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Collapse --Replicated Errors--  作者: XICS
駆除せよ
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異変

 ネオンが引き起こした光の膨張、そして爆発は、離れて戦闘しているザウバーとコウも気付いていた。衝撃は二人と『ドラゴン』を巻き込み、戦闘の流れを断ち切った。

「今のは……何だ?」

 ザウバーは爆発が起こった方向を凝視していた。マイアを持っていないリーゼが起こしたとは考えられないし、レノも起こせる力があるのかどうか怪しい、ネオンは――彼が考えを巡らせていると、何か重いものが地面に落ちる音が聞こえた。

 ザウバーがその方向へ振り向くと、コウが頭を抱えてうずくまっている姿が見えた。ザウバーは目を丸くして彼の方へと駆け寄る。

「コウ!」

 コウは苦しそうに息をしながら頭を抱えていた。何故ここで彼を苦痛が襲ったのか、ザウバーには理解できなかった。

「大丈夫かっ!?」

「……大丈夫。ちょっと……頭が痛いだけ……」

 大丈夫と言いながらも、コウは目を強く瞑りながらザウバーの方を見ようとしない。強がりなのは火を見るよりも明らかだ。

 よりにもよってこんな時に――ザウバーがコウの背中を擦りながら、苦悶の表情を浮かべて『ドラゴン』がいる場所を見る。攻撃の動作に入っていてもおかしくない。

 しかし、ザウバーの想定は外れた。

「……何?」

 『ドラゴン』は、死んでいるかのように動きを止めていた。口を開けっ放しにし、視線は明後日の方を向いている。先程の爆発で怯んだのかとザウバーは考えながらも、彼は口角を上げる。

――今が絶好のチャンスだ!

 ザウバーは動きを止めている『ドラゴン』の顔に向けて銃を構える。その銃口は、『ドラゴン』の目を向いている。硬い鱗に覆われている皮膚に攻撃してもだめなら、剥き出しの部分に攻撃すればよい――ザウバーは戦いの中で結論を導いていた。

 そしてその好機は現れた。いつ動いてもおかしくない『ドラゴン』には、今攻撃を与えなくてはならない。

 しかし、彼の横には未だに動けないコウがいる。そのことが、彼の引鉄を引く指を動かさないでいる。

 目を撃って命中すれば『ドラゴン』は必ず暴れる。その時にこの状態のコウをどうすればいいのか――ザウバーは動けずにいた。

 しかし、迷っても居られない。ザウバーは心を鬼にしてコウの肩を揺さぶった。

「コウ! 今がチャンスだ! お前も動いてくれ、頼むっ」

 ザウバーがコウを揺さぶり続けていると、コウがまるで夢から覚めたかのようにザウバーを凝視し始めた。

「……うん。……頑張る」

 目をパッチリと開けて、コウは頷きながら答えた。ザウバーは微笑んで頷くと、すぐに『ドラゴン』の方へと向き直る。コウもすぐにブロードソードを構え、いつでも斬りかかることができるように準備している。

 すると、『ドラゴン』の喉から唸り声のような音が出始めた。もう時間が無いと悟ったザウバーは、覚悟を決めた。

「食らえ!」


 二挺拳銃の引鉄が引かれる。

 刹那、発射されたマイアの弾は、風を切って『ドラゴン』の両目を潰していた。


 『ドラゴン』の金切り声が、べリアル山にこだました。




 爆心地の周りには、三人がぼろ布のようになって倒れていた。

 リーゼは爆風で吹き飛ばされ、砂まみれの状態で倒れている。爆発の衝撃で頭を打ったのか、額から血が流れている。それでも彼女は苦し気に息をしながら立ち上がった。

 全てはネオンがどうなってしまったのかを確認したい一心からだった。彼女は目をこすってぼやけた視界を正すと、真っ先にネオンの方へと向かっていく。その足はふらついているが、彼女は転ばずにネオンの方へと向かうことができた。

 ネオンは眠っているかのように目を閉じ、その場から動かない。彼の首飾りは既に輝きを失い、何も反応しない。ぐったりとした彼の身体にリーゼは寄り添う。

「ネオン君……起きて……返事をして……っ!」

 声をかけてもネオンは起きない。リーゼの心拍数は俄かに増大した。

 息を荒げながら、リーゼはネオンの状態を確認した。首に手を添えて脈を確認すると、それはしっかりと存在した。一定のペースで弱まることなく拍動する脈を感じ、ひとまずリーゼは胸を撫で下ろした。重荷がすとんと落ちていくような感触を味わっている彼女の目からは涙が零れている。

「よかった……。まだ、生きてる――」


 その時、彼女の後方から金切り声が轟いた。リーゼがいるところからも耳を塞ぎたくなるような音量でそれは襲いかかった。

 リーゼが目を丸くして振り向くと、彼女の目には暴れまわっている『ドラゴン』とそれに立ち向かっているザウバーとコウが映った。『ドラゴン』の尋常でない暴れっぷりを見るに、彼らが一泡吹かせたのだろう――リーゼは確信し、二人に向かって微笑んだ。


「……くそが」

 リーゼが『ドラゴン』に気を取られていると、彼女の後方からレノの声が聞こえてきた。彼は咳き込みながら呻くように声を上げて身体を起こす。『ドラゴン』の悲鳴で意識を取り戻したのだ。

 彼の上着は殆ど焼け焦げており、無駄のない引き締まった肉体が露わになっている。その身体も煤けており、口からは血を吐いている。

 怨嗟のこもった目でレノはネオンを睨みつけ、既に刃が折れている短刀を握りしめる。リーゼをいたぶることはもはや二の次になっていた。

「……この、ガキぃっ!」

 レノが吠え、大地を蹴って急加速する。彼は既に折れた刃を補うために先程と同じようにマイアの粒子で短刀と彼の右手をすっぽりと覆う。

 今なら一撃で殺せる――彼はそう思っていた。


 しかし、彼の渾身の一撃は阻まれた。


「……そこをどけろ」

「どけるもんですかっ!」

 リーゼは両手でファルシオンを保持しながら、レノの加速した一撃を受け止めていた。リーゼはマイアの刃にも物怖じせずにレノを睨みつける。

「あんたのせいで……ネオン君が……っ!」

 リーゼは、レノがネオンに危害を加えたために爆発が起こり彼が気を失ってしまったと思っている。そう思い込んでいるせいか、彼女はレノへ烈火のごとく怒りを抱えている。

「言っとくけど、僕は何もしてないよ。あのガキが勝手に自爆しただけだ」

「嘘をつくなぁぁ!」

 リーゼの鬼神のような表情にレノは気圧され、無意識のうちに飛び退いていた。リーゼはファルシオンが刃こぼれしているのも気にせずレノの方へと突っ込んでいく。

「あんたは……絶対に私が倒す!」

 リーゼが叫ぶと、その直後今まで発したことのない雄たけびを上げてレノの方へと駆け出した。もはや彼女の視界には、敵しか入っていなかった。



 『ドラゴン』が目から大量の血を流しながらのたうち回っている中、ザウバーとコウは敵の暴れまわりに巻き込まれないように注意しながら駆け回る。相手に致命的なダメージを与えたとはいえ、暴れ回っている中に巻き込まれれば一巻の終わりであるからだ。

 ただザウバーは相手の腕や脚に気を付けながら動き回っているのに対し、コウは常に『ドラゴン』の頭部を見つめながら立ち回っている。コウは『ドラゴン』の頭部を再び狙うつもりでいる。

 そしてザウバーは、極力声を出さないようにしようとした。そうしてしまうと、『ドラゴン』の聴力によって居場所がばれてしまう危険性を考えたからである。そのためザウバーはコウに身振り手振りを駆使して指示を出している。

 そのサインに、コウが気が付いた。はじめはキョトンとした顔を見せていたが、ザウバーが必死に身振りを行うと徐々にそれに従うことができた。

 『ドラゴン』がでたらめに身体を動かしている様は、痛みをごまかすために他の部分を痛めつけているかのようである。めちゃくちゃな動きに、コウやザウバーは中々手を出せない。

 すると、『ドラゴン』がコウの方に向かって突進を繰り出してきた。だがその一撃は外れて、『ドラゴン』はその口が突き刺さるような体勢で地面に激突した。まるで大岩が落ちてきたかのような衝撃がザウバーを襲い、近くにいたコウにはそれに加えて瓦礫と砂埃が波のように襲い掛かる。

 ザウバーはコウに叫びそうになったが、何とか堪える。彼が凝視している中、コウはバックステップで飛び退いて瓦礫を躱す。

 そこで、コウの眼光が刃のように鋭くなった。彼は自ら砂煙の中に突っ込んでいく。視界が制限されている中、彼は剣を構えて『ドラゴン』の頭部へと一直線に駆け抜ける。


「見つけた」


 コウが冷酷にぼそりと呟き、持ちあげられようとしていた『ドラゴン』の頭部にしがみついた。剣は握ったままなので、片腕で『ドラゴン』に食らいついている。その光景にザウバーは絶句したまま動けないでいる。

 無論、『ドラゴン』はそれを黙って許してはいなかった。コウがしがみつくとすぐに吠えながら頭を激しく左右に振り始める。コウは顔を顰めながら必死に振り落とされないようにすることで精一杯である。

 コウを援護しなくては。ザウバーは二挺拳銃を構えて『ドラゴン』の左前脚へと照準を合わせた。

 敵は頭を振り回すことに集中しているので、四つの脚で踏ん張っている状態である。そこを崩せば、コウにも影響が出るかもしれないが、『ドラゴン』に隙ができるだろう――ザウバーは吠えながら全弾を目標に集中させる。彼は尾の攻撃が当たらないと踏んだ距離から攻撃を仕掛けた。

――頼む……っ! 崩れてくれ!

 引鉄が引かれ続け、光弾が『ドラゴン』の脚に当たっては霧散していく。『ドラゴン』の頭の動きは未だに止まらず、それどころか左右だけでなく上下にも振られ始めた。『ドラゴン』は自身の下顎が地面に勢いよく当たっても動きを止めない。もはや痛みなど関係なく、パニックになっているのだろう。

 それでもザウバーはコウに気を付けながら引鉄を引き続ける。マイアの弾が高速で射出されていく中、彼は同じ場所に当て続けようと調整している。一点集中すれば、どんなに硬い鱗だろうと貫ける筈だ――そう願い、神経を集中させて一点を狙い続ける。


 その直後、何かが割れる音がザウバーの耳に入った。

 ザウバーの口角が上がり、『ドラゴン』がバランスを崩して左側に崩れ落ちる。砂煙を巻き上げながら、コウとともに頭が地に付く。


 ザウバーが弾を当て続けた部分は鱗が割れ、赤黒い皮膚が剥き出しとなっていた。


 『ドラゴン』の頭が地に付いた衝撃でコウは振り飛ばされたが、空中で態勢を整えて無事に着地する。それを見届けたザウバーはコウに向かって笑いかけた。

「今だ、コウ!」

 ザウバーに向かって無表情で頷いた後、コウは未だに悶絶している『ドラゴン』に向かって全速力で近づく。

 コウはブロードソードの先端を『ドラゴン』の目があったところへと向ける。彼の足は止まらない。

 そして、その時はきた。


 コウが前につんのめると、刃は『ドラゴン』の眼窩にすっぽりと入っていた。深く、深く突き刺さっている。


 『ドラゴン』は少し呻くと、糸が切れたように動きを停止してその身体を地面に呆気なく落とした。眼窩からは涙のように血が流れ出ており、コウの手を濡らす。


 コウが剣を引き抜くと、ザウバーは脱力したかのように腰を下ろした。コウは剣を鞘にしまい、ザウバーのもとに近づいてくる。

「……終わったな」

「うん」

 感慨深げに話すザウバーと、対照的に相変わらず無表情のコウ。そんなコウにザウバーは苦笑し、コウの手を取って立ち上がった。

「あとは……」

 ザウバーの笑みはすぐに消える。彼の目は、遠くで戦っているリーゼとレノに向けられている。コウも同じである。

「行こう。リーゼとネオンを助ける!」

「分かった」

 二人は休むことなく次の戦場へと走り出した。



 彼らが去った後は、『ドラゴン』の死体のみがひっそりとその場に残された。




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