は存在しないわよね!?
「……あの、御主人様の食生活って……」
もう、あなた一人の食生活じゃないんです!
あなたの食生活があたしの食生活に直結するんですから!
あたしの食生活、どうなっちゃうんですか!?
「僕? 朝は食べる物がないから、朝食は食べない」
え?
食べる物がない!?
前の日にパンとか買っておきましょうよ!
「ご、御主人様、昼食は……」
「昼食? 面倒臭いから食べてない」
ええっ!?
面倒臭いって、そんな理由で食べないのですか!?
ヤダ、嘘!
この人、実は霞食べて生きちゃう仙人系魔術師なの!?
って、いうか!
御主人様はどんどん買うのに捨てられないうえ、ランチすら面倒臭がるタイプだから、結果、あんな汚部屋になっちゃうわけですね、う~わ~、納得っ!
あ、でもティータイムにお菓子は食べるって言ってましたよね!?
つまり、夕食までお菓子のみ!?
「あ、あのっ! じゃぁ、夕食はどうしっ……」
ぐきゅるる、ぐきゅ、ぐぐるるる~っ!
食生活への不安を感じ取ったお腹の虫さんが、さらに激しく抗議の声を上げた。
でも、もうそこに恥ずかしさはない。
あるのは「あなたは食べなくてもあたしは三食+おやつの契約してますから、朝も昼も食べます!」という切実な思いだった。
「…………ぷっ。そんな不安げな顔しなくても大丈夫だよ、カノコ。夕食は…………そろそろかな? ついておいで」
「え? あ、あのっ」
御主人様はあたしの右手を握って有無を言わさず連行(?)……玄関へと連れてき行き。
「夕食なら、ここにあるから大丈夫」
そう言って、木製の玄関ドアを開けると。
「あ」
そこにあったのは、金の取っ手のキッチンワゴンだった。
三段になっていて、格段に並べられた大小のお皿にはそれぞれに薔薇のつぼみを模したつまみのドームカバーが……。
真っ白な布に包まれた銀のカトラリー、コルク栓のワイン、ガラスのボールにはフルーツ、可愛らしい籐籠には美味しそうな焼き菓子が盛られていた。
下段にはティーセットも一揃え……。
「うっ……わぁ」
なんて豪華な出★館なの!
いやいや、そうじゃなくて!
「どれ……今夜のメニューは……パンと煮た肉と焼いた魚、茹でた野菜、生の果物と何かのスープ、よく分からない焼いた菓子……カノコは人と同じ物を食べれるんだよね? これ、大丈夫?」
御主人様はドームカバーを外し、中身をチェックしながら訊いてきた。
あのですね、御主人様。
それ、メニューじゃなく材料と調理法なのでは?
「はい、大丈夫です」
ま、細かいことは流して。
さぁ、ご飯に致しましょう!
「夕食は毎日、こうして届けられてるんだ。僕、基本的に在宅勤務だし出不精だから、専門業者に頼んでるんだ」
御主人様はワゴンを室内へと入れ、カラカラと押して居間に向かいながら言った。
へぇ~、専門業者……。
……なら、朝も昼も頼めば良いのに…………ん?
んん?
あれ?
もしかして、まさか……。
「ご、御主人様……不要品にしちゃった使用済みの食器って、まさか、このっ……」
あの食器、御主人様の私物じゃないんじゃ……。
「うん、そうだよ。僕は食器を買ったことは一度もないからね」
ひぃ~!?
やっぱりぃいいいいい!!
「もしかして、あの食器は食べ終わったら、このワゴンに戻しておくべきモノだったんじゃないんですかっ!?」
「え? そうなの? 食べ終わったらとりあえず、そこらへんに置いちゃっていたな……そんなことより、今日は家の中が片づいてるから、ワゴンを押して居間まで運べるね。いちいち運ばなくても一度で済んで楽だ。ありがとう、カノコ」
「それは良かった……いや、そうじゃなくて!!」
使い捨ての容器じゃなく、テレビで見るような高級レストランで使われてる食器なんだから返すに決まってるわよね!?
あたし、不要品として分別しちゃったから、外で野ざらし状態なんですけど!?