表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、片付けられない魔術師様の使い魔になりました!  作者: 林 ちい
異世界で、片付けられない魔術師様の使い魔になったみたいです。
1/8

※いったん完結とさせていだだきましたが、後日(すみません。時期は未定です)連載設定に戻して続きの章の『異世界で、片付けられない魔術師様の婚約者になりました!』を投稿予定です※

 それは、夏休み真っ最中の八月某日の出来事だった。

 

「……なっ」


 あたしは、"我が眼を疑う”ってテンプレフレーズを。

 はじめて、体験した。

 

「なんなのよ、ここっ!?」


 庭の草取りをするために、玄関ドアを開けた私の目の前にあったのは。

 足の踏み場もないほど、多種多様なもので埋め尽くされた空間だった。


「……あたしが開けたって、うちの玄関よね? あ、あれ?」


 長靴を履いた足を。

 一歩、踏み出すと。


「ひっ!? き、きゃああああああっ!」


 まるで底なし沼のようにずぽっと、脚が沈んでしまった。


「ちょ、やだっ! どうしよう!?」


 身動きできないまま、周囲を見回すと。

 明らかに使用済みの食器、無造作に放られた衣類、丸められた紙、大小さまざまな瓶、開きっぱなしの無数の本等々が……そして、食べかけのパンや果物。

 乾パンやドライフルーツっぽいものもある。  

 あれは長期間放置された結果、不本意ながらもそうなってしまったものだろう。


「……ぶほっ! くさっ!」


 窓が開けられているためた換気はされているが、誤魔化しきれないすえた腐敗臭がぷわ~んと漂っていた。


「お、汚部屋っ!?」 


 そう。

 どこをどう見ても。

 ここは、"汚部屋”だった。


「と、とにかくここから脱出しないとっ……ん?」


 ゴミの沼から脱出しようと、草むしりのために軍手を装備した両手を動かすと。

 ゴミの間からかさかさという音がして……。


 ぶぶぶ~ん。


 聴き慣れた羽音がし、あたしの頬にペタッと『奴』が着地した。


「……」 


 あたしは幸いにも軍手をしていたので、躊躇いなく『奴』を掴みポイッと投げ捨てた。

 清掃業のバイトでゴ★ブリ君に慣れているあたしは、ゴ★ブリ君への耐性が半端ない。

 でも、引かれるのが嫌だから普段は適度に『ゴ★ブリを怖がる可憐な女子』の演技をしている。

 

「そりゃ~いるよね、これだけ汚ければゴ☆ブリ君の一匹や百匹くらい………って、ギャアアアッ!?」


 いきなり背後から、誰かが私の脇の下に手を入れてゴミ沼から引っ張り出したので、思わず叫んでしまった。

 この汚部屋には誰もいないと思ってたのに……恐る恐る振り向くと。


「……あ、あなた誰ですかっ!?」


 ゴキ★リ君ごときでは微塵も怯まないあたしだけど、これにはさすがに驚いた!

 なぜなら、そこにいたのは銀髪蒼瞳の美形だったから……まさに、汚部屋に咲いた一輪の花!

 首に沿ってカットされた、緩やかなラインを持った銀髪。

 切れ長の眼は、サファイアのような深い青。

 顔のパーツはどれも文句のつけようがなく、配置も完璧!

 歳は20代前半くらい?

 なんなの!?

 この嘘みたいな美形はっ!?

 CGレベルなんですけど!? 


「誰って……僕は君の召喚主だ」


 しかもこの綺麗なお兄さん、すっごい良い匂いがしてますよ!?

 うっとりしちゃうほど甘いのに、後味(?)爽やかでず~っと嗅いでいたくなっちゃうような……さぞお高い香水をお使いなんでしょうね~……いやいや、ちょっと待て!

 今、このお兄さんはなんて言っ……しょーかんぬし?

 しょーかんぬし……って、もしかて召喚主ですかっ!?

 召喚という単語、もちろんラノベ等で見たこともアニメで聞いたことはあります!

 でも、漢字は苦手なので、今ここで漢字で書けと言われたら100%間違える自信ありです!


「あ、あなた様が、あたっ、あたしのしょ、しょしょ召喚主様でいらっしゃるのですかっ!?」


 今、言うべき言葉はぜったいこれじゃないのに!

 あたしのたいして良くない頭の中は、この汚部屋と同じくらい混乱状態だった。

 そのせいで、言葉を司るであろう脳のどこかが誤作動してしまい……異性免疫ゼロのあたしにCGレベルの美形が密着しているという状況も、脳の誤作動に拍車をかけていた。

 

「先ほどの君の勇姿、素晴らしかった! "黒き悪魔”をまったく怖れないなんて、さすがは最強の片付け魔だ!」


 か、片付け魔ぁああああっ~!?

  

「あ、の? 片付け魔って、いったいどういうこ……ひぃっ!?」


 左の頬をするりと撫でられ、身を固くしたあたしに。

 

「さぁ、君の名前を召喚主である僕に教えておくれっ……」


 召喚主様は、背後から回した腕に力を加え。

 あたしをぎゅうっと、抱きしめた……ちょ、ちょちょちょ、ちょっとっ!?

 そんな風にされたら、非モテ人生歴18年のあたしの脳では対応できません!


「あ、う、え、えええ、え~とですねっ! あたしの名前は"かのこ”、です。"西山かのこ”、です!」

「ニシヤマカノコ? 変わった名前だ……僕の名はリカ=レッシュだ」

「りか、れっしゅ……リカ、レッシュさん?」

「さぁ、僕と契約を交わそう! 契約に必要な体液の交換って、これでも・・・・大丈夫かな? 普通は血液だけど、女性を傷付けるのはちょっと抵抗があるから……」

「た、体液の交換? け、契約ってなんっ……もぎょっ!?」


 ぐいっと、いきなり顎を。

 大きな手で掴まれて。

 口を。

 口で。

 塞がれた。


「ッ!?」


 これって、キス!?

 キスですよね、これ!?

 しかも、しかも、しかもぉおおおおお……ディ、ディ、ディープキスってやつじゃないですか!?


「んっ……ん、んんっー! あ、ふぁっ……」


 あたし、西山 かのこ(18)。

 特技、整理整頓&掃除。

 趣味、整理整頓&掃除。

 自他共に認める"片付け魔”な性格が災いしたのか、幼児期から男子に敬遠されまくって彼氏いない歴=年齢。

そんなあたしの人生初めてのキスは、とってもハードなものでした……あ、駄目だ、衝撃的すぎて腰抜けたかもっ……。 


「…………契約完了。伝説の最強片付け魔が、こんなに可愛らしい女の子だったなんて。箒やモップみたいな顔をした魔物かと思っていたんだけど……もっと早く召喚すれば良かったな」


 仕上げとばかりに、下唇をひと舐めしてから。

 銀髪蒼眼の綺麗なお兄さん改め、リカ=レッシュさんは言った。

 

「使い魔として、僕が死ぬまで身の回りの整理整頓掃除を頼むよ」

「………つ、つつつ、つ、使い魔? せ、整理整頓掃除っ!?」


 どうやらあたしは。

 この人の、使い魔になっちゃったみたいです。

 ……ん?

 死ぬまでって、どういうことですか!?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ