人生というのは酒と同じで、時に辛く、時に甘く、時にほろ苦いものだ
*ベロベロバー
小粋なジャズが右から入ってきて、くだらない独り言が左から入ってきた。
私は、ジャズという湯船に酒を入れ、ひとり溺れるのが趣味な男だ。
だからこそ、左からの雑音を快く思わなかった。
しかしこれが、後に私の人生を変える入浴剤との出逢いになろうとは。
目の前にある空いたグラスにも、未来どころか、その暗示すら写ってはいなかった。
勇者「よお、おっさん。酒が不味い。辛気臭い独り言はやめてくれないか」
魔王「ここは、子供の来る所ではないぞ」
勇者「今なんつった?」
もへじ「カルアミルク、おかわりね」
勇者「ありがとうマスター」
もへじ「彼は魔王だ。あなたもよく知る人物だろう」
勇者「魔王……だと?」
魔王「そうか、お前は勇者か。はっはっはっはっ!」
勇者「何笑ってやがる!」
魔王「いやすまない。それよりも今夜は、出逢いの記念に飲み明かそうではないか」
勇者「えーやだよ。ラスボスだし、態度気にくわないし、口臭いし」
魔王「そう言うな。お前だって、この心地よい音色を壊したくはないだろう」
勇者「おっさん、わかってるじゃないの」
魔王「気分を害したことは謝る。どうか許してくれ」
勇者「……いいさ。実は私も、人生が酒みたいだと思ったことがあるんだ」
魔王「そうか」
勇者「この、カルアミルクたんみたいにさ。甘い人生に溺れたい……」カラン…
魔王「マスター、私にも彼と同じものを」
勇者「何だよ。魔王にも辛いことがあるのか?」
魔王「もちろんだ。私にだって、辛いことはある」
勇者「例えば?」
魔王「側近の者がいつも口うるさくてな。私は魔王という立場にありながら、このところ、そいつらの言葉に従ってばかりだ」
勇者「見た目とは違って、気が弱いんだな」
魔王「そうではない。孤独では国を統治することも、権力を誇示することも敵わないから、少しは仕方のないことだと考え、なるべく受け入れるようにしているのだ」
勇者「へー。さすが、立派じゃないの」
魔王「とは言ったもの。立場や責任を煩わしく感じて、全てを投げ出してしまいたくなる時が何度もある」
勇者「あー私も。大人になって、勇者になってからはさ。立場と責任のせいで息苦しくて仕方ない。少しのミスで、国民からひどい言われようだからな」
魔王「お前も、苦労しているんだな。ん……おお、これうまいな」
勇者「だろ?マスター、おかわり」
魔王「おい、飲むペースが早くないか?ここで酔い潰れたら、私に倒されてしまうぞ」
勇者「いいさ、むしろ楽にしてくれ」
魔王「若者がはやまるんじゃない」
勇者「もう嫌なんだよ。誰かに責められたり、モンスターは恐いし、そもそも争い事嫌いなんだよ」
魔王「……ならば、このまま旅を続ければいい」
勇者「え?」
魔王「私が逃げる。それをお前が追う。死ぬまで続けようではないか」
勇者「あんた、国を治める魔王だろ?逃げるのはマズくないか?」
魔王「そうだな……よし。では仕事にしよう」
勇者「ベロベロに酔ってんのか?おっさん」
魔王「私と共に世界を巡り、貿易をしようではないか!」
勇者「えー」
魔王「ラスボスだし、態度気にくわないし、口臭いし、それが嫌か」
勇者「根にもつなよ、謝るからさ。それと、すぐには答えられない」
魔王「ゆっくり考えてくれて構わない。私はしばらく、毎晩、ここにいるから」
勇者「逃げてんじゃねーか!」
魔王「はっはっはっはっ!休暇だよ休暇。説得するのに苦労したが……」
勇者「魔王さん。お互いに今夜は辛いことを忘れて、この心地よい音色を聞きながらさ、飲み明かしましょう」
魔王「うむ。この、甘いカルアミルクに溺れよう」カララン
勇者「ということでマスター!おかわり!」




