託された『DEAR』
*無数の亀裂が交差する荒野
二人の出逢いは、時代が変われど変わらぬ宿命であった。
しかし、この出逢いは新たな出逢いへと繋がる。
魔王「なぜ止めを刺さない?」
勇者「家族が、いるんだろう」
魔王「……そうか。あなたは優しい人だ」
勇者「そんなことはない。俺は……」
魔王「あなたに、どうか頼みたいことがある」
勇者「……?」
魔王「私の娘を守ってほしい」
勇者「何だと?」
魔王「私は常に、多くの者に命を狙われている。辛いことに、私の妻もその一人だ。城に戻れば、あなたと戦い疲労した私は、必ず誰かに殺される。しかし、娘だけは何としても守ってやりたいんだ」
勇者「断る。守りたければ自分で守れ」
魔王「勝手なのは承知だ。しかし、どうかお願いする!」
勇者「断る!俺には……俺には守れない」
魔王「あなたに、私の命を授ける」
勇者「何を言いだす」
魔王「それしかない!私にできることはなく、あなたに頼るしかないんだ!」
勇者「…………」
魔王「ああ……あー悔しい!愚かだ!嘆かわしい!私は己の無力さが憎い!!」ドンッ!
勇者「よせ。自分を責めるな」
魔王「…………ない」
勇者「……」
魔王「はは。すまない、取り乱して。あなたの言う通りだ。私は城に戻り、娘を逃がすよ」
勇者「そうか」
魔王「…………」フラ…フラ…
勇者「……待て」
魔王「…………」
勇者「俺が楽にしてやる」チャキ
*長い時が流れ、魔王城
魔王「貴様、何者じゃ」
旅人「俺はただの旅人だ」
魔王「……何じゃ?異様な力を貴様から感じるぞ」
旅人「魔王、お前には娘がいるだろう」
魔王「何故それを知っておる?」
旅人「…………」
魔王「まあよい。邪魔な娘なら、さっき捨てたぞ」
旅人「そうか」
魔王「それよりも、死ぬ覚悟はできたか?」
旅人「ああ。殺す覚悟ができた」
魔王「小僧が生意気な。わしは間もなく、この世界を我が物とする」
旅人「…………」
魔王「その前祝いとして、貴様の血肉を頂こう!」
旅人「……悪く思うな」チャキ
*季節が過ぎ、ちっちゃな魔女と密林の奥
魔女「あつーじめじめー」
旅人「…………」
魔女「マント羽織って、変な仮面までつけて、よく平気でいられますね」
旅人「…………」
魔女「しかも無口だし、私退屈です」
旅人「あれを見ろ」
魔女「でかきもっ!何ですかあれ!?」ビックリ
旅人「あれは大蛇の脱け殻だ」
魔女「え……蛇ですか?」
旅人「そうだ」
魔女「うぇ……」
旅人「晩飯は大蛇にするか」
魔女「ふんっ!」ゲシッ!
旅人「たっ!足を蹴るなと何度」
魔女「ううううう……!」ガクブル
旅人「後ろにいるな。いいか、動くなよ」
魔女「……」コクコク
旅人「安心しろ。何があっても守ってや」
大蛇「ぱくり」
魔女「ぎゃあああ!食べられたー!」ガガーン!
旅人「つああっ!」ズバッ!
大蛇「血いぶしゃあああ!!」
魔女「ぱたんきゅう……」パタリ
旅人「あーあ……」
*また季節が過ぎ、とある街の宿
魔女「今日、色々あって、パパが滝に落ちました。とても愉快でした」カキカキ
旅人「誰のせいだと。くだらないことを日記に書くな」
魔女「くだらないことを書くのが、日記というものなのです」パタム
旅人「それと、パパは止せ。俺はお前の」
魔女「…………」
旅人「……好きにしろ」なでなで
魔女「へっ」
旅人「何だ」
魔女「パパって言われて、本当は嬉しいんじゃないですか?」ニヤニヤ
旅人「喜べるか!!」
魔女「!」ビクッ
旅人「あ……すまない」
魔女「…………」ビクビク
旅人「外で、煙草を吸ってくる」
魔女「禁煙て約束したでしょう。側にいなさい」ぎゅ
旅人「……ありがとう」ぎゅ
魔女「ふんだ……!」
*季節を重ね、高い丘の上
魔女「わあ!綺麗な夕焼け!」キラキラ
旅人「ここは特に空気が澄んでいて、どこよりも綺麗な夕日が拝める」
魔女「へー」ピトッ
旅人「どうした」
魔女「別に!」
旅人「ふっ……」なでなで
魔女「にひひ!」
旅人「必ず、お前が幸せになれる場所を見つけてやるからな」ぽんぽん
*やがて辿り着いた、王城に備わる塔の上
魔女「あなた。私のお母さんを手にかけたんですか?」
旅人「……知ったか」
魔女「本当……なんですね」
旅人「そうだ。俺はお前の両親を手にかけた。この手で、殺したんだ」
魔女「そんな……お父さんまで……」グスッ
旅人「許してほしいとは言わない」
魔女「当たり前でしょう!許せるものですか!」
旅人「本当に……すまない!」ぽろぽろ
魔女「泣きたいのはこっちですよ!」グスッ
旅人「…………」ぽろぽろ
魔女「あなたは……私達が初めて出会った日のこと、覚えていますか?」ナミダヌグイ
旅人「……」
魔女「城下町を出てすぐの森。そこで悪い人達に襲われた時に、あなたが現れて私を助けてくれました」
旅人「…………」
魔女「それから。私の勇者を倒すという目的を果たすため、一緒に旅を始めましたね」
旅人「…………」
魔女「旅をして辛いことや悲しいことがたくさんあったけれど、あなたは私に、たくさん、楽しいことを教えてくれました。たくさんの、素敵な景色を、世界を見せてくれました。いつだって優しくしてくれました」
旅人「…………」
魔女「そしてなにより。どんな時でも、必ず。誰が相手でも、たとえ相手が勇者だろうと、あなたは私を守ってくれました」
旅人「…………」
魔女「私はあなたの事を許せません。でも……でもね、あなたの愛だけは信じたいの」グスッ
旅人「…………」
魔女「優しくして強くてかっこよくて大好きな!たった一人のパパだからっ!!」
旅人「ルーナ……」
魔女「私はあなたと生きたい!」
旅人「!」
魔女「うぅ……」ぽろぽろ
旅人「モントディア・カケラ・ルーナ」
魔女「はい……」ぽろぽろ
旅人「その名前にあるディアは、愛する者という意味を持つ」
魔女「……?」ぽろぽろ
旅人「その意味通り。モントディア家は代々、家族や仲間を何よりも愛し、また、愛される一族なんだ」
魔女「そうなんですか?」ぽろぽろ
旅人「お前のお父さんが教えてくれた話だ」ぎゅう
魔女「お父さんが……」ぽろぽろ
旅人「ああ。お父さんもお母さんも、確かにお前を愛していた。そしてもちろん。この俺もお前を愛している」ぎゅ!
魔女「ん……」
旅人「俺はずっと、お前が離れてしまうことが不安だった。お前を失うことが恐かった」
魔女「…………」ぎゅ
旅人「でも、お前が俺を信じてくれるなら。これからもお前を守りたい、幸せにしてやりたい。俺もお前と一緒に生きたい!これが俺の本心だ!!」
魔女「……私が幸せになれる場所、ずっと探してくれていますよね?」
旅人「ああ、必ず見つけて幸せにしてやる」
魔女「ふふ、もう見つかってますよ」
旅人「それはどこだ?」
魔女「私が幸せになれる場所。それは、あなたの隣です!」にこっ!
旅人「……!」
魔女「パパ、いつもありがとう。これからもよろしくね」
旅人「ああ、こちらこそ」なでなで
魔女「んふふ!それ大好きです!」
旅人「いつでもしてやる。これも、俺からの愛情だ」ぽんぽん
魔女「にひひ!」




