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尋問

9ヶ月ぶりの更新です。

 自身の装具を没収されたザウバーは、兵糧部の奥まった場所にある取調室へと連行され、そこでポールたちから尋問を受けていた。尋問といっても責め苦を受けさせるものではなく、ここで話したことは他人に口外しないことを約束する誓約書に署名した後、ポールをはじめとした兵士数人に囲まれながらザウバーたちの身に起こったことを訊かれるだけである。

 ザウバーは兵士たちに囲まれながら、自身が経験した一部始終を語り始めた。


 フィル議員から任務を受けたこと、一度任務を引き受けたが尋ねたいことがあり引き返すと既にフィル議員は殺されていたこと、そこで『ソウル舞踏団』の一員である女と交戦したこと、離れた場所にいたリーゼたちと合流したのち逃走したフィル議員殺害犯と再び戦闘になり無力化したこと――ザウバーが語った言葉は書記によって素早くまとめられていく。


「……以上が、今回俺が遭遇した出来事だ」

「そうか。だが……」

 そこまで語られたのを見計らい、ポールは髭をさすり釈然としない顔をした。ザウバーはにわかに胸騒ぎを覚える。

「あの倉庫の爆発については知らないのか? 何か知っているような感じがしたんだが」

「そのことなんだが」

 ポールの言葉を遮るようにしてザウバーが声を出す。そして訝しむポールをじっと見つめ始めた。

「……どうした?」

「ここから先は、あんたと二人で話したい」

 取調室に緊張が走った。ポール以外の兵士たちが怪訝そうにザウバーを睨みつける。しかし、ポールは軽くため息をつくだけでザウバーの態度に何の疑義も持つことはない。

「……分かった。ここは私と傭兵の二人きりにしてほしい」

「隊長!? その傭兵の言うことを信じて大丈夫なのですか!」

 一人の兵士が声を上げたが、ポールは頷くだけだ。

「皆、ご苦労だった。後のことは私に任せてくれ。その傭兵から話を訊きたいのだ」

 ポールの言に兵士たちは皆呆然としていたが、少し経つとポールの言うことに従い続々と兵士たちが取調室を出ていく。ザウバーはそれを目で慎重に追うばかりである。

 取調室にザウバーとポールしかいなくなって少し経ち、ザウバーはドアからポールのほうへと視線を移した。ポールはため息をつきながらザウバーと向かい合うようにして座る。

「……私を残した理由、純粋装具のことだな?」

 ポールの問いにザウバーは無言で頷くだけだった。彼はポールとノヴァ討伐で共闘し、純粋装具の存在、そしてそれが盗まれたという情報を共有していたため、ポールであれば察しが良いと考えたのだ。

「傭兵、いや、『白銀の弓矢』。お前たちはあの倉庫で一体何を見た?」

「……ノヴァ討伐のとき、あいつが言ってただろ? 『ネオ・ソウル』が盗まれた、と」

「まさか……」

 ザウバーの言葉に、ポールの顔が青ざめる。これから言葉を紡ぐザウバーも、苦虫を嚙み潰したような顔をして臨んでいた。


「ああ、見たんだよ。本物の『ネオ・ソウル』を」


 眩暈を覚える中なんとか話を聴こうとするポールを尻目に、ザウバーは証言を続ける。

「あれは……あの力は装具の比じゃない。あれを使われたせいで、ネオン君は死んだ。俺たちは何もできず、ただ嬲られるだけだった!」

「……お前たちの無念はよく分かった。それで、それの形状はどのようなものだった?」

 後悔と自責の念に囚われていたザウバーはポールの言葉で取調室の空気に引き戻された。短くため息をついたあと、彼は続ける。

「ノヴァが持ってたものと形はほとんど同じだ。波刃の短剣、刀身には蔦のような模様があったな。そして持ち主は『ソウル舞踏団』の団長のミラと名乗る女だ」

「ありがとう。まさか舞踏団風情がこんなとんでもない代物を所持していたとはな……他に特徴は?」

「……申し訳無いがこれ以上は分からない。あれの本気から逃げるために退却したからな」

 ザウバーから引き出せる情報がここで終わりだと察したポールだったが、ザウバーの言った『本気』という単語であることを思い出した。

「『ネオ・ソウル』の本気……か。確証は無いが、倉庫があったところで凄まじい勢いの火柱と氷の山ができていた。どちらかが『ネオ・ソウル』の力かもしれんな……」

 ポールはあの光景を見たことを鮮明に覚えている。離れていても身体を刺すような感覚に囚われてしまうほどのマイアの密度を、忘れるはずはない。

「火柱……? 氷の山……?」

 ザウバーはポールの言葉に引っかかっていた。その場には『ネオ・ソウル』の主であるミラの他にコウもいたはずだと。そしてミラが語るには、コウは純粋装具を持っていると。そしてザウバーはある可能性を考え、顔面蒼白となった。

――まさか、コウが……。

 様子がおかしくなったザウバーを見たポールは怪訝な顔で彼に視線を送った。

「どうした、傭兵。まだ何か知ってるのか?」

「……いや、それは知らない。『ネオ・ソウル』にそんな力がまだ残っていたなんて……」

「尋常じゃない量のマイアだった。慄くのも無理はないだろうな……」

 なんとかその場を誤魔化したザウバーだったが、心中に不安はずっしりと残っていた。


 ザウバーはポールの話を聴き、コウが純粋装具の何らかの力に目覚めてしまった可能性を考えてしまった。そのことが政府や軍部の人間に漏れれば、コウも何をされるか分かったものではない。ネオンを政府に引き渡してしまった経験から、コウに悲しい思いをさせないように『白銀の弓矢』から彼を引き離さないと決めたのだ。


「お前に訊きたかったことはこれで終わりだ。傭兵団の処分については我々の管轄外だから、後の指示は政府の人間に従ってくれ。あと装具を返却するから、私についてきてほしい」

「……分かった」

 ザウバーとポールはそれぞれ不完全燃焼のまま取調室を出た。二人とも、これからどうすればいいのか手探りの状態で歩みを進めていた。



 

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