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魔王と勇者の出逢い方  作者: 行方不明
20/39

託された『DEAR』

*無数の亀裂が交差する荒野


二人の出逢いは、時代が変われど変わらぬ宿命であった。

しかし、この出逢いは新たな出逢いへと繋がる。


魔王「なぜ止めを刺さない?」


勇者「家族が、いるんだろう」


魔王「……そうか。あなたは優しい人だ」


勇者「そんなことはない。俺は……」


魔王「あなたに、どうか頼みたいことがある」


勇者「……?」


魔王「私の娘を守ってほしい」


勇者「何だと?」


魔王「私は常に、多くの者に命を狙われている。辛いことに、私の妻もその一人だ。城に戻れば、あなたと戦い疲労した私は、必ず誰かに殺される。しかし、娘だけは何としても守ってやりたいんだ」


勇者「断る。守りたければ自分で守れ」


魔王「勝手なのは承知だ。しかし、どうかお願いする!」


勇者「断る!俺には……俺には守れない」


魔王「あなたに、私の命を授ける」


勇者「何を言いだす」


魔王「それしかない!私にできることはなく、あなたに頼るしかないんだ!」


勇者「…………」


魔王「ああ……あー悔しい!愚かだ!嘆かわしい!私は己の無力さが憎い!!」ドンッ!


勇者「よせ。自分を責めるな」


魔王「…………ない」


勇者「……」


魔王「はは。すまない、取り乱して。あなたの言う通りだ。私は城に戻り、娘を逃がすよ」


勇者「そうか」


魔王「…………」フラ…フラ…


勇者「……待て」


魔王「…………」


勇者「俺が楽にしてやる」チャキ



*長い時が流れ、魔王城


魔王「貴様、何者じゃ」


旅人「俺はただの旅人だ」


魔王「……何じゃ?異様な力を貴様から感じるぞ」


旅人「魔王、お前には娘がいるだろう」


魔王「何故それを知っておる?」


旅人「…………」


魔王「まあよい。邪魔な娘なら、さっき捨てたぞ」


旅人「そうか」


魔王「それよりも、死ぬ覚悟はできたか?」


旅人「ああ。殺す覚悟ができた」


魔王「小僧が生意気な。わしは間もなく、この世界を我が物とする」


旅人「…………」


魔王「その前祝いとして、貴様の血肉を頂こう!」


旅人「……悪く思うな」チャキ



*季節が過ぎ、ちっちゃな魔女と密林の奥


魔女「あつーじめじめー」


旅人「…………」


魔女「マント羽織って、変な仮面までつけて、よく平気でいられますね」


旅人「…………」


魔女「しかも無口だし、私退屈です」


旅人「あれを見ろ」


魔女「でかきもっ!何ですかあれ!?」ビックリ


旅人「あれは大蛇の脱け殻だ」


魔女「え……蛇ですか?」


旅人「そうだ」


魔女「うぇ……」


旅人「晩飯は大蛇にするか」


魔女「ふんっ!」ゲシッ!


旅人「たっ!足を蹴るなと何度」


魔女「ううううう……!」ガクブル


旅人「後ろにいるな。いいか、動くなよ」


魔女「……」コクコク


旅人「安心しろ。何があっても守ってや」


大蛇「ぱくり」


魔女「ぎゃあああ!食べられたー!」ガガーン!


旅人「つああっ!」ズバッ!


大蛇「血いぶしゃあああ!!」


魔女「ぱたんきゅう……」パタリ


旅人「あーあ……」



*また季節が過ぎ、とある街の宿


魔女「今日、色々あって、パパが滝に落ちました。とても愉快でした」カキカキ


旅人「誰のせいだと。くだらないことを日記に書くな」


魔女「くだらないことを書くのが、日記というものなのです」パタム


旅人「それと、パパは止せ。俺はお前の」


魔女「…………」


旅人「……好きにしろ」なでなで


魔女「へっ」


旅人「何だ」


魔女「パパって言われて、本当は嬉しいんじゃないですか?」ニヤニヤ


旅人「喜べるか!!」


魔女「!」ビクッ


旅人「あ……すまない」


魔女「…………」ビクビク


旅人「外で、煙草を吸ってくる」


魔女「禁煙て約束したでしょう。側にいなさい」ぎゅ


旅人「……ありがとう」ぎゅ


魔女「ふんだ……!」



*季節を重ね、高い丘の上


魔女「わあ!綺麗な夕焼け!」キラキラ


旅人「ここは特に空気が澄んでいて、どこよりも綺麗な夕日が拝める」


魔女「へー」ピトッ


旅人「どうした」


魔女「別に!」


旅人「ふっ……」なでなで


魔女「にひひ!」


旅人「必ず、お前が幸せになれる場所を見つけてやるからな」ぽんぽん



*やがて辿り着いた、王城に備わる塔の上


魔女「あなた。私のお母さんを手にかけたんですか?」


旅人「……知ったか」


魔女「本当……なんですね」


旅人「そうだ。俺はお前の両親を手にかけた。この手で、殺したんだ」


魔女「そんな……お父さんまで……」グスッ


旅人「許してほしいとは言わない」


魔女「当たり前でしょう!許せるものですか!」


旅人「本当に……すまない!」ぽろぽろ


魔女「泣きたいのはこっちですよ!」グスッ


旅人「…………」ぽろぽろ


魔女「あなたは……私達が初めて出会った日のこと、覚えていますか?」ナミダヌグイ


旅人「……」


魔女「城下町を出てすぐの森。そこで悪い人達に襲われた時に、あなたが現れて私を助けてくれました」


旅人「…………」


魔女「それから。私の勇者を倒すという目的を果たすため、一緒に旅を始めましたね」


旅人「…………」


魔女「旅をして辛いことや悲しいことがたくさんあったけれど、あなたは私に、たくさん、楽しいことを教えてくれました。たくさんの、素敵な景色を、世界を見せてくれました。いつだって優しくしてくれました」


旅人「…………」


魔女「そしてなにより。どんな時でも、必ず。誰が相手でも、たとえ相手が勇者だろうと、あなたは私を守ってくれました」


旅人「…………」


魔女「私はあなたの事を許せません。でも……でもね、あなたの愛だけは信じたいの」グスッ


旅人「…………」


魔女「優しくして強くてかっこよくて大好きな!たった一人のパパだからっ!!」


旅人「ルーナ……」


魔女「私はあなたと生きたい!」


旅人「!」


魔女「うぅ……」ぽろぽろ


旅人「モントディア・カケラ・ルーナ」


魔女「はい……」ぽろぽろ


旅人「その名前にあるディアは、愛する者という意味を持つ」


魔女「……?」ぽろぽろ


旅人「その意味通り。モントディア家は代々、家族や仲間を何よりも愛し、また、愛される一族なんだ」


魔女「そうなんですか?」ぽろぽろ


旅人「お前のお父さんが教えてくれた話だ」ぎゅう


魔女「お父さんが……」ぽろぽろ


旅人「ああ。お父さんもお母さんも、確かにお前を愛していた。そしてもちろん。この俺もお前を愛している」ぎゅ!


魔女「ん……」


旅人「俺はずっと、お前が離れてしまうことが不安だった。お前を失うことが恐かった」


魔女「…………」ぎゅ


旅人「でも、お前が俺を信じてくれるなら。これからもお前を守りたい、幸せにしてやりたい。俺もお前と一緒に生きたい!これが俺の本心だ!!」


魔女「……私が幸せになれる場所、ずっと探してくれていますよね?」


旅人「ああ、必ず見つけて幸せにしてやる」


魔女「ふふ、もう見つかってますよ」


旅人「それはどこだ?」


魔女「私が幸せになれる場所。それは、あなたの隣です!」にこっ!


旅人「……!」


魔女「パパ、いつもありがとう。これからもよろしくね」


旅人「ああ、こちらこそ」なでなで


魔女「んふふ!それ大好きです!」


旅人「いつでもしてやる。これも、俺からの愛情だ」ぽんぽん


魔女「にひひ!」

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