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Collapse --Replicated Errors--  作者: XICS
突き止めよ
35/76

訓練の成果

 リーゼがビストに啖呵を切った後は、四人全員が睨みあって動かなくなった。互いに相手の出方を窺っているのである。

 その中で、リーゼだけが焦っていた。

 先程の攻撃を受け止めそこから反撃に転じることはできたが、彼女はビストの一撃を食らって、局所的なマイアで防御しても尋常ではない衝撃を感じていた。非力な彼女は、この大男が振るう巨大な武器の一撃を受けることは何としても避けようと考えた。

――体力を結構使っちゃうけど……、この方法を取るしか……!

 リーゼは口を真一文字に引き締め、ファルシオンを強く握りながら自身の足部に意識を込め始める。

 すると、彼女の両足が光り始めた。それを見たビストが再び大斧を振りかぶる。

「食らえ!」

 ビストが斧を横に薙ぐと、大きく弧を描いた風の刃が放出された。リーゼを両断しようと、砂埃を巻き上げて直進する。

「くそっ」

 ザウバーが刃に向けて光弾を発射する。リーゼへの攻撃を防ぐためだ。


 しかし、刃はリーゼに当たらず、彼女は石畳に足跡を残してその場から消えた。刃はザウバーの放った弾とぶつかり、光の壁に阻まれてその場で消え去ってしまった。

「消えた……?」

 ビストとミアータが警戒していると、それは瞬時に訪れた。


 リーゼは一瞬でビストの懐まで接近し、彼の胴に向かって斬りかかろうとしていた。しかも、マイアを器用に刃の面にのみ張っている。

「うおっ!?」

 ビストはリーゼの攻撃を大きく跳躍して後退し免れた。しかし、彼女の攻撃は終わらない。

 彼女が地面を蹴って方向転換すると、今度はミアータの方へと突っ込んで刃を振ろうとする。ミアータはそれに気付くと杖を前方に向け、防御壁を張って間一髪のところでリーゼの剣戟を防御した。ぶつかり合った場所から火花が散り、両者が弾かれる。

「今だ」

 その隙を、ザウバーは見逃さなかった。すぐさまミアータに照準を定め、二挺拳銃から光弾を発射する。防御壁は前方にしか張られていない。側面から攻撃することで相手に攻撃が通るのではないかと彼は考えていた。その好機が今訪れたのである。

「ちいっ!」

 ミアータは舌打ちをしながら着地し、杖を振って一発の大きな火炎弾を発射した。それは二つの光弾を呑みこむほど大きく、ザウバーの攻撃は火炎弾によって防がれてしまった。

 炎の弾と銃弾がぶつかり合った瞬間、炎が破裂して銃弾と相打ちになると同時にジグザグな光が放出された。それはミアータの方まで伸びるが、彼女は後退して避けることができた。着地すると、再び両陣営が睨みあう。

「……あんた、私を殺す気無いのね」

 ミアータがため息をついてザウバーに声をかけた。

「どうして分かった?」

「貴方の攻撃から殺気を感じられなかったから。ただそれだけ。殺す気でいかなきゃ、私たちは倒せないよ」

「結構だ。俺たちはお前たちを殺すつもりはない。ただお前たちにはそこをどいてもらう。俺たちは任務を遂行するだけだ」

 ザウバーがきっぱりと言い放つと、ミアータは肩をすくめてビストと顔を見合わせた。しかし、ビストの方は満足しているかのような笑みを浮かべている。その視線は、リーゼの方を向いていた。

「でも、このお嬢ちゃんの攻撃にははっきりとした何かを感じたぜ。最低でも殺気ではねえけど、久々に楽しい戦いになりそうだ!」

「さっきも言ったけど、私たちはこの戦いを楽しむ気はない。あんた達を無力化して、コウに追いつく」

「つれねえなあ……。でも――」

 そう言うと、ビストは路面を蹴りだしてリーゼの方へと突進した。

「お前らが倒れるまで、この戦いには付き合ってもらうぜ!」

 俊敏な動きにリーゼは一瞬困惑するが、彼女が立っていたところが大斧の刃で穿たれた時にはそこから姿を消していた。ザウバーもその威力に思わず後退する。

 ビストは消えたリーゼを目で追おうとするが、見つける前にミアータが彼の名を叫んだ。

 ビストが振り向くと、そこにリーゼがいた。マイアを足部に集中させ、脚力を増加させて彼の後ろへと回り込んだのである。

 そのまま彼女はマイアを纏わせずに刃を頸部に向かって振るうが、ビストは斧を振るってその一撃を防ぐ。両者の間で甲高い音が響き渡り、リーゼは一回斬りかかっただけで後退する。

 瞬時に移動したリーゼに気を取られているミアータを、ザウバーは見逃す筈が無かった。すぐに銃口を彼女に向け、鋭い音を伴って発砲した。気配に気が付いたミアータも、杖の先端を光らせて二つの火炎弾で応戦する。両者がぶつかると、くぐもった音を出してぶつかった地点で爆発を起こした。灰色の煙が辺りに満たされ始める。

「まだまだ!」

 ザウバーは引鉄を引き続け、マイアの弾を乱射し始めた。弾の勢いで煙が晴れ、無数の光がミアータを襲う。

「……くそが!」

 ミアータが毒づくと、彼女の杖の先端にロウソクのように火が灯った。

――奴は私を殺せない……。ならば!

 ミアータが杖を握る手に力を込める。

 すると、杖の先端に灯っている火が突然勢いを増し始めた。ミアータが雄叫びを上げて杖を左から右へ振ると、炎は鞭のようにしなって、彼女へ殺到する弾丸を薙ぎ払って消し去ってしまった。マイアの弾は大半は防御用の弾であり、炎に触れた瞬間に破裂して光の粒子の壁を形成する。妨害用の弾は一部だったが、それらも含めて全て炎で焼き払われてしまった。

「あんたの狙いは全てお見通し! これくらいのマイアの量なら、簡単にかき消せる!」

「……これは凄い」

 ザウバーが素直に感心していると、炎が止まったタイミングを見計らってビストが飛び出してきた。ザウバーを叩き潰さんと、ビストの大斧の刃が鋭く光る。

 無鉄砲に突っ込んでくるビストへ、ザウバーは銃口を突き付ける。引鉄が引かれて弾が射出されようとするが、その前に強い力で彼の手から二挺拳銃が弾かれてしまった。

 ザウバーが驚愕してミアータの方をちらりと見ると、彼女は得意げな顔で彼を睨んでいた――ミアータが銃弾ほどの大きさ炎の弾を射出し、ザウバーの銃を狙い撃ちしたのだ。二挺の拳銃は乾いた音を立てながら虚しく石畳へと落ち、彼の手を離れてしまう。

「死ね!」

 斧の刃は、ザウバーの脳天へと向けられている。後は目の前の奴の脳漿と血液が飛び散るのを待つだけだ――ビストとミアータは勝利を確信していた。


 その時、ミアータは呆気にとられたような顔をしてその光景を見た。

 ビストの斧の軌道が変わったのだ。

 斧の刃はザウバーを直撃せず、彼の右横の路面に突き刺さった。その衝撃でザウバーは吹き飛ばされたが、致命傷は免れ空中で一回転して無事に着地に成功した。


 リーゼが必死の形相でビストの大斧の柄を、マイアを集中させたファルシオンの先端で突き飛ばしたのだ。


「……まさか、お前に命を助けられるとはな」

「ザウバー! 大丈夫!?」

 呆気に取られているビストたちを尻目に、リーゼがザウバーの二挺拳銃を回収しつつ彼に駆け寄る。彼女は涙目になっており、彼が助かって腰が抜けそうになるほど安堵している――腰を抜かしている暇など無いと彼女は根性で耐えているが――。ザウバーは瓦礫が身体中にぶつかっており、頬には切り傷が見られるが、大した損傷は負っていない。

「訓練の成果が出たな、リーゼ」

「……死にかけたのに、どうして笑ってられるの? 私は全力で助けに行ったんだよ!?」

 泣きそうな声で喚き散らすリーゼの頭を撫でるザウバーは、彼女の言う通り死ぬ可能性があったのにもかかわらず微笑んでいた。

「お前が強くなったことが嬉しいんだよ」

 ただ、訓練の成果が出たことを嬉しがっているのである。



 ――リーゼは訓練の際に、マイアの制御を行っていた。一刻も早く装具を使いこなすために毎日毎日ファルシオンを握り、時にはコウと手合わせをして己の技を磨いていた。

 しかしそれでも、彼女の体力ではファルシオンの刃全体にマイアを張りそれを維持することは困難だった。制御までは上手くいくのだが、大量のマイアを制御するための体力は尋常ではないほど必要であり、体力を使い果たして倒れてしまうことがしばしばあった。

 そこでザウバーは、訓練の方針を変えた。相手の攻撃が当たる部分、もしくは自身が相手に攻撃を当てなければいけない部分のみにマイアを張り、途切れないように制御するように提案したのだ。これならマイアを使うのは一瞬で済むし、マイアを制御する体力も節約できると踏んだのである――それでも、局所的にマイアを張ることは相応の技術が必要であるが――。

 更にザウバーはリーゼに、節約できたマイアを足部に纏わせて機動力を高める方法を提案した。体力はその分使ってしまうが、リーゼの戦い方を決定づけることにおいては重要だった。

 彼女は早速ザウバーの提案に乗り、訓練を続けた。

 何度も何度もコウに斬りかかってもらい、相手の攻撃をマイアを使って受け止め、時につばぜり合いをし、コウに攻撃するときはどこに打ちつけるかを考えてファルシオンを振った。足部へマイアを集中させる訓練は中々上手くいかなかったが、任務で呼び出される直前にはほとんどものにしていた。

 リーゼは、この短期間でマイアを自分のものにできるようになっていた。しかし彼女はまだ満足していなかった。皆のため、村のためにより強くなろうと、今でも強くなることを試みているのである――



 リーゼは涙ぐみながらザウバーに二挺拳銃を渡すと、ザウバーは再びそれを両手に構えた。

「ザウバーがいないと、この傭兵団は成り立たないんだからね」

「それはどうかな? 案外俺が死んでも、今のリーゼなら引っ張っていけるかもしれないぞ?」

「不吉なこと言わないでっ」

 リーゼが大声でたしなめると、ザウバーは一笑いした後一言だけ謝罪の言葉を入れた。

「さて……」

 その瞬間、ザウバーは刃物のような鋭い目つきをビストとミアータに向けた。その視線に彼らは怯むどころか不敵な笑みを浮かべる。

「街はできるだけ壊したくなかったんだが――」

「……ザウバー?」

 味方である筈のリーゼがザウバーに向けて畏怖の目線を向けるが、彼は気にしない。

「リーゼ。今度は全力で行く。街が傷付こうがどうだろうが関係ない。お前はお前の全力を出せ。それだけだ」

「分かった!」

 リーゼが頷き、正面を見る。彼女の目には、既に装具を構えている二人がいる。

「そうこなくっちゃな! 殺し合いをしようじゃねえか!」

「言ったはずだ。殺し合いをするつもりはない。お前たちが死なれちゃ困るからな。俺たちは全力でお前たちを無力化する」

「……私たちは、絶対負けない!」


 最後にリーゼが叫ぶと、四人が一斉に動き出した。



 

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