死んだ暗殺者は神と出会う
「どうなってやがるッ!?」
髭面の男が叫ぶ。
男の姿はまさにファンタジー世界でいうなら、ならず者の姿。
ならず者といっても盗賊というところだろうか……
その盗賊は大量の汗を流し、夜の森で辺りをキョロキョロと見回している。
ゆらり揺れる焚き火の炎と、自分が死んだことにいまだ信じられないと言った顔で事切れている仲間達の姿。
はぁ、はぁ、はぁ……
暗闇で聞こえるのは武器を身構え、荒い呼吸をする盗賊と、猿轡と縄で拘束された捕虜の娘もがく音だけ。
「畜生!畜生!ちくしょうぉぉっ!」
そう、いま盗賊は襲われている。
それに気づいたのは仲間全てが死んだ後のことだった。
「奇襲か!?何だ!?訳がわからねぇ!?クソッ…………!」
最優先は自分の命だと判断した盗賊はもがく捕虜の娘を捨てることにし、横に繋がれている馬へと足を進める…
辺りへの警戒が一瞬とかれ馬へ、逃亡への希望に視線が向かう……
それが命取りとなるとは思わずに………
その盗賊の命が、掻き消えるのを捕虜の娘は見ていた。
ほんのわずかに照らす焚き火の明かりに、暗闇から湧き出るように現れた顔をフードで隠した男が音も無く盗賊の背後に現れ、手首から飛び出た仕掛け刃により喉を素速く掻き切るところを。
「がフッ?あ、がッ…!?」
ドサッ!
音も無く相手に近づき、腕に仕込んでいる刃で相手を屠るその男はまさに
「暗殺者…」
自力で猿轡を外した娘が呟くのが聞こえたのか男が捕虜の娘を見た。
※※※※※※
さて、盗賊の惨劇が起きること数時間前……
白い玉座の前に一人の青年が立っていた。
鍛え抜かれた無駄のない体に黒髪、黒瞳。
まさにTHE日本人といった青年というか俺が鋭い視線を目の前の玉座に向ける。
「いや~、そんな恐い顔で睨まないでよー。」
玉座に座るのは男、いや女か区別のつかない老人か若者か判断しづらい神聖さを醸し出す モノ が存在していた。
「お前……人、じゃないな?」
俺がその モノ を見て喋る。
「そう、僕私俺……う~ん我は人で無い。ま、見ていてわかるよね。」
可愛らしい少女のように微笑み、少年のような生きの良い言葉でその モノ は俺の言葉に答えそして
「それで、君はボクを何回殺すイメージをしたんだ?」
聡明の老人のような声で青年に問うた。
「っ!?」
睨んでいた俺の瞳がほんのわずかに揺れた。
確かに俺はその モノ に無遠慮で襲うシミュレーションを幾手か立てていたのだ。
まず、正面から飛び掛かり喉に貫手……これは浅はか過ぎてリスクも高くあまり良くない。
次は、自分のブーツに仕込んでいるナイフを投擲……速さと命中率の高さは自負しているが、そもそも目の前にいる人外の モノ にそもそも効くのか不明だ。
肉弾戦に持ち込んで勝てるかどうかも不明。
とその他に幾つか考え、それを全て脳内イメージで相手に襲いかかってどうなるのか結果を考えていたが………なぜか全て失敗するイメージしかわかない。
頬に汗が流れ、顎につたうのが感じる。
「ええと、君は普通の社会人2年目の若者だよね?何でそんな物騒なイメージしてんの?恐っ!最近の若者コワっ!」
モノ が玉座から降りた。
「いくら、映画やゲームで憧れたからって趣味でここまで鍛えあげたってヤバくない?」
そう、なんで モノ が俺の趣味を知っているのか知らんが俺は暗殺者に憧れている。
普通、日本元来から存在する暗殺者の忍者に憧れるものだろうと思われるかもしれないが俺はアサシンの方に憧れたか。
鍛錬されたその動き、計算された暗器に仕事への誇りと信念…
ゲームの中で見られる彼らの強さに俺は憧れた。
「わかったわかった。君の暗殺者への憧れはひじょーに理解したから…ね?落ち着こうか。」
モノ が『まぁ、おちつけや』と言うので俺は憧れのアサシンへの思いから今の現状に切り替えた。
というか、 モノ に心読まれるのが解せない。
「いやいや、 モノ って酷くない?オレッちさこう見えて神様なのわかる?」
は?神様?
「そうそう神様……って喋れしw」
神様というのはツッコミができるほど人臭いところがあるんだな。
「あ……驚かないのも気になるけど、まだ喋る気ないのね。」
無いです。
後、驚いたけどポーカーフェイスはアサシンには必要なんで。
「・・・まぁ、いいか。さて本題に入ろう。ゴホンッ」
そして、神様は言った。
「ごっめぇぇ~ん。間違えて君を殺したった☆」
よし、殺ろう。
ブーツの踵から仕込みナイフを出して、目の前でテヘペロ☆状態の神様めがけて脳天踵落としを決め…
「そおっいジョイッ!」スカッ!
脳天直撃コースを大豆製品菓子の名前みたいなものを叫びながら、人外の動きで神様は避けた。
「……………チッ」
「おいおい、いま神様に舌打ちした!?てか、アタシしじゃなけゃ脳天直撃でお陀仏だったよ!神様敬おうよ!!」
いや、「テヘペロ☆」がムカついて…
「うわぁ……、やっぱり最近の若者はコワいわぁ~」
「そういうの良いから早く進めてくれよ。」
「や、やっと出た言葉がまさかの催促……だと!?…………あ、わかった!進めるからナイフを投げようとしないで!!死なないけど痛いから!」
ネタをぶち込んで来そうなので神様を脅しました。
死なないな、良い練習相手にナリソウダナァ……
「ゴホンッゴホンッ、んでこちらのミスで死んじゃった久里土 槙君にはお詫びに生き返って貰おうと思います。」
ん?生き返えれんのかよ…
「あ、異世界の方で生き返ってもらうよ。」
あーー…、テンプレってやつか。
「そうそうテンプレってやつだよ。さぁ!異世界に行くには今の君では心許ない(まぁ、肉体能力じゃ充分アっちの世界でも強者として通用するとは思うけどね……)なら、このボクちんが三つ能力を授けてぇ~あげましょう!」
「へぇ、三つね……しけてね?てか、神様テンション高すぎ。」
「シャラップ!しけてないからぁ!ルールですからぁ~!」くわっ!(`Д´)
シュンッ!
「ッ!?」
神様が目の前に消え…「きふぃにぃふぁかるかぁい?(君にはわかるかい?)」
「うおっ!?」
消えたかと思ったら神様が真横にいた。
つい反射して殴った拳を口で咥えた神様が横にいた。
拳を咥えるとか、どんだけだよ……いや待てよ、神様だから可能か?
レロレロレロ…
「うげっ!」
ヌポッ!
気持ち悪い感触を拳に感じて慌てて神様の口から手を引き抜く。
「まぁ、君は面白そうだからプレゼントを贈るよ。儂の加護をね。」
「たく、気持ち悪いことしや…、加護ぉ?」
唾液のついた拳を服の裾でぬぐっていたら気づいたが、神様に咥えられた拳、右手の手の甲に中央に瞳がついている十字架の痣、いや刺繍が刻まれているのに気づいた。
「まぁ、はたから見たら中二病全開の痛い人に見えるけども……いいよね。」
「中二病で痛い人ってオイッ!お前絶対わざとだろ!」
なんか途中からウザさマックスな神様に幾度となく攻撃するが、クネクネした気持ち悪い動きで全部躱されてしまうので余計に腹がたつ。
「あ、ゴメン時間来ちゃった☆」
手首を見ていきなりの台詞を言う神様。
おい、手首のそれ、腕時計じゃねぇだろ。
「はい、ただの腕時計の落書きです!」(・∀・∩)
よし、殺ろう。
神様の懐に飛び込んでそのフざけた面に貫手をぶち込m…
「一名様、ごあんなーい♪」
スカッ!
俺の腕、体が神様をすり抜けた。
そう、俺の体が透けてるのに気づいた。
「いやぁ、メンゴメンゴ。ふざけ過ぎちゃったから時間内に終わんなかったから強制的に飛ばすことにしました!」
なんだそりゃ?
「三つ能力をあげといたから異世界で好きに使っちゃってぇ~」
いつの間に……
体が徐々に溶けて消えてく。
「さぁ、異世界にいく暗殺者君。向こうで楽しく踊ってきてくれたまえ!」
ああ、踊ってやろうじゃないか神様。
精々ハデに踊ってやるよ…
俺の意識は暗闇に包まれた。
(暗)「そう言えば神様。」
(神)「ん?なぁんだい?」
(暗)「神様の手違いで死んだのはわかったけど、俺の死因ってなんだ?」
(神)「あぁ~、それは」
(暗)「それは?」
(神)「神様のヒ☆ミ☆ツ♪」
(暗)「・・・よし、殺ろう。」