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会議の行方

 議事堂の中にある会議室の中で最も奥まった位置にある部屋には、数十人の議員らしき男たちが険しい表情で円卓の周りに座っている。その中にはジェイやジェラルドの姿も確認できる。彼らの前には数十枚の書類が積まれており、そこに書かれていることに焦燥しているような雰囲気を漂わせている。

「諸君らに集まってもらった理由は分かるね?」

 張り詰めた空気の中、黒い議会用の服を身にまとっている白髪をオールバックにした老人が口を開いた――シューメルの大統領、ヴェルゴ・ジレである。返事をする者は誰もおらず、一様に険しい表情を崩さない。

「ここにある資料には当然目を通しているだろう」

 議員たちの手元にある資料には、レノがルシディティで起こした事件について、アイドで起こったノヴァの騒動について、そして以前から起こり続けていた土人形によるマイアの研究所襲撃事件について記されている。

「現在我が国の純粋装具は、現在も続いている発掘作業で見つかっていないものを除いてほとんどが行方知れずだ。この資料が正しければ、そのうちの一つ、《ネオ・ソウル》という名前のものは八年前に既に他者の手元にわたっている。そして……」

 少し間を置き、ヴェルゴが話を続ける。


「土人形どもによって、研究所内の純粋装具は破壊された、もしくは奪われた」


 資料に書かれている資料によると、マイアの研究所では一棟につき一つの純粋装具が厳重に保管されている。それらが研究所の跡地から消失していたのだ。

 その事実を重く受け止めているかのように、室内は静まり返る。それでも、ヴェルゴのぎらついた目つきは変わらない。


「これから、これらの騒動の対策ならびに今後の純粋装具に関することについて決めたいと思う」


 ヴェルゴの一声で、室内の空気が一気に張り詰めた。ヴェルゴが周りを監視するようにして目を動かす。

「今回の一連の研究所襲撃事件の目的は、この被害状況を見るに純粋装具の強奪もしくは破壊だろう」

「……だが何故そんなことを」

 蓄えた口ひげをいじりながら困り果てたように言ったのは、シューメルの兵糧部長官、カリム・ハムリンだ。困惑している彼を、ジェイは横目で見つつ眉間にしわを寄せている。

「この国に対する反乱でしょうな。理由は見当もつきませんが」

 ジェイの言葉に、その場の者が一斉に彼に注目する。

「……考えられるとしたら、それくらいか」

「ええ。レノとかいう傭兵が純粋装具目当てに動いたのも、土人形の事件と何か関係があるでしょう」

 ジェイが書類をつまみ上げてひらひらと見せつける――この書類の中には、レノが依頼主に頼まれて純粋装具をベリアル山で捜索していたことまで詳細に書かれている。

「レノは純粋装具を捜索していたが、その後のことは何も知らないと言っていました。『真っ白な装具を探せ』という指示は出ていたようですが、具体的にどのような純粋装具を探せという指示は出ていなかったそうです。現在も尋問中ですが、現時点で分かっていることは書類に書かれていることだけです」

 ジェイの報告に皆が頷くと、カリムが書類をめくり始めた。

「この資料によると、レノが吐いた依頼主の名前は『クオーレ』という女だそうだが……、そいつも土人形の事件と関係あるという線は?」

「土人形についてはまだ何も分かっていませんが……純粋装具絡みの事件に関わっている以上、目をつけなければなりませんな」

 ジェイの発言に、カリムは唸りながら頷いた。

「クオーレの特徴はまとまってるな。国を挙げて指名手配した方が良いだろう」

「それがいいですな。罪状は……ノヴァが起こしたマイアス強奪を計画し傭兵どもをけしかけた犯人ということにしておけば国民も納得するでしょう。国民の生活を脅かす危険因子として。我々にとっては、純粋装具強奪もしくは破壊の犯人として」

 カリムの提案にジェイは賛同し、それに追随するようにしてほかの男たちも肯定の声をあげる。ジェラルドは険しい顔をしているものの、その案にはうなずいていた。


 ノヴァが傭兵たちに依頼してマイアスを強奪させ、そのマイアスを純粋装具を創り出すために用いたことを国民に知られては上層部たちが大いに困る。しかしその騒動は新聞によって大きく取り上げられたため、今更もみ消すと逆に不審に思われてしまう。

 そこでマイアス強奪の目的として、国民の生活を著しく脅かすということを前面に押し出せば、何も知らない国民たちはひとまず納得してこの指名手配を受け入れると考えたのである。この騒動に関わった軍人たちは口止めされる予定であることもジェイは把握済みだ。


「では指名手配は内政部に任せるとしよう」

「かしこまりました」

 ヴェルゴの言葉で、『クオーレ』という女性が指名手配されることが決まった。それを内政部の人間と思われる男が承諾する。

「では次に、今後の純粋装具の発掘についての話だが、正直私だけではこの事項は決められない。この状況で発掘調査を続けるか否か、意見のある者は?」

 議題は別のものに移った。純粋装具の発掘に関する話題になると、ジェイの目の色が変わった。彼が挙手をすると、ヴェルゴがそちらを向く。

「我々兵糧部は、純粋装具の発掘調査を継続すべきであると考えます。この未曾有の事態の中、奴らよりも先に純粋装具を見つけて国で保護することが重要です。レノが起こした事件は現在閉山しているレアフォーム山で起こりましたが、そこのような国軍すら立ち入り禁止の場所でも監視も兼ねて再調査されるべきです」

「副長官はそのような意見だが……、カリム長官、これは兵糧部全体の意見なのかね?」

 続いてヴェルゴはカリムに目を向けた。

「はい。これは兵糧部の総意であります。このような危険な事態の中、抑止力は必要だと考えました。研究所はことごとく破壊されてしまいましたが、今回は必ずや連中より先に純粋装具を保護し、我が国を脅威からお守りいたします」

 カリムの答えにヴェルゴは頷き、ジェイがほくそ笑む。

「他の者の意見は?」

 ヴェルゴが言うが、周りは兵糧部に対して肯定しかしない。誰もがこの状況を危機的だと感じているのである。そのうえ、他に対案を持ち合わせていない。兵糧部の意見に従うほかなかった。

「では、一時中止していた国軍や学問部による純粋装具発掘調査を再開させ、閉山している鉱山における発掘調査を解禁する、ということで決定しようと思う。異論のある者は?」

 ヴェルゴが決めた事項に、異論を唱える者はいなかった。

 こうして、純粋装具の保護と鉱山の監視という名目で発掘調査の再開が決まった。それが決まると、会議は終了となった。



 会議が終わると、ジェラルドは不服そうな顔で会議室をあとにしようと歩き始めた。

「ジェラルド議員」

 後ろから、ジェラルドを呼び止める声が聞こえてきた。彼が振り向くと、そこには勝ち誇ったような笑みを浮かべたジェイがいた。その横には長官のカリムが並んでいる。

「そんなに浮かない顔をしてどうしました? 大統領が決定したことが不服だったのでしょうか?」

「いや、そうではない……一つのことを除いて」

「一つのこと?」

 何やら含みがあるジェラルドの言葉に、カリムが疑問を持つ。

「閉山している鉱山を開けることです」

 ジェラルドが言うと、ジェイの笑みが消えた。

「現在閉山している鉱山はレアフォーム山だけですが……十年前()()()()が起こった場所を開けるのでしょうか」

「……ジェラルド議員」

 カリムはジェラルドに対して申し訳なさそうな表情で説明し始めた。

「私はこの軍人不足の中で傭兵を使うことは賛成だ。だが今は国軍の番だ。鉱山での発掘作業は傭兵に任せることはできない。今回のことは我が国の軍に任せてほしい。それに、純粋装具が失われた今、新たな力を手に入れることが急務だ。心配する要素はあるだろうが、あの事故が再び起きないように万全の対策を期すことを約束しよう」

 カリムの説得に、ジェラルドは渋々といった感じで頷いた。それを見たカリムはほっとした表情を浮かべると会議室を出て行った。それを一礼して見送ったジェラルドとジェイは再び向き合う。

「あの事故がそんなに気になるのですか?」

「君がそれを言うか」

 うんざりしたような口調でジェイが言うと、ジェラルドが彼をにらみつけた。

「あの事故の被害者にその時の長官である君の父がしたこと、そして今でも君たちが行い続けていることを考えてそれを言っているのか?」

「今行っている『実験』は、今の状況にこそ必要なものです。戦力が足りず傭兵に依存し、さらに純粋装具の強奪もしくは破壊まで起こってしまった。今のような切羽詰まった事態になるのは予想できませんでしたが、その状況を打開するために我々の計画は必要なのです」

 ジェイの口角が上がるが、ジェラルドは彼に対して怒りの視線を注ぐのを止めない。

「『実験』はようやく最終段階まできました。被害者たちには我が国の発展のために犠牲になってもらいました。今でも生き残っている被検体には十年間頑張ってもらいましたが、あと少しで処分する予定です」

「まだ過ちを続けるつもりか!?」

 ジェラルドの怒りの声は小声だが、ジェイを威圧しようという威厳は存在した。しかしジェイはそんな言葉など意にも介さず笑みを浮かべ続ける。

「過ち? このままいけば確実に我々の『実験』は成功しますよ。そもそも、一体何が『過ち』なのですか? これが成功すれば、我が国の軍事力は大幅に強化される。傭兵も不要になる。貴方が我々を必死になって止めたことこそ『過ち』だったと証明してみせましょう」

 平然と言い放つと、ジェイは笑みを浮かべたままジェラルドを横切って会議室を出て行った。


 ジェラルドはその場で肩を震わせて立ち尽くすことしかできなかった。



 

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