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魔王と勇者の出逢い方  作者: 行方不明
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火災と救済/奇跡を下さい

燃え盛る炎を、初めて恐ろしく感じた。


魔王「くうっ……」


被さる重い瓦礫によって、体を動すことは困難。


魔王「まさかこの私が、後悔する日が訪れようとはな」


脳裏に浮かぶ、愛妻と愛娘と愛蟹。


魔王「憎き奴に言われた通り、正義を改めるべきだったか」


爆発の衝撃や煙によって体は弱り、魔法は使えない。


魔王「魔王の最後がこれとは……いや、案外こんなものか」


閉じられる視界。


魔王「ふんっ、実に哀れなものだ……」


薄れゆく意識。


魔王「…………」


静まりゆく鼓動。


勇者「魔王」


しかし。


魔王「!」


魔王の世界は終わらなかった。


魔王「勇……者?」


勇者「行くぞ」


勇者の肩を借り、最後の力を振り絞る。


魔王「なぜだ?」


勇者「知るか」


魔王「…………」


勇者「ひとつだけ言っておく」


魔王「なんだ?」


勇者「愛する家族に会ったら、ちゃんと笑えよ」


魔王「勇……っ!」


迫る黒煙を抜けると、魔王の体はそのまま地面に倒れた。


魔王「ここは……外か?」


目に映るは美しい星空。

冷たく新鮮な空気が魔王の体を一瞬で巡り、意識がハッキリと甦った。


魔王「…………」


そこへ駆けつけ迎えたのは、涙を流す家族達。


魔王「平気だ」


そう笑顔で返すと、家族に支えられながら、重い体をなんとか起こして辺りを見回す。


魔王「…………」


だがしかし。

囲み溢れる生き物のなかにも、背後で燃え盛る瓦礫の前にも、求める姿はなかった。


魔王「ありがとう」


この時口にした感謝の言葉は、後にも先にも、私の生涯でこの一度きりである。

そしてこの奇跡を、私は忘れたことはない。


花に包まれた、ひときわ立派な墓の前で、いつも思い出すからだ。

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