世界は続くよ、どこまでも
私達は何度巡り逢ったろうか。
戦い、助け合い、分かりあい、すれ違い、恋したり、意地悪したり。
その物語に最期はなく、私達は何度でも巡り逢った。
*にぎわい商店街
魔王「勇者」
勇者「あ、ども」
*バリカン大好き理髪店
魔王「バリカンは無しで、短く整えてください」
勇者「あいよ……魔王?」
魔王「カツラ?」
*五センチメートルの踏切
勇者「魔王!」
カンカンカンカン……!
魔王「…………」スタスタ
勇者「魔」
ガタンゴトンタタントトン……。
勇者「…………」シュン…
タン……ウィィーン。
魔王「ゆーしゃ!」キャピ!
勇者「魔王!」タタッ!
*爆発卵の像の前
魔王「あの、いさむさんですか?」
勇者「おお、みやびちゃ……魔王」
魔王「勇者」
*魔界美術館
魔王「勇者」
勇者「魔王」
魔王「なんで?」
勇者「あ、この絵。俺の叔母さんが描いたんだ」
魔王「じゃあ勇者魔族?」
勇者「……さあ」
*デプァートのエスカレーター
勇者「魔王」すー
魔王「勇者」すー
勇者「待てー!魔王ー!!」すー
魔王「待てませーん!」すー
*勇者の花壇
勇者「ふんふんふーん♪」
うわー!
勇者「空から女の子!?」
魔王「着地」
勇者「お花さん……」
魔王「あ!ごめんなさ……勇者見っけ!」
勇者「魔王!?」
*油揚げ合コン
勇者「遅れてごめんねー!」
魔王「勇者」
勇者「帰りまーす」
*広野の戦場
勇者「サボテンをくらえい!」ブンッ!
魔王「いった!それ反則だろ!」
*暗い狭い臭い路上
勇者「!」グサリ
魔王「私は切り裂きジャックさ」ニヤリ
勇者「…………」パタリ
魔王「あ、こいつ勇者か。ラッキー」
勇者「私はドラキュ……晩飯ニンニク食っただろ!ぐぼはぁ!」ブシャア!
*君にプレゼント
勇者「誰からだろう」
パカ。
魔王「ばあ!」
勇者「わっ!おじさんだーれ?!」
魔王「サンタさんだよ。はい、ラジコン」
勇者「わーい!」
*暴走族に囲まれて
勇者「魔王」
魔王「ああ、勝負はお預けだ」
勇者「んじゃ、いっちょ夜露死苦。ダチ公!」
魔王「私がお前を殺す。だから死ぬなよ、ダチ公!」
*高価な実験室
魔王「物質転移装置始動!」
ブオン……!
勇者「あ?ここどこだよ」イライラ
魔王「緊急退避ー!!」タタッ
*サウナサウナ
勇者「おー。あつ」
魔王「勇者」
勇者「誰だよジジイ」
*ひとりぼっちの公園
魔王「お城から逃げ出しちゃった……」キーコ
勇者「女の子が、夜に一人で公園は危ないぞ」
魔王「誰!?……あ!勇者!」
勇者「それ!」
キーコキーコ。
魔王「わあ!」キャッキャッ
勇者「お前を迎えに来た。これからは俺と暮らそう」キリッ
魔王「え?」
勇者「あ。いや違うんです!不審者じゃ……!ちょ!助けて魔王ちゃん!!」
魔王「知らなーい」
*よろこべプール
魔王「そこの君!飛び込み禁止だぞ!」
勇者「魔王」
魔王「何故ここではしゃいでいる」
勇者「えへへ。久しぶりなの」
*カワゴエバイキング
勇者「お。最後のステーキ」
魔王「あ」
勇者「俺が先に……魔王?」
魔王「あむ」
勇者「お前このやろう!」
*パイオーツデカイヤン
勇者「我ら最強海賊、ゴウカイダー♪」
魔王「この船は頂くぞ勇者ー!」
勇者「魔王!?そんなまさか……!」
魔王「あれ?一人?」
勇者「言うな」
*いやらしそうなマッサージ店
魔王「今日は全身複雑骨折コースでよろしいですね」
勇者「罠だったー!」
*六甲山
魔王「ぐああ!」ズボッ!
勇者「かかったな魔王!」
魔王「この落とし穴……待ち伏せか!」
勇者「生き埋めじゃー!」
*ダメヨピザ
勇者「ピッツァのお届けでーす」
魔王「はーい」ガチャ
勇者「熱々をくら……え」
魔王「はじめまして。でいいな」
勇者「お前は、十年前に逃がしたカメ太郎……?」
*バスガス爆発しない
魔王「爆発するのは我が城なり!」
ちゅどーん!
魔王「さらば勇者」
勇者「私、今着いたところ」
魔王「では人違いだな……はぁ……」
*モグラ叩き
勇者「久々にやるか」
魔王「ういーん」ひょこっ
勇者「何をしている」
魔王「罰ゲームだ」さめざめ
*誰か止めろって
勇者「観覧車と言えば、キスでいいよな……あ」
魔王「さ。キスをしよ……ん?」
勇者「あれ魔王か!誰か止めろ!」
魔王「あいつは勇者!あ、キスは待ってく……んー!」
勇者「お、おおー……熱いねえ」
*近い
勇者「向かいの部屋のお姉さん美人ってマジだな?見るぞ、私見ちゃうぞ」ノゾキ
魔王「ん?」クルリ
勇者「魔王じゃねーか!」
*天体観察
魔王「今日は彗星が見られるんだよなー」ノゾキ
勇者「いやっほーう!」ヒュー
魔王「…………」
*上から迫る扉
勇者「ここは私に任せて、皆は先に行け!」ググッ
魔王「わかった」
勇者「魔王!?いつの間に、待て!」
魔王「ぐあー!」ひゅー!
勇者「ひゅう、結果オーライ」
*レンタルとチキンならTATUTA
勇者「この先、一体何が待ち受けるか……楽しみだ」ゴクリ
大人だけの楽園、アダルトコーナー。
魔王「勇者」
勇者「魔王」
魔王「やっと来たか。ようやく、一人前の勇者となれたのだな」
勇者「ああ、待たせたな」
魔王「はなむけに。貴様に一筋の希望をくれてやろう」スッ
勇者「これが希望だと?笑わせる。私は熟した果実になど、希望を見ない!」
魔王「ほお、ならば見せてみろ。貴様が見る希望を!」
*装備屋シマクロ
魔王「お客様、どうですか?」
勇者「え?ああー微妙っす」
魔王「私で良ければ、アドバイス致しますよ」
シャッ
魔王「勇者」
勇者「どう?」
魔王「その装備、呪われているぞ」
勇者「!?」
*廻り廻るメリーゴウラウンド
勇者「魔王」おうまさん
魔王「やあ、どうも」かぼちゃさん
……まったく。
思い返せば、くだらない出逢いばかりだ。
しかし私は思う。
これはこれで楽しかったと。
勇者「魔王。お前もそう思うだろう」
魔王「何?」
勇者「お前は私だからな」
魔王「それはどういうことだ」
勇者「これは偽りの姿で、私は魔王だ。自身を殺めることで、この終わりなき巡り逢いの糸を断ち切る」
魔王「それは無理だな」
勇者「試す価値はある」
魔王「無駄だ。私はお前自身ではない」
勇者「まさか……」
魔王「そう。これは偽りの姿で、私は勇者だ」
バサッ!
魔王「これも宿命か……」
勇者「魔王よ。私には、無数の理を巡り得た結論が、一つある」
魔王「言ってみろ」
勇者「私達という存在も、世界も、無数に存在するということだ」
魔王「無数に」
勇者「ああ。誰かが物語を語り伝える度、私達は生まれ、そして出逢いと別れを繰り返す」
魔王「そうか……やはりそれが真実なんだな」
勇者「そうだ。私達という糸は、これからも紡がれ続けてゆく」
魔王「では、この世界に生きる私達に、もう自由の選択肢はないということだ」
勇者「いや、あるさ」
魔王「何?」
勇者「誰かの夢描いた私達の物語は、確かにここで終わる。しかしこの先は、私達自身が夢描けばいい」
魔王「私達が私達の物語を語り伝えることで、自分達の生きる自由な世界を夢描くのだな」
さて、という訳でだ。
この世界に生きる私達は、これから自由に生きてゆく。
誰も知らない物語の中で。
君とは、もう出逢うことはないだろう。
それでも。
君とのこの出逢いには心より感謝する。
ありがとう。
そして、さようなら。




