離散
お久しぶりです。大変お待たせ致しました。
コウとミラが繰り広げた壮絶な戦いの勢い、そしてその終焉は、遠く離れていたザウバーとミゼも感じ取っていた。コウとミラが戦っていたところからかなり離れているはずなのに、二人は尋常ではない量のマイアを直に浴びているかのような錯覚に陥っている。並みの装具ではとてもそうはならない――ザウバーは戦いが終わりミゼを捕縛できてはいたが、別の恐怖を覚えていた。
「……どうやら、終わったようですわね」
地面にうつ伏せになってザウバーに銃を突き付けられながら、ミゼは苦し気にこぼす。彼女の言葉に、ザウバーは一瞥するだけだ。
「あなたのお仲間は……きっと団長に殺されてるでしょうね……」
「黙ってろ」
ザウバーは一言だけ言って、ミゼに妨害用の銃弾を数発撃ち込んだ。弾丸はその場で閃き、ミゼの拘束時間をさらに伸ばす。呻くことしかできないミゼを、ザウバーは冷たい目をしながら見下ろす。
「あいつは生きてる。確実にな」
ザウバーの言葉は、決して強がりからくるものではなかった。彼が感じ取ったマイアから推測したのである。
ザウバーは、彼が初めてコウと出会ったときに感じた気色の悪い感じよりも、もう一方の今まで彼が感じ取ったことのない激しいマイアの方が早く消えたことを感知していた。彼はそのことを、コウがミラを倒したと解釈したのだ。
「さて――」
ザウバーが独り言ちると、ミゼに銃口を突き付けながら彼女の顔の方へしゃがみ込む。
「もうじき国軍の奴らがこっちに追い付いてくるだろう。そしたらお前を軍に引き渡してやる。軍にはたっぷり尋問されるだろうな」
「……私がしゃべると思いまして?」
「そんなのは関係無いだろうな。何をしてでも吐かせるだろうさ」
脅しにも近いことをミゼに忠告した後、ザウバーは立ち上がり遠くを眺めた。
すると、遠くから大勢の足音が聞こえ、大量の人だかりが見え始めた。ザウバーは心中で安堵し、ミゼに銃を突き付けながら『彼ら』の到着を待つ。
そして、彼らは現れた。ポールを先頭とした国軍の大部隊だ。彼らはザウバーとミゼを見つけるや否や、銃を構えて二人を囲い始める。
「……こんなに大人数とは聞いてないが、やっと来たな」
ザウバーが呟くと、ポールが手振りで後ろの軍隊を静止させる。そしてポールがザウバーのもとに近づき始めた。
「あんたは……あのときの」
「その話はするな。それよりも訊きたいことがある。ここに倒れてる女が、フィル・キャマー議員殺害の犯人か?」
ポールに問われ、ザウバーは首を縦に振った。
「こいつは俺の装具の力で動けなくしている。できるだけ早く拘束してほしい。あと、こいつの装具は耳飾りだ。外して無力化した方がいい」
「分かった」
ポールは二つ返事で了解すると、数人の兵士に指示しミゼの両腕と両足を縄で縛って拘束したのち耳飾りを乱暴に外した。そのせいか、ミゼの耳たぶから出血が見られた。
「連行しろ」
ポールが身動きの取れないミゼを連れていくように兵士たちに指示した。力なく兵士たちに運ばれる中、ミゼは恨みや怒りに満ち満ちた目でザウバーを睨みつけることしかできなかった。
そしてザウバーは、彼の二挺の拳銃を地面に置いた。その光景を見たポールがこくりと頷く。
「勘がいいな。勿論、お前にも来てもらう」
「ああ。俺が見てきたこと、やったこと、全て話すさ……とその前に、一つ訊きたいことがある」
「なんだ?」
周りの兵士たちに銃を突き付けられて取り囲まれている中、ザウバーは尋ねる。
「俺の仲間がもう三人いるんだが……見てないか? 一人は剣を持った女の子。一人は剣を持った男の子。あと一人は……小さい男の子だ、血だらけの」
その問いを聴いたポールはバツの悪そうな顔をした。
「血だらけの男の子は我々が保護したよ。……残念ながら、既に亡くなっていたがね」
その言葉を聞き、ザウバーは表情を歪ませる。ネオンを守ることができなかった――その事実のみが、彼の心に深く突き刺さる。
「あと、その子と一緒にいた女の子なんだが……」
「……あいつが、何を?」
ポールは申し訳なさそうな表情を崩さない。
「あの子は我々の制止を振り切ってどこかへ行ってしまったのだ……」
ザウバーは茫然とした顔でポールを見つめる。そんな中でポールは続ける。
「そしてあと一人だが……我々が議員殺害の犯人を捜索している中では見つからなかった」
「見つからなかったって? あの倉庫があったところも?」
「我々があそこに近づけるわけがないだろう。お前も感じたはずだ、尋常ではない密度のマイアを」
ザウバーはポールの言葉に納得せざるを得なかった。彼ですら恐怖で身じろぎしそうなほどのマイアが放出されている爆心地のような場所に、国軍の並みの兵士たちが近づけるはずもない。
そしてポールが数名の兵士を引き連れて、落胆しているザウバーに歩み寄る。
「質問には全て答えた。では、お前にも来てもらおう」
ザウバーはポールの言葉に大人しく従い、兵士たちに拘束されて歩き始めた。ポールはザウバーの装具を拾い、兵士たちを連れてザウバーを連行する。
「その装具は丁寧に扱ってくれ。万が一壊しでもしたら……その時は分かってるだろうな?」
ザウバーの言葉に周りが緊迫した雰囲気に包まれるも、ポールは顔色一つ変えずに頷いた。
「無論だ。もしもの時を考えてるのでな」
兵士たちに連行される中、ザウバーの心中は暗澹としていた。ネオンが死んだことを聞かされ、リーゼとコウの行方が分からなくなってしまったのだから無理もない。更に『白銀の弓矢』の今後のことも未だにハッキリとせず、彼はまるで明かり一つ無い真っ暗闇を歩いているかのような気分になっていた。
『白銀の弓矢』は、思いもかけない出来事でバラバラになってしまった。